準決勝
魔法と魔術の違い?
「……おもしろいね」
ルイスは子どものように笑っている。
「はぁ?ったくこの状況のどこが笑えるんだよ」
ベルクスはテムイの近くにぐったりと座っていた。
今ルイス達は準決勝を戦っている。相手は魔術師と召喚術師と医術師。医術師はテムイと違って暇そうにさっきから欠伸をしている。
「そろそろ終わらせてよ。僕もう暇だし眠いしどうでもいいし……」
「わかってるって。もうちょい待ってろ」
医術師の不平を召喚術師が遮った。そして右手を前に出し、新しい召喚獣を呼び出そうとしたその時、ルイスはすかさず炎の玉を繰り出し、さらに雷系魔法であるラインを連続的に放った。
「杖無でここまで出来るとは、中々ですね」
相手の魔術師は無表情でそう感想を言ったが、一応感心はしているようだ。
「……」
ルイスは次の手を考えた。相手は杖を持っているが自分より術を唱えるのが早く、すぐにガードされてしまう。ということは、相手の魔力を上回ってヒュージを破ることが前提となってしまう。ヒュージを破るだけでもかなりの魔力を消耗すると考えられるのに、その後術者を倒すだけの魔力を取っておかなくてはならない。それも一発で片付けなければ、後ろで欠伸をしている医術師に回復術を発動され、結局無駄骨になる可能性が出てきてしまう。
「ベルクス、少しは役に立ってよ」
「うるせぇ!大体お前が俺を囮みたいにしたのが悪いんだろうが!!」
ルイスはため息をつき、ベルクスは舌打ちを、そしてテムイは無言でベルクスの治療をしていた。
「囮だなんて人聞きの悪い……少し相手の的になってもらっただけなのに」
「それを囮って言うんだよ!!」
「ベルクス!大声なんか出すな!」
テムイの指示にベルクスは首をすくめて大人しくした。相手選手の召喚術師は軽く笑った。
「やっぱり子どもだねぇ。何か弱いものいじめしてるようで良心が痛むな」
「「は?」」
ルイスとベルクスの声が珍しくかぶった。しかも声のトーンまで。
「誰が子どもだよ……」
「誰が弱いんですか?」
ベルクスはゆっくり立ち上がり、少し前へ出た。その表情は小ばかにされたのを黙ってはいられない感じで、ルイスもまた同じ顔を相手選手に向けていた。
「本当の事をいっただけだろ?」
召喚術師はまだ余裕の笑みを出しているが、仲間の魔術師はこの時若干の違和感を察知していた。しかし、それが何なのかを判断する事までは出来ず、この大会で初めての冷や汗をかいた。
「ベルクス、この前話してたあれやってみる?」
「どれだよ?」
「一番最近話してたので」
ルイスがそういった瞬間、相手選手三人を紫色の線が楕円型に囲んだ。
「何だこれ?」
「ちっ!」
召喚術師と医術師はぽかん、としているが魔術師はこれが何なのかを知り、急いで対抗術を発動させようとした。
「ば〜か。おっせーんだよ」
「何?!」
紫の線から、金属的な壁が伸びてきて三選手を包み込んでしまった。これには会場からどよめきが出てきて、審判もどうしたものかと三、四人集って話をしだした。そこにルイスがぽつりと、
「あれ、一時間で酸素なくなります。それでなくてもあの中は五感を遮ってしまうので精神的に一時間も持つかどうか」
「しかし、中の様子を伺う事ができないのに勝手に判決を出すのは……」
審判達がそう言うと、待ってましたとばかりにルイスとベルクスは術を唱え始めた。すると金属的な壁が透けていき、中の状況を現した。そこには、恐怖と疲れ、焦りの表情をした三選手がいた。
「ついに決勝ですね。がんばって下さい」
人はいるが静かで大きな廊下に二人はいた。不安な気持ちを抑えてマナはルイスにこの大会最後の手料理を渡した。
「……そんなに心配しなくても絶対勝つよ」
ルイスはマナの気持ちをすくい取って優しくいった。そのルイスの優しさに気付いたマナはそれまでの緊張を綺麗になくし、笑顔でルイスを見送ったのだった。
気分です。ごめんなさい。