第8話 共犯者へ
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プロローグ 鏡花の執念
何度目かのループ後、彼はようやく、ループを自覚した。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、昨日と全く同じ角度で床を照らしていた。
目覚まし時計の数字は、見慣れた「あの日の朝」を示している。
冬真は荒い息を吐きながら、自分の両手を見つめた。
(やっと……戻った。でも、今回は何かが違う)
鏡花に言われた言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。
『“同じ毎日”が、急に壊れたら……どうする?』
あのアリバイのような会話の直後、意識が途切れた。
神谷に殺されたわけでも、毒を飲まされたわけでもない。
まるで、世界そのものが冬真を拒絶して強制終了させたかのような終わり方だった。
「……鏡花。あいつ、どこまで知ってるんだ」
冬真は制服に着替えるのももどかしく、学校へと急いだ。
今のループにおいて、鏡花は単なる「神谷の彼女」ではない。
自分と同じか、あるいはそれ以上の「何か」を握っている。
教室に入ると、そこにはいつも通りの光景があった。
神谷が取り巻きと笑い、美月が少し離れた席でこちらを見て微笑む。
だが、冬真の目は、窓際で静かに本を読んでいる鏡花に釘付けになった。
彼女は冬真の視線に気づくと、本の端から視線だけを動かし、小さく口角を上げた。
――放課後、いつもの屋上で。
声は聞こえなかったが、唇の動きでそう分かった。
◇◆◇
放課後の屋上。
茜色の空を背にして立っていたのは、美月ではなく鏡花だった。
「早かったね、冬真くん。
……いえ、『何回目かの冬真くん』って呼ぶべきかしら?」
冬真は息を呑む。
「お前……やっぱり、自覚してるのか。このループを」
「自覚? そんな生易しいものじゃないわ」
鏡花は自嘲気味に笑い、フェンスに背を預けた。
「私はね、見てしまったのよ。あなたが美月さんを救おうとする裏で、
神谷くんが、あのバカみたいに真っ直ぐな彼が……無残に死に続けるのを」
冬真の心臓が激しく脈打つ。
「神谷が死ぬ? そんなはずはない。あいつはいつも、俺を殺す側だ」
「それはあなたの視点の話でしょ? 私の視点では、
彼は救いようのない被害者なの。そして、彼を殺しているのは――」
鏡花が冬真の胸元を指さす。
「彼を絶望に突き落とし、破滅させているのは、
他でもない『美月ちゃんを守る』と決めたあなたの執念よ、冬真くん」
冬真は言葉を失った。
自分が美月を救おうと足掻くほど、
その反動が「別の誰かの死」として現れているというのか。
「この世界は天秤なの。
誰かが救われれば、誰かが死ぬ。……ねえ、冬真くん。提案があるんだけど」
「お前は何度ループした?」
「数百」
鏡花が一歩、近づいてくる。その瞳には、
冬真と同じ「何度も世界をやり直した者」特有の深い疲労と、鋭い光が宿っていた。
「私と『共犯者』にならない? 美月ちゃんも、神谷くんも、誰も死なない……
神様すら予想していない『バッドエンドの上書き』を、二人で始めるのよ」
ドクン
「ゔっ……」
彼の鼓動に順応して、一つの答えが降り立った。
――『彼女を信じるな。』
それは、これまでのループのどこにも存在しなかった、
新しい自分からの警告だった。




