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「そんなものですか……」


ルイスはザイドの言葉に落胆した。“賢者”について質問しても、


「そのうちわかるものだよ」


と言われてはそれ以上何も聞きようがない。一応食い下がったが彼が寝る直前に言った事以外は、本当に何も知らないようでもあった。


「ま、そんなガッカリしてもしょうがない!」

「そうですね。きっと今の自分には知る資格がないんでしょうし……精進します」


ルイスの言葉に少し感心しながら例の乗り物を操るザイドは、前方に何やら発見した。近づいていくと派手な音がして煙もあがってきている。恐らく飛ばされたうちの誰かだろう、と二人は急いだ。

しかし、着いた頃にはもう事が終わっていた。そして、


「すげぇ」

「さすがです」


と二人の言葉が重なった。


「おや」


ラリアは息一つ乱さず二人をむかえた。


「……何でしょう」

「ん?」

「ラリアさんのこの強さは、一体何なんですか……?」


信じられない、といった表情のルイス。


「かっかっ、ほれあれじゃ、年の功」


笑いながらまるで何事もなかったかのように答えられた。ここで簡単に流されてはいけない、と口を開く。


「杖に何か仕掛けでも?」


例えば、ものすごく肉体への負担を軽減するだとか。しかしラリアは首を横に振った。


「直魔ですか?」

「いんや」

じゃあ、とルイスが質問を続けようとしたが、


「わしの口から答えは出んよ」


今度は柔らかく笑った。

まあたしかに、そうホイホイと何でも教えてくれるわけがない……と自分を納得させたいがその辺はまだ子ども。


「お願いします。ヒントだけでも」


と本日二度目の食い下がり。


「それより早よ皆を探さんと。ソイツにはわしも乗れるのかい?」


結局何の情報ももらえず、三人は仲良く広く長い道を走りはじめた。すると、ものの十分もせずにもう一人と合流した。


「ラリア!」


そんな大声が出せたのか、と驚くほど、クラウ"ィスは彼女の名前を呼んだ。少し遠くてもわかる彼の顔の強ばりや不安。本当に心底心配したようだ。そしてそれは近づくにつれてとれていく。


「……よかった」


手を伸ばせば抱き締められる距離で、彼はいつものトーンを取り戻した。

一体何があったんだ、とラリアとルイスは目をパチクリさせた。何せあのクラウ"ィスのこの状態。ラリアも初めての事で少し間があったが、顔をほころばせて思い切り抱きしめてやった。


「なんじゃい、心配してくれたのかい?嬉しいね。あたしゃ今スゴく嬉しいよ!」


背中を大袈裟なぐらい叩く。


「……痛い」


そんな二人のやり取りを、ルイスは


−−親子ともまた違うけど、なんかいいな−−


と静かに見ていた。

これでようやく半分の四人が集まった。聞けば今までクラウ゛ィスはあのキーマンと一緒にいたらしいので、彼を先頭に皆再び動きだす。


ルイス達のグループとアーキル達のグループ。それぞれがファージルをがんばって探しているなか、とうの彼はすでにお目当ての石版の前にいたりする。どうやらこちらのモンスターは人間にしか反応しないらしい。


「名前……」


石版を前に彼は足を止めた。思いの外小さいそれに向かって彼は考える。たしか、自分の名前を彫るとか。名前を……。


「……書けない」


読み書きが出来なかったことをこれほど悔やむ時がくるとは。彼は肩を落としふて寝をしてやる、と体を横にしたのだった。




一方アーキル達は穏やかにこの異界をさ迷っていた。


「あぁもうマジめんどクセェ」

「私も飽きちゃったよー」

「大丈夫〜?疲れた?休もうか?」

「……」


ブツブツと文句を垂れるベルクスに欠伸をするエルラン。そんな彼女を心配して優しく頭を撫でているシュワルガ。アーキルはすでに遠い目をしていた。

まったくアテのない道を行くというのは無駄に体力、気力を奪う。一度キチンと整理しよう。アーキルはそう思い適当な所に腰を下ろした。他の三人も何の反対もせず座り込む。


「また面倒なの出っかな」

「その時はその時だ」


そう答えてアーキルは頭を上げる。

一面見事なまでの曇り空。光の一つも差していない。風も吹かなければ生き物の気配もなし。

頭を戻して周りを見渡す。こちらもまるで面白みの欠けらもなく、ただ荒地が広がっているだけだった。


――手詰まりもいいところだ。


段々苛立ちを覚えるアーキルだが、いかんいかん、と首を振る。


「つーか腹減ったなぁ」

「ねぇ」


ベルクスとエルランの可愛らしい腹の虫が鳴いている。


「えー。何コイツら、人間?」


腹の虫が機嫌よく鳴いていると、突然空から声がした。咄嗟に身構えた四人だったが、その声の主はいとも簡単にベルクスの目の前へ降り立った。


「ッッ!!?」

「うわ、やっぱ人間だ」


まるで害虫でも見つけたかのように眉間にシワを寄せた。

姿は人型だが両肘から角のように骨が出ていて、目玉が五つ。ベルクスの倍以上の長身が前かがみに四人を見やる。


「な、んだテメェ!?」


後ろに飛んだベルクスが声を上げる。


「あ?そりゃこっちのセリフだクソ共。一体何しに来た?」


眉を釣り上げ威圧的な態度で大きな口を開く。

今にも襲ってきそうな感じだが、どうやらその辺にいるただ強いだけのモンスターとは違うようだ。

アーキルは話をしてみようと試みた。


「ファージルって男の連れだ。石版に名前を彫るサポートを……」


ドガッッ!!

アーキルが話し終える前にモンスターは攻撃を仕掛けてきた。


「ケッケッ。テメェらが何だろうと関係ねぇ。なぁ、殺してやるよ」


至極楽しそうな顔を見せるソイツは両手を合わせ、すぐさま大きく開く。するとそこに高密度な電気の塊が出てきた。


「なッッ、逃げろ!」


アーキルの声に三人は一気に距離を取る。しかし、


「バカじゃねぇの?」


そう言って電気の塊をベルクスに向かって投げつけた。


「はっ……!」


早い、と思うと同時に何とか壁を作るベルクスだが、それは簡単に壊され彼の体は勢いよく後方へと飛ばされた。


「がっっ、ゲホッッ」


身体中から、そして口からも血を吐く。


「ベルクス!」

「そ、んな」


アーキルは杖を大きく振りかぶり、何か唱えて反撃する。モンスターはすかさずそれを避けるように体を引き、アーキルはその隙にベルクスの元へと走る。

エルランは一瞬の出来事にシュワルガの腕の中で震えていた。


「ケッケッ。弱ぇなぁ……なぁ、クソ共」


見下しながら笑う。下劣とはこの事だろう。このモンスターの態度にシュワルガは怒りを抑えずにはいられなかった。

彼の背後にはいつの間にかオセが召喚されていた。


「……殺っちゃって」


シュワルガの殺意が笑みとなる。



「ぁあ?人間のペットが、この俺にかなうとでも思ってるのか?」


呆れながらオセを見ると、片手を突き出しそこからいくつもの炎の玉を打ち出した。オセはそれを何事もないように避け、敵の喉元を狙って攻めるがなかなか近付けない。


「ホラホラ、上手く逃げないとよぉ」


くいっ、と指を動かせば炎の玉はそれに従ってオセへと進路をかえる。


「くっ」


間一髪で避けたが態勢を崩してしまった。


「ケケッ、お座りだ」


そう言って片手を落せば、オセの体は地面に叩きつけられたように潰れた。


「なっ」


シュワルガばかりか、他の三人もその光景に目を疑った。これほどいとも簡単にやられるとは。そして何より先程からのヤツの攻撃だ。人が使っている術のようだが明らかに何かが違う。そもそもこんな様々な、そして強力な力を持つモンスターなど聞いたことがない。


「お前は……何者だ」


アーキルは嫌な汗をかく。


「あぁ?そうだなぁ。メイドの土産に教えてやるか」


音もなく空中にその大きな体を浮かせる。


「おれぁな、神族様だよぉ」


神族?

四人はそれぞれがそれぞれの表情を浮かべた。驚き、恐れ、焦り。しかし唯一共通した思いが一つ。


――カナワない。


何がどうというワケではない。ただその単語を聞いただけで、彼らはまるで希望を失った。


「どうしたぁ?ビビったのか?まぁそうだろうなぁ。ククッ、なんたって神族様だからなぁ!」


両手を挙げれば地面が揺れて割れていく。

エルランはテテを召喚しシュワルガと空に逃げたが、先程のオセと同じ攻撃をくらい再び地上へと戻されてしまった。


「痛っい……」


二人とも顔を歪めている。


「さて、そろそろ終わりにしてやるか」


もう面倒くさい、といった表情で四人を見下す。両手を左右に大きく広げ、その先から光を出す。


「こんの……クソッタレが!」


ベルクスは最後の抵抗とばかりに持てる力全てでヤツを封じようと動いた。そんな彼をサポートしようと、アーキルとオセは少しでも時間を稼ぐ。アーキルが立て続けに強力な術を放てば、オセが悪魔達とともに接近戦へと挑む。


「ふん、虫けらが」


彼らの連携プレイに体を地面に落としたが、まるでダメージを受けていない様子の神族を名乗るモンスター。反撃とばかりにまずはオセと肉弾戦をし始めた。が、それはたった一発の拳に終わってしまった。


「ぐっ……」

「オセ!」


かなりのダメージを受け、すぐに立ち上がることが出来ない。


「さて、次は赤いの」

「終わりだ!」


モンスターが振り返るとベルクスは錬金術で強固な壁を作り出し、あっという間に閉じ込めてしまった。

一瞬、沈黙が流れたがすぐさまアーキルが口を開いた。


「離れるぞ」


四人は無言のままその場を離れようとしたが、少し足を進めれば後ろから壁が崩れる音がした。エルランは急いで人を運べる召喚獣を呼び出し、振り返る事なく逃げた。




「あ、やっと来た」


体を起こして伸びをすれば、そんな彼にルイスのステキな毒がかけられた。


「お荷物、って言葉、知ってます?」

「え?」

「知らないんですか?なら教えて上げますよ。とても簡単に言えば、あなたのような方をそう呼ぶんです」


いつもなら笑って毒づくルイスだが、今日はお疲れのようでまったくの無表情だ。そしてお荷物呼ばわりされたファージルは頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「ルイスよ、お荷物というより役たたずじゃないかのぉ」


なぜかラリアが便乗。魔術師とは失礼な輩らしい。そうファージルの脳内にインプットされた。


「というか、もしかしてそれが例の石版ですか?」


ルイスがファージルの後ろにちょこんとある石の板を指差せば、ファージルは首を縦に振った。


「じゃああとは名前を書くだけ!?」


ザイドの顔が明るくなる。


「そうなんだ。ただなんていうか、俺字が書けなくて」


ピキッ、という音がルイスから聞こえたのは空耳ではないだろう。クラヴィスは彼にキレられた時の事を思い出し身震いした。


「はは、ずいぶんと面白い事をぬかすんですね、ファージルさんは」


彼の目が笑っていないのは言うまでもない。


「いいですよ。僕が手とり足とり教えて差し上げますから。ただそうですね、まずはあなたのその頭の中がどうなっているのか知る必要がありますかね」

「え、な?!」


ルイスの右手がファージルの頭を掴む。どうやらカチ割りたいらしい。しかしもちろんそれはザイドに止められ、ついでながらラリアにも制された。そして彼の舌打ちが耳に入ったのはファージルだけであった。




「なんだ、案外簡単だな」


無事石版に名前を彫り、皆安堵の表情を浮かべる。これでやっと帰れる。バカみたいに強いモンスター達から解放される、と思った矢先、そう遠くない場所から爆音、そして僅かながら人の声が聞こえた。


「ベルクス……?!」


一番に走りだしたのはルイスだった。

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