禁止11
「ネバーギブアップ……だ。おれにギブアップはない……!」
「口だけにしか見えんがな? それとも仲間を死体にすれば本気になるか?」
「なっ!?」
シャケテラスに掌を向ける邪主。
彼女は先ほどの攻撃で壁にぶつかって気絶していた。
無防備に攻撃を食らったら確実に死ぬ。
「やめろ!!」
「そうだ。あがいてわしを楽しませろ。わしの命はエターナル。お前ら虫けらでヒマつぶしをしなければ、あまりにテディウムというもの」
なんだよテディウムって。
退屈ってことか?
エターナルは永遠がたぶん仏教用語なんだろうが……じゃあ、退屈も仏教用語なのか?
結局、仏教用語を回避しようとすると、魔王みたいな奴ほどまともに喋れなくなるってことかもしれない。
――待てよ?
……そうだ。
昔読んだあの漫画――
おれは、一応装備していた剣を引き抜いた。
「ほう?」
「うおおおおお!!」
そして剣を邪主に投げつける。
「剣なら跳ね返せないとでも思ったか?」
邪主が手を振ると、切っ先が一回転。
その勢いのまま剣が飛んでくる。
「ぐああっ!!」
剣はおれの腹に突き刺さった。
「よい悲鳴だ」
「お、おい。い、いま……どういうシチュエーションだ?」
「は?」
「だから、答えろ、お前は、いま……おれに、何をした」
「剣を刺した。それもわからんほど弱ったか?」
「もっと具体的に、主語も言って」
「シャガガレーマが剣を刺した」
「剣はいらない」
「何が言いたい!」
「いいから言えよ!!」
「だから、シャガガレーマが刺した!! これでいいか!!」
「言ったな」
「お前は何を言って……あ?」
天から、雷が降り注いだ。
それは、天井を突き破り、シャガガレーマに直撃する。
「ぎゃあああああああああ!!」
そうだ。
コイツは口にした。
仏教用語禁止は、翻訳にも作用するはずだ。
でなければ、おれが口にしたところで、別の言葉に置き換わるはず。
だが、口にしたらアウトなのだから、出来ないと考えるべき。
おそらく世界的な制約で翻訳にバグを引き起こすのだ。
だからタブーなのだ。
そして、その判定基準はおれの脳にはない。
心の中で言ってももちろんセーフだし、あと、「大丈夫」はおれが仏教用語とは知らなかったのに、言えばアウトだという。
つまり、判定基準は他にあって、かつ、おれの主観で聞いた音に反応するはずだ。
そう、判定が作用しているのは、おれの耳!!
なら、この世界の存在であっても、それを口にしたのなら、アウト!
「な、何が起き……た……」
お前は口にしたんだ。
シャガガレーマが刺した。
マがさした。
魔がさした、と。
「お前は、ルールを破ったのさ」
「おのれ……ちくしょうおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
シャガガレーマの体が崩れていく。
「邪主の断末魔だ……」
or
「邪主の最期だ……」




