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ヒーローさん

「そう!黒い髪の魔術師!知らない??」


エメラルド色の髪をした少女がカウンター越しに聞いているのは、数年前に自分をコケにした魔術師の事だった。彼女の隣には恋人というか保護者というか、同じ召喚術師のシュワルガがのほほんとお酒を飲んでいた。


「黒い髪ってだけじゃなぁ。他に何か特徴はないのかい?」

「えぇっと……」

「エ〜ルラン、そろそろ行こう?」


シュワルガは席を立ちかわいいエメラルド色の髪をなでた。


「ちょっと待って!まだ何にも……」

「そろそろ公園に動物サーカス団が来るよ〜?」


シュワルガのその言葉を聞きエルランは目を輝かせてすぐさま店を出た。


「早くシュワルガ!一番前でみんなを見たいんだから!」

「わかったわかった。そんなに引っ張らなくても大丈夫だって〜」


背が高いシュワルガは腰を屈める姿勢で人ごみの中をエルランに引っ張られていた。

二人が着いた時にはもう子ども達がサーカス団を囲っている状態だった。


「あー!……見れるかなぁ。昨日より増えてるよ〜」


エルランの困った顔はもちろんシュワルガの頬を緩めるには十分なものだった。


「大丈夫、前の子達はしゃがまなきゃいけないからこの位置はちょうどいいよ」


それを聞きエルランは安心してサーカス団のほうに目を向けた。

シュワルガの言うとおり前にいる子ども達はしゃがむように言われてちょうどエルラン達は立って見れるようになった。人垣の中心には動物達が綺麗な衣装に身を包み、まるで人間のようにたって歩いたり頭を傾げたりとなんともかわいらしいしぐさをしている。


「かっわいいなぁ。やっぱり私も欲しいなぁ」


エルランが言っているのは召喚術の力の一つでペランタ。普通の動物を召喚獣として扱う事である。しかし今の彼女にペランタが出来るだけの力は備わっていない。一方のシュワルガはペランタを習得しているがオセという召喚獣で十分とふんでいるのでそんな面倒なことはしていないのだ。


「ペランタは相当勉強して修行つまないといけないからねぇ」

「シュワルガに出来て私に出来ないなんてイヤ!教えて!!」


二人が話をしている間にサーカスショーは終わって観客はパラパラと去っていった。もう日が傾き始めていたので二人は宿へと戻ろうとしたがその帰り道、二人にとって驚きの人物がその目に入った。それは彼らにとって唯一の人物。二人が幼い頃に出会った、希望の人。


「……ザ、イドさん……??」


口にしたのはシュワルガのほうだった。

ザイドと呼ばれた青年は振り返り二人を見た。


「……あ、え〜っと……?」

「テメェ知り合い忘れるかぁ?」


そう言ったのはザイドの隣を歩いていた金髪の青年だった。ザイドよりも背が高く、何より美青年、という言葉が似合う青年だ。


「って何だその口の利き方は!いっつも言ってるだ……」

「あ〜はいはい。どうもすんませんでしたぁ〜」

「ベルクス!お前はなんだっていっつもいっつも!」

「だぁ!それよりこの人たち、あんたに用があるっぽいけど?」


ベルクスと呼ばれた美青年はシュワルガとエルランを指さして面倒くさそうにザイドを促した。

はっ、としてザイドは再び二人を見た。


「ザイドさん!ですよね!?」


エルランが思わず身を乗り出し目を輝かせて質問した。ザイドは困ったように肯定すると、エルランはいきなり抱きついたのだ。


「え!?な、え、えぇ!??」

「よかったなぁ、師匠にも春が来て」


金髪美青年ベルクスはからかうように師匠と呼んだザイドを笑うと、ザイドは顔を真っ赤にして手をバタバタさせた。


「ザイドさん……」


すっかり棒立ちになっていたシュワルガも一歩、ザイドに近づく。


「あ、あの。すごく言いづらいんだけど俺、君たちの事……」

「エルラン!」


え?、とザイドは自分にまだ抱きついている少女を見下ろした。どこかで聞いた事のある名前。ザイドはエルランをじっと見た。


「見つめすぎだろ。キモイぞ年齢詐欺師」

「ベルクス……お前いいかげんに……」

「つもる話もあるだろうから俺は向こうの店にいるぜ?」


ザイドの了承を得る前にベルクスはさっさと錬金術の店へと行ってしまった。


「ザイドさん、私はエルラン。こっちはシュワルガ」


エルランはシュワルガを指さした。

やはり、どこかで聞いた事がある。ザイドは二人を交互に見た。


「……何年か前に、大人からリンチを受けてた子どもを救いませんでしたか?」


シュワルガがまた一歩、ザイドに近づいた。




「そうか、あの時の……」


先程会った所からさほど離れていない喫茶店に三人はいた。どうやらザイドは二人の話を聞いて思い出したようだ。


「なんて、お礼を言ったらいいか……」

「そんな!たまたま俺があそこを通っただけの事だ」


ザイドは思い出していた。あの悲惨としか言いようのない光景を。

無力な子どもをまるでおもちゃか何かの様にいたぶってとても楽しそうにしていた醜い大人達。ザイドは吐き気を覚えた。


「まさかまた会えるなんて思ってなかった!本当にありがとう。ザイドさん」


エルランは少し涙目になっている。シュワルガも、俯いたままでいる。


「……よし!お前ら腹減ってないか??特別におごってやる!」


ザイドの明るい声に二人は顔をあげ、笑顔を広げた。




「本当にこの宿か?」

「あぁそうだよ。俺だって召喚術師の端くれ。“狂気の笑み”の事ぐらい少しは知ってる」


それを聞きアーキルは男と別れた。

彼はハンディーラの国中を探していた。腕のたつ召喚術師を。そしたら運よくなんとあの“狂気の笑み”がこの国にいるらしい情報を掴んだのだ。最初はガセかと思ったがどうやら本当のようだ。現にその男が泊まっているであろう宿までたどり着いた。


「……うまく運びすぎだな」


一人呟きながらアーキルはその宿のある町へと早足で向った。


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