ガーバ
ルイスは隠すことなく率直に聞いた。
「ガーバ、君僕より先にあのモンスターに気付いて召喚獣潜ませてたでしょ?なのに僕を試すような事して、一体何のつもり?」
ルイスが詰め寄るとガーバは後ずさった。表情を少し引きつかせながら。
「ちょ、待て!何か誤解してる!確かに俺は召喚獣出してるけどな、あれは別にそういう意味じゃない」
「じゃどういう意味?」
ガーバは諦めたように肩を落とし、彼の召喚獣であろう名前を呼ぶ。
「イニ、出て来い」
彼の声に反応して、高い木の上から一匹の白い動物が降りてきた。
「これが君の召喚獣?」
ぱっと見はイタチのようだ。しっぽの先だけが黒くなっていて他は真っ白である。さして大きすぎず、とても攻撃型、もしくは防御型の召喚獣とは思えない。
「そ、オコジョってイタチ科の動物なわけなんだけど、まぁその辺は俺の召喚術師としての腕で見事に立派に役立つ召喚獣になってるわけだ」
ガーバは無駄に胸を張って自慢げにイニと呼んだ召喚獣をルイスに見せ付ける。
「……本当に役に立つの?」
ルイスは半信半疑であった。そもそも魔術以外全くといっていいほど才能も興味もないルイスには、本でさらっと読んだだけの召喚術の知識しかないのだから。
「いいかルイス君。召喚獣というのは三種類ある」
ガーバはこれまた無駄にえらそうに説明を始めた。
「まずは精霊などすでにこちらからの視点で召喚獣としているもの。これらは召喚術師のレベルにあわせてこっちにでてくる。次に個々として存在しているかなりハイレベルな召喚獣。実はこういったやつ等は召喚獣、とではなくリャオと呼んでいる」
「リャオ?」
こんな単語は聞いた事がない、とルイスは食いついた。一応興味は持ったようだ。
「そ。まぁこの単語に行き着く召喚術師は全体の4割ぐらいかな。ほかの6割は俺らに言わせりゃ一般市民とあんま変わらん」
「へぇ」
似たような事は魔術の道にもある。例えば直魔である。これは直接術者の体に魔術をかけるというもので、呪いなどとはまったくの別物である。
「リャオの天辺にいるのがこのヤイゴの森にいるっていう伝説の召喚獣。ま、その話は置いといて、最後の一つがこのイニみたいなのだ」
ルイスは今までのガーバの言葉をもう一度頭の中で処理していった。
「つまり、普通の動物を召喚獣として使うってこと?」
「わお、ルイス君大正解!」
ガーバは正解したルイスに無駄に賛辞を送った。まったくもって今さらなのだが、ルイスはこのガーバという自分と同い年の召喚術師はなんにしても無駄が多いのだと知った。
「で、そういうことを出来る召喚術師って全体の何割?」
「1.5割」
ガーバは不適に笑った。獲物を捕らえた、という感じの顔だ。捕らえられたのはもちろん、ルイス。
「なるほど、すごい口説き文句だね」
ルイスもまた、笑った。このガーバという青年は自分の予想以上に腕がたつ。一緒にいてプラスになるかどうかは置いといて、決してマイナスにはならない。それに、別に召喚術をつかいたいとは思っていないがやはり知っておいて損にはならないだろう、とルイスは考えている。
「どう?おもしろそうだろ?俺って意外とすごいだろ?」
ガーバは子どものように目を輝かせていた。その様子を見てルイスははっとした。
―そうか、この人は……。
この日は結局伝説の召喚獣探しはせず、二人なかよくヤイゴの森を去った。そして行く先はもちろんあの笑う門である。
ウィルは磨いていたグラスを危うく落とすところだった。なぜなら、あのルイスがあのガーバと一緒に仲良く(?)店に入ってきたからだ。
「ウィル、いつものお願い」
「俺にもなぁ!」
ガーバはご機嫌だった。ウィルは注文を受け厨房へと入って取りあえず調理をしながらよくよく考えてみた。
(―考えられる可能性としては……1、ルイスが弱みを握られた。いやぁこれはないなぁ。2、ルイスが改心した。これもないな。じゃぁ3?ルイスが何かに釣られた。うぅん、確立低いなぁ)
そうこうしている内にルイスのオムライスと、ガーバのぺペロンチーノが完成した。
「はい、お待たせぇ」
「センキュー!」
「ありがとう」
二人は出された料理を直ぐに食べ始めた。
「で、これはどういう事?」
考えたって他人の事なんて分かるわけがない。そう結論付けたウィルはそのままストレートに聞いた。