5 悪意の搦手
戦力を補充してから反応へ向かった俺は、ひとつの建物にたどり着く。谷間に隠されるように建つ建物はおよそ真四角で、ひとり用と思われるくらいの小さなものだ。その平らな屋根の上に、そいつはいた。
金属のアーマーで身を守り、ショットガンを手にした赤髪の男。名前はアシュレイ。俺の記憶にない名前だが、その下に表示されたドラゴンアイのファミリア名はしっかりと覚えている。間違いなく、俺の拠点をぶち壊してくれやがった一味だ。
それにしても、ずいぶんと追い込まれているようだ。アシュレイは屋根からショットガンでゾンビを撃ち下ろしているが、足場の建物はすでにボロボロで、壊れた壁から中の様子が見えている。いい気味だ、と思いながらどういった防衛を使っているのか今後の参考のためにも目を凝らす。だがそこで、予想外のものが目に入ってきた。
「あいつ、やっぱクソじゃねえか!」
壊れた壁の向こうに見えたのは、俺も見覚えのある、製造施設やキャビネット。それが示すのは、あれがBlood Nightを乗り切るための防衛拠点ではなく、平時に利用する通常の拠点ということだ。もちろんBlood Nightを忘れていて襲撃を受けたマヌケの可能性もなくはないが、よく見てみればブロックを積み上げて屋根に登った痕跡が残されている。つまり建物の構造は無視して無理やり屋上まで上がっている。
トレインだ。
このゲームはあくまでサバイバー対ゾンビの構図なので、サバイバー同士、ゾンビ同士では攻撃が効かない。他のサバイバーが拠点設定した建物は破壊できないし、許可なくアクセスすることも不可。
だからゾンビを誘導して壊させている。キャビネットを破壊して物資を奪うつもりか、それとも単なる愉快犯か。目的はどうあれ、数ある迷惑行為の中でもことさら嫌われるうちのひとつ。
運営が対策しておけ、と言いたいところだが、やっぱり思いついて実行するやつが悪いな。これは。
「どうするかね、これ」
こうなると攻めるのも気が引ける。確実に被害が広がる。ただすでにかなりの壊されているし、放置してこのまま成功させるのも胸糞悪い。
やっぱり倒そう。建物の持ち主には申し訳ないが、これを無視はできん。
そうなると、どう攻めるかだな。見たところアシュレイの立ち回りはとても上手いとは言えないが、装備は潤沢だ。あれだけ撃ちまくっているあたり、弾薬も山ほど抱えているのだろう。
ただ時間もあまりないし、ここはシンプルにゴリ押すかな。もうひとつ、壁を壊して屋根を落とす方法もできそうだけど、流石に持ち主に悪いし。
「ショットガン以外も持ち込んでたら面倒だが……」
逆にショットガンしかないなら楽だな。射程が短いので距離をとって何をしても止められない。俺は少し離れたところからブロックを積み上げ、ゾンビたちの侵入経路を用意していく。これで撃ってくるようなら工夫が必要だが。
「何もできねえなら余裕だな」
ソロでの処理能力なんて高が知れている。だからこそ防衛戦ではゾンビの攻撃ルートを制限し、遅滞戦術で処理の余裕を稼いでいるわけだ。
「てめえっ! 邪魔すんじゃねえ!」
いまさら俺の動きに気づいたらしい。屋根の上から喚くアシュレイ。もちろん無視する。そもそもディアボロはサバイバーを襲うのが基本のゲームだからな。でもって、アシュレイはショットガン以外の武器を持ってきていなかったらしい。離れた位置で作業する俺に対し、言葉以外を届けることができない。
「せけえぞ! こっちこいよおいっ!」
「ガキかよ」
卑怯なことをしているのは他人の拠点にゾンビを誘導しているアシュレイの方だろうに。自分に都合のよいことはすべて許され、都合の悪いことは許されないのだろう。
もちろん聞くつもりはないので、淡々と作業を進める。そうしてブロックで屋上へ向かうルートを作り、最後は一気に開通。
俺がルートを作るや否や、これまで壁を壊そうとしていた野良のゾンビどもが一気にそれを使い始める。これまでは安全な位置から撃っていたから処理できていたアシュレイだが、こうなるとすぐに対応が追いつかなくなる。ぶっ放している間は押し返せても、リロードの隙を待ってはくれない。
「クソが!」
このままでは持たないことは流石にすぐわかったようだ。ゾンビの波が一瞬途切れたところでアシュレイは屋根から飛び降り、いくつかの薬を飲み込む。そして襲ってきたゾンビをショットガンで排除。距離ができたところで走りながらリロードする。
「そりゃ最初から壊す予定だったんなら野戦の準備くらいしてるか」
逃げ回ることで距離を取り、詰められたら攻撃する。あえてそういうことをやる変人もいるくらいなんだからできなくはない。それにショットガンにはゾンビキルでスタミナが回復するスキルがあるので、なおさら野戦は得意だ。
たださ、Blood Nightの野戦って、あくまで全部のゾンビが一目散にプレイヤーを狙うAIだからこそできるんだよな。走りながら向かってくるゾンビを撃てばいい。けどそこにプレイヤーの指揮が加わり、包囲するように動いたら。
「雑魚しかいないし上手いやつはこれでも捌くが……」
まああの立ち回りじゃ無理だろうな。裏から回り込ませたゾンビに背中を殴られ、包囲されていく。それでも防具の性能が良いのでダメージを受けながらも耐えているが、ここまで追い詰めれば俺自身が直接接近するのも容易い。
「あ、もう終わりか」
スマッシャーの攻撃力でぶん殴ってやったら、一撃でノックアウトした。すでにだいぶ削れていたらしい。まあ、近くで喚かれなかったのでよしとしよう。
次回投稿予定は明日12時です。
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