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召喚術師*


i love u



君のためならなんだってするよ。盗みだって、人殺しだって、この命を投げる事だって。

だからお願いだ。どうか、どうか俺を一人にしないで。捨てないでくれ……。


     いつもあなたは私に甘える。そして私をどうしようもなく甘やかす。でも知ってる?本当は私不安なの。

     あなたがいないと、もう生きる意味がなくなっちゃうぐらい。




彼女にあったのはまだ俺がほんの子どものころ。向こうは俺よりも年下のはずなのに、俺にはどうにも頼れる存在に見えてしまった。多分それは、今はもう忘れてしまった、銃を俺達のほうに向けて殺そうとした男達を前にしても、一切恐怖というものを表に現さなかったからだと思う。あぁ、強い子だな、とその子を見て俺は死の覚悟した。

男達が楽しげに一人ずつ俺達子どもを殺していく。もう泣いている子どもはいない。全ての感覚、感情をシャットアウトしているのだ。だが、男達にとってはそれが気に入らないらしく、簡単に殺す事をやめて暴行を始めた。俺は髪を引っ張られ地面に叩きつけられ、太ももに一発銃弾を受けた。


―早く殺してくれ


顔を殴られ、腹をけられながら俺は思考も停止させようとした。しかしその時、俺の目はまたあの子を映してしまった。


「なんだその目は!?」


一人の男があの強い子を激しく蹴り上げ、彼女の小さな体は簡単に宙に浮き、地面に落ちた。そして二度三度と顔を殴られた。しかし、未だに意思を持つ眼差しだけは落としていない。


「このクソガキが!どうせお前等みたいな薄汚いガキなんてどこに行っても邪魔なだけなんだよ!!」

「そうそう。俺達は優しいからお前等の相手してやってるの。わかる?」

「わかるわけないだろ。こんなバカ達に」


男達はケラケラと笑っている。俺にはその声が悪魔の笑い声に聞こえた。人間のはずなのに。


「その辺にしときなよ。おじさん達」


若い人間の声はそう遠くはないが近くもないところから発せられた。しかし破壊されたこの町のどこを見てもそれらしき人物は見つからない。

男達は俺達子どもを一発ずつ蹴るか殴るかをして動けなくしてから周りを調べ始めた。


「一分時間あげる。一分たってもここを去らないなら、おじさん達痛い目見るよ?」

「んだと!?やれるもんならやってみろ!!」


男達は無駄に銃を乱射する。流れ弾とでも言うのか、一発が子どもの喉にあたり、その子は大分苦しみながら死んだ。俺の目の前で。しかしその視界は直ぐに誰かの手によって遮られた。


「子どもがこんなところ見るもんじゃない」


手は暖かく、声は優しかった。




その人は突然、何の前触れもなく現れた。破壊された町でまるでおもちゃのように、いや、それ以下に扱われている私達子どもの前に、本当に一陣の風のように現れた。


「子どもがこんなところ見るもんじゃない」


その人は一人の男の子の目をその手で覆い、そして笑った。


「って言っても俺もまだ子どもだけどな」


そこにいたまだ意識のある子ども達は皆彼を見た。ボサボサの頭にボロボロの身なり。それでも私達にとって彼は正義のヒーローに見えた。

彼の存在にようやく気付いた男達は銃を一斉に彼に向けた。でも彼がひるむ事はない。むしろ怒気を感じさせ、目をそらす事を許さなかった。


「ぶぶー」

「?」

「時間切れ。おじさん達痛い目みてね」


本当に、正義のヒーローだった。

私達はまだかろうじて屋根がある民家に身を休めた。生き残ったのは自分を含め6人。


「……ありがとう」


一人ずつ毛布を手渡ししてくれている彼に私はそう言った。彼は私の頭をなでて「どういたしまして」と笑顔でかえしてくれた。


「あの、騎士様。あれってもしかして魔法?」


小さな男の子が恐る恐る彼に質問をする。この子にとっての正義のヒーローは騎士のようだ。


「いや、あれは錬金術ってやつで魔法とはちょっと違うんだ。ちなみに俺は騎士でもないぞ」


彼はまた優しく笑った。その笑顔が温かいから、今まで感情や思考を捨てていた私達子どもは正常さを取り戻していった。

日も暮れ始めた頃、小さな女の子がお腹の音をかわいらしく「ぐぅ」と鳴らした。私達は何日ぶりかの安らげる笑いを表に出し、「お腹すいたね」ともらした。すると彼は勢い欲立ち上がり、


「3時間以内に戻るからじっとしてろよ!」


と言って私達子どもを置いて去っていった。その直後は不安でしょうがなかったが、彼なら、と皆はまた子どもらしい会話を始めた。


「へぇ、アレンっていうんだ」

「僕はサム。君は?」


お決まりというか自然の流れというか、皆自己紹介を始めた。出身は様々で聞いた事もないようなところから来ている子どももいた。でもここへきた理由は皆一緒。親に売られたのだ。


「私はエルラン。よろしくね」


別にこれからここにいる皆で何をするでもないが、元々オープンな人間らしく、私は笑顔で皆との今のこの時間を楽しんでいた。


「俺はシュワルガ……」


6人の中で一番暗いと感じていた男の子はシュワルガという名前だった。しかも暗いだけでなく見た目もひょろっとしていて私はついおせっかいになってしまう。


「大丈夫だよ!錬金術師様がいるんだから、もうあんな怖い目には遭わないよ!」


でも、私や他の子ども達が何を言っても特に変わった感じは見せなかった。




俺達を救ってくれた錬金術師様がようやく帰ってきた。手にはいっぱい、とまではいかないが子どもだけが食べるには申し分ない量の食料を持っている。


「ねぇ錬金術師様。シュワルガがどうしても元気でないの。どうしたらいいかな?」


あの強い子、エルランがわざわざ俺の心配をしてくれている。まさかこんな自分が他人に心配される日が来るなんて。そう思うと自然と涙が流れてしまった。


「どうしたの!?」


俺が突然泣き始めたから、周りの皆も緊張の糸がきれたのか、一斉に泣きはじめた。唯一、エルランを残して。


「あぁ、よしよし。泣かないで。大丈夫だよ?」


エルランは一人ずつ頭をなでてまわった。もちろん錬金術師様も。


「よーし!こうなったらとことん泣け!!枯れるまで泣け!腹減ったやつはここの物適当に口に入れろ!」


錬金術師様はどこまでも優しかった。エルランも。

泣きつかれた俺達子どもはお腹を満たして眠りについた。しかし、俺は少しして目が覚めてしまった。体を起こすと錬金術師様が隣に座ってくれた。なんでわかったのだろう。今、誰かに傍にいて欲しいと思ったことが。錬金術師様は俺を安心させるために色々話をしてくれた。周りの子ども達が起きないように小さな声で喋っていたので、俺はなんだか自分だけ特別な気分になった。


「そういえば、錬金術師様はなんていう名前なの?」

「俺?ザイドさ。呼び捨てで構わない。っていうかそのほうがしっくりくる」

「え?でも……じゃあザイドさんってのは?」

「ん〜まぁ、それでいいか」


次に目を覚ました時、ザイドさんはいなかった。皆を起こし、壊れた町中を探したがやはりいなかった。


―また捨てられた……


俺達子どもは皆同じことを思った。しかし、その闇はまたしてもすぐになくなった。


「まさか本当にこんなところに子どもがいるなんて」


馬にのった制服姿の男達が俺達に近づいてきた。


「もう大丈夫。君たちを安全なところへ連れて行ってあげるよ」


今まで俺達を迎えに来た種類の人間ではない。俺達子どもは素直に制服姿の男達に馬に乗せてもらい一日かけて大きくもなく小さくもない街につれていかされた。




正義のヒーローは私達を最後まで守ってくれた。私達は保安員という人たちに連れられてあの破壊された町から大きくもなく小さくもない街につれてこられ、孤児院に預けられた。そこは信じられないくらい幸せな場所。毎日殴られる事も、ののしられる事もなく、空腹を感じることもない。友達、兄妹、家族と呼べる人たちがそこにいた。本当に、信じられないくらい幸せな場所。

けれどその幸せは終わりを告げた。街の兵が全員戦争にかり出され、防備が薄くなったこの街はあっという間に敵の軍勢に踏み潰されたのだ。


「テ、テ……」


私は自分の始めての召喚獣の名を呼んだ。数ヶ月前、召喚術師がこの街を訪れて召喚の仕方を私とシュワルガだけに特別に教えてくれたのだ。簡単に言えば私達にはその才があったみたい。

シュワルガは私よりもすごかった。でも、子ども二人の召喚獣なんて高が知れていて、抵抗できたのはわずか2日間だけ。この街の唯一の救いは、特に資源がなかったこと。敵軍はこの街に留まるメリットがないので適当に破壊したらさっさと出て行った。生き残ったのはわずかだったがそれでもこの街の人たちは希望を捨てず街の再興に努めた。


「ハァ、ハァ……」


街が少しずつ建て直されてきた頃、私は召喚術の修行をひたすら一人でしていた。けど教えてもらったのは初歩的な知識と技術だけで、どうしてもそれ以上先にはいけなかった。


「もう!どうすれば強いのが出せるの!!?」


ゴロン、と体をゴツゴツした地に投げ出してブツブツと愚痴り始めた。


「エルラン……」


岩陰から聞きなれた声がしたけれど、私は体を起こすことはせず顔だけをそちらへ向けた。そこにはシュワルガがどうにも情けない顔をして立っていた。


「シュワルガ、どうしたの?」


錬金術師様に助けてもらった私達6人は、今じゃ私と彼しかいない。残りの4人は死んでしまった。


「俺さ、もう疲れた……」


嫌な予感がした。私はこう言った子どもを何人も見てきたから、だから彼が今何を望んでいるのか手に取るようにわかった。


「俺はエルランみたいに強くない……もう疲れたよ」






i know


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