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船上

ダイゴローは体を横にして夜風を楽しんでいた。艶のある赤い毛がなびいている。そこに船員が近づいてきた。


「こらこら、こんな所で寝るなよ。ご主人様のところに戻んな」


優しく笑いながらそう言ってきたのでダイゴローも素直に従い、身を起こした。その時、大きな影が一人と一頭を包んだ。船員は訝しげに顔を上げると真っ青になった。


「モンスターだ!!全員起きろ!!!」


大きな声で叫んだ。ざわめきと同時に次々と部屋の電気がついていく。


「失礼ー、この子はそんな下品な生き物じゃないよ!」


なに、と船員とダイゴローは翼の生えた、龍であろう生き物をよく見た。すると背中にエメラルド色の髪をした一人の少女が乗っていた。


「失礼なあなたは一番最初にこの子に食べられてね♪」


言うなり龍の鋭い牙が船員に向けられた。


「うわあぁあ!!」


食べられた、と思いきや船員はどこにも痛みがないのに気付く。目を開けると少し離れた所に龍と少女がいる。相手が遠ざかったのか、と一瞬思ったが自分がさっきとは違う場所にいるのだと覚る。


「ふーん。ずいぶんお利口なタイス……」


少女が舌打ちしながらそう呟いた。何がどうなったか分からない船員の前に赤いタイス、ダイゴローが船員を守るように立った。どうやらこのタイスに助けられたようだ。


「おい!大丈夫か!?」


起きてきた他の船員達が寄ってきた。


「あ、ああ。それより確か護衛雇ってたよな!?そいつらを……」

「もう起きてますよ」

「船員さん大丈夫?」


凛とした顔のルイスと船員を心配しているサレオスがいつの間にか船員達の前に現れた。


「皆さん部屋へ戻ってください。危ないですから」


船員達はおろおろしながらも、頼んだ、と言いその場からいなくなった。そして皆窓から興味の目を光らせている。

広いデッキに龍と少女、ルイスにサレオス、ダイゴローが静かににらみ合っている。


「なぁ、ハクセンは?」


サレオスの気の抜けた声が空気を破った。


「さあ。まだ寝てるんじゃないですか?まあハクセンがいなくても余裕です」

「そうか、じゃあ俺は見学してるから」

「そうですね、足手まといになられては困りますし」


冷たく流すルイス。サレオスはため息をつきながら適当な場所に腰をおろそうと周りを見渡すとなんと腰を抜かし、逃げ遅れていた船員を見つけた。サレオスは近づいていき一緒に座って見学することにした。もちろんダイゴローも一緒である。


「若いお肉の方がいいわね♪」


少女は笑顔でルイスを見た。


「生憎ですが僕はおいしくないですよ。それに食べられる気もありません」

「おいしいかどうかはこの子が決めるのよ!」


少女が言い終わらぬうちに龍がルイスめがけて飛んできた。


「ヒュージ!」


すばやく防御魔法で龍を跳ね返した。バチバチッ、と火花のような音と小さな明るい光が発生し、龍はひるんだ。ルイスは休ませる暇もなしに大きな炎を食らわせた。


「ギャアァァ!!!!」


龍の鳴き声が大きく鳴り響く。翼の部分に炎が集中している。


「くっ、テテ!海へ!」


少女が命令を下すと龍はすばやく実行に移した。


ザバァッ!!


海へ入って直ぐにまたルイスの前に姿を現したが、龍は苦しそうにしている。


「テテ!大丈夫!?」


少女の質問に対して龍は力なくうなった。


「よくもテテを!」


少女は龍から降りてルイスを睨んだ。そしてなにやら唱え始めると龍の姿が消えていった。


「召喚術師ですか。っていうか自業自得ですよ」

「うるさいわね!あんたなんてこの子達にやられちゃえ!」


また唱え始めると少女の前に3体の鎧が現れた。皆右手に剣を、左手には大きなたてを持っている。


「剣が魔術にかなうとでも思ってるんですか」


呆れ気味にルイスは氷系魔法で動きを封じようとした。が、唱える前に何者かがルイスの持っていた杖を奪った。


「私って同時に違うの召喚できるんだよね♪」


少女の肩にルイスの杖を持った小猿が座った。

さすがのルイスも杖なしでは魔術が使えない。と、その時満面の笑みのサレオスがルイスに近づいてきた。


「なんですか……」


ルイスは嫌そうな顔でサレオスを見た。


「それがピンチを救ってくれるものに対する態度かね?」


フフン、と鼻を鳴らし若干ルイスに対して上の立場から言ってみたサレオスはかなりご機嫌だ。


「……さっさと働いてください。タダで乗せてもらってるんですから」

「お前ねぇ……」


せっかく立場が逆転したと思ったのに、とサレオスは肩を落とした。

少々やる気なく剣を抜いたサレオスだが鎧達はルイスめがけて剣をのばした。


キイィン!


剣が交わる音がなった。


「ルイス、あの船員さんと一緒にいてね?」

「わかりました」


一度身を引いたサレオス。ルイスは小走りに船員とダイゴローのもとへ行こうとしたが鎧によって行くてを阻まれた。


「テテをあんなにしてタダですむと思わないでよ!」


少女の怒気を含んだ声が飛んできた。

ルイスが少女に気をとられている間に剣がルイスの頭上で光る。


「ルイス!」

「!?」


間一髪でサレオスに助けられ一緒に転がっていき派手に木箱を破壊した。サレオスは直ぐに身を構え、向かってくる鎧達へつっこんだ。


「ハアァ!!」


1体の鎧がサレオスの一撃で吹っ飛ばされ動かなくなった。


「よし!あと2体。」


1体に狙いを定め、すばやく距離を縮めていく。


キイィン!キイン!


なかなかの腕だ、とルイスは初めてサレオスを感心した。サレオスと鎧達の攻防を悠長に眺めていると目の前に大きな蛇が現れた。


「っ!」


逃げようとしたが遅かった。蛇のしっぽに足をとられてそのまま体に巻きつかれた。


「うあぁ!」

「ルイス!?」


ルイスの叫び声にサレオスが一瞬の隙を作ってしまった。


ザヒュッ!


「っっツ!」


鎧の剣にサレオスの血がついている。左腕を負傷してしまった。


「うふふ♪」


少女の愉快そうな笑い声が聞こえた。そしてルイスの方へと近づいてきて蛇に命令を出した。


「ゆっくりね、テテをあんなにしたんだから簡単には殺さないよ♪」

「くっ」


蛇は言われたとおり徐々に力を入れていった。ルイスはだんだん呼吸が苦しくなってくる。

その時ダイゴローは迷っていた。主人であるサレオスを助けるべきか、今にも死にそうなルイスを助けるべきか。


「ダイゴロー!ルイスを!」


主人の叫びを聞くや否やダイゴローはすごい速さで蛇に襲い掛かった。


「シャアアァ!!」


蛇も負けじとしっぽと頭を使って攻撃した。少女はいったん離れて様子を見ている。

サレオスは左腕をかばう形での戦いになりかなり手こずっている。が、白い物体が鎧に体当たりをしてすぐさまサレオスの負傷した左腕の方へ寄ってきた。


「ハクセン!」

「何とも面白いことになっているな」


チラッ、とハクセンはルイスの方に目をやった。


「お前のご主人様はルイスだろ?早く行ってやれよ」

「……良いお灸だ」


そう言うとルイスのいる方ではなく鎧へ攻撃を仕掛け、余裕で1体を倒した。


「はぁ……なんか後でいやぁな予感が……」


サレオスの心配はおそらく的中するだろう。なにせルイスの視線が痛いのだから。

それは主人である自分を助けに来ないハクセンへの睨みである。たしかにサレオスは負傷しているけれど、と思いつつもこっちは死にそうなのだと声に出ない叫びを叫んでいた。


「ヤバイ、かな?」


少女は冷静に今の状況を考えていた。すでに4体も召喚しているのでこれ以上の召喚は少女には厳しい。この船からの脱出を考えるとまたテテクラスの召喚をしなければならない。何より少女にはこれ以上自分の召喚獣達が傷つくのを見ていられなかった。眉間にしわを寄せながら少女は今いる召喚獣達を消して、その代わりに大きな鳥を召喚した。


「今日はいったん退くけど今度会ったらタダじゃおかないから!!」


そう捨て台詞を残し、少女は夜の闇へと消えていった。

少々散らかったデッキには気を失ったルイスと血を流しているサレオス、息の上がっているダイゴローに冷静なハクセン、そして未だに腰を抜かしている船員が残された。

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