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相性

「それで、何の御用ですか?」


最初に口を開いたのはルイスだった。手元にはオレンジジュースがある。

店は落ち着いた感じの喫茶店。男は紅茶を頼んだ。


「そうだなぁ、直球と変化球はどっちがイイ?」

「……直球でお願いします。」

「そうかぁ、俺はどっちかって言うと……」

「帰りますよ?」

「ま、待て待て!すまん。じゃあ直球で。つまりは仲間になってほしいわけだ」

「……はい?」

「だから、俺と一緒に旅へでよう、みたいな?」


本気で言っているのかいまいち掴めないこのサレオスという男にルイスは否応なしに警戒してしまう。男はタバコを吸い始めた。


「詳しく言うとだな、俺はあるものを探している。で、旅にはやっぱ魔術師って必要だろ?シワのじいさんに良い奴いないかと聞いたところ坊やの名前が出てきたわけ」

「僕は坊やではなくルイスです」


若干不機嫌オーラを放ちつつとり合えず男の話を聞くことにした。見た目は怪しいがそうでもないらしい。あのおじさんの知り合いと言うことだけでなんとなく警戒心が薄れていく。


「悪かった。で、どうだ?」

「お断りします」

「なんで!?」


速攻過ぎるルイスの答えに男はタバコを落としそうになった。


「僕も旅をする身ですがあなたと目的は違うと思います。あなたは見たところ剣術師のようですから」

「そうだな。だけど俺は当てもなく探してるからどこに行くとかはお前が決めてくれてかまわないぞ?」

「……そんな適当な……じゃあどうでもいいものを探してるんですね」


ため息混じりにそういった。


「まぁそうだな。でも俺にとっちゃ、っていうか剣術師にとっては結構なものなんだが一切手がかりがないもんだからどうしようもないんだよ。お前は何の旅なんだ?」

「そうですね……今は取り合えず魔術大国のイリュ―マに行くことです」

「おぉ!俺も行きたいと思ってたんだよ。じゃあ問題なしだな。とりあえず金もらってさっさといこうぜ!」


サレオスは席を立ってルイスの腕を引っ張って外へ出ようとした。


「ちょ、待ってください!僕はまだ良いとは言って……」


ルイスの抵抗もむなしく店をでてお金を受け取りに維持隊の建物へと向かった。道中は恥ずかしいので騒げなかったが地下でお金を受け取るや否や反論を始めた。


「僕の話を聞いてください!仮にあなたが僕の行きたいところについてくるので良いとしても僕が困ります!」


地下にはあまり人がいない。しかしなかなか声は響き渡る。


「なんでだよ?何かやましい事でもあるのか?」


からかうように笑いながらサレオスは聞いてきた。


「違います。僕は強いですがあなたはどうなんですか?僕は弱い人と旅をする気はありません。足手まといになるだけです」

「おぉ〜優しそうな顔して結構酷いヤツなんだな」


真顔でそういわれてルイスはついカッとなってしまった。


「そうですよ、僕は冷たくて酷い人間なんです。自分のことしか考えていません。平気であなたを見殺しにしますよ、それでも良いって言うんですか?」

「あぁ、いいぜ?」

「……は?」

「っていうか俺強いからそうそう死なないから」

「丸腰のクセによく言うな」


突然の声に二人とも振り向いた。そこにはシワだらけのおじさんが剣を片手にこちらへ歩いてきている。


「もしかしてその剣俺に?」

「他に誰がいるって言うんだ?まったく、手間のかかる子どもだな」


優しくサレオスに笑いかけながら剣を渡した。ありがと、と短く少し照れながらサレオスは剣を受け取った。


「ルイス君、もう強盗殺人犯を捕まえたそうじゃないか?すごいね」

「いえ。あ!それより次の仕事もらえますか?」

「あぁ、用意しているよ。五十万フィル以上のだろ?」


ルイスにも優しい笑顔で答える。ついておいで、と例の三階のパイプがむき出しになっている部屋へ案内された。サレオスも一緒である。

おじさんは紙が山積みになっている机から一枚選んでルイスに手渡した。ルイスはすぐさま受け取り金額を見るとそこには80万フィルと書いてあった。


「おじさん、金額がすごいことになってる……」

「それは最低二人でこなす仕事なんだ。がんばってくれよ?」

「おぉ!気が利くじゃん、これでルイスと仲良く旅仲間になろうって事だな!」

「え?」


ルイスは怪訝そうにサレオスを見た後心配そうにおじさんの顔を伺う。


「悪いやつじゃない、それにいくら強い君でも子どもの一人旅はわしは心配だよ」

「そういわれても……」


しかもなぜ昨日あったばかりの人間に心配してもらっているのか、ルイスにはそこかわからなかった。


「ぐだぐだ言ってないでさっさと終わらせようぜ?じゃあまたな!」


そして再び強引にルイスの腕を引っ張っていくサレオスにルイスは頭がくらくらしてくるのであった。



「なるほど、豪商の護衛ね。観光にもなっていいんじゃない?」

「……はぁ」

「そんなため息ついてないでいくぞ!出発は明日みたいだから今日のうちに俺たちのこと言っておかないと」


ルイスはうなだれながらサレオスの後をしかたなく追った。しばらくしてルイスは口を開いた。


「なんでおじさん僕が一人旅してるってわかったんですか?」

「興味本位でちょっと調べたんだとさ」

「へぇ……」


なかなか気を抜いてはいけない人なんだと思ったがどうしても雰囲気が良い人なので勝手に調べられてもあまり引っかかりはしなかった。

豪商に顔を出し、二人はルイスの泊まっている宿へと帰っていった。


「なんであなたも同じ宿に泊まるんですか?」


二階へあがっていく階段でサレオスの顔を見ないでルイスは尋ねた。


「別に宿なんてどこでもよかったし。それにお前と一緒なら朝起こしてもらえるだろ?」

「自分で起きてください」

「この仕事二人でなきゃ出来ないんだぜ?いいのかぁせっかくの大金ゲットのチャンスを逃して〜」

「……出来る限り自力で起きてください」


それだけ言ってルイスは自分の部屋に入っていった。


「気難しい坊やだなぁ」


頭をボリボリかきながらサレオスも自分の部屋へと足を向けた。



「疲れた……」

「ルイス様の苦手なタイプですね」


ベッドに体を投げ出し姿の見えないものと話し始めた。


「そうだね。一緒に旅だなんて考えただけで気がめいるよ」

「ですが悪い人ではないと思います」

「そうだけど……相性ってものがあるよ。あのおじさんはホント良い人だけど……」


人とは不思議なもので相手のことをまったく知らないにもかかわらず好きだの嫌いだのと決めることがある。ルイスはおじさんのことを何一つ、名前すら知らないのに好感を抱いている。


「なんでだろうね……」

「何がですか?」

「……こういうのがなければ争いなんて起きないのかもね。みんながみんなと波長が合って衝突しない、そうしたらすごく平和なのかな……?」


窓から見える星空を見ながらルイスは遠い目をしている。


「……それは味気のないものではありませんか?」

「わからない。僕には何も分からないよ……」

「……」

「それがすごくもどかしい。息苦しいんだ。鎖で繋がれているのと同じぐらい僕には耐えられない」

「耐えるべきものは耐えなければなりません」

「なんで?」

「ルイス様はそれらを無駄と考えるかもしれませんが、この世に無駄なことなど一切存在しません。広すぎる海や空を無駄と思いますか?」

「……そんなの考えたことなかった」

「ルイス様を締め付けていたご両親を不必要と思いますか?」

「……フェイ、君は時々すごく僕を不愉快にするよね。両親がいなかったら僕は生まれなかったんだよ、不必要なわけがないだろ?」

「ではご両親を今も必要と思っておいでですか?」

「……」


ルイスは言葉に詰まってしまった。


「私が感じるところ、サレオス様はルイス様が持っていないものを持っています。あの方との旅はルイス様にとってとてもいい経験になると思います。どうぞあの方の申し出を快く受け入れてください」


それには答えずルイスは眠りについた。重い気持ちを残したまま。


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