負傷
目を開けると、見慣れた天上が見えた。体を起こそうとしたが、激痛が走り、ベッドに沈んだ。
「・・・・フェイ?」
「はい」
いつも傍にいる存在の声を聞き、ルイスは安心した。
「どうなったんだっけ?」
「体力も魔力も残っていないのに、周りの言うことを聞かず敵軍のリーダー格を倒しに行ったのです」
「あぁ、それでこんなに重傷になってるわけね…」
フェイのため息が聞こえる。
「どうかこんな無茶はしないで下さい。私にはあなた様を守る術が無いのです」
「わかってるって。でもこうやって生きて帰ってきたんだし、結果オーライでしょ?」
悪びれる様子も無く、ルイスは頭だけを動かし部屋を見渡す。どうやらハクセンもいないようだ。
「サレオス様はルイス様の援護を必死でやっておられ、やはり重傷を負われました。今はユフィール様のいる病院で治療を受けています」
「そう・・・・っていうかサレオスの事なんか聞いてないよ」
「心配そうな顔をしてらしたので。それと、マナ姫様は包帯だらけのルイス様をみて青ざめていました。けれど峠を越えたことを知り、安堵して涙を流しておられました」
「……今日は随分よくしゃべるね」
「心配そうな顔をしてらしたので・・・・・・」
「・・・・・・・別に」
それから会話は途切れた。
心中、ルイスは本当に安心していた。自分の勝手でサレオスに重傷を負わせてしまった事で、もしかしたら死んでしまうのではないか。それに、あのお人よしで同情心の強いマナ姫が気絶、いや、心臓でも止まってしまうのではないかと。
そう、ルイスは本気で心配していたのだ。
「(何で僕が他人の心配なんかしてるんだ・・・?)」
今度ハクセンにでも聞いてみよう、と思っている矢先に、ルイスの部屋のドアが開かれた。見ると白いタイス、ハクセンがいた。
「目が覚めたか」
「はい。起きることはできないですけど」
苦笑いでルイスは答えた。ハクセンはベッドに上がり、ルイスの足元に腰をおろした。上がった瞬間ベッドが軽くゆれ、ルイスは少し傷が痛むのを覚えた。
「(こんな振動で体が痛むなんて・・・・ほんと重傷なんだなぁ)」
ボーっとしながらそんな事を他人事のように考えていると、ハクセンが喋り始めた。
「今よりまともになりたいのなら、目と耳、それに心をよくすることだな」
「??」
突然の意味不明な言葉にルイスは天井を見ながら首をかしげた。
「お主の場合、まずは耳か」
「あの、それはどういう・・・・・」
「他者の声をよく聞くことだ。よく聞くことのできる耳を持っていれば、世に聞こえないものは無い」
「・・・・・・・」
「・・・どうした?」
いつもなら一言二言何かしら言い返すだろうルイスが沈黙している。
「あ、いえ。・・・・・わかりました」
「・・・・やけに素直だな」
今度はハクセンが首をかしげた。それから何の反応もなかったのだが、しばらくするとルイスの寝息がハクセンの耳に届いた。
「まったく、どこまでも自分のペースだな」
「俺は今とても幸せです」
病院のベッドでサレオスは目を細めてそう言った。その言葉はもちろんユフィールへのものである。
「私はあまり幸せじゃないわ。まったく、よくこれだけ傷ついて帰ってきたものね」
呆れながらユフィールはサレオスの怪我の具合を診ている。
個室になっていて、今は病室に二人きり。そしてユフィールはサレオスを心配して担当医になってくれたのである。サレオスを喜ばせるのにこれほどのことがあるだろうか。
「男の勲章ってやつですよ☆」
「あなたが弱いだけじゃないの?」
いじわるっぽく笑うユフィール。しかしその顔は少し悲しそうに見えた。
「まったく、どうして男ってこんなに無茶が好きなのかしら」
「ロマンですよ♪」
「はぁ。あなたって人は・・・・・・」
知っていた。彼が、ルイスのためにこんなになってしまったのを。思い返せば、サレオスはいつも自分以外の誰かのために剣を振るい、傷ついてきたのではないか。いつも他の誰かを優先させる。
「・・・どうかしましたか?」
俯いてしまったユフィールを心配するサレオス。余計な心配をかけまいと、ユフィールは笑顔を作った。
「何でもないわ。それより、ちゃんと安静にしててよね?じゃないと退院の日が遠のくわよ」
「それだけユフィールさんと一緒にいられる時間が持てると言うことですから、俺は一向にかまわないですvv」
「まったく・・・・・」
眉をハの字にしながら、ユフィールは仕事をしに部屋を出て行った。