4 大襲撃の夜
Blood Night Survivurの世界ではおよそ半年に一度、赤い夜が訪れる。リアルだと週に一度。毎週日曜日の午後9時半過ぎ。真っ赤な月が天に上り、ディアボロは大幅に力を増す。
Blood Night。このゲームの目玉システムのひとつで、この一夜だけはディアボロの制御可能なゾンビの数が5倍に跳ね上がり、サバイバーとの正面戦闘での力関係が逆転する。数が多過ぎて銃の制圧力が追いつかなくなるのだ。さらには研ぎ澄まされた感覚によりサバイバーの居場所がおおよそながら把握できる。
同時に野良のゾンビも数多くポップし、索敵能力が跳ね上がってサバイバーに襲いかかる。まさに、大襲撃の夜だ。
小高い丘の稜線で射線を切りながら、俺は川辺に建てられたいかにも堅牢な建物を眺めて、マップの表示と見比べる。
マップの表示からして数は2人。間違いなく中だ。稀に嬉々として野戦に繰り出す酔狂なプレイヤーもいるが、それは例外。ほとんどのサバイバーは防衛拠点に引きこもり、ディアボロの襲撃を迎え撃つ構えを取る。だから実際のところ、Blood Nightならサバイバーを狩りやすいかと言われればそんなことはないのだが、せっかく週に一度のイベントだ。楽しまない理由はない。
拠点攻めはいかにしてこちらの戦力が削られる前に落とせるかが重要だ。俺は中からの攻撃が届かない位置から観察し、攻撃プランを考える。
「見た感じ向こうの拠点は高床式。まあオーソドックスな奴だな」
柱で建物自体を持ち上げることでゾンビの侵入経路を絞り、防衛力を集中させるとともに固まったゾンビをまとめて倒すコンセプトの防衛拠点だ。
真っ向勝負、は無理だな。ガッツリ強化したゾンビを揃えればあるいはってレベルだ。今回はただの野良ゾンビを40体、頭数揃えただけ。それに強化ゾンビ大量投入でのゴリ押しは、たとえ勝てても被害が大き過ぎてリターンと釣り合わない。拠点を落とせたところでディアボロが手に入れられるのはサバイバーの心臓だけだ。どうせここはBlood Night用の防衛拠点で、活動拠点は別にあるだろうけど。
この手の拠点は柱を壊せばまとめて崩落して楽に勝てたんだけどな。昔は。
最近はサバイバーも対策が進み、柱を優先的に強化するのはもちろん、罠を仕掛けたり上から撃てるように作られている。目の前の拠点も、柱はゾンビプレイヤーでは使えない鉄筋コンクリート製な上に金属のスパイクで防御されている。あれをまともに壊す時間などくれないだろう。見た感じ1本折った程度じゃ崩れないし。
こういった攻略法の開拓と対策の構築はイタチごっこなので仕方がない。
ただ柱を対策しても根本的な高床式の欠点は変わらない。ゾンビの動きに能動的に対応するのが苦手なことだ。進路を制限しやすく少人数でも容易に高い防衛力を出せるが、一瞬だけ外に出る、ということができないから、事前に用意した範囲でしか動けない。柱が弱点というのは知れ渡ったため皆対策しているものの、攻める手段はほかにもある。
「北側が攻めやすそうだけど、射撃窓がひとつもないのはちょっと怪しい気もするな」
あえて隙を晒して誘導し、壁の裏に罠を仕掛けてはめる、なんて戦法がこの前動画で上がっていた。そういう狙いがあるのだとしたら、正直に突っ込むのは危険だ。なら、狙い目は北東方向か。四角の建物はどうしても角の方向へ攻撃しづらい。壁の裏に仕込みがあるならなおさらだ。
防衛考えるなら豆腐より五稜郭みたくしたほうがいいんだよな。作るのは大変だけど。とまれ、攻撃プランが立ったなら後は攻めるばかりだ。一度離れ、大きく迂回するルートで位置取り。ゾンビたちに命令し、一気に攻めさせる。中のサバイバーは当然俺たちのことに気づいていて、いよいよ姿を見せたゾンビの軍団に次々と射撃を行う。角度的に狙いづらいところを突いたから精度が悪いが、それでもこちらの数が多いのでかなり当てられる。
だが群れに紛れ込んだ俺は一発も当たらずに済んだ。運がいい。そのまま建物の下まで潜り込み、インベントリから取り出したブロックを次々設置する。作るのは階段。それをゾンビたちが一気に登り始め、俺は下でさらに階段を拡張していく。
建築能力がある以上、プレイヤーはゾンビたちの指揮官であると同時に強力な工兵にもなる。新たに作られた道にゾンビたちが殺到し、引きこもった獲物を餌食にしようと壁をガンガンたたき出す。このまま数でひたすら殴れば、いくら硬いコンクリートの防壁でもいずれは壊れるだろう。もちろん、サバイバーも指をくわえてみているだけではないが。
「させねえよ」
即席階段に爆弾を投げつけられそうになるのを、ブロック配置で防ぐ。もちろん俺自身は中から狙えない位置をキープしつつ。
「これまずくねっ!? 耐久ゴリゴリ削れてんだけど」
「脱出準備するぞ!」
ああ、脱出口あるのね。外がうるさいから大声で喋ってるんだろうけど、お陰でこっちまで筒抜けだ。この辺り、ディアボロ側も経験してないと気づきづらい。
この建物の構造だと、この辺かね。壁にわかりづらくカモフラージュされたドアを発見。
「らっしゃい」
顔合わせの挨拶はグーパンチだ。スマッシャーの近接攻撃力でぶち込めば、サバイバーは綺麗に吹っ飛んだ。開いた道から、手下のゾンビがどんどん入っていく。こうなればもう終わりだ。防衛拠点は敵の侵入を防ぐため出入りできる場所が限られ、サバイバー側が脱出することも難しい。今回は脱出口から逆に侵入したので尚更だ。
それでもしばらくは抵抗したが、マガジンが空になればそれも終わる。最終的には多数のゾンビに集られて、壁に押し込まれながら死亡した。
「で、これだけやっても報酬変わらんからなぁ」
サバイバーをキルすることでのみ手に入る心臓だが、これの入手数はBlood Nightだからといって増えることはない。いくらこっちが強化されるといっても、ガチガチに防衛を固められているので倒すのは普段より面倒なくらいだ。サバイバー視点、大量のゾンビを倒せる経験値イベントと言われているほど。
ただそれでも普通に楽しいからこうやって参戦する。何も効率だけを求めてゲームをするわけではないのだ。
「弱いゾンビならいくらでも集められるし、時間的にギリもう一箇所行けそうか?」
かなりスムーズに進められればだが、不可能ではない。マップを見るとちょうどいいことにソロプレイヤーが近くにいるようだし、今日の締めとした襲撃を仕掛けよう。そう判断した俺は、すぐに次の襲撃へ動き出した。
そうして俺は、追いかけていた仇と再会する。
次回投稿予定は明日12時です。
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