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当日

朝から小雨が降っていた。ルイスは軽く寒さを感じ予定より早くに目を覚ました。共同洗面所へいき顔を洗い、部屋へ戻ってパジャマから動きやすい服装に着替え、机にあったお菓子を少しほおばった。ベッドにパジャマと制服をきちんとたたんで置き、ドアの近くに立って部屋の最終点検をした。


「よし、忘れ物はないね」


足元にあった大きすぎない茶色いリュックを背負い、手には魔術用の杖を持った。傘は持たなかった。ローブにフードがついていたからだ。

小雨の中フードを深くかぶり、警備員達が待っている正門へはいかず裏門の方へ足を運んだ。そこにももちろん一人ではあるが警備員はいる。ルイスは裏門を少し左へそれて、噴水やベンチがあり大きい木が密集している生徒達の憩いの場へ行った。そして一本の大きな木の下で足を止めた。


「ブロウ!」


風系魔法を放ち、ルイスの体は浮かび上がった。そして塀の近くの枝に止まった。


「本当によろしいのですか?」


突然姿のない声がした。しかしルイスは動じず枝から塀へと移った。そして敷地の外の木へと移り、地面に降りた。

アカデミーは半分を山に囲まれているためルイスはしばらく雑草がすき放題のびている上り坂を歩き、山のてっぺんに着いた。そこからは小雨のため靄がかったアカデミーが静かにたたずんでいるのが見えた。


「……僕は賞賛が欲しいよ」


口元に笑みをつくり静かな声でルイスは言った。


「力が欲しい。知識も欲しい」


アカデミーに背を向け歩き出した。足元は少しばかり水の含んだ土で柔らかい。


「それらは手を伸ばせば届くものなんだ。僕は必ず手に入れる」

「……欲という底のない沼に身を沈めるだけです」

「それでもかまわないよ。僕が一番嫌なのは鎖に繋がれて引っ張られるまま進むことだから」


ルイスは小雨の降る深い森へと姿を消していった。



「まったく、何という事だ」


深くため息をしたのはアカデミーの理事長であった。

朝の職員会議が終わりいつも通りの仕事をこなしていた。程なくして理事長室へ一人の男性教師が慌てて入ってきた。ルイスが学校のどこにも見当たらないということを伝えに。

一度も午前中に行われる魔法演習を休んだことがないルイスが来ていないので生徒に見てくるよう言ったその教師は、体調でも崩したか、と考えていた。しばらくすると見に行った生徒が小走りで戻ってきた。


「部屋にいませんでした」


え?と詳しく聞くと、部屋は綺麗に片付けられていたという。不審に思ったその教師はその場にいた生徒達に自主練しているよう言い、自らルイスの部屋へ行った。

生徒の言ったとおり部屋は綺麗にされていた。ベッドにはたたまれたパジャマに……制服があった。

その教師は召喚術も多少使える先生であった。彼は鼻の利く犬に似た召喚獣を一体呼び出し学校中を探させた。三十分も経たない内に召喚獣は彼の元へ戻ってきた。ルイスがどこにもいないという報告をしに。そして今に至る。


「どうしますか?」

「うぅむ。こんなことは私がここへ来て以来初めてだ」

「はい」

「……実は昨日彼から退学届けを渡されてね」


えっ、と驚きを隠せない。それもそのはず、この学校に入るということ自体が生徒にとって、またその家族にとって名誉であり、誇りにもなる。さらに学費は国内で一番安く、寮の費用と合わせてもかなり家計に優しい。就職先だって文句ない。そのアカデミーを自ら辞めるなどということ聞いた事がないのだ。少なくともここ数十年は。


「……雨が強くなってきたな」


イスから立ち上がり窓の外を見る。理事長、と教師が今後の処置を伺う。


「この雨の中悪いのだが付近を捜索してくれ。それと、彼のご両親に連絡を」


はい、と短く答えその教師は部屋を出て行った。

この事はお昼をまわらないうちに全生徒に知れわたった。皆思うことは色々。その中でかなり悔しがっている生徒が一名。ウェイダである。彼はクラス対抗で負けたまま。ルイスに勝ち逃げされた気分があるのだろう。一方女生徒はというと……。


「なんでよ!なんでルイス様が出て行っちゃったわけ!?」

「もう戻ってこないのかしら……」

「私まだ告白してないのに!」

「私も学校やめようかな」


等等。皆思い思いに嘆いていた。

いたって冷静な生徒が二人。ベルクスとテムイである。二人はお昼にもかかわらず図書室で黙々と勉強、ならぬ研究をしていた。ふとベルクスが口を開く。


「初めてお前に会ったときは病人かと思った」


突然の言葉に、は?と顔を上げるテムイ。


「白すぎ」


むっ、と顔をしかめたがすぐに反論に出た。


「お前はどこぞの中途半端な不良かと思ったぞ」

「はぁ?何で中途半端なんだよ!」


気にかかるのはそこだけか、と若干呆れてしまった。


「……ルイスは気の抜けた坊や、って感じだったな」

「そうか?俺はどこか自信もってて鼻に付く感じだったぜ」

「そう感じたのはお前ぐらいだろ。お前ら同類だし」


テムイがからかうように言った。どういう意味だよ、とベルクスは不機嫌に尋ねる。


「才能をもてあましてるって意味だ」

「お前だってそうだろ?」

「まぁたしかに。でも二人とは違う。二人とも別格だ」

「……」

「どうした?」


いつもなら、当たり前だ!などと自信満々に答えるのに返事が返ってこない。ベルクスは手元の分厚い本に目を落としている。


「別格はあいつだ」


短くそう言った。テムイはそれには答えなかった。

二人とも分かっていた。ルイスの並々ならぬ力を。普段は優等生を演じているがたまに三人で会うときになるとルイスの目は変わる。強い意志と自信を持っている目だ。


「なんで俺たちには本性みせたんだろな」


テムイがふと口にした。本性といっても何か恐ろしいことをやってみたり口走ったりしたわけではない。オーラが違うのだ。いつものスキだらけのルイスではなく、どっしりかまえた感じの、それでいて何かを追い求めている子どものような。


「類は友を呼ぶ、ってやつじゃねぇ?まぁあんなのと一緒になりたかねぇけど」


ニシシと笑って答えるベルクス。確かにそうかも、とテムイも笑った。




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