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衝突

二つの動かない人間の死体がゴツゴツした道の上に転がっていた。


「おい」

「何〜?」


鋭い牙を持つ口の周りに赤い血をつけている豹が、木にもたれている長身で細身の男に話しかけた。


「いい加減飽きた。こんな弱い魔術師と剣術師ばかりを殺っても逆にストレスが溜まる一方だ。」

「そういわずにさ〜」

「だいたい、こいつらがエルランに手を出したかどうか聞く前に殺したらあまり意味をなさないんじゃないか?」

「・・・・ああ!?」


それまでユルイ笑顔だった男が周りによく響く声でようやく大事なことに気付いたのだった。



「ユフィールさん、どうぞ俺のタイスの方に乗ってくださいv」

「遠慮しておくわ。」


川沿いにルイス一行は徒歩で移動していた。後ろでの二人のやり取りを気を重くしてルイスは聞いていた。ユフィールは普段徒歩での移動をしているのでゆっくり行きたいと言いだしたのだ。ルイスにしてみればいい迷惑である。だがそれを一切顔に出さない。それどころか、話しかけられれば笑顔で答えるので何も知らないユフィールの中でルイスの株は上がる一方だ。サレオスはしつこくユフィールに話しかけるので若干ウザがられている。


「ユフィールさんのその茶色のかばんって何が入ってるんですか?」

「医療セットよ。」

「女医さん!?カッコイイィ!!」


そう言われたユフィールは浮かない顔をした。


「別に、かっこいい事なんてないわよ・・。」

「何でですか?!病を治したり命を助けたり、すごくえらいことだと思いますよ?」

「直せないものだってあるわ。救えなかった命だって数えたらきりが無い。」


そう言われるとサレオスは言葉に詰まってしまった。困りましたという顔で真剣に悩み始めてしまった。


「ふふ、あなたが気にすることじゃないわ。」


医術師か、と、ルイスはアカデミーの頃を思い出した。色白で髪を後ろに一つでまとめていたテムイである。彼もまた医術の道を歩んでいた。今頃研究していた薬品を学会で発表して世間をあっと言わせているのだろうか。そう考えると今ここでのんびりほのぼのと歩いている自分が情けなく思えてきた。


「ユフィールさん、テムイ、っていう医術師を目指してる僕と同い年の子がいるんですけど知ってますか?」


後ろを振り返ってユフィールに聞いてみた。


「テムイ?うぅん、聞いたことあるわね。誰?」

「オーヴァルガン国立アカデミーの生徒なんですけど、学会とかで色々発表もしてるんです。」


ユフィールは少し悩みながら、ああ!と手を打った。


「たしかつい最近新薬の合成法を発表した色白のあの子ね!」

「有名人なんですか??」


サレオスが悩むのをやめて話に混ざってきた。


「ええ、それなりにね。新聞にも載ってたわ。」

「へぇ〜。若いのに感心ですね。」


そうね、と笑いながら答えるユフィールにサレオスは鼻の下が伸びるのであった。

そんなサレオスを見てやれやれ、と思いルイスは前方に目をやると、何かがものすごい勢いで向かってくる。それは見る見るうちに大きくなり何かに人が乗っていることが分かる。


ザザザッッ!!!


それはちょうどルイスの目の前で止まった。近すぎてよくと分からなかったがどうやら豹のようだ。


「あ、どうもすいません。お怪我ないですか〜?」


気の抜けた声が豹のほうから発せられた。よく見ると人が乗っている。


「いえ、大丈夫です。」

「すっげー豹だ!カッコイイ!!」


サレオスは目を輝かせながら豹の顔をじっくりと観察している。


「やめて下さい。恥ずかしい。」


ルイスは手で顔を覆いため息をついた。でもたしかに豹というのは珍しい、と思った。しかもよく見ればしっぽが三つある。


「俺の召喚獣なんですよ〜。・・・っていうかあなた達は魔術師と剣術師?」

「そうですけど・・・」


ルイスは豹に張り付いているサレオスを離しながら答えた。


「へぇ〜、でも女性連れですか。じゃあお気をつけて〜。」

「はい、あなたもお気をつけて。」


名残惜しそうにしているサレオスと笑顔で手を振り合っているルイスと豹の上に乗った人。豹の姿が見えなくなるころにユフィールははた、と気付いた。


「そういえば魔術師と剣術師のペアの連続殺人があったわね。」


しばしの間。


「あああぁぁ!!!!」


いきなり大声を出すサレオス。ルイス達は耳に手を当てた。


「一体なんですか?」

「あいつ犯人だって!多分!!」

「そんな自信満々で多分と言われても。」


ルイスののん気な答えにサレオスはじれったそうにしている。


「まさか追いかけるつもりですか?」


ルイスは嫌そうな顔で聞くとサレオスは激しく首を縦に振った。


「ハァ・・・・。いいですか、もし犯人じゃなかったら無駄足です。仮に犯人だとしても僕達には関係ないじゃないですか。時間の無駄です。」

「ルイス!!」


サレオスがルイスの腕を掴むとすぐに振りほどかれた。双方にらみ合っていてユフィールはどうしたものかと固まってしまっている。


「犯人じゃなかったらそれでいい。けどもし犯人だったら?これ以上被害者は増えてほしくないだろ?」

「関係ないです。」


冷たい目と言葉でルイスは返した。サレオスは一瞬怒った顔をしたがすぐに悲しそうな顔をした。


「わかった。じゃあ俺一人で追いかけるよ。ユフィールさんをちゃんと護衛しろよ?」


そう言うなりサレオスはダイゴローに乗り走り去った。


「・・で、どうするの?」


ユフィールはルイスに聞いた。正直、ユフィールは今のルイスが今朝から知っているあの優しいルイスには思えなかった。まさかあんなことを言うなんて、と。ルイスはユフィールの質問には答えずきびすを返した。



「だーかーらー俺は西に行きたいんだよ!」

「いやです。」

「なんでだよ!?イリューマにも寄っていけるからいいって言ったのお前だろ!?」


言い合いをしている魔術師と剣術師。そこに一瞬にして豹とそれに乗った細身の男が現れた。


「なんだよお前!?」


剣術師は若干警戒をした。男は不敵な笑みを浮かべている。


「君達はエルランって知ってる〜?」

「は?」

「エメラルド色の髪で目がくりくりしてて、す〜っごくかわいい召喚術師なんだけど、知ってる?」


男の質問に二人は顔を見合わせる。


「いいや、知らないけど。」


剣術師のほうが答えた。すると男はため息をついて豹から降りた。


「なんかどっちにしろ不愉快だから殺っちゃって〜」

「ったくめんどくせーな。」


それでも豹は舌をペロリと出しこれから始まる事であろう惨事を楽しそうに想像する。

二人もこれから起こるであろう事を知り、とっさに身構えた。


「ちょーーーーーっと待てええぇぇ!!!!!」

「ん〜?」


男が今来たほうを向くと、先程オセに輝きの目を向けていた男が赤いタイスに乗って猛スピードでこちらへ向かってくる。


「とおぉ!!」


ちょうどオセと剣術師達の間に割ってはいる形になった。サレオスは一呼吸置いて、


「一応聞くが、お前らが魔術師と剣術師を殺し歩いてる犯人か?」


そう聞きながらダイゴローから降りた。


「あぁ〜まあそうかな?ちょっと用があってね〜」

「なんでそんな事してんだ?」


サレオスは直ぐ剣を抜けるような体勢をとった。笑顔の男は動かない。その代わり豹がサレオスに睨みをきかせている。


「エルランっていう召喚術師がいるんだけど、その子の事いじめたやつがいてね〜ムカついたからとりあえず手当たりしだい殺ってるんだ〜。」


なるほど。この男はあの船で会った少女の事を言っているのだろう。


「船の上での話だな?」


男はピクリ、と反応した。


「そうか、お前達だったか」


サレオスの背中に悪寒が走った。笑顔を崩さず、けれど男から発せられる殺気は尋常とは思えない。


「俺はシュワルガ。お前は?」

「・・サレオスだ。」

「ふ〜ん。で、さっきの坊やが連れだよね?」


一歩、シュワルガと名乗った男はサレオスに近づいた。サレオスは一歩、後ろに下がる。


「・・・いいや。」

「?」


ここでルイスのことを言ったら彼に被害が及ぶ。そう考えサレオスは知らぬふりを決め込んだ。


「悪いけどあの女の子と戦ったのは俺一人。連れだった魔術師はただ見てただけで、しかも違う大陸に渡ったよ。」

「へぇ〜。・・・どう思う、オセ?」

「お前よりは出来た人格だな。」


ククッ、とのどの奥で笑う。しかしシュワルガは顔は笑っていても目が笑っていない。

サレオスは後ろにいる二人に逃げるよう言った。二人もシュワルガの異常さを感じ取っていて震える足取りでその場から立ち去った。


「で、俺が殺っていいのか?」


オセはシュワルガに聞いた。


「うん、とり合えず片腕ぐらいは食べていいよ〜」

キィン!!


シュワルガがオーケーを出すなりオセはその鋭い牙でサレオスに飛び掛った。


「くっっ」

ドガッッ!!


サレオスはオセに蹴りを食らわせ距離をとった。しかしすぐさま鋭い爪が飛んできた。


ガッ!!

「このっっ!!」

「・・・」


その様子を見ていたシュワルガはだんだん腹立たしくなってきた。なぜこんなヤツにこんな時間をとられているのか。こんな三下に。しかもこれが終わったらあの魔術師も殺らなければならないのに。苛立ちの中、宙に赤い鮮血が飛んだ。


「ッッッ!!?」

「不味いな。」


オセは舌で口の周りについた血を舐めて言った。サレオスは左腕から大量の血を流しその場に倒れこんだ。


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