クラス対抗魔術戦・A1
「「きゃー!ルイス様かっこいい〜!!」」
女の子のやたらルイスを賛辞する声がアカデミーの円状の闘技場に響く。
今は一年に一度のクラス対抗魔術戦で、ちょうどルイスのクラスである、エメランド、が決勝へのキップを手にしたのだった。
クラスの代表である男女合わせた計五名が他のクラスと魔術のみの対決をする。一対一ではなく五対五のチーム戦。
一〜六年生まである魔術専攻だがクラスは八クラスづつある。代表に選ばれるのに学年は関係なく、実力のあるものが名乗り出るかみんなの投票による。ルイスは早くも二年生からの参加で、今までの最年少記録をみごと打ち破ったのだった。
ルイスの初参加から二年がすぎ、すっかり対抗戦の常連となったルイスには何とも規則の厳しいファンクラブが存在している。もちろんルイスはそんなこと知る由もないのだが。
「やっぱり来たな」
ルイス達がコンクリートがむき出しになっていて、簡素なイスとテーブルがあるだけの選手控え室へ戻り一休みしていると、今度の対戦相手が現れた。そのうちの一人の背の高い短髪のお世辞にも愛想が良いとはいえない顔の男がルイスの前に立った。
「今度こそは俺達、ルービがトップに立つからな」
「はい。僕達は全力で3連覇を取りにいきます」
ふん、と一睨みしてルービの代表選手達は控え室を出て行った。
「……相変わらずの人相だな」
苦笑いを浮かべているエメランドのリーダー、ハルズ。今年六年生の長身茶髪青年。
魔術の中でも防御術に優れている。
「かなり練習を積んできたみたいですよ。三連覇は難しいかも」
真剣な表情であごに手を添えているめがねの青年は五年生のジョシュア。どちらかと言えば理屈っぽい感じの礼儀正しい青年である。
「何言ってるのよ、練習を積んでるのはこっちも同じ!とにかく明日に備えて今日はゆっくり休みなさいね」
そういって控え室を出て行ったのは六年生のメイア。医術専攻のハイアの姉で、やはり姉御肌な女性。
「メイアの言うとおり。今日の疲れは今日だけってね。じゃあお先に〜」
右手をひらひらとふって出て行ったのは同じく六年生のガートン。スキンヘッドの似合う気の抜けた青年である。
それぞれ一言づつ言って控え室を出ていき、ルイスが一人静かに残った。
特に何をするでもなくただイスに座り、ボーっとしている。それというのも、今日の試合は終わったので控え室には誰も入ってこないので、ルイスはこの静かな時間をゆっくり過ごしたいのだ。
窓からはオレンジ色の光が入ってきて、殺伐とした控え室を温かい感じに変えていく。外からは闘技場を離れ、寮へ帰る生徒達の声が虫の声程度に聞こえてくる。
ルイスが目を閉じて深く息を吐くと同時に、ドアをノックする音がした。
「……どうぞ」
ノックをするということは選手ではない。ファンの子の類だろうと思いルイスは少し気だるくなったがまさか無視をする訳にもいかないのでとりあえずそう言った。
すると勢いよくドアが開かれ、バン、と大きな音を出しルイスはとっさに身構えた。
「あっ、ご、ごめんなさい!その、つい興奮しちゃって。だって憧れのルイスさんに会えるもんだから!」
一気にそう言って、背の低い短髪の少年が目を輝かせている。
「そっか。でもね、ここは基本的に選手以外は入ってきちゃだめなんだよ?」
構えを緩めて優しく少年に話しかけるルイス。
青い制服を着ているのを見るとどうやら1年生のようだ。
学年を見分けるために制服の色だけを変えている。これはどの専攻も一緒で一年生は青、ルイス達四年生は赤である。制服と言えば最近売れているデザイナーが直々にデザインしたもので、生徒達からはかっこいいということでかなり人気が高いが、足元まである長いローブを着ているため動きにくいのが難点だ。
ルイスは今選手用の、クラスの色の緑を基調にした服を着ている。試合といってもかなり実践に近いので耐魔術用の、動きやすい服である。
「はい、ごめんなさい。でも!俺どうしてもルイスさんに会いたくって!」
「そうなんだ、ありがとう。でも、なんでそんなに必死なの?」
ファンの子とはちょっと違った感じがした。いつもなら、握手してください!とか、サイン下さい!と言われるのだがこの少年はそうではない。
「その、お礼を言いたくって!」
「お礼?」
ルイスは首をかしげた。そして少年の顔をよく見て必死に思い出そうとしたがだめだった。
「ちょうど三年前、俺が森で迷ってて間違って立ち入り禁止区域に入った時に……」
「あっ」
「思い出してくれましたか!?」
「あの時の子か」
立ち入り禁止区域、という言葉を聞いて思い出したルイス。
「その時、モンスターから俺のこと守ってくれて。その時のルイスさんすっごくかっこよくて!それで俺も魔術がしたいって思ってここに入学したんです!そしたら見覚えのある人が試合にいて、あの人はっ!って、俺もう感動しちゃって!」
相変わらず興奮が収まっていない様子で、早口で説明していく少年。
「あ!とりあえず自己紹介します!えっと、名前はアルド。ルイスさんと一緒のエメランドです!あとは、えっと、尊敬する人はルイスさんで目指してるのはルイスさんみたいに強い魔術師です!」
「そ、そっか」
あまりの迫力に少したじろぐルイスだったが、とりあえずはおとなしく聞いていた。
アルドに席に座るのを進めるとなんとも嬉しそうにルイスの正面に座り、お礼の言葉とルイスへの賛辞を熱く伝えた。
日が暮れてきたので二人は寮に戻ることにして、ルイスはアルドを一年生の寮まで送って別れたのだった。わざわざ送ってくれてありがとう、と最後の最後まで笑顔だったアルドを、ルイスはかわいいと思った。
「明るくて良い子だったね」
「……」
いつものように屋根の上で姿の見えない何かに話しかけた。しかし答えが返ってこない。
「フェイ?」
「……弟様とかさなりましたか?」
「なっ……」
起き上がったルイス。そして眉間にしわを寄せる。
「何が言いたいんだ?」
「いいえ、何も」
会話は終わってしまった。
ルイスは部屋へ戻って少し荒くドアを閉め、すぐベッドに横になった。