終**
「おいしい」
「そりゃどうもー」
ニコッと笑うウィルはオムライスを頬張るルイスにお酒も出してあげた。
「ガーバから聞いたよ。なんかスゴイ事になったんだって?」
グラスを拭きながら聞いたが、答えは返ってこなかった。代わりに質問が飛んできた。
「もしさ、ウィルの大事な人が死んで、僕には生き返らせる力があって、でもその力を使わなかったら……ウィルは僕を恨む?」
ルイスの黒い瞳が揺れる。ウィルはう〜ん、と少し考えてから「わかんない」と答えた。
そこへ変人こと“笑う門”の店長が、
「フライデー!」
などとハイテンションでやってきた。
「店長〜、今日は月曜ですよ〜」
「ぬはっ!そうかマイドゥター!」
「性別勝手に変えないで下さい〜」
あははー、と笑いあう情景はルイスの心を和ませる。
「おぉ、そこにオワスはマイサン?」
「いえ、ルイスです」
一応訂正したがルイスは店長からアツイ抱擁を受けた。ちなみにヒゲがすり付けられ、イラッとしたルイスは店長に軽く電流を流したのだった。
しばらく三人で談笑しているとカランと店のドアがなった。
「あ、最弱の召喚術師だぁ」
ウィルの出迎えの言葉にコメカミをピクつかせながらガーバは満面の笑みでルイスに駆け寄った。
「ル〜イ〜ッ」
「キモい」
さらっとした笑顔で釘をさし、ルイスは今日二度目の抱擁を阻止した。
ガーバも加わり賑やかになるといつの間にか店長は消え、それでも話は絶えなかった。ヤイゴの森であった事を話し始めたルイス。聞き入る二人。お酒もいい感じに入り、ウィルはちょっと前にルイスが神妙な面持ちで質問した事を引っ張りだした。それでも三人は、
「ルイス!俺はお前が好きだー!」
「あはは〜ガーバかなりキモいよ〜ルイスが可哀想……お前の顔並みに!」
「言えてる!」
と笑いあう。
今のルイスにとってこの上なく心地好い時間だった。
目が覚めると頭痛と吐き気に襲われた。
「飲み過ぎた……」
「大丈夫ですか?」
優しい声がルイスにかかる。
「フェイ……なんか、久しぶり」
フフッ、と笑う声。後ろからはハクセンの声も聞こえ、自然と顔がほころぶ。
「へぇ、あの綺麗な女の人が」
朝食兼昼食のフレンチトーストを食べながらルイスはフェイに“その後”の話を聞いていた。
伝説の召喚獣を求めていたハンディーラとビビハのもとに、イーラという美人が“伝説”として出向き、無益な事はやめなさい、と二国をおさめたらしい。ルイスにとっては割とどうでもいい話だった。
食事を終え、荷造りをして宿を出た。向かった先は笑う門。店に入るとウィルが開店前の掃除をしていた。
「お客さん、準備中の看板見なかったの?」
「ごめん、目が悪くて」
笑って答えるルイスの背にウィルは目を移す。
「昨日の今日で早くない?」
「また来るから……潰さないでいてよね」
了解。ウィルは笑顔のあとまた掃除を始め、短い挨拶が終わる。店を出ようとしたルイスが、あっ、と思い出す。
「ガーバにもついでによろしく」
「覚えてたらね〜」
潮風が懐かしい。ルイスは甲板で伸びをした。海を真っ直ぐ見つめ、その先には……
「家に入れてもらえるかな」
生れ故郷、オーヴァルガン。