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禁止1

 トラックだ。

 俺に突っ込んできている。

 道路で遊んでいた幼児を歩道に押し出して、俺は逃げきれなかった。

 とんでもない衝撃を受け、地面をバウンド。

 頭をぶつけたと思った瞬間、全てがブラックアウトした。

 アラフォーまで生きて、いいことなんて何一つなかったな――

 

 気が付くと、光の中にいた。

 荘厳な空気の中、輝ける神聖な存在が屹立していた。

 神様、だろうか。

「貴方は、死んでしまいました」

「やっぱり」

 自分でも不思議なくらい落ち着いていた。

 まぁ、あの勢いで叩きつけられたらそうだよなと。

「しかし、その勇気は認められるべきものです」

「え?」

「貴方にはチャンスがあります。そう、異世界転生です」

「な、なるほど」

 本当にあるんだなそんなこと。

「貴方には魔王を倒してもらいます」

「それは、貴方には出来ないのですか?」

「向こうの世界からの救世主を召喚する魔法の効果で貴方を送り出すのです。私は適切な人材を派遣しているだけです」

「ああ、派遣業的な」

「昔はランダムだったので、向こうで魔王より暴れるケースもあったりしまして」

 まぁ、二度目の人生、タガが外れてハーレム目指したりするのもいそうだもんな……。

「そこで、区役所が適切な人材を仲介するようになったのです」

「区役所」

「ええ、隣接次元区役所です。私は公務員ならぬ神務員といったところです」

 役所仕事だったのこれ。

「それより気になりますよね。転生特典」

「ま、まぁ……いわゆるチート能力ってやつですかね」

「もちろん、翻訳はつけましょう。あとは、魔法も使えるようにします。あと厳密には転移なんで、赤ちゃんからやり直すとかもないので安心してください」

「助かりますけど……その魔法って魔王も楽に倒せたりする感じですか?」

「そこまで甘くはありませんよ。これは勇者派遣事業からのスタートアップ支援制度です。あとは向こうでの頑張り次第でしょう」

「は、はぁ。補助金みたいなもんですかね……まぁ頑張ります……」

「ただ一つだけ注意事項があります」

 神務員の神妙な物言いに、思わず体がこわばる。


「仏教用語を使ってはいけません」


 なるほど。

 それは、そうかもしれない。

「あれは貴方の世界の宗教のものですからね」

 納得はできる。

 しかし、気になるのは――

「仏教用語を使うとどうなるんですか?」

「死にます」

「死ぬ」

 さらっと何言ってんだ。

「世界の修正力が働き、死にます」

「そ、それはちょっと……」

「いきなりは不安でしょうから、少し試してみ ましょうか。これからは仏教用語禁止です。いいですね?」


「大丈夫です」


「はい死んだ!! 貴方今死にましたよ!!」

「大丈夫って仏教用語だったの……?」

「慎重にやってもらわないと困りますよ」

「あの、もの凄く不安になって来たんですけど、やっぱり辞退――」

「あっ、向こうの召喚呪文が完成します! 早く行って!!」

「あっ、あっ、ちょっ!?」

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