突然の手紙
ようやく寒い冬を越した頃、オーヴァルガン国立アカデミーの五年生になる金髪のベルクスという少年のもとに、一通の手紙が届いた。それは忘れもしない、彼がいつでも対抗心を抱いていたルイスだった。
「…果たし状か?」
「お前な…」
ベルクスのあまりの真剣な表情にテムイは呆れた。二人はテムイの部屋でくつろいでいた。その手にはそれぞれかなりハイレベルな本を持っていたわけだが、そんな時、速達でルイスからの手紙が届いたのだ。
「とにかく開けてみろ」
「ああ」
―ベルクス、テムイへ
久しぶり。元気にしてる?僕は中々充実した日々を送ってる。まぁ細かい話は会った時に話すとして、とりあえず5月の下旬までにイリューマの王都に来てね。もう校長にはデューマ国王から話がいってると思うから、学校の心配はないよ。じゃあイリューマで会える日を楽しみにしてるね。
ルイス―
「…」
「…」
二人は今一度この突然すぎる手紙を読み返したが、いまいち主旨が掴めない。
「あのヤロウ…バカにしてんのか?」
ベルクスは静かに怒りを放ち始めた。
「しかし5月の下旬までって…何かあるのか?」
テムイは少し考え、そういえば!と思い出した。
「たしか大会がある!えぇっと…なんだったか…とにかく世界中から集って戦うんだ!ルイス、それに出る気じゃないか?」
それを聞きベルクスは思わず、
「はぁ?」
とマヌケな声を出した。それもそうだ。今ベルクス達は17。そんなお子様が世界大会らしきものに出られるわけが無い。もちろん実力は重々承知だが、世界のレベルというのはそんな生易しいものでないことぐらい、負けん気な彼でさえわきまえている。
「多分そうだ。ルイスならやりかねない」
「…た、たしかに。学校辞めていきやがったあのルイスなら…」
二人はそれぞれ深い深いため息をついたのだった。
「ねぇマナ、5月の終わりからイリューマで始まる大会知ってる?」
マナ姫はルイスの質問に顔をあげた。
「5月の終わりですか?……あ!イルハウ大会があります!」
「そうそう」
「その大会がどうかしましたか?」
「僕も出るんだ」
ルイスは笑顔でそう答えたが、それを聞いたマナ姫は顔を引きつらせた。それもそうだ。ルイスはようやくあの戦争の傷が癒えて、今こうしてマナ姫にまた魔術を教えに来ているのだから。
「あ、の…」
「後2ヶ月はあるからその間に全回復するよ」
「ですが…」
マナ姫の表情は曇る。もちろん彼女としては、そんな危険な大会には出て欲しくない。
イルハウ大会は3年に1度開かれていて、3人グループで戦っていく団体戦。グループの絶対条件は一人必ず医術を心得ている者がいること。なぜなら大会中に負った全ての傷は、グループ内で手当てをしなければならないからだ。それ故死傷者が多数でている。しかし、だからこそこの大会に勝ち残ったグループというのは名誉も賞賛も与えられる。
「…」
「大丈夫だよ。僕も、それに一緒に出るベルクスってのもかなり強いから。医術担当のテムイなんて医学会じゃかなり有名なんだ」
ルイスはなるべくマナ姫に優しく話した。それは彼女が今抱いている不安を少しでもなくしたいと思ったからだ。
「大会中、マナにお願いがあるんだ」
「…何でしょうか?」
イルハウ大会は戦争とは違う。ルイスが参加したいと思う気持ちも分からなくとも汲み取れるマナ姫としては、自分に出来ることがあるなら精一杯やろうと決めた。
「大会中、夕食だけでいいからさ、マナの作ったものが食べたい」
「え?」
「そしたら多分、もっと頑張れる…」
少しだけ、本当に少しだけ、マナ姫にはルイスが照れてる様に見えた。そしてそれはマナ姫を喜ばせるのに十分すぎるものだった。