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大会中

スダンが一仕事終えて歩いていると、こんな時間にするはずのない匂いに気付き、体の向きを変えた。そして行き着いた場所でマナ姫が専属のシェフを横に調理場で立っていた。


「何を作っているんですか?」

「わっっ!!」


スダンの突然の声にマナ姫は驚きの声をあげ、シェフはその反応を笑った。


「もぅ、驚かさないで下さい」

「これは失礼を。ところで、それはもしかするとまたルイス君に?」


最近ではよくある事。しかもイルハウ大会が開催されてからはほぼ毎日で、マナ姫は忙しいにも関わらず、こうして一生懸命料理をしているのだ。


「そ、そうです」


少し頬を赤くしてマナ姫は答え、また料理を再開した。


「本当に姫は覚えが良いですよ。スダン様も今度頂いてみてはいかがですか?」


シェフは楽しそうにスダンにマナ姫の上達っぷりを話しながら姫に料理を教えた。


調理場をあとにし、中庭へと出てきたスダンはセリアーナ后とティーナ妃が一緒に楽しそうにお喋りをしているのに気付いた。


「あらスダン。あなたも一緒にティータイムはいかがですか?」


セリアーナ后が優しくスダンを手招きし、彼はお辞儀をしてイスに座った。


「最近ようやく落ち着いてきましたね。仕事の疲れが溜まっているのではありませんか?」


ティーナ妃がカップに紅茶を入れながらスダンを気遣った。彼女が言っているのは先のローリアとの戦争の事である。戦争が終わったからといってすぐにもとの平穏が戻るわけではない。一家の大黒柱を失った家庭も少なくなく、戦後のケアにスダンは毎日頭をフル回転させていたのだ。


「お気遣いありがとうございます。運がいいのか悪いのか、今年イルハウ大会が開かれたので経済面でかなりの回復がみられます」

「けれど、あの大会は死傷者が多数でます……」


ティーナ妃は心配そうな顔をしてスダンを見た。セリアーナ后もまた、スダンを見た。


「心配には及びません。今年からルールを新しくしたので死傷者の数は絶対的に減ります。現に、二週間たった今までで負傷者はいますが死者はでていません」


戦争のあとでのこのような大会は国民に不快感を与えかねないという議会の決定により、急遽新ルールが発案されたのだ。もちろんセリアーナもティーナもそれを知っているが、やはり不安は消えない。


「なんのトラブルもなく大会が終わって欲しいですわ」


二人はか弱い笑顔でそういうと、暗い話題を避けて楽しく話し始めたのだった。




「シンドォ〜……」

「年じゃないんだからもっとシャキッとしてよ」


この二週間勝ち抜いてきたルイス達は新しいちょっと広い部屋で体を休めていた。


「んな事言ったってよ〜、こう毎日体動かしてたらやっぱ大分くるっしょ」


ベルクスのグチに、一体何がくるんだ、とツッコんでやろうかと思ったルイスだったが、それも面倒なので無視した。そんな態度を取られたベルクスは少しムッとしてルイスをからかって遊ぼうとあのネタを持ち出した。


「今日はマナちゃん何作ってくるのかなぁ♪」

「ベルクスの食べる分はない」

「そう思ってるのはお前だけだろ?マナちゃんは俺やテムイのためにも料理作って……」

シュッ!!

「おわっ!!!」


ベルクスが話し終わる前にルイスが手に持っていた分厚い魔術書が恐ろしい速さで彼めがけて飛んできた。


「てめっっ危ねぇだろうがよ!」

「口は慎んだ方がいいよ」

「はいはい。今日もその辺にしといてよ」


手をパンパン、と叩いてテムイが二人を制した。


「まったく、よくこうも毎日飽きないでケンカするよな?」

「コイツがウゼェんだよ!」

「ベルクスとうざいが同意語だと思うけど」


いつもの事とは言え、大会で体力を消耗しているにもかかわらずよくケンカするだけの余力が残っているな、とテムイな内心感心してしまった。


「それよりこれ。二人も飲んどくといい」


テムイはお猪口にある液体を入れて二人に差し出した。


「なんだこれ?」

「疲労回復のクスリ。今さっき作ったんだ」


へぇ、とベルクスがお猪口を持ってクイッと飲むと、すごい苦味を感じて思わずむせてしまった。


「す、すげぇ……なんか効きそうだな」

「苦っっ」

「そりゃ効くよ。俺が作ったんだから」


テムイがお猪口片手に手元にあったリモコンでテレビをつけ、大会専用のチャンネルに切り替えた。そこには明日の対戦組み合わせが流れていた。


「……次の対戦相手は…」

「召喚術師と剣術師だね。医術師は…回復術は心得てないみたいだから楽勝だね」


医術師には二つのタイプが存在する。医師と魔術医だ。ユフィールなど、魔術の医術ではなく、あくまで科学的に治すのが医師。魔術医は魔術の力をもってして傷を治す事ができるものを指す。召喚術師に襲われたサレオスを回復させたルイスの魔術のような働きの事だ。ルイスはテムイに教えてもらったりしていたので、本当に初歩的な回復魔術が出来るだけだが、テムイは相当な腕を持っている。しかし、魔術として回復をすると体力等の消耗が激しいのでテムイはよほどの事がない限り、普通に治療をするのだ。


「よく回復術の出来ないヤツと組んでここまできたなぁ」


ベルクスが変に感心している。というのも、激しい戦闘ではやはりすぐに回復が望める魔術医がいいのだ。


「それだけ召喚術師と剣術師の腕がいいってことだろ?ま、俺はいつも通り傍観してるから関係ないけど」


ルイスとベルクスの強さは大会関係者だけでなく、巷にまで広がりつつある。戦闘中テムイはいつも二人に任せているので暇を持て余しているのだった。


「それもあるけどやっぱり魔術医は人数が少ないからね。テムイは本当に貴重だよ」


ルイスがそういうと、テムイは少しだけ照れた。


「何にせよこの俺がいるんだから優勝は間違いねぇな!」

「はいはい。勝手に言ってれば?」

「ぁん?てめぇまたケンカ売ってんのか!?」


そしてまたルイスとベルクスの低次元なケンカが始まったのだった。




HPを持ちたいと思う今日この頃...

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