助太刀
オーヤは所謂生きる伝説だ。
現役の時にたてた武勲は史上最多とも言われ、今でもその名声は衰える事を知らない。
そのためだろうか、今その伝説の人は命の危機にさらされている。
「このわしの命を狙うとはのう。根性だけは認めてやろう」
黒づくめの人間が九人。オーヤの朝の日課、乾布摩擦の最中に囲まれた。最も、すでに時計の針はお昼を回っている。
「どれ、若いもんの相手は久しぶりじゃのう」
いつものように、ほっほっと笑いながら足元の杖を取ろうとしたが、その体は宙に浮き杖は炎によって焼かれた。
いたた、と地面に打った背中をさすって上体を起こす。
「全く、暗殺に礼儀は必要なし、じゃな」
「気を付けろ、杖がなくても魔法は使える」
男が言うなり、黒ずくめは殺気を放って一気に襲い掛かってきた。
武術に長けた者が三人。剣術師が二人。魔術師が三人。そしてリーダー。
「こんな老いぼれに、光栄なことじゃ」
オーヤはまだ余裕を見せている。
接近戦の五人がそれぞれ急所を狙い飛び込んできた。しかしその全てをかわし、距離をとる。術を唱えようとしたが、黒ずくめの魔術師達が許さない。攻撃魔法を立て続けにかわすのは容易ではなく、片足から血を流した。
しかしオーヤは怯まず、
「ジュ・ライト!」
と強い光で一瞬の隙を作る。その間に素早く次の術を唱え、近くにいた黒ずくめ二人を麻痺させる。
「これが九十過ぎのじいさんなの?」
魔術師の一人は女のようだ。
「あの麻痺、簡単に解けないです」
「ふん、子童が。甘く見とると痛い目みるぞい」
オーヤは右手を突き出し、そこから無数の水の矢を放った。
「何これ!?」
女の魔術師に当たり、水は彼女を覆うと重みを付けて地面に転がった。
「あと六人……さすがにキツいのう」
言ってる間に剣術師に間合いを取られ、片腕からも血を流してしまった。さらに後頭部から強い打撃を食らい、最後に鋭い風に体中から血が出た。
「ふむ、歳は取りたくないのう」
と言いながら、両手を地面に付けると一気にニメートル以上盛り上がり黒ずくめ一人を埋もれさせた。
「これ、行くッッ」
黒ずくめの魔術師は厚い土を貫く氷の槍を放ち、それはオーヤの肩も貫通してしまった。
ぐっ、と膝を折るオーヤ。杖も無しに術を連発したからか、息もあがっている。
「歳は取りたくないものだな、生きる伝説よ」
リーダーの男が少し離れた所から細い剣を振り落とした。
やばいっ、と思った時にはもう遅く、前からくる地面も削る斬撃にオーヤは死を覚悟した。
ザジジジジッ!!
「何?!」
「ご老人一人相手に、ずいぶんですね」
「ルイスさん!俺がこいつらぶっ飛ばします!」
オーヤの前に青年が二人、守るように立ち現われた。そして白いタイスが一頭、オーヤに寄り添う。
「アルド、思いっきりぶっ飛ばして構わないから」
「なんだガキがぁ!」
動ける黒ずくめ達が二人に襲い掛かる。
「ジィ・ケイジッッ」
増幅第一のバリアは全ての攻撃を防いだ。
しかしそれはすぐに解除されてしまった。
「えっ?!」
黒ずくめの剣がすかさずアルドの首を狙う。術を唱える時間がない事を悟り、アルドは両手と杖で首をガードした。
「が、はっっ」
目を瞑っていたアルドは恐る恐る瞼を開く。そこには地面から伸びた土に腕を刺されている黒ずくめ。
アルドの顔は喜色に染まる。
「さすがルイスさん!ありがとうございます!なんて的確で早い攻撃!すごいです!」
スイッチが入ってしまった。アルドの口から出る賛辞の言葉はとどまる事を知らず、目の輝きもまた然り。
そんなアルドに困ったように笑いながらも、ルイスはボンボコ強力な術を放っていく。こちらもとどまる事を知らない。
「バカなっ、これだけの術を杖も無しにッッ」
防戦一方になった黒ずくめ達は仕方無しに、
「一旦引くぞッッ」
というリーダーの声に、負傷した仲間を抱えて姿を消した。
「うっうっ……」
「……アルド、ご老人の回復をするよ」
ここまでの旅でルイスはほとんど魔術を使わなかった。なのでアルドは今まさに起こったルイスの華麗なる魔術に感動し、限界を越えて涙を流した。大げさ以外のなにものでもない。
「大丈夫ですか?」
「ふむ、すまんのう」
いえいえ、とルイスは老人に回復術をかけ、アルドもそれに続く。しかし二人は医術師ではないので、簡単な傷しか治せない。
「わしの家はすぐそこじゃ。すまんが杖を拾ってもらえるかのう」
ルイスは老人をハクセンに乗せて寄り添い、アルドが焦げた杖を拾う。
「うわっ、これもう」
ただの炭の棒と化していた。
老人の家は割に大きかった。すぐ傍に綺麗な水が流れていて、小さな畑もある。
中に入ると綺麗に整理整頓されていて、とても男の老人一人が住んでいるようには思えなかった。ルイスは老人をハクセンから降ろして少し大きめのベッドに寝かせた。
部屋を見渡し応急箱らしきものを手にとって「お借りしますね」と消毒して包帯をまく。
「ハクセン、悪いんだけどユフィールさんを呼んできて貰えますか?」
ハクセンは頷き、家を出た。
「知り合いのお医者さんです。今日中には来て頂けると思います」
ニコッと笑うルイスは簡単に自己紹介をした。続いてアルドも。
「わしはオーヤ。これでも昔、国に仕えとったんじゃ」
「へぇ、スゲェ!」
アルドは話を聞きたそうに身を乗り出したが、ルイスに制された。
「話は後で」
オーヤの体を気にしたルイスだったが、当の本人はよいよい、と笑った。
「話しているほうが痛みが紛れるじゃろ」
「っていうかじいさん、何だってあんな目に遭ってたんだ?」
アルドの敬語はルイス限定で発動するらしい。しかしオーヤが気にしていないようなので、ルイスは注意しなかった。
「そりゃあわしが有名人じゃからじゃのう」
「へぇ、そうは見えないね」
「アルド」
「よいよい。もうこの通り老いぼれじゃ……それにしても、おぬしら頼もしいのう。特にルイス、といったか」
じっ、と黒い瞳を見る。
「いえ、まだまだ修行の身です」
謙虚に答えるルイスの隣でまたアルドが若干ウザくなったが、あえて無視。
「はぁ、さすがルイスさん。その強さを誇示せずにひた向」
「しかし人語を理解するタイスを従えておる」
「あぁ……彼は古代獣で、話すことも耐魔能力も持っています。もう長く生きてるようで、僕なんかよりよっぽどすごいですよ」
親を誇りにしているかのような言い方に、オーヤは感心した。
「俺は幸せです。ルイスさんのようなカッコいい人と旅ができて、しかも」
「はて、もしかするとおぬし、陛下に魔術を教えとったと噂のルイスか」
「陛下?」
マナという姫に魔術は教えていたが、国王に教えた覚えはない。なので疑問符で返した。
「きっと世界中どこを探したってルイスさんみたいな人はいません!だってそうじゃないですか!こんな完璧で素晴ら」
「女王陛下じゃよ」
「女王?たしか僕の記憶ではイリューマの王はデューマ国王だったかと」
「それはまた、随分と古い情報じゃのう。デューマ元国王はすでに故人。前国王はガイラじゃったが、病が悪化したのでつい先日、妹君のマナが女王の座についたのじゃよ」
えっ、とルイスは息を止めた。
「俺はどこまでも付いていきます!いいですよね、ルイスさん?!」
満面の笑みでルイスを見れば、彼はピタリと止まっていた。
――女王?マナが?一体いつの間にそんな話に……それじゃあ簡単にはあえないじゃないか!
「あの、ルイスさん?……うわっっ!」
顔を覗き込もうとしたが、突然立ち上がられ、危うくイスから落ちるところだった。
「オーヤさん、申し訳ありませんが僕は急用が出来ました。アルド、オーヤさんをよろしく頼むよ」
それだけ言うと、ルイスは疾風の如く家を出たのだった。
「も、申し訳ありまッッ」
パァァン
銃弾は頭を貫通した。
リーダーを撃たれた黒ずくめ達は、身を強ばらせた。
「……二度としくじるな」
その言葉だけを残し、軍服の大柄な男は馬に乗って去っていった。
薄暗い森に残された黒ずくめ達は目深に被っていたフードを取り、皆一様に胸を撫で下ろした。
「冗談じゃねーよ。つーかコレ、どうする?」
先程撃たれて横たわっているリーダーを指差す。
燃やしちゃうわ、と一言魔術師が言ってあっという間に炭の山が出来た。
「で、これからどうするのよ?私もうメンドー」
「前金もらってるんだしぃ、トンズラこくとかぁ?」
女二人の無気力が他の仲間にも移り、皆ヘナヘナと木に寄り掛かって腰を下ろす。
「ギザルさん、どーするんすか?」
八人の視線が集まる先に、この一団の本当のリーダーがいた。
獣人。
卓越した運動神経に、大地をも割ってしまうと噂される力を持つ種族。
争いを好み野蛮な連中と、人からはあまり好かれてはいない。しかしこの場にいるほとんどは人間。一見あり得ない光景だが、彼らの絆はその辺の家族より強い。
獣人ギザルの容姿といえば、手足に鉄も切り裂く爪を持ち、口元からは鋭い牙。
尖った耳に、肌の色は黒に近い赤。
「……ローリアはしつこい連中ばかりだ。簡単に逃がしてはくれないだろう」
「ですよねー」
ハァ、と肩を落とす。
「あたしぃ、お腹空いたぁ」
目尻が下がっている剣術師の女は手をお腹に添えて提案した。
「腹ごしらえでもするか」
ちょうどいい大きさの街が近くにある。ローリアと契約してから立て続けに仕事をしたのだから、たまには息抜きもしないとな。
ギザルはフードをかぶり直し、他の仲間はやったー!、と立ち上がってガッツポーズ。
「何食べようかしら」
「やっぱりぃ、お肉ぅ」
「ミーアはそればっかりだな」
「僕は温かなスープが飲みたいです」
「俺はもうふかふかのベッドで寝たい……」
「ピタ、砂糖、いい」
「アタシはお酒が飲みたいわぁ」
ギザルの前を仲良くお喋りしながら歩く仲間。男に女、オカマに水棲人に樹人。そして獣人の俺。
――こいつらと“ゴウ”を名乗ってもう二年か。
最初の一年は苦労しかなかったな、と口元が緩む。
「ギザル、笑う」
水棲人のピタが見上げてきた。
「あら〜ん、どうしたの、ギザルちゃん?」
「なに、昔を思い出してただけだ」
「思い出し笑いってぇ、エロい人がぁ、するんですよぉ?」
ミーアがいうとみんなが笑った。俺も笑う。勘弁しろ、と言いながら。
金は足りるのだろうか。ギザルは財布担当のサザビリに心配気な視線を送るが、当人は顔を赤くして一升瓶片手に踊っていた。
「僕にも一口ぐらい飲ませて下さい!」
「あらあら、お子様はダメよー。ね?ギザルちゃん」
「あぁ、もう一年待つんだ」
止められて顔を膨らますハラスは俺達の中で一番若い。樹人、という寿命二百年を誇る種族で、それゆえ人間から狙われやすい。見た目はほとんど人間だ。
「ぐがぁぁー。ん……ぐがぁぁ」
「ラーシャン、寝る、顔、書く」
「ちょっとピタ、それペンキ?!やめなさい!」
カリーナが水棲人のピタの手から慌てて筆を取り上げる。
水棲人は人間が分類するには魚類だ。耳の裏か足を見れば判別がつく。奴らがいうには、食べると極上だそうだ。
――どっちが野蛮な種族だ。
何度も見てきた。奴らの蛮行なら。今回の事だってどうだ?魔術大国をものにしたいという欲望のためだけに、戦争を起こす。その起爆剤として、俺達のような使い捨ての利く集団を雇う。
「それにしてもぉ、ローリアってぇ、自国民にも容赦なしなんだねぇ」
「あのリーダー、剣の腕はたしかだったのにな」
ミーアとジェイがほねつき肉を口に頬張りながら昼間殺されたローリア人の話をしだした。
「っていうか、ねぇ!何なのよあの魔術師?!」
昼間の事を思い出し、カリーナがいきなり怒りはじめた。
「スタミナがあるだけだろ?」
「違う、黒、強い」
ジェイをじっ、と見つめるピタ。
「あたしぃ、結構タイプぅ」
「止めときなさいよッッ、あれは性格悪いタイプよ。絶対!」
魔術師同士、ピタとカリーナにはわかるところがあるらしい。
「あの黒髪について調べる必要がありそうだな」
俺がいうと、みんな頷いた。
「ありがとう、ハクセン」
こんな所に家があるなんて知らなかったわ。
ユフィールがドアをノックすると、知らない顔が出てきた。
「あ〜、あの。私はユフィール。ルイス君に呼ばれてケガ人を治療しに来たの」
「……」
右手に握る杖が引っ込み、中に入るよう促された。
少し気まずい。
「ルイスの弟分だ」
ハクセンがぎこちない二人を見かねて口を開いた。
「アルドよ、挨拶はどうした」
「……アルドだ、よろしく」
「私はユフィール。よろしくね」
ニコッと笑うとアルドの頬がうっすら赤くなった。それを目ざとく見つけたハクセンは、
「人妻だぞ」
と笑った。
奥に案内されたユフィールはベッドに横たわるオーヤを見て一瞬止まってしまった。思ったより酷かった。
「こりゃまた、べっぴんさんが来てくれたのぅ。ほっほっ」
「ユフィールと申します」
普通なら笑っていられないだろうケガだ。ユフィールは直ぐに注射器を出した。
「麻酔を打ちますね。こう見えて私、外科医なんです、安心して任せてください」
優しく微笑むと、オーヤの体から力が抜けていくのがわかった。
――応急措置はしてあるわ。さすがルイス君ね。
カバンに入っていた医療道具をテーブルに出し、アルドを見る。
「少し、手伝ってもらってもいいかしら?」
「え?あ、はいッッ」
慌ててユフィールに駆け寄り、アルドは色んな意味で心臓をバクバクさせながらなんとか助手の役割を果たした。窓の外はもう真っ暗だった。
「ふぅ、どうもありがとう」
「い、いえ!」
年上の、しかもものすごい美人なんぞに免疫のないアルドはどうしてもソワソワしてしまう。そして心の中でひっそり思うのは、こんな美人女医と知り合いなルイスへの果てしない尊敬と拍手だった。
「ふむ、いい腕じゃのぅ」
上体を起こし、早速体を動かすオーヤにユフィールは慌てて安静を促すが、聞き入れてはもらえなかった。
「またいつ狙われるかわからんからのぅ」
「げ、やっぱあいつらまた来るのか?!」
アルドは立て掛けていた杖を手にとりキョロキョロ見渡しはじめた。
「そんな直ぐには来んよ。しかしまぁ、警戒はしとかんとのぅ」
ユフィールがハクセンに聞いたのは、単にケガ人がいるから来てほしい、ということだったので詳しいことは何一つわからない。しかしどうやら命を狙われているらしい。だから、
「あの、よかったら私の家に来ますか?」
という言葉が自然と出た。
「じいさんの家とは比べられないな」
「ほっほっほっ。立派な家じゃのぅ」
ユフィールの言葉に甘える事にしたオレ達は夜も遅くにお邪魔した。
「ユフィールーー!?帰ってきた?!あぁ、よかったッッ俺、捨てられたのかとッッ」
玄関を開けるなり、物凄い勢いでイケメンが涙と鼻水をこさえて出迎えてくれた。
「ちゃんと置き手紙したじゃない、見てないの?」
呆れたように抱き付いてきた男の頭を撫でるユフィールさん。なんて羨ましい。
「人妻だと言っただろう」
ハクセンが笑いながら言った気がしたので、キッと睨んだが、勿論効果はない。
「あれ?ってかハクセン?!」
「うむ、久しいな」
「って事はルイス……そ、そんな!」
男はハクセンに乗ってるじいさんを見て顔を青くした。
「お、お前……ほんの数年でこんな皺くちゃに?!あぁ!やっぱり着いていけばよかったんだ!ごめんな……ごめんルイ」
「ちょっと待てぇぇえ!」
オレは持っていた杖で思わず殴ってしまった。
「サレオス!」
ユフィールさんの声にハッとした。
「ご、ごめん!勢い余って」
やってしまった!ルイスさんの(おそらく)友人さんに、オレはなんて事を!
「いてて……って、坊や誰?」
「アルド君よ。ルイス君の弟分らしいわ」
「へぇ、本物の弟にちょっと似てるな……じゃなくてルイスだ!ルイスが皺く」
「違ぁぁうーー!」
おもいっきり叫んだ。そりゃそうだろう?!
「なぁんであんな素敵なルイスさんがこんななよなよじいさんになるんだよ?!あり得ない!!」
年を取るにしたって、もっと素晴らしく年を取るにきまってるじゃないか!
「あ、そ、そうだな」
オレの怒りにサレオスとかいう男は謝った。
「なるほど〜そういう訳ね!いやぁ、勘違いして悪かった」
全然悪びれる様子もなく優雅にコーヒーをすするこの男。オレの中で要注意人物と決まった。
「まったく、サレオスは一人で騒がしいんだから」
「本当に」
「うぐっ。なんかその冷たい感じ、ルイスに似てる気がする」
冷たくて当たり前だ。あんたはすでにマークした。
「ルイスさんは冷たくない。いつだって優しいし、強くて頭もよくてカッコいい」
「ふふっ、そうよね。私も同感だわ」
ユフィールさんが手を口元にそえて笑った。かわいい。
「それにしても大変でしたね。多分、イリューマの伝説の人と間違われたんだわ」
「伝説?」
「サレオスは知らないわよね。ちょっと前、イリューマには“オーヤ”っていう天才軍師がいたのよ。彼にかかればどんな戦いも負け無し。おまけに魔術師としても、武人としても強かったのよ」
へぇなるほど〜。同じ名前だから狙われたってわけね。哀れじいさん。幸薄いんだね。
「ほっほっ。懐かしいのぅ。しかもべっぴんさんに知ってもらえとるとは、長生きはするもんじゃ」
はい?という感じで三人の視線がベッドの上のじいさんに向いた。
ボケたのかな?いくらなんでもこんな腰が曲がりに曲がったじいさんがそんな……あ、でもたしか王宮で働いてたとか言ってたような。
「あの……も、もしかして」
ふるふる震える手で指を差すユフィールさん。
「ふむ、いかにも。先の話に出たオーヤじゃ。ほっほっほっ」
「ご、ご無礼を失礼いたしました!」
素早く立って最敬礼をするユフィールさんに、オレ達もつい真似をした。
「はて、無礼を働かれた覚えはないが……まぁよいか」
ルイスさん!なんかオレ達凄い人助けちゃったみたいですよー!
「では改めて」
よっこらしょ、とベッドで上体を起こす。
「昔、宮仕えをしとったオーヤと申す。わけあって命を狙われておるので、かくまって頂きたい。よいかのう?」
「も、もちろんです!ね、サレオス?」
「あぁ。大丈夫!悪い奴らにじいさんの首はやらねぇよ!」
「ちょっ、失礼よ!」
「ほっほっ。頼もしいのう。しかし守って貰おうとまでは思っとらん。わしは強いからのう」
見た目はもう片足あの世につっこんでるけどね。っとそう言えば……。
「杖がないじゃん、じいさん」
テーブルの上に置いてあった炭の棒を手に取る。一応“芯”は残ってるみたいだけど、さすがにもう使い物にならないね。
「どれ、貸してみぃ」
ほとんどの魔術師は魔力の備わっている杖を持つ。杖無しでもやれない事はないが、長くは持たない。つまり、だ。杖も無しに魔術を連発するなんてのは格が違うんだ。つまり!オレのルイスさんはマジで凄いんだ!
「大丈夫かコイツ?なんかオーラがおかしいぞ」
「今、自分が世界一幸運の星の元に生まれたことを感謝してる」
「おいユフィール、この坊や駄目っぽいぞ」
「え?何?」
オーヤを見ていたユフィールには聞こえていなかった。
「ふむ。アルドよ、使いを頼めるか?」
ひとしきり炭棒を見ると呼ばれた。
「まだ“芯”が残っとるから直せる」
「えっ?!これが?」
「なんじゃ知らんのか?“芯”さえ無事なら、本物の職人は直せる。わしの古い友人がそれじゃ」
「へぇ。初めて聞いた」
学校ではそんな事教えられなかった。さすが、魔術大国は違う。
「ちょうど街の反対側じゃが、馬車を使えば昼過ぎには着くじゃろう」
「おお!馬車いいね」ここまで来るのがほとんど歩きだったから、もうさすがに乗ってもいい気がする。
「手紙を用意しておく。今日はもうゆっくり休むとよい」
「うん、そうさしてもらうー」
ふぁ、とつい欠伸が出た。
「ほっほっ。今日は本当に助かった。礼をいうぞ」
「それならルイスさんにどうぞ。オレは何もしてないし」
「てかルイスはどうすんだ?」
突然出ていってしまったルイスさん。うぅ、オレも付いていきたかったのに。なんだろう。すごく落ち込んできた。だってなんか、いわゆるほら、役立たずじゃん。
「何暗くなってんだよ?」
サレオスが肩をポン、と叩く。
「とにかくゆっくり休めよ!長旅、ご苦労さん」
ニカッ、と笑うサレオスに少しホッとた。もしかするとそんなに嫌なヤツじゃないかもしれない。