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新緑の美しい森。豊かな土壌。光の川。


―何という懐かしさ……。

―何という、危うさ……。


ここが私の居場所。ヤイゴの森。まさかこんなにも早く、行き着くことが出来るとは……。

彼、ルイスがこの森に来て早5ヶ月。ほぼ毎日通っている。それはつまり、私は毎日本来居るべき場所、古巣に来ているという事。

知っていた。彼がここまでたどり着ける事など。しかし私はそんな事、さして意味のないものと考えていた。私が知っているのはただの“記憶”であって、それが全て。色あせる事を知らない、色あせた全て。


彼は見つけるだろう。私達の“記憶”を。あと数ヶ月。きっとあの方にも会う。あの方にも……。

彼はどうするだろう。何千年も昔の“記憶”と出会い、あの方と時を交わしたのなら、一体彼はどうするのだろう。


私は彼と一生を共にする。彼が死ねば私も消える。消えたのなら、私はここに帰ってこれるのだろうか。否。そんなことは解りきった事。


ああ。また、また思考が宙を迷っている。なぜ……。早く、ハクセン様のもとへ。






ハクセンはヤイゴの森にある静かな水辺でゆったりとくつろいでいた。ここに来たのは何年ぶりだろう、などと少し懐かしい思い出を引っ張り出しながら大きな欠伸をした。するとそこにルイスについている神族のフェイがやってきた。


「ハクセン様」

「どうした?」


相変わらずの柔らかい声だな、と思ったがいつもと違うのは少しばかり張りがあったせいだろう。


「……」


呼んだにもかかわらず続きが出てこないフェイを不思議に思ったが、だいたいの理由はハクセンにはわかっていた。


「……やはり、懐かしく思うのか?」

「え?」


フェイの声に戸惑いの色が少し。


「ここはおぬしにとっての故郷。おぬしらは“記憶”というものを持っているそうだが……?」


ハクセンは目を瞑り体を完全に横にしてリラックス状態にした。


「はい。誕生したその時から、私達はそれを持っています。しかし全てではなく、必要なものが全てです」

「ふむ」


ハクセンの知っている神族の知識としては、数千年前にここ、ヤイゴの森を中心に人間や獣族、精霊などといった様々なこの世界の住人とうまく調和を保って生きていた。しかし、その種族たちは互いに争うようになり完全なる弱肉強食の時代へと流れ、最終的には人間が勝利を手に入れた。


「ところでハクセン様。あなた様は私達神族が人間によって滅ぼされたとおっしゃられましたが、それは違います」


迷いの無い声にハクセンは耳を傾ける。


「私達は自らこのような存在になったのです。誰からの強制でもなければ、決して何かに屈したわけでもありません」

「……では、一体なぜ人間に従属するようなことをしているのだ?」

「これは従属ではなく、一人の人間との契りであり、また私達のなすべき事なのです」


なすべき事。ハクセンは考えた。一時は全生命のトップにいた神族。いや、それは今も変わらないとハクセンは考えている。その最高位にいる神族のなすべき事がなぜ、人間に一生くっつき、その者とともにいなくなる事なのか。


「……解せぬ」


ガサガサッ。


「あ、こんな所にいたんだ」


草陰から出てきたのはハクセンの一応の主人、ルイスであった。

背も伸び、髪も少し伸びた彼はハクセンの予想以上の成長を遂げた。初めてあった時などはなんて幼稚で、更生の余地はあるのか、とも思ったぐらいである。しかし彼の言葉には意思があった。彼と言葉が繋がり、その言葉はハクセンの元へと伸びてきたのである。不思議としか言いようが無い。


「ルイス」


そう彼の名を呼び、近くに座るよう促す。呼ばれた当人は珍しいな、という表情である。


「わしはな、お主以外にも神族と共に生きた人間と会った事がある」

「え?」


ルイスは思わず身を乗り出した。まさか、ハクセンの口から神族の情報がもらえるとは。いや、それよりも彼から話題を振られる事自体ルイスにとって予想外の事だった。


「いつもは僕の問いかけに答えるだけだったのに、急にどうしたの?」


そうは言ったものの、ハクセンの答えはいつも答えではないように思えるのも事実ではあった。ハクセンの答えはいつだって、新しい謎が同居しているのだから。


「なに、場所が場所だ。それにお主の耳は大分聞こえるようになってきたようだからな」



―よく聞くことのできる耳を持っていれば、世に聞こえないものは無い……



そう言えば、いつか大怪我を負ったときにハクセンがそんなことを言っていたっけ、とルイスは思い出した。


「世に聞こえないものは無い、か……いまいち理解しがたいよ。だって、この広い世界をどうやってこんな小さな耳が聞いてくれるのか。まぁそれは置いといて、一体何を教えてくれるの?」


ハクセンは短い話をしてくれた。

もう何十年と昔の話。ハクセンがただのタイスから古代獣へと移り変わった頃、彼は一人の青年と会った。青年はハクセンが古代獣と知り、自宅へと招待をした。青年の名前はロード。彼はゆうに100の年月をすでに過ごしていると言った。それでもハクセンから見れば若いうちに入るのだが、彼の容姿はそれ以上に若かった。

彼の家で一夜を過ごし、ハクセンはまた当ても無く歩き始めた。

と、ハクセンの話はこれだけだった。


「さて、わしは先に帰っている」


ルイスを残しハクセンはゆっくりと去っていった。

一体何を言いたかったのか。ルイスがしばらくその場に座り込んで考えていると何という不運、いや、偶然なのかガーバとばったり出会ってしまった。


「あっれルイスじゃん!なんて偶然、いや運命!?もう俺達離れられな……」


ガーバが全て言い終わる前に彼はルイスの痛すぎる視線に屈してしまった。


「すいません。ホントごめんなさい俺しつこいですごめんなさい」

「まあわかってるならいいんだけどね」


ルイスは自分を装うということをしなくなった。学生の頃はいい生徒のお面をつけていたが、サレオスやマナに会ってから、いつの間にか自然の自分でいられるようになっていた。しかしハクセンには、もう少し気遣いがあっても、と時々小言を言われる。


「ルイス……もっとやさしく言ってくれても」

「じゃ、僕はもう帰るから」


ルイスはそそくさと彼から離れようとしたが、案の定それは不可能であった。


「なぁなぁ。この辺りに伝説の召喚獣がいるらしんだよ。一緒に探そうぜー」


彼はルイスが今まで出会った中でもかなりのしつこさをもつ人間だ。毎日毎日あの笑う門に来てるし、ひどい時には宿まで押しかけてきた事もあった。後ろでいつまでもうるさいガーバにまた一言言おうとルイスが振り向くと、


「おっ!ルイス協力する気に……」

「っち!!」


獣人型の凶暴なモンスターがガーバの後ろで舌をだらしなく出しながら獲物を狙っていた。

ルイスはすばやく防御術を唱え、それと同時にモンスターが食いかかってきた。が、ルイスの方が一瞬早く、間一髪のところでガーバの首は守られた。モンスターは静かに後ずさりしながら森の中へと消えていった。


「あっぶねぇ……ありがとな!危うくあれに食われるとこだった」

「……ふぅん。よく言うよ」


ルイスはモンスターが消えた後に気付いた。彼がすでに召喚獣を潜ませていた事を。


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