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背中に乗って

「あぁーーチクショー!!!!」


そんな叫びとともに、ベルクスは周りのものを破壊しまくっていた。肩で息をしているのを見ると、相当暴れて随分と体力を消耗したようだ。


「はぁ、はぁ……クソ……な・ん・で、誰もいねーんだよ!?意味ワカんねぇし!!クソったれッッ!!!もう死ね!!!」


また一つ、大きな柱が壊された。そしてその端正な顔立ちからはおよそ想像もできないような暴言を吐きまくる。


「……これだからルイスのヤローはムカつくんだ」


あらかた周りのものを破壊しまくってから、そこにはいない友人に今置かれている状況の責任を擦り付ける。そうでもしないと気がおさまらないらしいが、よくよく記憶を手繰っていくと、こうなってしまったのはあの宙に浮いていた男だという事に気づいた。標的は変わった。


「あのバカみたいな男で新作錬金術の殺傷力を試す……」


そう定めると、彼は得意の錬金術で何やら高台を作り、さらに望遠鏡までこしらえた。


「まずは現状把握!迷子を探さねーと」


そんな事を言っている自分も迷子の一人であるとは露も思わない彼だが、この方法はすぐさま効果を発揮した。


「お!あれアーキルじゃねーかよ!それに、エルランもいるな」


少し遠いので、ベルクスはまた新たな錬金術を繰り出す。それは高台から彼らの方へと伸び、空中回廊となった。


「うっし!あ、向こうも気づいたな。体力が切れないうちにとっとと行かねーと!」





その頃地上のアーキルとエルランは素直に感心していた。


「すっごーい!さっすがザイドさんのお弟子さん!!」

「錬金術にあんな使い方があるとはな」


しかし二人の場所にたどり着くには少し時間がかかりそうなので、エルランは召喚獣のテテを呼び出した。


「いい案だな。ところで、定員は?」

「三人はギリギリセーフだよ!」


にっこり笑ってアーキルの手をとってあげた。人を殺すことを罪と思わないエルランだが、基本的には優しい子のようだ。といってもアーキルが知っているのはザイドを慕うかわいらし子でしかなく、とても人殺しのイメージなどは持っていない。


「ベールクスーー!!」

「うおぉ!?」


二人を乗せたドラゴンが突然飛び上がってきたので、ベルクスは危うく空中回廊から足を踏み外すところだった。


「あっぶねーな!何してやがんだよ!?」

「えー何で私が怒られるのーー!?」


ぎゃーぎゃーと言い合いをしながらも、三人仲良くテテの背中に乗り込む。定員ギリギリだけあって、肩がぶつかるが今は贅沢など言っていられない。


「エルラン、とにかくこの召喚獣に方向を示してくれ」


アーキルは二人のケンカを止めるでもなく話を進めようとする。


「テテだよ!名前でちゃんと呼んでーー」

「わかった、とにかくそうだな……こっちの方にでも行ってみるか」


本当に適当な方角を指差し、なんとか出発した。


「あーぁ、シュワルガ大丈夫かなぁ」


と、エルランが心配すれば


「テメェよか強ぇんだろうがアホ」


とベルクスが返す。もしここにシュワルガが居たなら即リンチだろう。


「……シュワルガに言ってやろ〜」

「なっ!おま、卑怯だぞ!!」


慌てるベルクス。エルランはプイと顔を背けた。そこにようやくアーキルが参入。


「随分と仲がいいんだな、二人は」


というのも、やはり彼も“狂気の笑み”として名が知られているシュワルガに興味があるのだ。


「え?シュワルガと〜??」

「ったりめーだろ。どう間違えて他のヤツになんだよ」


相変わらず悪態をつくベルクスだが、エルランはもう彼との言い合いは飽きたらしい。


「ああ。恋人同士なのか?」

「そうだよー!何か恥ずかしいな」

「キモッ」


バゴッ、という鈍い音が聞こえたがやはりアーキルは無視した。


「召喚術師として相当強いらしいな」

「うん!シュワルガが負けたところなんて見たことなーい!」


楽しそうに彼の話をするエルランはとてもかわいらしい。


「オセがすっごく強いんだよ!えっとねぇ、三つぐらいの悪魔の部下団体がいて、そういうの持ってるのってリャオの中でも少ないんだって!」

「リャオ?」

「うん、すっっごく強い召喚獣の事!」


シュワルガの自慢話に花が咲くと、なんともちょうどいいタイミングで噂の悪魔部下が空をバサバサと飛んでいるのを発見。向こうも気づき、その途端ものすごい勢いで近づいてきた。


「エルラン殿!ようやく見つけました!」

「団長の一人だー!会えてよかった!」

「はい、ところでお話している暇はありません!シュワルガ様がもう大変なことに……とにかく私のあとについて来てください!」


あまりに慌てている悪魔団長に、アーキルとベルクスはまさか万が一のことが、と心配したがエルランはまったくそんな様子ではなかった。その理由はほんの数分後に知ることとなる。






「ねぇ、まだなの?」


そう言って大量のモンスターの死骸に腰を下ろしているのはシュワルガだった。口元は笑っているが、血まみれな彼の笑顔には背筋が凍る。凍らせているのは、もう一人の悪魔団長。


「は、はい!今部下を総動員で探させています!!」

「見つからなきゃ意味はないんだよ〜?」

「シュ、シュワルッッ!!?」


彼の持っていた細長い剣が団長の片足を突き刺す。さらに突き刺さしたまま、右に左にと回し始めた。


「シュワルガ、様、もう少……し、お待ち……」

「いったいその言葉、さっきから何回言うわけ〜?」


叫び声をあげたい団長だが、うるさいと言われて倍返しがくる事を知っているから、ひたすら耐えていた。しかし、さすがの状況に団長の上司ともいうべきオセが間に入ってくれた。


「シュワルガ、いい加減落ち着け」


機嫌の悪い彼のために、わざわざモンスター達をここにおびき寄せ、さらに部下への虐待を阻止しなければならないオセはなかなか苦労性かもしれない。


「落ち着け?面白い事いうね〜オセは。エルランがどこでどうしてるかまったく分からないのに、一体どうやって落ち着けっていうわけ??」


今に始まったことではなく、毎度のことながらいい迷惑だ、とオセは首を横に振った。今彼が持っている剣など厄介で仕方がない。保持者の体を支配し、超がつくほどの剣術師にしてくれる呪いの類のもので、これを使う時は決まってまわりが血の海となる。

これ以上どうやって彼をなだめ様かとオセが悩み空を見上げると、一つの影を発見。シュワルガもそれに気づき、持っていた剣を手放した。


「シュワルガーー!」

「エルラン!?」


彼女を捕らえる時のシュワルガはいつだって機敏だ。

そして、全てを予想していたエルランはとにかく彼を落ち着かせようとテテから飛び降り、彼の腕のなかにおさまる。


「エルラン、大丈夫?怪我してない??変なことされてない???」


いつもの口調などどこかへいっているシュワルガ。


「大〜丈夫!アーキルさんとベルクスもいたし、シュワルガと違ってモンスターとも出会わなかったし……」


エルランは彼の後ろに山積みにされているモンスターを若干かわいそうに思った。そして剣で刺されているもう一人の団長を発見し、一瞬悲しい目をした。彼女にはその理由が分かったからかもしれない。


「本当に??大丈夫?むしろあの二人に変な……」

「ストーップ!落ち着けっての、いい大人が」


シュワルガのあまりの取り乱しように、地上へと落りてきたベルクスは困惑した。まぁ“大変な事”がこんなことでよかったとは思う。それより、周りの事など眼中にないシュワルガは、またエルランを強く抱きしめた。顔には少しばかり、いつものユルさが戻りつつある。


「よかった、よかった……よかった……」

「ってかアイツ、マジで大丈夫か?」

「それだけ大事なのだろう」


平然としているアーキルとは違い、ベルクスは完全に引いてしまっていた。無理もない。これだけ執着心の強い人間を見たことなどないし、モンスターの死骸だらけで本人も血まみれのこんな状況など、ここで何が起こっていたか想像するのも拒まれる。


「……“狂気の笑み”、ね」


ようやくその名の意味を理解したが、あまり歓迎されることではないのかもしれない。


「ね〜え、もう大丈夫だから!ね?落ち着こうね〜」


エルランが明るい声をかけ、頭をポンポンと叩いたり、背中をさする。しばらくはこのままか、とアーキルは考え、先ほど教えてもらって気になっていた召喚獣に話しかけ始めた。


「……オセというリャオは君か?」


悪魔などとはまったくレベルの違うオーラを放つこの豹。これほどの威圧感を持つ召喚獣とは久々にあう。


「……」


アーキルの問いかけに、オセはさも興味などなさそうに無視し、シュワルガの方へと近づいて姿を消した。そして他のものも続くように消えていった。

シュワルガは相変わらずで、ベルクスがちょっとここから離れよう、とアーキルを誘った。

エルランにも一応伝え、二人は死骸と血のない場所へと移った。


「っはぁぁーー気持ち悪かったぁぁ」


錬金術の疲れもあってか、ベルクスは階段のような場所で体を横にした。


「血生ぐせぇってんだよ……」


片腕で目を覆うが、まだ頭からあの光景が離れていない。


「戦場ではよくある。あれぐらいで根をあげていてはザイドの弟子は務まらないぞ」


アーキルの言葉にベルクスはせっかく休めた体をまた起こした。


「それ、どういう意味だよ?」

「そのままだ。ザイドは色んな所へ出向くだろう?」


そう問われ、ベルクスは今までの旅を振り返ってみた。

意味も分からず極寒の雪山を登ったり、小さな村のくだらない伝説に踊らされてジャングルの奥地へ入ったり、底などあるのかと思うほどの谷を三日以上かけて下ったり。戦場はまだないにしても、危うい場面に出会わされた事などあげていけばキリがない。


「……俺、アイツの弟子やめようかな……」


このままでは命の危険がある。大好きな錬金術を教えてもらえる事はたしかにありがたいが、死んでしまっては元も子もない。


「それはザイドが悲しむ。ようやく念願の弟子にめぐり会えたのだから」

「言い方がキモイ。っつーか、あんだけの腕がありゃー弟子なんていくらでも寄ってくるだろ?」


彼の教えを請いたい錬金術師がどれだけいるか、ベルクスは分かっている。


「才能があるだけじゃダメなんだ。ザイドには、ある種美学のようなものがあるからな」


何言ってやがる、とは言わなかった。むしろ、アーキルの言葉に今までうやむやだったものが晴れたような気さえした。

錬金術にはルールがある。それは力をつけただけ自分で作り出すことが可能で、例え似たような術を見ていても、術者が違えばその質はずっと変わってくる。どれだけ複雑で、高度なルールを作り出せるか、それが錬金術師のレベルを表しているのだ。もちろん、そのルールを見つけ、感じることが出来る人間は限られている。


「そうだ……そういや師匠の術、いつも綺麗だ、って感じてたんだっけ……って寒っっ!!!」


自分で言っておいて悪寒に震えるベルクス。


「なんだったか、以前雑誌にザイドのニックネームがつけられてたっけ……」

「ニッ、通り名ってことか?」

「あぁ。この前言ってたような気がするが……忘れた」

「中途半端!!すっげ中途半端だろーが!!!」


消化不良に苦しむベルクス。アーキルは飄々としている。


「そうだ、ペンネームなら覚えている。書店でよく見かけるからな」

「ペンネーム??なにアイツ、少女漫画でも描いてるのか??」


ププッ、と笑うベルクス。一応錬金の師としてはザイドを慕っている、はずだ。


「いや、それが案外普通に錬金の本を書いているらしい。手に取ったことがないからはっきりとは言えないが」


随分な言い方をされているザイド。今頃くしゃみをしている事は間違いないだろう。


「で、何て名前?」

「ライアンだったと思う」

「……ラ……はい!?」


驚きのベルクスはもう一度確認した。


「あの、ラ、ライアン?マジで??本当に?!」

「あぁ。最近はサボっているみたいだがな」


それを聞き、美青年の顔に輝きが広がる。


「うっそ、マジかよー!!?やっべ、ずっと失礼な事言ってた!どーしよーー?!」

「むしろどうした?」


先ほどは目を輝かせていたのに、いきなり両手で頭を抱えて叫ぶ起伏の激しさにアーキルは首をかしげた。


「俺マジで!マジでファンなんだよ!!ライアンは俺の目標!!」

「呼び捨てなところがひっかかるが、まぁいい事だな。目標があるのは」

「イリューマの店主はさ、『いつも完璧であれは芸術の域だと思ってる』っていうぐらい、あ、もちろん俺もこれには同感なわけで、ホントすごいんだ!!まぁ魔術師のアンタには分かんないかもしれないけど、とにかくライアンは……」


熱を持ってしゃべるベルクスだが、アーキルがそれに興味をもたず、聞き流している事実はこの時重要ではなかった。










ベルクスとおかんの会話

〜ライアンへの敬愛が生まれた瞬間〜



「えぇかベルクス、このライアンっちゅー男は世界一やで」

「世界一!?」

「せや。スーパーマンやアーサー王にも負けへん!」

「すっげーー!!ライアンすげーー!!」

「さらにすごい事があんねん……」

「さらに!?」

「聞いて驚くなや……なんとライアン、タコの踊り食いが出来んねん!!!」

「すっげーーーーーーーー!!!!!!!」




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