第3話 いつどうやって
◇◆◇
プロローグ 憂鬱な朝
ジリジリと、
耳障りな目覚ましの音が頭に響く。
止めなきゃ、と思いながらも腕が動かない。
まるで身体全体が鉛でできているみたいに重かった。
なんとか重いまぶたを押し上げる。
天井がぼんやりと歪んで見えて、
「うーん……めっちゃ体重い……」
思わず声が漏れた。
昨日のことが、
頭の片隅に引っかかっている。
落とした紙のこと。
美月の様子。
聞かなきゃいけないことがあるのに、
今のこの状態じゃ、
まともに話せそうもない。
とりあえず体温計を取り出して、脇に挟む。
電子音が鳴って確認すると、平熱。
熱はない。
なのに、このだるさは何だ?
「……まあいいか」
休む理由にはならない。
そう自分に言い聞かせて、
制服に着替え、
重たい身体を引きずるように家を出た。
嫌な予感が、
朝の空気に混じっている気がした。
◇◆◇
「冬真、お前なんかだるそうじゃね?」
教室に入るなり、神谷が声をかけてきた。
俺の顔色を一目で見抜いたみたいだった。
「実はな……」
そう前置きして、
朝から体調が優れないことを伝える。
すると神谷は、
「それならさ」と、
鞄から一本の栄養ドリンクを取り出した。
「これ飲んどけ。元気出るって」
軽い調子で差し出されたそれを、
俺は特に疑うこともなく受け取った。
遠慮なくキャップを開け、一気に飲み干す。
少しだけ、身体が楽になった……気がした。
それからの授業は、なんとかこなせた。
集中力は途切れ途切れだったけど、
板書も取れたし、寝落ちもしなかった。
「まあ、ぼちぼちだな」
自分にそう言い聞かせる。
そして放課後。
今日が何の日かを思い出して、
気分が少し沈んだ。
――神谷と、他の連中を含めた五人で、
ファミレスに行く約束。
体調が悪いから断りたい。
でも、今さら断るのも気まずい。
そう考えているうちに、
流れで準備をしてしまった。
「行くか……」
無理してでも、行ったほうがいい。
そう思って、
俺は皆と一緒に学校を後にした。
◇◆◇
「体調悪かったんだよな……大丈夫か?」
席に着くなり、
何人かが俺を気遣ってくれる。
その言葉に少し救われた気がした。
けれど――
「じゃあ俺、ハンバーグとピザで」
神谷の連れの橘が、
まるで興味がないと言わんばかりに注文を始める。
その一言で、
さっきまであった温かさが、少しだけ冷えた気がした。
……気にしすぎかもしれないけど、
胸の奥がちくりと痛んだ。
その後も次々と料理が運ばれてくる。
俺も一応、グラタンを頼んだ。
スプーンですくって口に運ぶ。
――あれ?
なんだか、味が変だ。
焦げてるわけでもないし、
冷めているわけでもない。
でも、
どうしても「不味い」と感じてしまう。
「体調悪いからかな……」
そう自分に言い聞かせて、
無理やり食べ進めた。
みんなと一緒に食事ができた。
それだけで良かったはずだ。
そう思いながら、ファミレスを後にする。
家に帰ると、もう限界だった。
鞄を床に置き、制服のままベッドに倒れ込む。
「今日はもう……寝よう……」
意識は、あっという間に闇へ沈んでいった。
◇◆◇
エピローグ 再び
ジリジリと、耳障りな音。
……目覚まし?
重いまぶたを開ける。
視界に映るのは、見慣れた天井。
「……うーん、めっちゃ体重い……」
――あれ?
この感覚、さっきも味わったような。
昨日と、同じ言葉を、
同じ調子で口にしている気がする。
美月に、昨日の件を聞きたい。
でも、この体じゃ無理だな。
……これも、昨日考えた。
体温計を取って、測る。
平熱。
熱はない。
「……あれ?」
背筋に、冷たいものが走った。
昨日も、
同じ朝を迎えた。
同じことを考えて、
同じ行動をした。
その瞬間、頭の中で点と点が繋がる。
――落とした、あの紙。
――俺の字で書かれた、警告。
「……俺、ループしてる……?」
喉がひくりと鳴った。
もしそうだとしたら――
俺は一度、死んだということになる。
でも、いつ?
どこで?
誰に?
昨日一日を必死に思い返す。
学校、神谷、栄養ドリンク、ファミレス、グラタン――
「……まさか……」
胸騒ぎが、確信に変わり始めていた。
だとしたら、
俺はいつ、どこで殺された……?




