電話
「あぁ〜何で俺がこんなイライラしなきゃならないんだ?」
パーティーも終わり、一人宿へと戻ってきたサレオス。部屋にはダイゴローがごろりとその大きな体を横たえていたが、少しだけ顔をあげサレオスをみた。そのサレオスはさっさと服をいつもの動きやすいものに着替える。そして帰り道に買ったお酒をコップにそそがずそのまま飲みはじめた。
「ぷはっ!」
「・・・・・・」
「・・・何見てんだよ」
「・・・・」
「お前は好きな子とかいないの?あ〜あ、お前もハクセンみたいに話せたらなぁ〜」
もう一口飲もうとしたその時、ドアをノックする音が聞こえた。
「サレオス様、お電話です」
「はぁ〜い、今行きまぁす」
サレオスは名残惜しそうに手に持っていた酒をテーブルに置き、電話のあるフロントへと向かった。
「もしも〜し?」
『・・・・なんだ、飲んでるのか?』
「あ、おじさん?聞いてくれよぉ〜ユフィールさんがさぁ〜」
『ユフィール?一体何の話だ?』
「だぁからユフィールさんだって!!!」
『あぁ、わかった。その人の話はまた今度聞く。だからちょっと落ちつ・・・・』
「聞いてくれるの!?さっすがおじさん!まぁ話せば長くなるんだけどさ・・・・・・」
宿のフロントで怒ったり泣いたり喜んだりと電話ごしにサレオスは忙しかった。そして話をすること数十分・・・
「何をしてるんですか・・・?」
呆れ顔のルイスがパーティーから戻ってきた。
「あぁルイスお帰りぃ〜」
『ルイス君?!・・・・・また掛け直す。明日の昼だ、いいな?』
「えぇ!!?まだ話たりないのにぃ!!」
ガシャン!
電話の相手は急いで電話をきった。サレオスはしぶしぶ受話器を手放した。
「まったく、こんな公共の場でそういう恥ずかしいことはしないで下さい」
ため息をつきながらルイスは自分の部屋へと戻ろうとしたが、それはお酒の入ったサレオスに阻まれた。ルイスとしてはなかなか抵抗をしたが、日ごろから鍛えられているサレオスにはかなわず強引に彼の部屋へと連れて行かれた。
「お酒を飲んだんですね・・・・」
部屋のテーブルに置いてある蓋のあいたアルコールの強そうなビンがルイスの目に入ってきた。ダイゴローは相変わらずゆったりと横たわっている。
「まぁ座れ!そして話を聞け!」
「はいはい」
これだから酔っ払いは、を心中毒づくルイス。別に魔法で一発なのだが最近心が広くなったらしく、嫌な顔をしながらも話を聞くことにした。ルイスとしてはかなりの進歩である。
「なぁどう思う?!」
「知りません。ただの知人じゃないですか?」
話は病院の入り口でみたユフィールと一緒にいた男の話。ルイスにとっては本当にどうでもいい話だった。
「・・・そうか!久しぶりに会ってちょっとお話でも、というパターンかもしれないのか!?」
「じゃあ今度ユフィールさんに会った時にでも聞けば良いですね。それで解決です」
そう言って席を立とうとしたがガシッ、と腕を掴まれ着席させられた。
「でも・・・・もし本当に付き合ってたら??」
この人は、とルイスは頭に手をあてた。
「そんなに好きなら奪っちゃえばいいじゃないですか?ここでお酒飲んで愚痴ってるより全然良いと思いますよ」
「うばっ!?そ、そうか・・・・いや!でもやっぱりそれはユフィールさんのためには・・・・・」
「じゃあ諦めれば良いじゃないですか」
「それも嫌!!」
サレオスは子どものように駄々をこね始めた。ダイゴローはというと欠伸をしておやすみモードに入っている。
「サレオスさん、いい加減にしないといくら成長した僕だといってもキレますよ?」
ルイスの冷気を感じ取り、サレオスの酔いはいっきにさめた。
ルイスは部屋へと戻り、ダイゴローも寝てしまい、部屋の明かりを消してベッドにもぐりこむサレオス。先程のルイスの言葉が頭の中を回っている。しばらく唸りながら悩んでいると、いつも間にか眠ってしまった。
次の日の朝、部屋で朝食を食べながら新聞に目を通しているルイスのもとへ清々しいサレオスが乱入してきた。
「ルイス!俺は決めたぞ!俺は何があってもユフィールさんを諦めない!!ユフィールさんのあの笑顔は誰にも譲らない!!!」
「そうですか、ご立派ですね」
新聞から目を離さずにルイスは適当に答えた。サレオスはそんな事気にせず、ユフィールさんに会ってくる!、と勢いよく部屋を出ていった。
「一体何事だ?」
「頭を治しにユフィールさんの所に行ったみたいです」
なるほど、とハクセンは背を伸ばし、ルイスと一緒に朝食をとった。
まだみんな朝食をとってゆったりしている時間、サレオスは例の病院のもとについた。道には人は見当たらず、鳥の鳴き声が時々聞こえる。
「よし、まずは仲直りからだな・・・・」
病院の前で意気込むサレオス。すると扉が開き、一人の看護婦さんが出てきた。掃除をしているらしく、手にはほうきがある。
「掃除なんかは俺がやりますよ!」
「え?でも・・・・っていうか誰ですか?」
「看護婦さんて色々忙しいんですよね?こんな仕事は俺がやっておきますから他の仕事しちゃってください♪」
「はぁ・・・・・・・・じゃあお願いします」
「はいはぁい♪」
いつもの調子を取り戻し、ルンルン気分で病院の周りを綺麗にほうきで掃いていると一人の女性がサレオスのほうに歩いてきた。
「サレオス、さん?」
「あ!ユフィールさん!!おはようございます♪」
昨日とは全く様子の違うサレオスにユフィールは戸惑った。第一少しケンカっぽくなっていたのでは、と眉をひそめた。
「昨日はすいませんでした!!」
バッ、と勢いよく頭を下げるサレオス。
「その、俺ちょっと気になることがあって、それでちょっと取り乱しました。・・・・・まだ、怒ってます?」
ゆっくり顔を上げユフィールを覗き見ると、取り合えず怒ってはいないようだ。というより今の状況を把握できていないように見える。
「だから今日は、仲直りがしたくて・・・・ですね・・・・」
「は、はぁ」
ようやくユフィールが反応してくれたのでサレオスの顔は喜色に変わった。
「許して、くれますか??」
上体を少し屈めてユフィールに近づく。が、彼女は一歩後退した。その行動にかなりへこんだが、
「私も、昨日は失礼な態度をとってしまってごめんなさい」
そして頭を下げた。きょとん、としたままのサレオス。そして互いに目が合うとどちらともなく笑顔になった。
「というわけなんだよ〜vv」
完璧にのろけているサレオスがルイスの部屋でくつろいでいる。そのあとその場で少し話をし、今度会う約束、つまりはデートができる、ということをさっきから繰り返しルイスに語りかけている。もちろんそんな話をまじめに聞いているわけのないルイスは、ベッドに寝転びながら先程買ってきた新しいマンガを読んでいた。
「ハクセン、今回の本もなかなかだよ。なんと変な薬で子どもの姿になってしまった人の行く先々で事件が起こるんだ。僕としてはまずこの人が何より怪しいと思う。自分で事件を解決していくんだけど、そんな事してるんだったらまずこの人は部屋でじっとしていることをすすめるよ」
「・・・・そうか・・・・おもしろいか?」
「えぇ、結構人気らしく店に張ってあった売り上げランキングに載ってました。僕としてもかなりハマります」
「・・そうか、よかったな」
右からはサレオスののろけ話、左からはルイスの長々と続くマンガの感想、ハクセンは今日も昼間から疲労を感じるのであった。
コンコン
ルイスの部屋にノックの音が響き、サレオスがドアを開けた。見るとダイゴローに連れられた宿の人が立っていた。
「こちらにいらしたのですね。サレオス様、お電話です」
「電話?・・・・・あぁ!!!ありがとう!!」
思い出したようにサレオスはルイスの部屋を出て行った。
「もしもし?おじさん?」
『今日は大丈夫そうだな』
「ゴメン!!昨日は酔ってて」
『わかってる、それよりいきなり本題に入るが良いか?』
「おう!で、何だって?」
『出来ればルイス君がどこに住むとか、お金の問題とかをクリアするまで傍にいてやってほしい、ということなんだが』
「あぁ、全然問題ない。っていうか俺もしばらくここにいる事にしたし♪」
『そうなのか?どっちにしろそれは助かる。また何かあったら連絡を頼むぞ?』
「あぁ、任せとけって!」
『それと、ユフィールという人のこともがんばれよ』
「おじさん昨日ちゃんと話し聞いてくれてたの!?」
その後少しだけ世間話をしてじゃあまた、と互いに受話器を置いた。
その日の夜、今度はルイスを呼びに宿の人はドアをノックした。すぐに出てきたルイスは普段となんの変わりもなく電話で短い会話をし、受話器を置き、その顔は怪しい笑みをつくっていた。