クラス対抗魔術戦・A3
先頭に立つ二人が同時に術を唱え始めている。強い魔法ほど唱える時間が長くなる。ルイスとウェイダは早くも次の攻撃で終わらせようとしているのが、その場にいる全員に見て取れる。
二人の周りに風が起こる。ルイスは艶のある黒髪をなびかせている。
ハルズとオイランは魔力の大きさを見極め、それに合わせた防御術を唱え始めた。他の選手も補佐として、強くはない術を唱え始めた。
「全選手が術を唱え始めました!今度の激突は先ほどのものとは比べ物にならないのではないでしょうか!?」
「そうですね。少し離れているここにまで緊張が伝わってきますからね」
「さぁ緊張の一瞬です!皆さん目の渇きには気をつけてください!!」
「「ブレイズ」」
先ほどのよりランクの高い魔法を二人は放った。巨大で勢いのある炎がぶつかり合う。みなその威力におもわず後ずさった。
「くそっ、ジョシュア!防御にまわれ!」
「はい!」
同じようにルービも二人がかりで防御にまわっている。それによって両チームなんとか爆風によるダメージをかわした。
「ちっ、相殺か……」
「そうですね。ですけどもう終わりです」
なにっ、とウェイダが爆風による砂塵のなか目を凝らしてルイスの方を見る。するとルイスがすでに次の術を唱えていた。
「そんなっっ」
「ブロウ!」
ウェイダは先ほどの魔力の消耗でとても術を唱えられる状態ではない。それはどの選手も一緒であった。
ルイスの放った風がルービのリーダーの方へ走る。そして首にかけてあった赤いビー玉の糸が切れ、エメランドの方へと投げ出され、それはルイスの足元へと転がってきたのだった。
会場は一瞬静けさに包まれた。そしてすぐに歓喜がそれを破ったのだった。
「なぁんとエメランド三連覇です!素晴らしい!」
「見事。スタミナでルイスの方が勝ちましたね」
「唯一の四年生参加であるにもかかわらずルイス選手健闘です!」
周りの騒がしさとはまったく逆に、ウェイダは放心状態であった。ウェイダは六年生。自尊心の強い男である。そんな彼が二つも下の、ウェイダに言わせてみればたかが子どもに負けたのである。その目はだんだんと怒気を含んでいった。
ルイス達はビー玉を手に取り輪になって喜んでいる。視線を感じ、ルイスが振り返るとそこには後姿のウェイダがいた。それに続いて他のルービの選手がグラウンドから去っていった。
ルイス達が選手控え室から制服姿で出ていくと、あっという間に応援していた生徒達に囲まれた。それぞれが賛辞の言葉を次から次へとルイス達に投げかける。
「なぁんか英雄って感じ?」
ガートンが相変わらずの気の抜けた声で笑いながら感想を言った。
「それはあんたじゃなくてルイスでしょ!」
「違いますよ。みなさんの協力があっての勝利です」
やわらかく笑って答えたルイス。するとその笑顔に反応するように女生徒の高い声が響く。
「ふぅ」
ルイスは闘技場から程近い海の見える空き教室にいた。机に腰をかけ、窓から見える青く透き通った海をボーっと眺めている。
「こんな所にいたのかよ」
振り向くとベルクスが立っていた。
「食堂じゃ優勝祝いで真っ昼間からどんちゃん騒ぎだぜ、お前はいかないのか?」
そう言いながらルイスの隣に腰をかけた。
「うん」
「女子の連中さぞかし肩落としてんだろうな」
ニシシ、と笑うベルクス。ルイスも適当に合わせるように笑い、また海の方を眺めだした。
「なんだよ、優勝したってのに嬉しそうじゃねぇな……?」
「……別に、そういうわけじゃないよ」
「まぁお前にしてみればあんなの準備運動にもなってないんだろ?」
「そうは言ってない」
「顔にでてんだよ。あーあ、性格悪いよな〜」
今度は意地悪く笑うベルクス。ルイスは軽くため息をついた。何かにつけてルイスの株を下げたがるベルクスはかなり子どもっぽい。それでも錬金術に関しては人並みはずれた才能をもっていた。色々なところから取材がくるがベルクスは全部「めんどくさい」と言って追い払っている。
「来年の錬金術大会にはお前もでろよ。そしたら俺がお前の鼻へし折ってやる」
錬金術大会はオーヴァルガン中から人が集まって競い合う。今回のクラス対抗魔術戦とは規模もレベルも違う。
「遠慮しとくよ。っていうか第一僕は魔術師だから」
「はぁ?もう魔術師って名乗ってるワケ?あーあー天狗がいるぜ、皆さ〜んここに珍獣天狗がいますよ〜」
ベルクスは片手を口に添えて海に向って無駄に語りかけたのだった。その様子をルイスは苦笑いで見ていた。たしかに、まだ学生の身でありながら堂々と“魔術師”というのは天狗なのかもしれないな、と。
「あっ、そうだ」
「あ?」
ルイスの声にベルクスが振り向く。そこには含みのある笑顔があった。
「錬金術大会には出ないけど、もっとおもしろいのに参加しようと思ってるんだ」
なんだよ、とベルクスが聞くと、その時になったら‘手紙’で教えるよ、と謎めいたことを言うルイス。
深くはつっこまず、あっそう、とベルクスは軽く流した。
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