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今際の際に人生最大の愛を叫ぶ  作者: アルファベータ
第二部

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第6話 鏡花②

◇◆◇


プロローグ みてしまった。


放課後、うちは神谷を探して生徒玄関を抜けた。


ドン。


鈍く、重たい音が響いた。

放課後の生徒玄関には、人の気配がほとんどない。


昼間のざわめきが嘘みたいに消えて、

靴音すら吸い込まれるような静けさがあった。


神谷を探していただけやった。


帰りに少し話そうと思って、

それだけの理由で外に出ただけ。


ほんまに、

それだけやったのに。


「……え……?」


視界の端に、

“何か”が倒れているのが見えた。


ただの忘れ物。

誰かがしゃがんでいるだけ。


そう思うまでに、

そう思い込もうとするまでに、

少し時間が必要やった。


視線が、自然とそこに吸い寄せられる。


「……か……神谷……?」


名前を呼んだはずやのに、

声は途中で途切れて、

喉の奥に引っかかったまま外に出てこなかった。


そこにいたのは、

神谷やった。


見慣れた制服。

いつも通りの靴。


でも、

“いつも通り”やない部分が、

多すぎた。


身体は不自然な角度で横たわっていて、

力が抜けきったように動かない。


足元の床には、

濃い色の染みが広がっていた。


――転んだ?

――倒れただけ?


そう思いたかった。

そうじゃないと、

頭が追いつかへん。


でも、

それは「倒れている」だけの状態やなかった。


胸の奥が、ひゅっと冷える。

理由は分からん。

ただ、本能が理解してしまった。


「……うそやろ……」


言葉にした瞬間、

現実味が一気に増した。


さっきまで、

廊下で笑ってた。


くだらん話して、

変な冗談言って、

確かに、生きてた。


それが、

こんなふうに、

動かへんまま、

ここにある。


心臓が、

耳の奥で鳴ってるみたいにうるさい。

息が浅くなって、

空気を吸ってるのに足りへん。


「……いや……いや……」


頭では分かってる。


近づいたらあかん。

触ったらあかん。


見続けたら、壊れる。


せやのに。


足が、勝手に一歩、前に出た。


その瞬間――


「……っ!」


背後で、

確かに“何か”が動いた気配。


空気が揺れた。

誰かの気配。

はっきりと。


反射的に振り返る。


「……!」


――誰もおらん。


夕方の風だけが、

生徒玄関を吹き抜けて、

ドアを小さく揺らした。


「……なんやねん……」


喉が、からからに乾いてる。

唾を飲み込もうとしても、

うまくできへん。


この光景を、

誰かに言わなあかん。


先生。

警察。

それよりも先に――


頭の中に、

一人の名前が浮かんだ。


でも、

その名前を思い浮かべた瞬間、

視界がぐらりと歪んだ。


◇◆◇


エピローグ 何者?


「……うっ……」


突然、頭が割れるように痛み出した。


立ってるのもやっとで、

壁に手をついて、なんとか身体を支える。


「なに……これ……」


視界が暗くなって、

耳鳴りがひどい。


その中で――

声が聞こえた。


はっきりと。

頭の奥じゃなく、

すぐ隣で囁かれるみたいに。


『エスクゥリュス……

 汝が糧となれ……』


意味が、分からん。

聞いたこともない言葉。


なのに、

身体が理解してしまった。


「……やめ……」


そう言おうとした瞬間、

自分の声が、

自分のものやない気がした。


視界が反転する。

感覚が、遠のく。


――あかん。

――これ以上、入ってきたら。


そう思ったのが、

最後やった。


次の瞬間、

“うち”という感覚が、溶けた。


考えてるのは、確かに自分やのに、

動かしてるのは、自分やない。


感情が、

ごっそり削ぎ落とされていく。


「……あ……」


声が出たかどうかも分からん。


ただ一つ、

確かなことがあった。


――うちは、

もう「うち」やなくなった。


この瞬間を境に、

うちの時間は――三年後の美月がループした後に飛ぶ。


そして彼女は、

自分の意思とは無関係に、

冬真と美月の“敵”として存在することになる。


それが、

どんなに残酷な運命かも知らずに。


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