3 異種生存戦略
ドーテムタワーを脱出した俺は、手に入れたゾンビを引き連れて街の外へ。リスポーンした森の入り口まで戻ると、ゾンビたちに木々を破壊して木材を集めるよう命じた。
Blood Night Survivorはゾンビ系のサバイバルクラフトゲームだ。ゾンビプレイヤー側はゾンビ生産以外のクラフト要素はほぼないが、唯一拠点建築の基礎部分だけはサバイバーと共通仕様になっており、自然物から木や石を集めることはできる。道具を使えないから単独での効率は最悪だが。ゾンビを使える分、数任せで効率化を図れる。
素手で愚直に木を殴るゾンビたちを脇目に、俺は先程手に入れたサバイバーの心臓の使い道を考える。これが、ディアボロにとっての最重要アイテムであり、プレイヤー視点でサバイバーを攻撃する理由だ。文字通りサバイバーをキルすることでしか入手できず、一定以上のゾンビ生産設備を作ろうとすると必ず要求されるアイテム。なお、同じサバイバーから連続で手に入れることはできないので、リスキルは無意味である。
本当はちゃんと準備を整えてから挑むつもりだったが、遭遇戦で手に入れられたのは僥倖だ。
あいつらをやっつけるためには、手持ちは最高クラスのゾンビで揃えなければならない。それでも戦力としては全然足りないくらいだ。
安定して用意する必要はないので、ベースは野良ゾンビから強い個体を使うのがいいだろう。サバイバーの心臓をはじめとしたリソースは生産より強化に回したい。
ゾンビ改造装置に要求されるサバイバーの心臓は5つ。これは最低限で、強力な改造を施すにはそれ自体に心臓を消費する。
ただ改造装置を作るにしても、ターゲットがいるのはワールドの中央近くだ。ここからだと遠すぎる。
となると、まずは移動だな。だがそろそろ夜が明ける。昼間の長距離移動は危険が大きい。
ゾンビに集めさせた木材で掘立て小屋を作り、リスポーン地点を更新。日が昇るまでの間は、ここを拠点に建物内でゾンビ集めとサバイバー探しをしながら過ごすことにしよう。
◆
ゲーム内時間午後8時5分。集めた中から選りすぐりの8体を引き連れた俺は、今後活動拠点となる場所へ向かって移動を開始した。
問題は、途中に横たわる森林バイオームだ。このゲームでの主な敵モブであるゾンビは、同じくゾンビであるディアボロのプレイヤーを襲わないが、ならほかプレイヤー以外から攻撃されることはないかといえば、そんなことはない。Blood Night Survivorにはゾンビ以外にも凶暴な野生動物が存在し、それらはこちらが生きていようが腐っていようが関係なく襲ってくる。特に森林バイオームに出現するグリズリーは、接近戦において最強の存在だ。今の戦力なら殴り勝てるが、被害は免れない。
とはいえ迂回すると遠回りが過ぎるし、多少の損害は割り切って進もう。そう考えた俺は、夜の間に目的地に着くべく森を縦断することを決意するのだった。
「いや、多少やられるのは許容するつもりだったけど、ちょっと遭遇しすぎじゃね?」
森に入ってからリアル10分。すでに4体目となるグリズリーの死体から心臓を回収しながら、思わず声を漏らす。グリズリーなんて、一晩森に入って1体遭遇するか程度のはずなんだけどな。確かに熊の心臓も強化用アイテムとして欲しいは欲しいけど、何も今こんなに出なくても、というのが本音。
「おかげでまたゾンビが減っちまった」
時間が経てばゾンビの体力は回復するが、完全に破壊されてしまえば戻らない。そしてゾンビの数が減れば熊を撃破するまでの時間が伸び、被害はさらに増大する。
「これ以上遭遇するのはきついぜ?」
残ったゾンビはあと1体。これではグリズリー相手に殴り勝てない。だが、探してるときは見つからないくせに、こういうときだけやたらと姿を見せるのは物欲センサーの亜種だろうか。まるでそうなることが決まっていたかのように、黒い獣は木々の奥からのっそりと姿を現す。
「げっ」
しかもタイミングが最悪だ。木が邪魔して近づくまで気づけなかった。
「これだから森ん中はっ」
すぐにその場で垂直跳び。簡易拠点建設で余った木ブロックを積み上げる。サバクラ系ゲームの多くで伝統的にできるテクニックだ。間一髪、グリズリーの腕の範囲から逃れることに成功する。
だが諦めるものかと、グリズリーは積み上げたブロックを強烈な腕力で殴り始めた。このゲームの建築には重力の概念があるから、根本を壊されると一気に崩壊する。最低限の耐久しかない木材では、熊の攻撃力を前に数秒で破壊される。
大急ぎでそばの木に飛び乗り、よじ登られる前に枝伝いに移動する。ゾンビの中でも身体能力が高いスマッシャービルドだからこそできる芸当だ。
ただ木の上を移動するのでは地上を追いかけてくる熊の速度を絶対に振りきれないし、かといって倒すのは難しい。道具を使えないために射程がグリズリーより短く、高所をとっても一方的に攻撃することは不可能。最後に生き残っていた手下ゾンビはとっくに倒されており、1対1では殴り勝てないのだ。
ならば、どうするか。俺は移動しながら地上の様子に目を配らせる。
あった。
俺は地上へと飛び降り、振り返らず全力疾走した。
「やってられっか!」
勝てないなら逃げる。生きるための鉄則だ。もちろんグリズリーは簡単に逃げさせてくれず、雄叫びを上げながら追いかけてきた。ドシドシという地面の揺れが、背後から迫ってくる。
グリズリーの足はかなり早く、真っ直ぐに走るだけでは追いつかれてしまう。だが、熊という生物は身体の構造上、上りより下り坂が苦手だ。Blood Night Survivorではそれが反映されており、坂を駆け下りることで減速させ逃げ切れるようになっている。
徐々に遠くなる気配に振り返ることなく走り続け、速度を落としながら進路を調整。今度こそ妙なのに出会わないよう一層注意を払いながら、移動を続ける。そしてゲーム内時刻が午前5時を超えたところで、ようやく木々に覆われた森林地帯を突破した。
ここまでくればあとは楽な行程だ。手下のゾンビは全滅だが、この先にたいした脅威はない。サバイバーも、夜のうちなら俺の方がはるかに索敵範囲が広いから避けられる。
「さて、戻ってきたぞ」
森の端から東側へ目を向ければ、うっすら白み始めた空を割るように、孤独な岩山のシルエットが浮かんでいる。現ワールドのエリア中央部にそびえるロックス山。その麓にはかつて鉱山として栄えた荒地の都市デリアがある。豊富な金属資源を求めてサバイバーが、それを狙ってディアボロが集まり、日夜生存競争が繰り広げられる激戦区だ。
「待ってろよクソ野郎ども」
ロックス山の穴倉を占拠した拠点はもう使い物にならない。かつて鉱山として栄えたデリアが今や無数のゾンビ蔓延る廃墟となったように、失われたものは戻らない。だが、この身ひとつであっても俺はデリアに舞い戻った。ならばもう一度立ち上がるまでと、夜明けの街へ走っていく。
次回投稿予定は明日12時です。
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