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くだらないもの・・・?

 イリューマの東に、巨大な軍事国家がある。ローリア、という名のその国はまさに犯罪大国であった。殺人などは日常茶飯事、人身売買、麻薬の取引は人目を気にせずにされている。一般市民も罪を犯すが、ローリアという国自体が犯罪に手を染めている。


「ちっ。今年もイリューマのおかげで利益が伸びなかったか」


タバコを片手に男は毒づく。


「将軍、近々イリューマの王子であるガイラが結婚するそうです。相手はあの貿易商の娘、ティーナです」


狐のような男がその口元を吊り上げながら言った。


「ほう。それはめでたい。祝ってやるのが礼儀ってものだな」

「さようで」


将軍と呼ばれた男は手に持っていたタバコを消し、狐のような男は陰のある笑顔を作った。




 マナ姫に魔術を教えた後のルイスは毎日図書館へと通っていた。それも図書館が閉まる23時ギリギリまでいる、というのが今の彼の日課であった。


「だめだ。全然わからない・・・・」


4人で使うための机をルイスは占領し、もう置き場の無いほど本が積み重なっている。

肩をならし、もう必要のない本を元の場所へと返そうと席を立つと、一人の老人がルイスの前に現れた。


「あ、すみません。僕一人で机を使ってしまって」


急いで片付けようとしたがそれは穏やかな声に制された。


「いいのだよ。それより、君はいつもこんなにたくさんの本を読みあさって一体何をしているんだい?」


ローブに身を包んでいたのでこの人も魔術師なのだろう。綺麗な白髪が印象に残る。


「禁断の書に施されている封印術について、ちょっと・・・・」

「あぁ・・・・・知っているよ」


老人は優しく笑っていて、それだけ言うと静かに去っていった。ルイスは不思議に思ったが、不審とは思わなかった。気になったので名前を聞こうと後を追ったが老人の姿は広い図書館のどこにも見つけらなかった。

 夜、図書館から程近い場所にある現在の住家で、ルイスは珍しくハクセンとフェイと話をした。


「一体何を知っているって意味だったんだろう?」

「不思議な方ですね。私もお会いしたかったです」

「そういえば最近よく出掛けるよね」


はたから見ればルイスが一人で喋っているように見えるが、フェイはちゃんと存在している。


「はい。ハクセン様とお話をしていました」

「へぇ〜。いつの間にそんなに仲良くなったの??」

「自然に、だろ。それよりいつまでここにいるんだ?」


ハクセンがルイスの方に目をやる。


「そうですねぇ。彼女と婚約するまでですかね」


こともなげにルイスは言い放った。一瞬部屋の空気が止まる。


「ルイス様、それはどういう・・・・」

「そのままだよ。1年ぐらいで多分実現するよ」

「彼女が聞いたのは、なぜ、ということだ」


ハクセンはさして興味なさそうにルイスに教える。彼にとっては予想していた通りなので、今更のことだ。


「なぜって、まぁ理由は色々あるけど取り合えず地位は手に入るし」

「・・・・・」

「しかも、もしお兄さんであるガイラ王子に子どもが出来なかったら、自動的に僕にイリューマの王座が転がってくる。こんなおいしい話は無いよ」


うきうき気分のルイスを見てハクセンはため息をついた。


「くだらん。しかもおもしろくも無いな」


ハクセンは部屋を出て行った。ルイスは閉まったドアの方をしばらく見ていたが、向きを変えて窓から星空を見上げた。


「・・・・・」


もうそろそろ冬。イリューマは四季があるので、そのうち一面雪景色になる。しかし今はまだ冷たい風が吹くだけ。


「フェイ」

「はい」

「くだら、ないかな・・・・?」


ハクセンに出会ってから、ルイスは彼の言葉にいつも耳を傾ける。ずっと一緒にいるフェイの言葉はあまり聞かないのに。しかしフェイにとってそれはどうでもよかった。


「私が願うのは、ルイス様の幸せです」

「幸せねぇ・・・・何が幸せかよく分からないよ・・・・」




次の日、いつもの様にマナ姫に魔術を教えていて、ふと昨夜のことを思い出したルイスは何気なく目の前の緊張しながら勉強している一つ下の女の子に質問をした。


「ねぇ、マナにとっての幸せって何?」

「え?」


普段魔術以外の無駄な話を一切しないルイスが突拍子もない事を聞いてきたのでマナ姫は首をかしげた。


「僕にとってはマナはすごく不自由そうに見えるんだけど、そんなマナの幸せって何?」


自分のように好きなところへ出掛けることも、何か好きなこともできず、押し付けられるものは多く、一体その中でどうやって息をして生きていくのか、ルイスには疑問だった。


「そんな、何の不自由もありません!衣食住は安定していて、家族も健康で仲が良くて、それに周りの方達もとてもやさしくて」

「・・・・そう」


ルイスは冷めた目でマナ姫を見た。それを感じ取り、マナ姫は不安な顔になったがルイスはいつもの笑顔をすぐに出した。

図書館からの帰り道、ルイスは寄り道をした。肌寒いにもかかわらず、近くの公園のベンチに座り、星空を眺めた。こうしている時間が、彼にとっては一番の安らぎだった。


「(・・・・欲しいものがあって、でもハクセンにくだらないって言われて、こんなに気持ちが揺らいでる・・・・地位を手に入れることはくだらない?いや、そんなわけは無い。でもハクセンに言われると何か混乱する・・・っていうかマナは大分綺麗に飾った人だなぁ。僕にとっては眩暈がするようなことを本気で思ってるし・・・)」


色々な事を考えているうちに体が冷えてきたので、ルイスは早足で家へと戻った。







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