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ゴウ

貴族の一人が暗殺された。

俺達が失敗しているなか、周りは着実に仕事をこなしている。


「っていうかぁ、あたし達ヤバくない〜?」

「何がですか?」


パーマのかかっている髪を指にからめているミーアに、ハラスは小首を傾げた。


「だってぇ、失敗ってるしぃ」


黒髪の魔術師を捜索中、美味しそうな焼き鳥を見付けてギザルにねだったミーア。


「でもあの時やられなかったんですし、大丈夫じゃないですか?まぁ次はないと思いますけど」


焼き鳥の行列に並んだのはギザル一人。


「っていうかぁ、どう考えてもターゲットと初対面っぽかったしぃ、黒髪を調べるのってムダっぽくない〜?」


ようやく焼き鳥をゲットしたギザルはそそくさと二人の待つ屋上へと戻ってきた。


「わぁ!ギザルさんありがとうございます!」

「美味しい〜」


ミーアはお礼も言わずに焼き鳥を頬張った。


「こら、こらこら」

「ん〜?」

「人に頼んでおいて礼もなしか?俺の正体ばれたら大騒ぎなんだぞ?そんな中わざわざ買いに行ってやったのに」

「だってぇ、並ぶの面倒〜」


ガバッ、と勢い良くフードを外し眉間にシワをよせるギザルの顔が怖い。


「怖い顔もぉ、素敵ぃ?」


冷や汗をかきながらミーアは何とか笑顔を作った。


「……一週間、肉抜き」

「ごめんなさいごめんなさいぃ!長い行列を並んで買ってきてくれてぇ、本っ当にありがとうです〜!」

「ミーアさんカッコ悪いです」


ミーアの慌てように、あははと笑うハラス。

焼き鳥を食べながら三人は話し込んだ。


「まぁたしかにミーアの意見も一理あるな」

「でしょ〜?でもでもぉ、もうあの場所にはターゲットいないと思うしぃ」

「それはジェイさん達からの連絡待ちですね」

「王宮に逃げ込まれてなきゃいいが……多分一番確率が高いな」

「ですよね。まぁその時は忍び込むまでですけど」

「タレも塩もおいしいってぇ、どぅいう事〜?あたしぃ、傭兵卒業したら焼き鳥屋さんになるぅ」

「念のため、黒髪の捜索は続けるか」

「って言ってもギザルさん、王都は広いです。医術師の僕には足が保ちません」

「鍛えるいい機会だな」


はぁ、とため息が一つ。

ギザルとハラスは焼き鳥を食べ終えたが、ミーアはまだ両手に持っていた。


「……仕方ない、あまり会いたくはないがアイツの所に行くか」


アイツ?と首を傾げるハラス。


「情報屋だ」

「そんなの知ってるなら早く言ってくださいよー」


怒った顔をされ、ギザルは苦笑いで返した。


「で、どこの誰ですか?」

「俺と同じ獣人なんだが……何というか、相性が悪くてな」

「そんなのどうでもいいですよ!そうと決れば、早くその人に会いに行きましょう!」


スっくと立ち上がり、串を掻き集めて早々と階段を降りていった。


「あぁもぅぅ……もっと食べたかったのにぃ」






「ふっざけんなテメェ!脳ミソ叩き潰すぞ!」

「やぁね〜。これだから野蛮人は嫌いよ。あなたこそ脳ミソあるわけ?ないわよねぇ。嗅覚のない獣人に、脳があるなんて思えないわ」


下水路を通って着いた場所は、数人の獣人が広々とした空間でひっそり暮らしている所だった。


「ハラスぅ、ギザルがぁ、怖いねぇ」

「はい。あれがきっと鬼の顔っていうんじゃないですか」


情報屋だという獣人は女だった。座ってはいるが、おそらくギザルより背が高い。


「人並みにはあるだろうが!」

「あなた人だったの!驚き〜」


ケラケラ笑う彼女の名前はリーネイ。獣人は嗅覚を人間の三十倍まで、自在に操れるらしい。


「ギザルってぇ、味音痴だけどぉ、お鼻も音痴なんだねぇ」

「そのようですね。僕らギザルさん以外の獣人の方知らないですからね」


人間との共存は現状ありえない。生きていて会うのは宝くじの当選と同じぐらいの確率だと思う。


「とにかく!黒髪で杖を持たない魔術師の情報をよこせ!」


ドンッ、とお金の入った袋を机に叩きつけた。


「……」

「なんだよっ、足りないとでも言うのか?」


眉間のシワが一層濃くなる。対するリーネイはフゥ、とタバコを深く吐き、


「それがモノを頼む態度なのかしら」


フフン、と笑う。


「すごいねぇ。あたしならぁ、あんなギザル前に泣いちゃう〜」

「同感です」

「人間のくせに俺達が怖くないのか?」


後ろから声をかけられ二人は振り返った。


「初めましてぇ。ミーアでぇす」

「ハラスです」


ペコリと頭を下げたのはハラスだけだった。


「名前なんか聞いちゃいねぇよ」

「ギザルさんの友人ですか?」


ギザル程背の高くない男は黒豹を思わせる姿だ。


「アイツの事は噂でしか知らねえ……人間とつるんでる、変り者ってな」


ミーアに鋭い視線を向け、彼女の身を震わせた。


「睨み顔はぁ、怖いよぉ」


ぎこちない笑顔で答える。


「ふん。人間臭くてしょうがねぇ。とっとと失せろ」

「ギザルさんが情報をもらったら、すぐ出ていきますよ」


ミーアの前にそれとなく出て彼女を背に隠す。


「お前は……樹人だろ?人間庇うなんてな。バカな種族ってのは本当なんだな」


笑いながら言われ、ハラスの顔に怒気が広がる。


「……こんな所で隠れるように住んでるなんて、あなた方は臆病者なんですね」

「なっ!」

「ギザルさんの株が下がらないか心配です。あなたと違って、強い人ですから」


獣人はその生まれ持った能力の高さからか、強さへのプライドが高い。それを知っていてわざと言ってやった。


「このッッ、草野郎が!」


胸ぐらを捕まれて拳が一つ、当たった。


「がっっ」

「ハラス!」


壁に吹き飛ばされ顎が外れた。歯も何本か抜けている。ハラスに駆け寄ったミーアは今にも泣きだしそうな顔をした。


「ちょっと撫でただけで吹き飛びやがって」


大げさではなく、獣人にとってなんてことのない打撃。しかしそれは常人にとって凶器でしかない。

ハラスは飛びそうな意識をなんとかつなぎ止め、即座に治癒をおこなった。淡い光がハラスを包む。


「はっ。ウゼェな」


鼻で笑う男をミーアがキッと睨む。


「なんだよ、今度はお前が飛ぶか?」

「止めろ」


男の肩にギザルの手が置かれた。チッ、と男は舌打ちをし、「悪かったな」と手をヒラヒラさせて姿を消した。


「大丈夫か?」


二人の傍へ行き膝を折る。

ミーアは目を潤ませているが顔には怒りを見せ、回復を終えたハラスはポキポキと肩を鳴らした。


「すまない」


一悶着はあるだろうと予想していたゆえ、リーネイとの口論に熱くなってしまった事を詫びた。


「ギザルさんは一ミリも悪くないですよ」

「そうだよぉ。あたしがぁ、外で待ってれば良かったんだよぉ。そしたらぁ、ハラスが殴られたりしなかったのにぃ」

シュン、と視線を落とすミーアの頭をギザルが撫で、ハラスは笑顔を向けた。


「あんなの、サザビリさんの回し蹴りに比べたら何でもないですよ」

「我慢してくれてありがとうな」


二人の優しさにミーアは涙を飲み込み、笑顔を作った。


「まったく、人騒がせね」


一連の流れを見ていたリーネイが席を立ち、奥の部屋へと招く。慌て後を追う三人。そしてやはり、リーネイはギザルよりも頭一個分大きかった。

中は資料室になっていて、少しばかり埃臭かった。


「えっと…魔術師、魔術師はっと」


ドンドン奥に入っていくリーネイに着いていくと、魔術師コーナーなる区画にたどり着いた。


「この辺ね」


足を止めて左から右へと顔を動かす。


「すごいですね」

「あたしぃ、こんな所初めて〜」

「人間の情報屋とはちょっと違うからな」


リーネイの邪魔にならないように三人は少し離れた所で待った。


「リーネイはぁ、人間嫌いじゃないのぉ?」


ギザルを見上げて聞いてみた。


「アイツは好きでもなければ嫌いでもないな」


獣人にも色々いるようだ。ギザルの答えにミーアはホッとした。


「あったあった」


ファイルを一つ手に取り読み上げていく。


「黒髪で杖無の魔術師、ルイス。現在二十一歳。五年前にマナ姫に魔術を教え、戦争に参加。イルハウ大会で準優勝。その後イリューマから姿を消す」


読み終わるとファイルを元に戻し、「これだけよ」と腕を組んだ。


「年齢と大会準優勝の実力からしてそいつに違いないな」

「たしかに杖を持っていないていう点からそうかもしれないですが……実力は随分上がってると思いますよ」


魔術師でもあるハラスは難しい顔をした。


「っていうかぁ、王族との接点がメンド〜」

「そうですね」


三人はリーネイにお礼を言って地上に戻った。一先ずジェイ達と合流するという事でその場から離れる。


「ルイス……か」

「何か言いましたか?」


ハラスが振り返ったが、ギザルは「いや」と答えた。






情けない……。俺は、美人に弱いんだ。

アルドは自分の腑甲斐なさを、床掃除をしながら噛み締めていた。


「しっかりやってよね」

「……はい」


オーヤのお使いで来た魔具屋は古ぼけた外観に、中は台風でも通ったのかと思うほど散らかっている所だった。


「ねぇ、これあっちの棚にしまって」

「何これ?」


金髪美人はアルドの一つ上で、細く綺麗な手に砂の入った大きな瓶を持っていた。


「あんたには関係ないでしょ」


顔も見ずに答えられ、ムスッとしながらも言われた通りの場所に置いた。

杖を直すには三日程かかるらしい。オーヤと同じぐらいしわくちゃなお婆さんが奥に引きこもって二日目。

アルドがそのお婆さんの美人な弟子にパシられて二日目。あと一日の辛抱、と文句を言わず頑張っている。

対する金髪美人ことサンリは、


「新しく出来たオープンカフェにでも行こうかしら」


と麗しい顔を窓に向けていた。


「ねぇ」

「はい?」

「……あんたも行く?」






これでも人並みにお付き合いなるものはしたことがある。ただ、美人とは付き合った事もなければ、お茶なんぞした事もなかった。

お洒落なオープンカフェの前は人通りも多く、たまにこちらを振り向く男がちらほら。


「……」

「……」


美人って何を話すんだ?とアルドはカフェに着いてから、というか着く前から無言を通していた。

第一、自分なんかを誘って何が楽しいんだろ?サンリならいくらでもお茶の相手がいると思うけど。等と考えているうちに、カップの中は空になっていた。


「ところで」

「?」

「あんた、名前は?」


……なるほど。オレは彼女の中でただの掃除機程度だったんだ。


「アルド」


少し無愛想に答える。美人は礼を欠く生き物。オレの中で決定した。


「ふーん。私はサンリ」


知ってるから!初日にお婆さんに紹介されたから!


「ばぁばの孫じゃないわよ」


弟子ですよね!聞いたから!初日に!


「甘いものって、罪よね」


何の話ー?!あ、頼んでたショートケーキがきた。うわぁ、スゴい目が輝いてる……って一口多くない?!ほぼ半分口に入ったよ!

なんて、心中穏やかじゃないオレの後ろから話し声が聞こえた。


「なぁ、後ろの席の女、例のヤツじゃねぇ?」

「何だよ?」

「ほら、一家惨殺事件で唯一の生き残りの」

「え、マジ?ちょっ……店出ようぜ」


ガタガタッ、と急ぎ足で店を出る男達を見ると、目が合ってしまった。

なんだよ、感じ悪いな。

視線を前に戻すと、ケーキは綺麗になくなっていた。


「私、地獄耳なのよね」

「……」


何ー?!今それ言う??気を遣って無視しようと思ってたのに!なんなんだこの美人!


「私、貧乏大家族の娘で、私以外の家族……二十一人みんな殺されて」


なんだそれぇー!?つーかどんだけ大家族だよ!そしてなんであなただけ生き残ってるの?!ルイスさん、オレどうすればいいんですかぁぁ!?


「……あんたは恐がらないのね。ばぁば以外で初めて」


引いてますから!おもいっきり引いてますよー!!オレって感情顔に出ないタイプだっけ?いやいや、この期に及んで美人を前にカッコつけたいとか?


「ねえ、なんか言ったら」


訝しげな顔を向けられた。なんか言えったって、そもそもこの美人ちょっと変わってるっぽいし、えらそうだし、美人だけど関わらないほうがいいかな?あー、でもすごい整った綺麗な顔がこっち見てるよ。まつげ長いなぁ。肌綺麗だなぁ。長い髪も、手も足も、全部……。


「……綺麗だなぁ」


……。


…………。


オレ今何言ったぁー?!


「は?」


ですよね!は?って感じだよね!でもしょうがないじゃん!美人はどんな顔したって美人だし、じっと見つめられたらつい言っちゃうでしょ?!


「いい度胸してるわね」


睨まれてるしッ。あーもうなんか面倒くさい。店戻ろうかな?いいよね?


「私が犯人、って言ったら?」

「……興味ない」


ルイスさん今頃どこで何してるんだろう。そう言えば、イリューマには目的があって来たみたいだけど。あ、すげぇ。アレおかまじゃん?初めて見たぁ。さすが都会。色んな人がいるんだなぁ。あれ?おかまなんかこっち見てる。ってか目が合っちゃったよ。美人の後のおかまはキツいなぁ。ってか近付いてきてるし。おぉ、迫力ある。う〜ん……えぇっと……。






「サザビリ、すごい」

「ま、アタシの魅力の為せる技よね〜」


もう使われていない倉庫に四人はいた。


「う……んッ」


サンリはまだぼんやりする頭をなんとか起こす。体が動かない事を確認すると、声のするほうへ視線をむけた。


「あら、坊やより早く起きちゃったの?巻き込んじゃってゴメンなさいね〜。ま、運が悪かったって諦めて頂戴」


やたらゴツいおかまがからかうようにいってきた。


「一体なんなわけ?」


ロープで縛られている体を起こし睨んだが、効果はゼロのようだ。


「坊やが起きてからよ」


アルド?この子ヤバイ事に関わってるの?と未だに横たわる彼を見る。

短髪の、どちらかというとりりしい顔付きの男。普通なら引かれるような自分のバックグラウンドを「興味ない」と一蹴した、初めての男。


「……起きなさいよ」


ゲシッ、ととりあえず蹴起こしてみる。すると唸りながら目を覚ました。


「いって……ってここは?」

「倉庫」


小さな男が答え、身を起こす。


「……なんで縛られてるの」

「私、巻き込まれたみたいなんだけど」


今度はアルドを睨んだが、これまた効果はゼロだった。


「あんたら何?」

「名乗る必要はないわねぇ。それより、黒髪はどこの誰なのかしら?」


おかまの言葉に、アルドは身を強ばらせた。


「困るのよねー、仕事の邪魔されるのわ」

「オーヤ、どこ?」


近付いてくるケバくゴツい顔。太い腕がアルドの首へ伸びる。


「うっ」


見た目を裏切らない力が、首を絞める。


「言わなきゃ、死んじゃうわよー?」

「ぐッッ」


苦しい。目が霞む……。


「ちょっと!その手を離しなさいよ!」


サンリはおかまに近づこうともがくが、平手を食らい倒れてしまった。


「サ、ンリ……」

「ほ〜ら、彼女が可哀相じゃない?早く吐いちゃいなさいよ」


片頬を赤くしながらも、サンリはまた起き上がりおかまに近づく。


「や、め」

「あら、そんなに彼氏が大事なの?でも残念ね」

「弱い。サザビリ、ピタ、強い」


小さな男が杖を構えて術を唱えれば、サンリは水の壁に囲まれた。


「なっ?!」

「殺しちゃダメよ」

「ピタ、わかる」


向き直ったおかまはアルドを蹴飛ばし髪を掴んで持ち上げた。


「あの黒髪は何者?オーヤはどこに隠れてるのかしら?」


殺気がアルドを包む。しかしそれでも、口は閉ざしたままに、睨み返した。


「往生際が悪いわね。ピタ、少し遊んであげなさい」

「わかる」


グググッ、とサンリを囲んでいた水が縮まっていき、彼女を包んでしまった。

息の出来ないサンリの顔に恐怖が滲む。


「お、前らッッ」

「さぁ、答えなさい」


――杖さえあれば、こんな奴らッッ。


そんな不毛な考えがめぐる中、ルイスさんなら状況に関係なく強いよなぁ、とあらためて胸がときめいた。最低である。


「何ニヤけてるわけー?おかしくなっちゃったのかしら」


首を傾げて持ち上げていたアルドをコンクリートに叩きつけ、真上から腹に足を落とした。


「ぐッッ」

「ったく面倒くさいわねぇ」


はぁ、とため息を吐きピタに目配せすると、サンリを包んでいた水が消えていった。


「ゲホッ!はっ、はッッ」

「お金にならない殺しはやらない主義なのよねー」


頭をボリボリ掻きながら古いソファーに腰を下ろした。


「とりあえず、ギザルちゃん待ちね」

「ピタ、ひま」


小さな男は不満そうな顔をサザビリに向け、指はアルドを差した。


「遊ぶ、いい?」

「逃がしちゃダメよ」




小一時間ぐらいたっただろうか。体を縛っていたロープはなくなり、代わりに水の牢に入れられた。サンリは暇を持て余していた。


「っこのチビ!ちょこまか逃げるな!」

「ピタ、チビ。アルド、ザコ」


ニヤッ、と笑うピタの安い挑発に乗ってしまうアルドを、サンリはがっかりと見ていた。

昼間は、無口でクールで器のデカイ男だと思ったのに。

そんなサンリの隣にはポテチ片手に二人のケンカ(もっともピタとかいう水棲人は遊び感覚のようだが)を楽しむデカイおかまが、楽しそうに笑っている。


「なかなかやるじゃない、坊や。おもちゃの杖で」

「おかまは黙ってろ!」

「ピタ、アルド、遊ぶ」


ぶん、と杖を振ると鋭い氷柱がアルドの頭上からいくつも落ちてきた。


「げっ」


術を唱える時間がなかったので、逃げ回るアルド。それを追うピタ。一瞬の隙に反撃し立場を逆転させるも、所詮おもちゃの杖。追い込むことも出来ずにまた逃げに回る。そんな遊びのようだ。


「ねぇ」


初めは危ない人オーラを出していた彼らだが、どうやら本当に殺す気はないらしい。


「あんた達、殺し屋じゃないの?」

「違うわよー。そんなショボくないわ」


ポテチをすすめられたが、サンリは首を横に振った。


「そう……」

「あら、なんでガッカリしてるのー?アタシ達が殺し屋の方がよかったの?」

「……そうね」


虚ろな目は冷たいコンクリートを映した。


「変わった子ね」

「このっ、お前なんか本物の杖があればッッ」


アルドは壁を背に言い訳を始めていた。


「ウソ。アルド、弱い。ピタ、強い」

「まぁそんな差はないでしょうけど、ピタの方が強いでしょうね」

「私もそう思うわ」


なぜかサンリまで乗っかってきた。ので、


「お前はどっちの味方だ!」


とつい言ってしまった。


「素直ないい子じゃなーい!ほら、デラックス板チョコあげるわ」

「……ありがとう」


餌付けされてんじゃねー!

という叫びはなんとか耐えた。

とその時、ガタン、とドアの開く音が聞こえた。


「よーやく帰ってきたわね」


サザビリは立ち上がり、アルドから杖を取り上げるとピタに言ってサンリと同じく水の牢に閉じ込めた。

カツカツという足音が三人分。現れた奴の一人だけ、フードを被っていた。


「何々〜?すごくぅ、可愛い子がいる〜」


剣を携えた女はサンリを見つけて近づくと、上機嫌に自己紹介を始めた。


「あたしぃ、ミーア〜。あなたはぁ、妖精さん〜?」

「い、いや……サンリ。人間よ」


可愛いー、と今にも抱き付きそうな勢いだ。


「遅かったじゃな〜い」

「ジェイさん達と会ってたんです」


魔術師が一人。

フードの奴はまだ顔を見せないでいた。


「ギザル、ピタ、遊ぶ。いい?」


ピタはフードの奴に近づき服を引っ張ったが、頭を撫でられただけで制された。


「そいつは……」

「街でたまたま見つけたから持ってきたわー。名前はアルド。彼女はサンリ。デート中だったけど、こっちも時間が……ね?」


サザビリの説明を聞いて、フードが外された。

思わず、息を呑んだ。


――獣人。


教科書でしか習わなかった生き物が、目の前に現われたのだ。


「あーあ、固まってますよ」

「そのようだな」


カツカツと近付いてくるギザルとかいう獣人に、逃げ場は無いとわかっていても狭い牢で無意識に後退りしてしまう。サンリにいたっては真っ青になって体を震わせていた。


「……」

「……」


視線を合わせるように屈まれれば、今だけはこの水の牢に感謝した。一定の距離は保てる。


「ルイス。イルハウ大会で準優勝し、女王マナに魔術を教えていた」

「っ!」


ばれている。まさか、命を狙うつもりなのか?でも、さっきまでの感じでは脅しはしてもそこまではしないようだったが。


「あら、もしかしてこの子いらなかった?」

「いや、ピタの遊び相手になってくれたんだろ?」


アルドから離れ、ソファーにどっしり、大きな体を埋める。サザビリは筋肉隆々でゴツイが、ギザルは線はそれほど太くなく、力とスピードを兼ね備えている感じだ。


「ルイス、強い。アルド、弱い。ピタ、アルド、遊ぶ」

「随分気に入られたな」


ククッ、と笑うがこっちはいい迷惑だ。


「ねえ、私達を殺さないなら、どうするの?」


サンリがギザルとは目を合わせずに聞く。


「まぁ人質だな。おかしな真似しなければ、無傷で返すさ」

「あたしぃ、サンリ欲しい〜」

「ピタ、アルド、欲しい」


キャイキャイとギザルにねだるこの二人を喜んで置くべきか、一先ず酷い事は起らないだろう。



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