ほのぼの
「ねぇねぇ!!見て!!!!」
午後の優雅なひと時をのほほんと過ごしていたシュワルガの耳に、元気のいいエルランの声が聞こえた。イスから立ち上がり外に出ると綺麗なエメラルド色が目に入る。そしてその横にはエルランの召喚獣である龍のテテがどっしり構えている。
「どうしたの〜?」
いつものユルイ声で質問する。
「テテがね!テテがね!」
「うんうん」
「火を噴けるようになったのぉ!!!!!」
ゴオオォォォ!!!
エルランが叫ぶと同時にテテはその大きな口からこれまた大きな炎を吐きだした。周りにあった木が勢いよく燃えている。
「・・・・・すごいね〜レベルアップしちゃったね。でも環境破壊はよくないよ〜?」
そう言いながらエルランのほうへ近づき、頭に手をポン、と置く。
「そうだね!・・・でもテテは炎しかだせない・・・・・」
エルランはくりくりした目でシュワルガを見上げた。まぁ俗に言う上目づかいというもので、シュワルガも例に漏れずクラッ、としたのだった。
「燃えちゃったのは仕方ないよね〜」
緩みに緩みまくった笑顔をエルランに送り、結局炎は消されることは無かった。
「そう、だからここは・・・・・ね?」
「はい/////」
女の子らしいかわいい部屋で、ルイスはマナ姫に魔術を教えていた。距離が近く、マナ姫の顔はずっと赤みがかっている。よくもまぁそこまで緊張するものだと内心変な感心をしているルイスだが、教え方がうまいのかマナ姫の覚えが良いのか、さっきから勉強が順調に進んでいる。
「・・・もうそろそろ終わりの時間だね」
午前十一時半。ルイスがマナ姫に魔術を教える時間は十時からの一時間半だった。
「え!?もうそんな時間ですか?」
信じられないといった顔で壁にかかっている大きな時計に目をやるマナ姫。ルイスは片づけをし始めた。
「じゃあ明日までにこのページをやっておいてね?」
「あ、はい。わかりました・・・・・」
名残惜しそうな顔をするマナ姫。その顔を見てルイスは少しだけ自分の顔を近づけ、
「また明日、マナに会えるのを楽しみにしてる」
笑顔でそういい残し、部屋を出て行った。残されたマナ姫はまたしてもヘナヘナと崩れたのだった。
コンコン
ルイスがいなくなってからしばらくボーッとしていると誰かが尋ねて来た。
「はい、どうぞ」
「こんにちは」
入ってきたのは兄であるガイラの婚約者、ティーナであった。突然の訪問にマナ姫は喜色を浮かべた。
「ご一緒にお食事でも、と思いまして」
「はい!ぜひ」
ティーナは貿易商をしている父を持つ令嬢である。マナ姫にとっては優しいお姉様、という感じで、城を抜け出したときにはよく遊びに行く。
場所を中庭にかえ、二人はたわいもない事を話していた。しかし、途中で少し無理のある会話に変わった。
「東の二十二番地は今度海をでるそうで」
周りには聞こえない程度にティーナは話した。
「・・・・・・そうですか」
マナ姫はなるべく表情を変えず、自然に答えようとした。
「お疲れ様で〜すv」
もう日も暮れて街頭が灯っている時間、病院からでたユフィールを待っていたのは満面の笑みのサレオスだった。
「サレオスもお疲れ様。今日はどんな仕事をしてたの?」
「今日はちびっ子達に剣術を教えてきました!」
一緒に夜道を仲良く歩いている姿は恋人同士に見える。が、二人はただの友達同士。途切れることの無い会話の途中、ユフィールが思い出したようにサレオスに質問をした。
「そういえば、パーティーの時私には待っている人がいる、って言ってたけど一体なんのこと?」
うっ、とサレオスの顔は引きつった。出来ればあの時のことは思い出したくないわけだが、聞かれたからには答えなければならない。いや、話をはぐらかすことも出来るが、それでは男が廃る、と勝手に思考をめぐらせ、あの男についても聞けるチャンスである、と前向きに考えることにした。
「その、ですね・・・・前にユフィールさんが病院から大分かっこいい男性と出てきてたので、ですね・・・・・」
前向きに考えても不安なものは不安であった。もしあの男がユフィールさんと付き合っていたら、と。
「男の人と?・・・・・あ!もしかしてテッドのこと?」
「テッド・・・・さんですか・・・・」
あまりに自然と男の名を呼んだのでサレオスは一気に不安にかられた。しかし、
「彼は私のいとこよ」
「・・・・・そうですか・・・・いとこ・・・・っていとこ!?」
サレオスの沈んでいた声が張りあがり、ユフィールは目を丸くした。一体何をそんなに驚いているのか、と。
「じゃあ!じゃあ、つまりユフィールさんの恋人ではないんですね!?」
目を輝かせてユフィールに詰め寄るサレオス。そのあまりにも子どもっぽい動作にユフィールはぷっ、と笑ってしまった。
「な、何で笑うんですか・・・・・?」
「ごめんなさい、ちょっとかわいいと思っちゃって。サレオスのその動作も、やきもちも」
「や!?そ、そんなんじゃ、いや、でもそうでもあるんですが」
ユフィールの言葉をどう返していいかあたふたしていると、また笑われた。
その笑顔がサレオスを掴んで離さないことを彼女は知っているのだろうか。子どもっぽく笑うのに、どこか色香を匂わしている、とサレオスはしみじみ自分がユフィールに惚れている事を実感するのであった。
サレオスの気も知らず、ユフィールは本当に今の状況を楽しんでいた。
「(この人に想われている事が、こんなにも嬉しいと感じるなんて)」
隣でまだあたふたしているサレオスを見て、ユフィールはそう思わずにはいられなかった。