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戦場

「まったく・・・・・次から次へとしつこいですね・・・・」


文句を言いながらも、ルイスは目の前のどす黒い戦車の動きを魔法で止めた。


「ったく意味わかんねぇ。なんで戦争にまでなるんだよ?イリューマがローリアの将軍殺したって証拠もないのに」


サレオスは物陰に隠れていた兵を倒していった。


「ルイス、サレオス」


高い所からハクセンの呼ぶ声が聞こえ、二人でダイゴローに乗り駆け上った。

眼下には周りを高い塀で囲まれた建物がある。


「あれを潰せば食料を断つことが出来ますね」

「しっかし大分厳重な警備だな。」

「しかも火薬の匂いがする。大量の銃を持っているな」


サレオスはため息をついた。銃と剣ではどちらが有利か、子どもでもわかる。


「俺ってかなぁり役立たず?」

「いつものことです。それより、行きますよ」


サレオスの嘆きも聞かず、ルイスはハクセンに乗り物陰に隠れながら斜面を下っていった。


「あいつ、何をそんなに急いでるんだ?」


渋々ダイゴローに乗り、ルイスの後を追いかけた。




「何!?もう突破されたのか?!」


今まさにルイス達に狙われている建物の中枢で、男は冷や汗をかいていた。


「くそっ、ここを潰されたらこっちは不利になる・・・・・」


部屋には4,5人の軍服を着た男達が頭を抱えていた。沈黙の続く中、一人の男が提案をした。


「とにかく分断しましょう。遠距離に優れた魔術師と小回りのきく剣術師の組み合わせさえ崩せばなんとか勝機があるはずです」

「そうだな。しかし奴らはタイスに乗っている。あの足をどうにかしないと・・・・」

「もう頭を抱える必要はありませんよ」

「「「「!!?!?!?!」」」」


部屋にいた男達は一斉に声のしたほうを振り向く。するとそこには笑みをこぼしている黒髪の少年がいた。


「お前は!?」

「ケイジ!」


少年が叫ぶと男達は薄い半透明なものに囲まれた。


「な、何だこれは!?」

「封印術です。しかも初級の」


男の一人が腰に下げてあった銃を手に取り、少年に銃口を向けた。


「それは意味をなしませんよ」

「黙れ!!」

バン!!


弾は半透明の壁にめり込んでいた。


「だから言ったのに・・・・」


めんどくさそうに少年は呟き、部屋に設置してあった通信機器を全て破壊した。


「ルイス」

「あ、ハクセン。そっちは終わった?」


白いタイスが部屋に入ってきた。男達はなぜこのタイスが言葉を喋っているのか、そしてこのルイスと呼ばれた少年の強さに顔をこわばらせていた。


「サレオスが怪我を・・・・」

「治しませんよ」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


ハクセンと呼ばれたタイスはそのまま何も告げず、部屋を出て行った。




夜、一つの大きな部屋にローリアの軍人達は集められ、ルイスの術でおとなしく捕まっていた。


「なぁなぁ」

「なんですか」

「すっごい傷がいた・・・」

「自業自得です」

「・・・・・」


サレオスは今日も声無き涙を流していた。


「ローリアの援軍が来るより、こちらが先にここに着きますから今夜は安心して寝れますね。じゃあ見張りはよろしくお願いします」

「はい・・・・」


サレオスは大人しく言うことを聞き、ルイスの後姿を見送った。残されたサレオスの隣にはダイゴローが寄り添っている。


「うぅ・・・俺のことを考えてくれてるのはお前だけだよ・・・」


ダイゴローに寄りかかり、サレオスは剣を片手に見回りへと出掛けた。

一方ルイスはすでにベッドに横になっていた。


「ルイス様」

「なに?僕疲れたから重要なことじゃないなら明日にして」

「・・・・わかりました」




本当に疲れた、とルイスはため息をついた。

そもそも、なぜこんなにも急いでいるのかと言えば、それはルイスらしからぬ動機であった。


開戦直前のイリューマの王宮


「スダン!!」

「姫?」


両手に大量の資料らしきものを抱えたスダンは後ろを振り返る。


「どうしたんですか?そんなに息を切らせて・・・・」

「本当のことを教えてください!」


マナ姫は乱れた息を整えてからスダンに聞いた。


「今回の戦争に、ルイスさんも加わると言うのは・・・」


スダンは言葉に詰まってしまった。その様子を見て、マナ姫はまた走り出した。


「姫!?どこへ行かれるのですか??!」

「お父様のところです!」


追いかけるよりマナ姫の姿が消えたのが早かった。

マナ姫は国王のいる部屋の前で深呼吸をしてからノックした。


「入れ」

「失礼します」


マナ姫は静かにドアを開け、部屋へと入る。中には大臣や軍師が国王を中心に円卓を囲んでいた。


「失礼をしました。また後で伺います」


すばやく一礼をし、部屋を出ようとしたがそれは止められた。


「ルイスというお前に魔術を教えている子どものことだな?」


振り返ると、国王はマナ姫の方を見てはいなく、手元にあった資料を見ていた。


「・・・はい。私と一つしか違わぬルイスさんに、戦争に行けと言うのはなぜですか?わが国は魔術大国とも言われるほどの力を持っています。なのになぜ、わずか16の子どもを・・・」

「姫」


マナ姫の言葉は魔術師団のトップであるダルキスに遮られた。


「先日、姫には内緒で私と各師団長で、彼の実力をテストしました。一国の姫の教育係にあんな子どもを、という国内外の声を聞いたからです。そして彼の実力が並外れたものであることを知り、今回の戦争でかならず役に立つと思い・・・」

「実力などの問題ではありません!!」


部屋にマナ姫の声が響いた。それはか弱い乙女などではなく、人の上に立つ者の、凛とした声だった。


「彼はまだ16です。例え賢く、強くあってもまだ子どもなのです。そんな子どもに、どうして戦争という殺戮の場所へ放り込むことが許されるのですか?」


ダルキスは返す言葉も無く、部屋は静まり返った。この沈黙を、父親であるデューマ国王が破った。


「マナ、お前の意見ももっともだ。我々は今回の戦争で戦えるだけの十分な力を持っている」

「ならばなぜ・・・・」

「・・・・彼の希望なのだよ」



 いつものように、ルイスはマナ姫に魔術を教えに王宮へ行った。部屋へ入ると、いつもの笑顔の出迎えが無く不審に思いマナ姫の顔を覗き見ると、暗く沈んでいた。


「マナ、一体どうしたの?」


ルイスの問いかけにマナ姫は反応しない。もう一度声をかけると、マナ姫はルイスを見つめた。


「なぜ、ですか・・・・・」

「え?」


一体何のことなのか見当のつかないルイスは首をかしげた。


「あなたはこの国の住人でも、軍人でもありません。なのになぜ、自ら戦争に参加するなどと・・・・」


眉を寄せ、その目には涙が浮かんでいる。

自分を思って心を痛めているのか、なんて優しい子なんだ・・・・などとルイスが思うはずは無く、


「(なんで泣きそうな顔をしてるんだ?だいたいマナには全く関係ないのに・・・)」


目の前の涙を浮かべているマナ姫を見つめ、ルイスは不思議に感じていた。


「・・・・なぜですか?」

「え?あぁ、なんていうか、自分の力を試したいってのもあるし・・・(あと、王宮の人達のなかで自分の株も上げときたいし)」

「戦争をご存じないのです。人を殺め、自らの命も危険にさらすのですよ?」

「まぁ、そうだね・・・」


ルイスにはマナ姫が何を言いたいのか理解しがたかった。結論としては、彼女は感受性が強く、お人よしで同情的な人間なのだろう、と分析をした。


「もしもの事があったら、ご家族も悲しみます」

「・・・わかった。大丈夫だから。僕強いし。だからいつまでもそんな顔を・・・・」

「わかっていません!!!」


初めて聞くマナ姫の大きな声にルイスは一瞬とまってしまった。彼女の目からは涙が溢れている。


「あなたは、ご自分の事しか考えていないのですか?残されているご家族が、どんな気持ちか、あなたのお友達だって・・・・」

「・・・・・」


泣いてはいるものの、強い眼差しをマナ姫は持っていた。睨みとはちがく、強いけれども優しい目をしている。ルイスはとまどった。以前にも、こんな事があったように思えた。たしかその時は何にも感じなかった。が、今は違う。何かが引っかかる。


「・・・・・・・そう、だね。ごめん。僕はいつも、自分のことしか考えてなくて・・・」


ルイスの声がいつもより弱くなる。マナ姫がルイスの近くへ歩み寄ってきて、両手を掴んだ。


「この手を、血で染めてはいけません。あなたはとても強大な力を持っています。それは他者を傷つけるためでは、決してありません。そして・・・・」

「・・・・・」

「あなた自身を傷つける事だって、許されません」



よく、わからなかった。ルイスには。

けれどなんとなく、自分が何をすればいいのか、分かった気がした。戦争に参加しなければいいのかもしれないけれど、そこまでやれるほど人間が出来てなくて、それでも今自分に出来ること。それは敵をなるべく無傷で捕獲し、一日も早く、彼女のもとへ帰るということ。

それだけを頭に入れて、今ようやく一つ目のポイントを落としたのだ。


「(あと一つ落とせば、向こうは動きが取れなくなるから勝敗は決まったようなもんだね)」


ベッドの中で、明日すべき事を考えながら、ルイスは眠りについた。

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