いざ行かん
「そうか。それは難儀だったな」
「それよかあんたここじゃ大分上のやつだろ?なんとかその三人探してくれないか?」
「まぁ出来ないこともないが、俺にも立場がある。本来人間は立ち入り禁止なんだ」
「そこをなんとか!!」
背の高い男に必死に何やら頼み込んでいる錬金術師のザイド。隣にはもちろん赤髪の魔術師、アーキルもいる。
「第一、お前らのいう“伝説の召喚獣”って何なんだ?」
男の質問に言葉を詰まらせるザイド。無理も無い。召喚術師でもなければ、半ば強制的にここへ送られただけの事なのだ。
「ファージル」
ザイドが答えを考えている時、一人の女の声がした。
「イーラ、ちょうどいいところに……」
三人の男の目は、綺麗な白い翼を持つイーラへと移った。
「あら、一体どうしたの?」
人間と一緒にいるファージルに聞けば、何やら昼ねをしていたらちょうど、無限ループを抜けられたこの人間二人に見つかり、話のわかるファージルに他の仲間とあわせて欲しい、と頼まれたのだそうだ。もちろん、“伝説の召喚獣”のこともしっかり頼まれている。
この状況をイーラは一瞬、面倒だと思ったが、これから起こるだろう事を想像してみて興味がそそられたのか、彼らの要望を受け入れたのだった。
「私が他の仲間を洞窟まで案内するわ。またね」
「ありがとうございます!」
「礼を言う」
「イーラ……さすがにこの人数はちょっと……」
アルティラの前には計八人の人間がたっていた。それも所々見知っているようで、軽く世間話という名の花が咲いている。
「なーんでこんなとこまで来てテメェの顔見なきゃならないんだ?」
「こっちのセリフだし。っていうかよく死ななかったね」
久々の再会をはたしているベルクスとルイス。彼らにとって普通の挨拶がかわされる。
「ザイドさーん!」
「よかった。無事だったんですね〜」
「おぉ!エルランにシュワルガ!お前らも無事でよかったぁ」
軽く抱きしめあって再会の喜びを分かち合う三人。アーキルは含まれないようだ。
「これはこれは、随分とにぎやかになったのぉ」
ラリアは微笑んでいるが、相変わらずクラヴィスは無表情だ。
「ねぇイーラさん、さすがにさ、多いから。普通に多すぎ。遊びやお祭りなんかと勘違いされているのでしょうか?」
「アルティラ様、楽しいことはお嫌いでしょうか?」
イーラの絶対的な笑顔が、アルティラの弱い心を簡単にくじいた。
そんな彼女に気づかれないようため息を吐き、とにかく物事を整理しようと、アルティラはみんなを見下ろすように軽く宙に浮いた。
「え?」
「おぉ!」
「魔術師だったの??」
八人がみな様々な声をあげる。
「いいですかぁ、お集まりの皆さん!もう面倒なので話をさっさと進めてしまいまぁす!今回のミッションはファージルが大人になるための試練のサポートです!試練の内容とは、ちょっとこことは違う世界へ行ってもらい、石版に名前を彫る、という簡単明瞭な事ですが、向こう側にはちょっと強い敵さんがいっぱいいます。ファージルが無事名前を彫れるよう、皆さん命をはって彼に協力してくださー……っい!!!」
言い終わると同時に、アルティラは何の力を使ったのか、みんなを洞窟の中へ押しやった。彼の整理整頓術はなかなか豪快だ。そしてみんなの声、ならぬ悲鳴は見事に洞窟の中へと吸い込まれたのであった。
「ふぅ、よっし!」
「どの辺がよろしいのか疑問が残りますが……」
まぁ楽しそうなので、と微笑む彼女はやはり綺麗だった。
『こちらの神族は入れない』
ルイスはその言葉で目を覚ました。体に痛みはなく、上体だけ起こして周りを見渡す。
「……なるほど、これが異界」
廃墟の世界、というのが一番あっているかもしれない。広がる地平線にあるのは、草でもなければ森でもない。破壊された建物が色あせるほど、何百年と放置された感じの茶色い世界だった。風一つ吹かないのはさすがに気味が悪い。だが、
「……囲まれてる」
姿は見えないが、確実に殺気を感じた。それも二つ三つの話ではない。
ルイスは静かに術を唱えた。強い術を使う場合はそれなりに時間がかかる。モンスターが先に食いかかってくるか、自分が唱え終えるのが先か、緊張から汗をにじませた。
先に出たのは……モンスターの方だった。姿はただの大きな狼。だが、そこから発せられるものは尋常ではなく、八方から一気に飛びかかられた。
「……ッッヴィ・イレクティ!!」
モンスターがあと一歩、いや半歩で獲物を捕らえようとした時、激しい稲妻が彼らをうった。
野太く苦しげな鳴き声が聞こえたように思えたが、それすら稲妻は消し去った。轟音のあとに残ったのはルイスのみ。
「強っ……」
ほぼ灰と化したモンスターの事を言ったのか、はたまた自分の事なのかは分からないが、ともかく第一波は忍んだ。
そして、当てにもしてなさそうに名前を呼ぶ。
「……フェイ」
何の反応も返ってこない。静か過ぎて耳鳴りがするぐらいだ。
そこでようやく腰をあげ、ぐるりとその場で回転した。特に変わったものがないことを確認。行き先を迷うことこの上なかった。
「……ベルクスといるとロクな事がない」
不機嫌そうにそう呟くが、もちろん彼に責任など一切ない。
兎にも角にも、ルイスは適当に歩き出した。じっとしていても始まらない。
しかし、行けども行けども同じ風景が広がるばかりだった。まさかまた無限ループの類か?と考え始めた頃、ルイスはあの事を思い出してしまった。
「水晶……」
自分の胸元を見るが、今まであったはずのものはなかった。長時間歩いた疲れもあったせいか、彼はその場に力なく座り込んだ。
どこででも手に入る水晶を失い、なぜ彼がこれほど落ち込んでいるかと言えば、答えは意外なものかもしれない。
「…………マナ……」
今ではとても遠くにある国の姫の名前を呟く。実はあの水晶は、ルイスがその知力・魔力、そして技術を駆使して作った一品ものの通信機だったのだ。
ちゃんとした別れを告げずに彼女のもとをさった彼は、そのあと二年間連絡をとらなかった。とれなかった、という方が正しいかもしれない。心理的に、時には物理的に。だがやはり想い人の声を、その姿を見たいと望み始めた彼は、一年という歳月をかけ、彼女との専用の通信システムを作り上げたのだ。
「そう言えばあのモンスター、まだ息の根止めてなかった……」
低い声と若干の笑いを含めてルイスはまた呟く。邪悪なオーラを放っていること間違いなしだ。そして思考はまた水晶へと戻る。
「一年……いや、今の僕なら半年で作れるかな……っていうか半年も連絡とれないとかあり得ないアリエない」
一人ぼっちで、しかも諦めた笑みを浮かべながら首を横に振り、ブツブツと呟いている彼はちょっと怖い。するとそこに、
「あれ?ルイス君??」
顔をあげれば錬金術師のザイドが見たこともない乗り物にのっていた。
「ザイド、さん?」
実はちゃんとした挨拶をした事のなかった二人。妙なタイミングでの出会いはやはりぎこちなく、異界での自己紹介が始まった。
「初めまして。一応ベルクスの友だと思います、ルイスです。いつも彼がお世話になってます」
お辞儀もばっちりだ。
「こちらこそ初めまして!ベルクスのおそらく師をやってます、ザイドです。いつも彼がご迷惑をかけてます」
こちらも頭をさげる。自己紹介の中心にベルクスがいるのはあまり気にしない方向のようだ。
「ところで、それは何ですか?」
挨拶も早々に、ルイスは見たこともない乗り物を指差した。ザイドが直立で乗っているそれは随分と簡素で地面から少し浮いていた。Uの字型の、船でいう舵のようなものがついていて、それを支えているのはちょうど一人分のスペースしかない薄い鉄から伸びている細い棒だ。
「あぁこれ?移動に結構役立つんだよ。あんまり早さは出ないけど」
「もしかして、錬金術で作ったんですか?」
これぐらいなら、とザイドは軽く笑ったが、ルイスにはわかっていた。以前ベルクスが戦車を作ったとき、まったく動かないことを指摘したのだが、どうやらそれはあまりに複雑でそれこそ超がつくトップクラスでないと作り出せないというのだ。機械的なものを作り出すのと、一般的な錬金術での攻撃をくり出すのとは大分違うらしい。
「取りあえず乗る?早くみんなと合流してここから出たいし」
そう言うと一人分のスペースしかなかった“床”がグググッと広がりあっという間にもう一人入れるようになった。
「す、すごいですね」
「そうでもないよー。燃費悪くてさ、ドラ○エの毒みたいに少しずつ体力消費しちゃうんだよ」
はははぁ〜、などとのん気に笑っているザイド。しかしルイスはド○クエなるものを知らなかった。
「え!?マジで知らないの??それは人生損してるって!!」
その後、宙に浮く乗り物で移動しながら、ドラク○というものがどれほど素晴らしいものなのか延々と語られたのだった。