賢卵
将軍と呼ばれていた男を失ったローリアのトップに立っていたのは女であった。名前はアンネリー。元は将軍のお気に入りの女の一人であったが、将軍がアンネリーの資質を見抜き、度々政治やら軍事やらに関わらせていた。最初は周りから不平の声がしたが、アンネリーはその中で着実にその実力を皆に知らしめていった。
そして今、彼女はローリアの全権をその白く細い手に握っている。
「食料の流れを切られました。これはかなりの痛手です」
「しかも相手はたったの二人・・・・兵の士気も下がるな」
広く豪華に装飾された部屋での軍議は重い。
「他国に援軍を頼みましょう。少なくともゼンシュバーラとタッカライは我々に味方してくれるかと・・・・」
「それは難しいな。今回の戦争はあくまで私心であるというのが近隣諸国の見方だ。正義という飾りが無ければさすがのその二国も参戦しにくい」
「しかも、ゼンシュバーラは今内政が不安定、タッカライは経済難。こっちに手を回す余裕があるとも思えん」
ゼンシュバーラもタッカライもローリアと似たような国である。しかしゼンシュバーラはその圧制に耐えかねた市民が頻繁に反乱を起こしている。
「ついさっき調べたんだけど・・・・」
突然の生気のないアンネリーの声に、頭を抱えていた男達が一斉に彼女を見た。
「国民一人につき、拳銃に機関銃一丁・手榴弾5個・ナイフ3本、最低でもこれぐらいはみんな常に常備しているみたい」
アンネリーの顔にも生気はなく、いかにも病弱そうな表情をしている。そしてその顔が一瞬だけ笑う。その瞬間が妙に色香をかもし出す。
「みんなで戦えば良いじゃない?殺人ごっこぐらい、みんなしたことあるでしょう?」
その場の空気が変わった。その変わり方は、まさにローリアらしく、
「その通りだ。全国民を総動員すればいい!」
「あぁ、何も戦うのは軍人だけということはない」
今までの重い空気はなくなり、活気がついた。そして各々のやるべきことをしに、早足で
皆勢いよく部屋を出ていった。
残されたアンネリーはゆっくり席を立ち、バルコニーにでてローリアを見下ろした。
「ふふ、楽しい・・・・・」
アンネリーは今こそその高い地位にいるが、最初からそういうわけではなかった。だが彼女は賢かった。だからここまで登りつめたのだ。そして、戦争という彼女にとっては娯楽の一つに過ぎない事を、今はただ子どものように楽しんでいた。
「アンネリー様」
周りに人の姿はないが、どこからか声が聞こえた。
「なぁに?」
「全国民に戦わせるなど、あなた様は一体何を考えておいでですか・・・・?」
アンネリーの口元に笑みがこぼれる。
「フェリエ、あなたは何でも生まれた時から知っているんでしょ?そんなくだらない質問はしないで」
「・・・・私が知っていることなど、とても小さなことです。あなた様の考えていることには、とても手が届きません」
「そうなの?神族もたいしたことはないのね」
「・・・・・・・・」
「それより食事にするわ。お腹がすいていたらせっかくの戦争を楽しめないものね」
アンネリーはバルコニーを離れ、食事をしに部屋へと消えていった。