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片目の無音

あなた方が助かるというのなら



あなた方が幸せだというのなら



俺は簡単に手放せる。




どうせ肉体なんて この世での入れ物にすぎないと


俺は知っているから。












「ほれ、さっさと登ってこんかいもやしっ子!!」


その容姿からはまったくをもって考えられないほど元気な老婆がクラヴィスの前を歩いている。クラヴィスは老婆に気付かれぬよう小さくため息をついたが、それは容易に知られた。


「こんのガキんちょが!!年配者に向ってため息をはくたぁどういう事じゃ!!」

「……」


クラヴィスは老婆の小言など無視をして、そのまさしくもやしっ子の名にふさわしい体をゆっくりと動かしていく。老婆はまったく自分の声に耳を貸さないクラヴィスの耳をひっぱってやろうと、自分より少し下にいる彼の元へ戻ろうと少し急な斜面を降ろうとした。が、足を踏み外し老婆の体が宙に浮かんだ。


「うあっ!!」


思い切り目を瞑った老婆だったが、次に訪れるはずの体の痛みがないので恐る恐る目をあける。


「……年なんだから、無理するな」


どうやらクラヴィスがそのもやしの体をもって老婆を助けたようだ。


「お前が話を聞かないのが悪かろう!!」

「……」


クラヴィスはその老婆の声にも特に答えを返さず、彼女の体をきちんと地面におろして先に進んだ。


「こらクラヴィス!まったくお前は、もう少し言葉を勉強せんかい!」

「……ラリアは数字を勉強したほうがいいかもな」

「何じゃと?それは何か、わしの年の事を言っておるのか?そうなのかクラヴィス!?」


後ろでギャーギャー元気のいいラリアを無視してクラヴィスはまた進んだ。




クラヴィスにとってラリアは大切な人だ。ちょうど3年ほど前に行き倒れになっていたところを拾ってもらい、看病までしてもらった。

クラヴィスにとってラリアは母親のような人だ。といっても、彼は母親というものがどんなものか知らないから「ような人」でしかない。しかし彼にとって大切な人に変わりはない。

ラリアは魔術師だ。そっち方面ではそれなりに名は知られているらしい。しかしそんな事は彼にとってはどうでもいい事だ。ラリアが彼にとって、母親のような人に変わりはないのだから。


ラリアは数年前に男の子を拾った。痩せていてもう死んでいるのかと思って近づいてみれば、その子は虫の息をしていた。

ラリアはそこからさかのぼる事数年、夫を亡くしていた。更に言えば、夫を亡くす数年前に、生まれて一年も生きられなかった自分の息子がいた。

クラヴィスという名の虫の息だった男の子は召喚術師だった。片目を失っているその男の子をラリアはとても、愛おしく思った。





夜になり、ヤイゴの森は不気味なほど静かだった。

二人がこの森に来て早1週間、「伝説の召喚獣確保」というクラヴィスなど召喚術師にとってはバカげ過ぎている下らぬ事に参加してしまったのは、目の前でスヤスヤと眠っているラリアのためだった。しかしクラヴィスには腑に落ちない点があった。

いつもならクラヴィスの言葉に耳を傾けるラリアが、なぜか今回に限って貸さず、ほとんど無理やりの強制参加なのか。いや、ラリアは気が強いからそんな事は毎度の事だが、今回ばかりは二人の命と深く関わってくる。普段ならこんな厄介事には絶対必ずといっていいほど避けるラリアがなぜ。

そんな事を考えていると、偵察にいかせていたビフロンスの使い魔が戻ってきた。


「ハンディーラの赤髪の魔術師アーキルは、“狂気の笑み”と共にこの森に入りました。他にも“錬金の父”、女の召喚術師、男の錬金術師も一緒です」


クラヴィスは手を軽く振り、ビフロンスの使い魔はまた仕事へと戻った。


「……(ずいぶんと大勢できたな。しかも“狂気の笑み”だけでなく“錬金の父”まで)」


クラヴィスはラリアを見た。顔にはしわがあり、手もヨボヨボ。背が少しばかり丸まっている自分の大切な人。


「……ビフロンス」


左手にはめてあった召喚術師なら誰でも持つ手袋から光が放たれ、クラヴィスの前に一体の召喚獣が現れた。その姿は魔物、というのがしっくりくる黒くとても大きなものだが、とても人間に近い感じもした。肌が白い分、赤い目と唇が際立っている。


「今度はなんだ……」


すでに自分の使い魔を数匹貸しているビフロンスは面倒くさそうに口を開いた。その声は死人のようなかすれたものだった。


「探してほしい人間がいる。補足としてはその人物が仲間になるよう誘導もしてほしい」


普段無口なクラヴィスから多くの言葉が出てきた事にビフロンスは少しばかり驚いた風にみせた。


「くっくっ。何を焦っている?この私を配下においているお前に、恐れるものがあるというのか?」

「……記憶によると“狂気の笑み”はあの“オセ”を持ってるみたいだな」


なに、とビフロンスの眉がややあがった。オセといえば自分と同じリャオと呼ばれる者で、3つの悪魔軍団を従えているかなりのものだ。


「ふん、面白い。アイツは前々から気に入らなかった。この際消してしまうか」

「……で、探してほしいのはルイスって魔術師だ。3日以内に。ついでに付属品もある。それも一緒で構わない」

「くくっ。よく喋るな。そんなにこのババァが大事か?」


ビフロンスはそのゾッとするような姿をクラヴィスに近づけてかすかに笑った。





「なぁ、“片目の無音”さん……?」













お前の右目をよこせと言われた。


そうしたら、家族を助けてやると。





俺がためらう理由など






万に一つもありはしない。




お読み頂きありがとうございます!

そして前回の無礼千万を謝罪したく、あとがきで言い訳を!!!


「なんとなく、なんてホント失礼だよ君」

「ホンマすいません。でも怖かったんです。公言するのが……」


こんなとこまで読んでいただいたのに結果こんなちゃちいものでごめんなさい。


次は明るい話題を発信します!!




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