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翌日

昨日とは打って変わって青空が見える。地面にはいくつか水溜りができていて空の白い雲が映し出されている。

教師達の必死の捜索にもかかわらずルイスを見つけることは出来なかった。


「いかがいたしますか?」


一人の教師が声を発した。

主要教師及び管理職の者が理事長を中心に楕円型に腰をおろしている。いうまでもなくルイスに関しての会議だ。


「しかたがないな。彼は自らの意思で学校を去った。自主退学という形になる」


理事長が言った。その場にいた者が皆肩を落とした。アカデミーから自主退学者が出たということが彼らのプライドを傷つけたのだ。生徒同様ここで働く者達も名誉と誇りを持っている。授業や学校行事も魅力あるものにしようとがんばってきたのだ。オーヴァルガントップ校の名に恥じぬように。にもかかわらず自らやめたいという者が出た。それは彼らにかなりの衝撃を与えた。


「君達に落ち度はない。これからも今までのようにがんばってくれ」

「しかし!」

「何も気にすることはない。ただ彼には合わなかった、それだけのことだ」


そう言い残し理事長は部屋を出た。残された者達も各々の仕事をしに部屋を出て行った。




「うぅ〜ん、良い朝だね」


ベッドの上で伸びをしている黒髪に黒い瞳を持つ少年。彼は小さい宿屋で一晩過ごした。

身支度を整え、運ばれてきた朝食を味わって食べるとテーブルの上に地図を広げた。

それは世界地図ではない。というよりこの世界には世界地図はないのだ。理由は多々あるが一番の原因はその広さである。今だ人が足を踏み入れていない所が多く、また、確認されている国の数にしても半端ではない。

彼が持っているのはオーヴァルガンがのっているイージャリュ―大陸の地図である。確認されている大陸の中ではそれほど大きくはなく、卵のような形をしている。オーヴァルガンは西南に位置している。


「さてと、どこに行こうかな♪」


まさに語尾に音符である。普段はおとなしくて優しい真摯な男の子であるが今は好奇心旺盛な子どもになっている。


「何も考えずに出てきたのですか?」


いつもの声が聞こえてきた。


「一応考えてはいたけどやっぱり色んな所に行ってみたいし、でもそれじゃあいくら寿命があっても足りなそう……う〜ん……」

「……まずはご両親に連絡を」

「はいはい。それよりまず東に行こうか?ここの港からいろんな所に行けるし。でもここの大陸の国全部回ってみたいしなぁ……」

「……」

「あっ、でもその前に買わなきゃいけないのがあるんだった」


よし、じゃあここに行こう、と地図をしまい宿を出た。

道は延々と塗装されていない水を含んだ土の道だった。それでも不満一つ言わず彼は歩き続けた。小1時間ほどたつと大きな町が見えた。町に近づくにつれて道は綺麗に整ったアスファルトになっていく。そこはオーヴァルガンの東の端の町だった。いわばオーヴァルガンの玄関的役目であり、旅人や商人がめまぐるしく動いている。

木でできた門をくぐると人でごった返していた。露店が立ち並び店主が客寄せに精を出していたり、仕事場へと急いでいるのだろう人たちが慌しく動いている。


「さすが玄関だね」


呟くと周りを見渡した。親切そうなおじいさんを見つけて何やら道を尋ねている。話し終わると丁寧にお辞儀をして教えてもらった道を行く。人通りの激しい大通りを真っ直ぐ行き十字路を曲がると目の前にそれがあった。

彼が着いたのは治安維持隊の建物だった。かなり大きな真っ白な建物である。出入りしているのは体格の良い男や旅人、または隊員に連れてこられた人である。彼には少し場違いな雰囲気であるが、ためらいもせず中へ入っていった。


「あのぉ」


彼は仕事・依頼受付と書かれたカウンターへ足を運んだ。そこには三十代ぐらいの女性が座っていた。ここで仕事をもらいお金を受け取るのだ。旅人や定職についてないものがよく利用する。

なんでしょう?と優しく応対された。


「五十万フィル以上の依頼ってありますか?」


え?、女性は驚いた様子で彼に尋ねた。


「カードはお持ちですか?」


カード?彼は首をかしげた。


「えぇと、お名前は?」

「ルイスです」

「年は?」

「十六です」

「……学生さんですか?」

「いいえ、退学しました」


そこまで聞くと女性は少し困った顔をした。


「もしかして年齢制限ありますか?」

「いえ、そういうわけではないのですが、仕事をしていただくにはあなたの実力を証明するためのカードを持っていないとだめなんです」

「えっ、そうなんですか?」

「はい、あなたの実力によってできる仕事が決められてきます。それと、そのカードを発行するには身分証明書が必要なんです」


つまり、学生でないルイスに身分を証明するものはなくカードが作れない。となると仕事ができない=お金が入らない。結果欲しいものが変えない。

そこまで考えが行き着いたルイスはガックリ肩を落とした。

その様子を見た女性が良いことを教えてくれた。


「あまりお勧めはしないけど、賞金コーナーへ行ってみては?そこではカードも身分証明も要らないわよ?」


ルイスは目を輝かせて教えてもらった場所へいった。そこは同じ建物の三階にあった。しかしルイスはまたも肩を落とした。

そこは猫探しや農作業手伝い、犬の散歩などどれも簡単でしかも安いものばかりだった。


「こんなんじゃ五十万フィルなんて全然たまらない」


壁に貼られたそれらの情報をみてため息をついた。

ドン!

ボーっとしていたルイスに誰かがぶつかってきた。


「てめぇ邪魔だ、ガキがこんなとこで突っ立ってんじゃねぇ!」

「す、すいません」


ルイスはすばやく頭を下げた。ふん、と鼻を鳴らして体格の良い男がさっていった。と同時に疑問がでた。


「こんなところにあんな腕の立ちそうな人が……?」


ルイスは三階をよく探索してみた。すると一つの古びたドアを発見した。遠からず近からずのところからそのドアを見張っていると、先ほどと同じような戦闘になれた感じの男が出入りしていた。ルイスは好奇心からそのドアを開けようとした。


「ルイス様、危険ではありませんか?」

「大丈夫だよ、僕強いし」


そういってドアを開けて中に入った。そこは地下道のように暗く、パイプがむき出しになっていた。数人の男が壁に寄りかかっていて皆一斉にルイスの方へ目をやった。何とも痛い視線が浴びせられる。


「ここは子どもが来るところじゃない。早くお家へ帰りなさい」


正面の大量の紙に囲まれている机にひじを着いてイスに座っているシワだらけの中年のおじさんがルイスを見ないでそう言った。

ルイスはそれには答えず彼らのやり取りを観察していた。

老人は大量にある紙の中からいろいろ物色している。一人の男が名前を呼ばれ一枚の紙を渡され部屋を出て行く。そして老人はまた紙を物色し、名前を呼び紙を渡す。ルイスの後から入ってきたものが老人のところへ行きなにか短く話した後、他のものと同じように壁に寄りかかって名前が呼ばれるのを待っている。

しばらくすると部屋には老人とルイスだけが残っていた。ルイスは老人の方へ歩み寄る。


「まったく、こんなところに何の用だい?杖を持っているってことは一応魔術師なんだろうけどここには子どもが手におえる仕事はないんだよ」

「平気です。中級のモンスターなら余裕で倒せます」


老人は困った顔をした。子どもの言っていることを鵜呑みにして仕事を与えるわけにはいかない。しかし、長年ここで働いていて人を見る目というものをもってしまっていたのだ。その目は確かにこの少年の実力がそれなりにあるのだと言っている。

うぅむ、と少し唸ってから老人はまた少年を見た。


「……いいかい、仕事が終わったら地下に行くんだ。そこでお金がもらえる。それと紙に書いてある事はよく読むんだよ。お金をもらうときの条件などが書かれているから」


ルイスは受け取り金額を見た。そこには一万フィルと書かれていた。期限は今月末までで内容は強盗殺人の犯人を捕まえるものだった。ちゃんと写真が貼ってある。


「おじさん、僕できれば五十万フィル以上の仕事が……」

「この仕事が出来たら考えてやるよ」


建物をでてルイスは近くのベンチに腰をおろした。

渡された紙をもう一度よく読むと、どうやら生きたまま確保してそのまま地下へ連行するようだ。


「しかたないか、観光がてら犯人探そ」

「あまりのんびりしていますとお金が尽きてしまいますよ」

「うっ、そうだった」


ルイスはため息をついた。しかしすぐにやる気を起こした。


「今日中に犯人捕まえたらおじさんもっといい仕事くれるかも!」


話の分かりそうなおじさんだったのでルイスはそう考えた。

ルイスはあまり人のいない公園を探した。そこでなにやら唱え始めた。


「我が名においてその姿を現せ……」


黒髪が近くの草木と一緒に揺れている。


「シルフ!」


ボン!

煙とともに小さな子どもが現れた。


「……」


ルイスは目を点にしてその子どもを見ている。五歳かそこらの男の子。緑の癖のついた髪・くりくりとした目・服装は上が片方の肩を出して布を体に巻きつけた形で、下は緩めのズボンのようなもの。そしてなんと背中に小さな翼をつけていた。

二人とも静かに見詰め合っている。


「やっぱり召喚術は難しい……」


思わずその場にうなだれてしまった。

パタパタパタッ。

子どもが羽を使ってルイスの前へとやってきた。そして満面の笑みをルイスに向けた。

ルイスも笑顔を作ってとり合えず頭をなでてやった。すると子どもはルイスに抱きついてきた。


「パパ!」

「違うよ!」


激しくツッコミをいれるルイス。その様子をたまたま通った人が面白そうに見ていた。

ため息ばかり出てしまう。


「はぁ……どうしよ……」

「パパ〜パパ!」

「だから違うって……」

「おなかすいた〜」


無邪気にそうせがむ子どもに肩を落とす。ルイスは近くにあったアイスクリーム屋さんで一番安いのを買ってとり合えず食べさせた。


「フェイ……」


噴水のところに腰掛て姿のない者に話しかけた。隣では子どもがおいしそうにアイスをほおばっている。


「なんでしょうか?」

「なんでこんな子どもなの?」

「召喚はその者の実力によって……」

「いや、もういいや。理由なんてわかってるし」


とほほ、とルイスはこの後の対策を考えなくてはならなかった。本来ならば風の精霊であるシルフ、といってももっとレベルの高いものを望んでいたわけだが、とにかくその精霊を呼び出し犯人を捜してもらおうかと考えていたのだが、いかんせんルイスは魔術は天才的でも召喚はまったくの素人であった。一応勉強はしたもののまったく進歩は見られない。


「パパ!」


アイスを食べ終わった子どもが元気よく話しかけてきた。


「なに?」

「お名前ちょうだい!ぼくのお名前!」


あぁ、とルイスは思い出した。一度呼び出したら一生その者に従う、それが召喚の基本であった。そして術者のレベルが上がれば呼ばれたものも強くなる。その逆も然り。


「じゃあシルフでいい?」

「うん!」


ルイスは面倒なので風の精霊の総称を名前につけた。しかし名前をつけてもらった本人は大喜びである。その様子を見てルイスは複雑な感じだった。


「まぁ、僕がレベルアップすれば良いことだし……」

「精霊は人間と一緒で感情を持っています。そのことをお忘れなく」


はいはい、と適当に流すルイスであった。

しばらく考えても犯人探しの良い案が浮かばないのでだめもとでシルフに聞いてみた。


「シルフ、この人探せる?」

「ん〜?」


シルフは紙に張られた写真を見た。しばらく見ていると、こっち!といいルイスを引っ張った。


「ちょ、ちょっと待って!飛ぶのはやめよう。目立つし」


そう言ってシルフを抱きかかえて彼の示す方へ歩を進めた。内心ラッキー!と思いつつ。


「ここは……」


少し歩いた所でシルフはルイスを止めた。そこはたこ焼き屋さんの前だった。良い匂いが漂っている。


「たべる!パパこれたべたい!」


パパ?と店の人が不審人物でも見るかのような目でルイスを見る。


「あ、すいません。この子勘違いしてて」


何とかこの場を切り抜けようとしたがシルフがそれを許してはくれなかった。


「パパなの!ぼくのパパ!!」


なんとも盛大に泣き出してしまった。

ルイスは慌ててその場を走り去るしかなかった。


「はぁ……」


ルイスはまた公園へと戻ってきてしまった。シルフは泣きつかれてルイスの腕の中で眠っている。ベンチに腰をおろして休むことにした。

よくよく考えてみれば召喚したものは好きなときに消せるのである。しかし……。


「どんなの唱えるんだっけ……」


完全に行き詰ってしまった。まさか子ども連れで犯人を捜すわけにもいかず、しかもこの子には羽があったりする。まぁその辺はノリでやり過ごすとしても、五十万フィルを稼ぐにはかなりの時間を要すると考えられた。


「図書館へ行こう」


ルイスは何とか結論搾り出した。

基礎的な召喚の本ならば普通の図書館にもあるはず。とりあえずシルフにかまってはいられないのでいったん引っ込んでもらおうと。

ルイスの足取りは重く、それでも図書館を探しに腕にシルフを抱きながら静かな公園を後にした。



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