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接触

結局昨日は丸一日をシルフのために使ってしまった。お昼をだいぶ過ぎたあたりに図書館を見つけ、閉まるギリギリまで必死に召喚の本を読みあさり、宿にて勉強に勉強を重ね今日の明け方、つまり今、ルイスはようやく床につけたのであった。ベッドの周りには図書館から借りてきた本が散らばっている。



「ルイスねぇ〜」


タバコを口にくわえたミステリアスなオーラを放つ二十代ほどの男が、シワだらけの中年の男

と対峙して座っている。


「見た目はおとなしそうで本当に子どもなのだが、平気で中級モンスターは倒せると言ってきてね」


さして明るくもない部屋でコーヒーを口にしながら中年の男はおもしろがって話している。


「興味本位でちょっとその子について調べてみたんだがおもしろい事がわかってね」

「どんな?」

「オーヴァルガン国立アカデミーの魔術専攻で、成績は常にトップ、いわゆる優等生だったのだが、今はアカデミーを自主退学という形になっている」

「へぇ〜」

「どこかの誰かさんと似ていると思わないか?」


中年の男はニヤニヤしながらミステリアスな男をみている。


「俺は退学処分にされたんだよ」

「そういうことにしとくよ。とにかく、わしのおすすめはこの子どもだ」


二人は別れ、ミステリアスな男は町にでた。そして頭をボリボリかきながら先ほどの話を思い出している。


「ったく子どもを旅の仲間に推薦されてもなぁ……」


ついボソッと呟いてしまった。



コンコン。

ルイスの部屋にドアをノックする音が響いた。


「はぁい。どちら様ですか?」


寝起きの張りのない声でなんとか質問をした。


「お客様、部屋の掃除をしたいのですがよろしいですか?」

「あ、すいません。今出ます」


ルイスはまだ起きていない体をなんとか動かして宿を出た。

太陽は真上にきている。近くの安い店で昼食を食べようと思い、ルイスはうまい!安い!早い!と書いてある看板のある店へ入っていった。

一番安いものを選んで食べていると目の前に見覚えのある男が座った。気のせいだと思い食事を進めていたが途中気付いてしまった。

ポケットからおじさんにもらった紙を取り出し男に気付かれないように紙に張られた写真と見比べてみる。


「……(僕ってついてるなぁ、やっぱり日頃の行いがいいからかな?)」


つまりは一万フィルが目の前にあるわけで。

ルイスより先に男が食事を終えて店を出て行こうとしたので、慌てて食事を済ませて彼の後を追った。


「どうやって捕まえようか……」


男に気付かれない程度の距離を保ちながら呟いた。


「考えなしに近づくのは危険です」

「わかってるよ、接近戦は得意じゃないし。でも普通の人みたいだから幻惑系で一発だね」

「ほどほどになさってください。相手は普通の方ですから」


ショートミーティングの後、しばらく男をつけていくとある場所にたどり着いた。教会である。

今ちょうど募金活動が終わったのだろう、シスター達が大きくない箱を手に持ち路上にあったテーブルなどを片付けている。シスター達が片づけを終えて教会に入っていくと男も中へ入っていった。


「罰当たりだね」

「お祈りに来ただけかもしれません」

「強盗殺人犯がそんなことするわけないじゃん」

「人間誰しも過ちは犯します」


はいはい、と流してルイスも教会の中へ入っていった。

中には数える程度の人がいた。老夫婦や若い女性、幼い子どもと一緒の母親に一見怪しげな男、それと強盗殺人犯。

シスター達は箱を持って奥の部屋へ姿を消した。犯人に動きは見られない。


「やはり罪を悔い改めに来たのですね」

「まだわからないよ」


ルイスは犯人から少し離れた後ろの席に腰をかけた。小さなステンドガラスから綺麗な光が教会の中を照らしている。

犯人に何の動きも見られないのでルイスは教会を出て待ち伏せすることにした。いつでも魔法が使えるように杖をしっかりつかみながら教会の鉄製の門のところにスタンバイしていた。

一方教会の中では奥の部屋からシスター達が出てきて聖書を朗読し始めた。しばらくすると犯人はさっきシスター達が箱を置いてきた奥の部屋へと足を向けた。それに気付いた一人のシスターが止めに入ろうとしたとき。

バン!

一発の銃声が鳴り響いた。


「きゃー!」


若い女性が悲鳴をあげた。撃たれたシスターは床に倒れてピクリとも動かない。


「なんてことを!」


シスター達が恐れを抱きながらも犯人を威嚇した。

一見怪しげな男以外皆体が振るえ、目には涙を浮かべている。


「金をもらうだけだ、大人しくしてな」


犯人が奥の部屋に入ると同時にルイスが教会の中へ駆け込んだ。


「どうしたんですか!?」


ルイスは震えているシスター達に歩み寄った。すると横に血にまみれている一人のシスターが倒れていた。


「いきなり男の方が銃で彼女を……」


涙を流しながら必死に説明をするシスター。すると奥の部屋から犯人が出てきた。ルイスは彼を睨んだ。


「なんだ〜ガキが。そこをどけ!」

「お断りします」


言い終わらぬ間にルイスはブロウを放った。男の体は壁に強く打ち付けられそのまま気を失ってしまった。


「電話はどこですか?」


先ほどの剣幕はまったくなく優しくシスターに話しかけた。



「しかし君のような子どもが殺人犯を捕まえるとは」


青い制服に身を包んだ男の人が連行されていく犯人を横目で見ながらルイスに話しかけた。

ルイスは犯人が気絶した後すぐに治安維持隊に連絡をしたのだった。


「こう見えて魔術師ですので」

「いやぁ、立派なものだ。そうだ、地下の連中には俺から連絡を入れておくから後で金を取りに来ると良い。じゃあな」


犯人を連れて去っていく維持隊の人にルイスは一礼をして教会を去ろうとした。すると、


「坊や、ちょっといいかい?」


振り向くと一見怪しそうな男が立っていた。長身のなかなか美形な成年男子である。身なりからするとどうやら剣術師のようだがその腰に剣はない。


「なにか?」


少しばかり警戒しながら一応返答した。


「坊やがルイスだろ?俺はサレオス。まぁ立ち話もなんだし茶でもどうだ?」

「……」

「あ!もちろん年上である俺のおごりだ、そこは心配するな!」

「いえ、そこではなくあなた自身が心配の種です」

「なっ!失礼な坊やだな。……じゃあ治安維持隊の建物の三階にいたシワだらけのおじさんの知り合い、って言ったら平気か?」


あの人の、と心の中で呟いてみて何となく興味本位で男について行く事にした。



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