6 虚飾の城
その建物は、湖に面した一等地にあった。大規模ファミリアにありがちな多層構造の建物で、おそらくは四階建て。
「いいとこ住んでんじゃねえか。ドラゴンアイの奴ら」
なんだかんだ、水場が近くにあるのは利便性が高い。俺の拠点を襲撃し壊滅させた連中は、予想通りかなりの力を持っているようだ。人数もファミリアの上限である三十人か、それに近い。
「にしても、一度見に来て正解だったな。色々とわかる」
外から見るだけでもどういう構造をしているのかはなんとなくわかるものだ。恨みを買っている自覚はあるのか、ドラゴンアイの活動拠点はかなり防衛にも力を入れているよう。というか、構造的にBlood Night時の防衛拠点も兼ねているみたいだな。まああんなことをやってるやつらだ。同じことをされる心配は当然しているわな。
だけどこうやって冷静に観察するとところどころ構造に歪さが見て取れる。おそらくベースは別の形で、それをファミリアの規模拡大かなにかで増設したのだろう。もしかしたら最初は別のサバイバーから奪ったのかもしれない。いくつかの柱は、それ一本失うだけで大穴が開きそうだ。
言っては悪いが、大量の資材を費やして硬く見せかけているだけで、センスがない。
うん。来てよかったな。おかげでやつらを潰すための算段が思いついた。
「ま、そのためにもまずは戦力集めからだ」
厳選した強力なゾンビの兵隊を用意する。これは最低条件だ。それまでは、手を出すべきではない。容易でないことを再認識したところで、俺は憎い敵のアジトを後にした。
◆
赤い月が昇る。Blood Nightにディアボロは力を増し、サバイバーとの力関係は逆転する。
奴らに拠点を潰されてから、もう二ヶ月弱か。復旧よりも優先して戦力増強に多くを費やしたことで、いよいよ準備が整った。
「前進しろ」
指揮能力に長けたスキル構成にリビルドした俺は、Blood Nightでさらに底上げされた支配数の上限までゾンビを引き連れ、赤い月が上るのとともに攻撃を始める。
まずは拠点の防衛リソースを削るところからだ。ドラゴンアイの拠点は形状の歪な配置のせいで、中からでは攻撃できない角度が複数存在している。それらの死角を補うべく、自動攻撃のタレットが配置されているのだが、これらの弾は有限だ。どれだけの物資を溜め込んでいるかは知らないが、タレットに込められる数はもっとも容量の多いものでも500発が上限となる。しかもかなり無理のある配置になっているのは前回の偵察で把握している。アクセスがしづらく、弾の補充には手間取るはずだ。戦闘中の作業はまず無理。本来はゾンビの攻撃ルートを誘導した上で、外れた少数をタレットで処理する構想だったのだろうが、動かす頭があるならそりゃ狙う。大規模な拠点を攻めるディアボロがほぼいない今の環境に胡座をかいたな。
「ほら、おまえらもこっち来な」
削れた頭数はその場で補充し、死角の部分に送り込み続ける。あまりに集中させすぎても渋滞を起こすのでメインの攻撃は二箇所とし、嫌がらせ程度に他にも分散させる。
「やっぱ指揮能力上げるとBlood Nightはすごいことになるわ」
スマッシャービルドは通常時の遭遇戦には向いているけどBlood Nightでの攻城戦には不向きだからな。
ただドラゴンアイの防衛力もやはり脅威。この前見たアシュレイの例からして全員が詰めているわけではないようだが、それでも中には何十人とプレイヤーがいるのだろう。頭数はそのまま処理能力に比例する。ぶち抜いた壁の内側から激しい銃撃が行われ、群がるゾンビが次々と消し飛ばされる。
「侵入はまだ無理か」
ゾンビの攻撃は手の届きやすい胸の高さのブロックに集中する。で、そこがぶっ壊れると中から斜線が通るようになるけど、内側に乗り込むには穴が小さすぎる。
「でもどっかで限界は来るだろ」
タレットやその他トラップのない場所からの攻撃を止めるには人が直接撃たないといけないからな。頭数が多いからなんとでもなっているだけで、攻めのルートが増えればいつかはパンクするはずだ。
俺はゾンビを指揮する傍ら、ブロックを配置して更なるルート開拓を進め、同時にタレットを直接ぶん殴れる足場を用意していく。そして数が減らされた分はその場にいたゾンビを支配して残弾補充。人が多い分山ほどポップしているから回収には困らない。問題は正直クソ忙しいってこと。ただ支配下にないゾンビのAIは最短ルートを攻めてまとめて処理されるから、ちゃんと分散するようこっちで調整しなあかん。
「あと十分!」
中で誰かの言っているのが聞こえてきた。もうそんなに経ったか。Blood Nightが終わればゾンビの供給が止まるし日光下じゃまとめて弱体化する。内部への侵入ルートはまだ開いていない。
「硬すぎんだよ。馬鹿みたいに鋼鉄使いやがって」
やってることは最悪だし腕も悪いが、プレイ時間だけは褒めるべきかもな。おまえらみたいなのが居座ってるから人口が減るんだよ。
とはいえそろそろ、建物のほうは限界が近い。いろんなところを殴りまくっているから、壊れるときは一気に行くはずだ。
そしてそのときはやってくる。高い耐久値を誇る鋼鉄ブロックもついに破壊され、ゾンビが入るだけの穴ができた。ゾンビたちの動きからそれに気づいた俺は、すぐにフリーのやつらを流し込む。
「よし! 中で暴れまくれ!」
狭い室内じゃ火力を集中させられない。数を送れば止めきれなくなり、混乱は建物内に一気に広がる。内部での混乱は外に対する迎撃能力を劇的に落とし、耐久値が限界に近かった他の防衛線も連鎖的に崩壊していくこととなる。
「野良ゾンビどもの流れも変わったな」
だが抵抗はまだまだ激しい。潤沢な弾薬と強力な装備のせいで、多少殴られた程度では倒しきれないのだ。でかい銃声が絶え間なく響き、爆発音がそこに混じる。間違って自爆してくれたら流れも変わるかもしれないが、そんなものに期待すべきじゃないだろう。
そうして攻めきれない中で、いよいよ東の空が藍色に染まり出す。
「くそっ! 押しきれねぇ!」
Blood Nightが終わる。室内なら日光の弱体化は関係ないが、湧きが途絶えれば戦力は減るばかりだ。同時にゾンビへの支配力も平時のそれへと戻り、容量オーバーになった戦力のコントロールが外れる。
このままなら全滅は時間の問題だ。強引に攻め続けても1キル取れるかどうかだし、ぶっちゃけここまできたら俺が止まる意味自体あんまりない。リビルドで弱くなったし。ただだからといって大人しく討たれるのは腹が立つし、まだ混乱がおさまっていないうちに逃げることにする。そうしている間にも中の手下が続々やられているのが、リストから見てとれた。
「よしこっち来な」
Blood Nightの終了でヘイトが切れて彷徨いている野良がいたので回収。弾除けにはなるだろう。だが、ここまでガンガン攻められて、拠点もボロボロにされたドラゴンアイが黙って見送るはずもない。聞くに堪えない暴言と共に、サバイバーたちが追いかけてくる。その動きは完全に、俺を完膚なきまでに叩きのめすためのものだった。
おまえらなら絶対、そう来ると思ってたよ。
次回投稿予定は明日12時です。
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