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孟子  作者: Eliphas1810
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公孫丑 下

 公孫丑 下


 孟子、曰。

「天、時、不如(しかず)、地、利。

地、利、不如(しかず)、人、和。

三里之城、七里之郭、環、而、攻、(これ)、而、不、勝。

(それ)、環、而、攻、(これ)、必、有、得、天、時、(もの)、矣。

然、而、不、勝、(もの)(これ)、天、時、不如(しかず)、地、利、也。

城、非、不、高、也。

池、非、不、深、也。

(武器)(鎧兜)、非、不、堅、利、也。

米粟(穀物)、非、不、多、也。

委、而、去、(これ)(これ)、地、利、不如(しかず)、人、和、也。

故、曰。

『域、民、不、以、封疆(国境)()

固、国、不、以、山溪之険。

威、天下、不、以、(武器)(鎧兜)之利』。

得道者、多、助。

失道者、(すくない)、助。

(すくない)、助、()(いたり)、親戚、(そむく)(これ)

多、助、()(いたり)、天下、(したがう)(これ)

以、天下、()、所、(したがう)、攻、親戚、()、所、(そむく)

故、君子、有、不戦、戦、必、勝、矣」



 孟子 先生は言った。

「『天の時』、『天候による好機』は、地の利に及ばない。

地の利は、人の和に及ばない。

三里、四方の城、七里、四方の『郭』、『外を囲う壁』を包囲して攻撃しても勝てない(場合が多い)。

包囲して攻撃していれば、必ず、『天の時』、『天候による好機』を得る事が有るはずである。

それでも、勝てない事が有るのは、『天の時』、『天候による好機』は、地の利に及ばないからである。

城壁が高くない訳が無い。

城壁の周囲の池の(ほり)が深くない訳が無い。

武器が鋭利ではない訳が無いし、鎧、兜が堅固ではない訳が無い。

穀物の備蓄が多くない訳が無い。

城の統治を敵に委ねてしまう形で、城から去ってしまう事が有るのは、地の利は、人の和に及ばないからである。

そのため、言われている。

『人々を分断するのに、国境の境目は不要である(。人の和によって人々は分かれる)。

国を堅固にするのに、山や谷の険しさは不要である(。人の和によって国を堅固にできる)。

天下の国々を威嚇するのに、武器の鋭利さや、鎧や兜の堅固さは不要である(。人の和によって外国を威嚇できる)』と。

『得道者』、『真理を体得している者』には助けが多い。

『失道者』、『真理を見失っている者』には助けが少ない。

助けの少なさの至りでは、親戚が、そのような人に反逆してしまう。

助けの多さの至りでは、天下の人々が、そのような人に従ってくれる。

天下の人々が従ってくれるような人は、親戚が反逆してしまうような人を攻める。

そのため、王者は、争わないが、(悪人どもと)戦えば、必ず、勝つのである」





 孟子、(しようとする)、朝、王。


 王、使(させる)、人、来、曰。

「寡人、(のよう)(いく)(あう)(もの)、也。

有、寒疾(風邪)、不、可、以、風。

朝、(しようとする)、視、朝。

不識(どうでしょう)

可、使(させる)、寡人、得、(あう)、乎?」


 (こたえる)、曰。

「不幸、而、有、疾。

不能、(いたる)、朝」


 明日、出、弔、於、東郭氏。


 公孫丑、曰。

昔者(むかし)、辞、以、病。

今日、弔。

(あるいは)()、不可、乎?」


 曰。

「昔者、疾。

今日、愈。

如之何(これ、いかん)、不、弔?」


 王、使(させる)、人、問、疾。

 医、来。


 孟仲子、(こたえる)、曰。

昔者(むかし)、有、王命、有、采薪之憂(病の床にふせる)、不能、(いたる)、朝。

今、病、(すこし)、愈、趨、(いたる)、於、朝。

我、不、識、能、至? 否、乎?」


 使(させる)、数人、要、於、路、曰。

「請、必、(ない)、帰、而、(いたる)、於、朝」


 不得已(やむをえず)、而、(いく)、景丑氏、宿(とまる)、焉。


 景子( = 景丑氏)、曰。

「内、(すなわち)、父、子、外、(すなわち)、君、臣、人之大倫、也。

父、子、主、恩。

君、臣、主、敬。

丑( = 景丑氏)、(みる)、王、()、敬、子( = 孟子)、也。

未、(みる)、所以、敬、王、也」


 曰。

(ああっ)、是、何、言、也?

斉、人、(いない)、以、仁義、()、王、言、(もの)

(どうして)、以、仁義、(なす)、不、美、也?

(その)心、曰。

(これ)、何、(たりる)(ともに)、言、仁義、也?』。

云、(そのとおり)(すなわち)、不敬、(ない)、大、(よりも)(これ)

我、非、堯、舜之道、不、敢、以、(のべる)、於、王、前。

故、斉、人、莫如(しかず)、我、敬、王、也」


 景子、曰。

「否。

非、(これ)()、謂、也。

礼、曰。

『父、召、(ない)、諾。

君、命、召、不、(まつ)、駕』。

(もとより)(しようとする)、朝、也。

聞、王命、而、(ついに)、不、果。

宜、()(かの)礼、(のよう)、不、相、似、然」


 曰。

(どうして)、謂、(これ)()

曾子、曰。

『晋、楚之富、不可、及、也。

(かれ)、以、(その)富。

(われ)、以、(わが)仁。

(かれ)、以、(その)爵。

(われ)、以、(わが)義。

(われ)(どうして)(よいとする)、乎、哉?』。

(それ)(どうして)、不義、而、曾子、言、(これ)

(これ)(あるいは)、一、道、也。

天下、有、達、尊、三。

爵、一。

歯、一。

徳、一。

朝廷、莫如(しかず)、爵。

郷党、莫如(しかず)、歯。

(たすける)、世、長、民、莫如(しかず)、徳。

(どうして)、得、有、(その)一、以、慢、(その)二、哉?

故、(しようとする)、大、有、(なす)()、君、必、有、所、不、召、()、臣。

欲、有、謀、焉、(すなわち)(いく)(これ)

(その)、尊、徳、(たのしむ)、道、不、如是(このよう)、不足、以、有、(なす)、也。

故、湯( = 湯王)、()、於、伊尹、学、焉、而、後、臣、(これ)

故、不、労、而、王。

桓公、()、於、管仲、学、焉、而、後、臣、(これ)

故、不、労、而、覇。

今、天下、地、(にている)、徳、(ひとしい)(ない)、能、相、(こえる)

無、他。

好、臣、(その)、所、教、而、不、好、臣、(その)、所、受、教。

湯( = 湯王)、()、於、伊尹、桓公、()、於、管仲、(すなわち)、不、敢、召。

管仲、(かつ)(なお)、不、可、召。

而、(まして)、不、(なす)、管仲、(もの)、乎?」



 孟子 先生は朝廷で王に会おうとした。


 すると、王の使者が来て言った。

「私のような者の(ほう)こそが、孟子 先生の所へ行って会う物ですが。

風邪の症状が有って、外気の風は良くないのです。

孟子 先生が朝廷へ来てくれたら、朝廷で会おう、と思います。

どうでしょう? 

私と会ってもらっても良いでしょうか?」


 孟子 先生は答えて言った。

「(私、孟子も、)不幸にも、病気の症状が有ります。

朝廷に至る事ができないほどです」


 (孟子 先生は、)翌日、東郭氏の葬儀に出ようとした。


 公孫丑が(孟子 先生に)言った。

「(孟子 先生は、)昨日、病気(という嘘)で、(王の命令を)辞退しました。

(それなのに、孟子 先生は、)今日、葬儀に出ようとしています。

葬儀に出るのは、良くないのでは?」


 (孟子 先生は)言った。

「昨日、(嘘の)病気でした。

今日、病気が治癒した(事にします)。

葬儀に出ます!」


 王は、使者に(孟子 先生の)病気のお見舞いをさせた。

 王によって、使者は、医者も連れて来た。


 孟仲子が答えて言った。

「昨日、王からの命令が有りましたが、(孟子 先生は)病の床にふせっていたので、朝廷に至る事ができませんでした。

(孟子 先生は、)今、病気が少し治癒したので、走って、朝廷へ至ろうとされた所です。

(ただし、孟子 先生は病気であったので、)私、孟仲子は、孟子 先生が朝廷へ至る事ができたか? 否か? 分かりませんが」


 孟仲子は、数人を道の要所に配置して、孟子 先生に伝言した。

「請い願わくば、必ず、帰宅しないで、朝廷へ至ってください」


 孟子 先生は、やむを得ず、景丑氏の所へ行って、泊まった。


 景丑氏の景子が孟子 先生に言った。

「家の中では父と子が、家の外では君主と臣下が、人の大いなる倫理、道理なのです。

父と子では、恩を(メイン)とします。

君主と臣下では、敬意を(メイン)とします。

私、景子は、王が孟子 先生を敬っているのを見た事が有ります。

(しかし、私、景子は、)孟子 先生が王を敬っている、という根拠に成る事を未だ見た事が有りませんが」


 孟子 先生は言った。

「ああっ、何を言うのですか?

斉の人々で、『仁義』、『思いやりと正義』を、王と話す者はいません。

どうして『思いやりと正義』を『美しくない』と見なすのですか? (どうして『思いやりと正義』を『話すのに、ふさわしくない』と見なすのですか?)

斉の人々は心の中で思っているのです。

『王は、共に思いやりと正義について話すのには、不足している!』と。

その通りであるならば、そう思っているよりも(王に対して)不敬である事は無いのです。

私、孟子は、堯、舜の『道理』、『真理』を王の前で、あえて話してきています。

そのため、斉の人々は、王に対する敬意において、私、孟子に及ばないのです」


 景子が孟子 先生に言った。

「いいえ。

そういう事を言っている訳ではないのです。

礼儀として、言われています。

『父が呼んだら、はい、と応える以外は無いのである。

君主が命令して呼んだら、乗り物を待たない(で走って行く)のである』と。

孟子 先生は(もと)から朝廷へ行って王に会おうとしていました。

王の命令を聞いても、ついに果たしませんでした。

礼儀を(たが)えているようですが」


 孟子 先生は言った。

「何を言っているのですか?

曾子は言いました。

『晋や楚という国の君主の富には及ばないが。

彼ら、君主は富を誇ります。

私、曾子は仁、思いやり深い知的な行動を誇ります。

彼ら、君主は爵位、地位を誇ります。

私、曾子は私、曾子の正義にかなう行動を誇ります。

私、曾子が、どうして、君主を良いとしようか? いいえ!』と。

曾子が、このように言っているのに、どうして、私、孟子が正しくないでしょうか? いいえ! 正しい!

これは、あるいは、いくつかのうちの、一つの道かもしれませんが。

天下の人々は、三つの物を尊敬する、共通認識に達しています。

一つは、爵位、地位です。

一つは、歯による年功です。

一つは、徳、善行です。

朝廷では、爵位、地位に、他の物は及びません。

故郷の人々では、歯による年功に、他の物は及びません。

この世の人々を助けて成長させる事では、徳、善行に、他の物は及びません。

どうして、そのうちの一つが有るからといって残りの二つを軽視でき得るでしょうか? いいえ!

そのため、大いなる事を()そうという思いが有る君主には、必ず、呼びつけたりできない臣下がいる物なのです。

相談したい事が有る場合は、君主の(ほう)が、その臣下の所へ行く物なのです。

その君主が、徳、善行を尊重して、道理、真理を楽しむようでなければ、大いなる事を()すのに不足している事に成るのです。

だから、殷の湯王は、伊尹から(弟子として真理を)学んだ後で、その伊尹を臣下に迎えました。

このため、殷の湯王は、労せずして王に成れたのです。

桓公は、管仲から(弟子として政治を)学んだ後で、その管仲を臣下にしました。

そのため、労せずして覇者に成れたのです。

今、天下の国々は、土地の広さなども似ているし、君主の徳、善行も同じくらいであるし、相互に相手を超える事ができない有様(ありさま)です。

これは他でも、ありません。

(君主が、)教える必要が有る(自分より劣った)人を臣下にするのを好んで、教えを受ける必要が有る(自分より優れた)人を臣下にするのを好まないからなのです。

殷の湯王は伊尹を、桓公は管仲を、あえて、呼びつけませんでした。

管仲ですらなお、呼びつけるべきではなかったのです。

まして、管仲を相手にすらしない者(、私、孟子)は、なおさら呼びつけるべきではないのです」





 陳臻、問、曰。

「前日、於、斉、王、(おくる)兼金(良質の金)一百、而、不、受。

於、宋、(おくる)、七十鎰、而、受。(鎰は金貨の重さの単位。一鎰は約九百グラム。)

於、薛、(おくる)、五十鎰、而、受。

前日、()、不、受、()(すなわち)、今日、()、受、()、也。

今日、()、受、()(すなわち)、前日、()、不、受、()、也。

夫子、必、居、一、於、(ここ)、矣」


 孟子、曰。

「皆、()、也。

(あたる)、在、宋、也、予、(しようとする)、有、遠行(遠出)

行、(もの)、必、以、(おくりもの)

辞、曰。

(おくる)(おくりもの)』。

予、何為(どうして)、不、受?

(あたる)、在、薛、也、予、有、戒心。

辞、曰。

『聞、戒。

故、(ため)、兵、(おくる)(これ)』。

予、何為(どうして)、不、受?

(のよう)、於、斉、(すなわち)、未、有、処、也。

(ない)、処、而、(おくる)(これ)(これ)、貨、(これ)、也。

(どうして)、有、君子、而、可、以、貨、取、乎?」



 陳臻が孟子 先生に質問して言った。

「昨日、斉で王が『百鎰』、『約九十キロ グラム』の『兼金』、『良質の金』を贈ろうとしたら、孟子 先生は受け取りませんでした。

宋で『七十鎰』、『約六十三キロ グラム』の金を贈られたら、孟子 先生は受け取りました。

薛で『五十鎰』、『約四十五キロ グラム』の金を贈られたら、孟子 先生は受け取りました。

前の受け取らなかったのが正しいのであれば、後の受け取ったのは正しくない事に成ります。

後の受け取ったのが正しいのであれば、前の受け取らなかったのは正しくない事に成ります。

孟子 先生は必ず、これらのうち一方の状態にいるはずです」


 孟子 先生は言った。

「皆、正しいのです。

宋にいるにあたって、私、孟子は、遠出しようとしていました。

どこかへ行く者には必ず、贈り物をするの(が礼儀なの)です

言葉にして、言われました。

『贈り物を贈ります』と。

私、孟子は、どうして、受け取らない事ができようか? いいえ! 受け取るのが礼儀である!

薛にいるにあたって、私、孟子は、警戒するべき状況に有りました。

言葉にして、言われました。

『孟子 先生が警戒している、と聞きました。

そのため、警備兵を雇うための費用として、この金貨を贈ります』と。

私、孟子は、どうして、受け取らない事ができようか? いいえ! 受け取るのが礼儀である!

斉でのような場合は、未だ金銭を所要する理由が無かった。

金銭を所要する理由が無いのに、金銭を贈られるのは、(贈り物である金銭を賄賂にしてしまって)私腹を肥やしてしまう事に成ってしまう。

どうして、王者が、私腹を肥やす事にとらわれてしまう事が有って善いであろうか? いいえ! 善くない!」





 孟子、(いく)、「平陸」、謂、(その)大夫( = 距心)、曰。

「子、()持戟之士(戦士)、一日、而、三、失、(五人一組の軍隊の隊列)(すなわち)、去、(これ)? 否、乎?」


 曰。

「不、待、三」


「然、(すなわち)、子、()、失、(五人一組の軍隊の隊列)、也、(また)、多、矣。

凶年、饑歳、子之民、老羸(老弱)、転、於、溝壑( = 餓死などで道端で死んでいる)、壮者、散、而、(いく)、四方、(もの)、幾千人、矣」


 曰。

(これ)、非、距心、()、所、得、(なす)、也」


 曰。

「今、有、受、人之牛、羊、而、(ため)(これ)(飼う)(これ)(もの)(すなわち)、必、(ため)(これ)、求、(牧場)()(干し草)、矣。

求、(牧場)()(干し草)、而、不、得、(すなわち)(かえす)(これ)(その)人、乎?

(それとも)(また)、立、而、視、(その)死、()?」


 曰。

(これ)(すなわち)、距心之罪、也」


 他日、(あう)、於、王、曰。

「王、()、為、都、(もの)、臣、知、五人、焉。

知、(その)罪、(もの)(ただ)、孔距心」


 (ため)、王、誦、(これ)


 王、曰。

(これ)(すなわち)、寡人之罪、也」



 孟子 先生は「平陸」という場所へ行って、そこの役人である距心という人に言った。

「あなたの部下の戦士が一日に三回も、五人一組の軍隊の隊列の秩序を失わせたら、その戦士を(軍隊から)去らせますか? 否か?」


 距心が言った。

「三回目まで待ちません(。二回目で軍隊から去らせます)」


 (孟子 先生は言った。)

「さて、あなた、距心もまた、多数の組の、五人一組の軍隊の隊列を、失わせてい(るのと同様の事をしてい)ます。

凶作の年には、あなた、距心の民のうち、老人や幼子などの弱者は餓死などで道端で死んで死体が転がっていますし、壮年の者は離散して四方の他の場所へ逃げていく者が幾千人もいます」


 距心が言った。

「それは、私、距心が()し得た事では、ありません」


 孟子 先生は言った。

「今、他人の牛や羊を受け取って、これらの牛や羊の(ため)に、これらの牛や羊を飼っている者がいれば、必ず、これらの牛や羊の(ため)に、牧場と干し草を探し求めます。

牧場と干し草を探し求めて、得られなければ、これらの牛や羊を、その(真の持ち主の)人に返しませんか?

それとも、立ち尽くして、それらの牛や羊の死を傍観しますか?」


 距心が言った。

「それは、私、距心の罪です」


 孟子 先生は、別の日に、王に会って言った。

「王の都市の為政者である臣下のうち、五人と面識を持ちました。

しかし、自分の罪を認識できた者は、距心だけでした」


 孟子 先生は、王の(ため)に、その距心との会話を話した。


 王が言った。

「それは、私、王の罪です」





 孟子、謂、蚳鼃、曰。

「子、()、辞、『霊丘』、而、請、士師(裁判官)、似、也。(『霊丘』は某所の名前。)

(ため)(その)、可、以、言、也。

今、既、数月、矣。

未、可、以、言、()?」


 蚳鼃、諫、於、王、而、不、用。

 致、(なる)、臣、而、去。


 斉、人、曰。

「所以、為、蚳鼃、(すなわち)、善、矣。

所以、(みずから)、為、(すなわち)(われ)、不、知、也」


 公都子、以、告。


 曰。

(われ)、聞、(これ)、也。

『有、官守、(もの)、不、得、(その)職、(すなわち)、去。

有、言責、(もの)、不、得、(その)言、(すなわち)、去』。

(われ)(ない)、官守。

我、(ない)、言責、也。

(すなわち)(わが)進退、(どうして)、不、綽綽然、有、余裕、哉?」



 孟子 先生は蚳鼃という人に言った。

「あなたが『霊丘』という所の役人を辞めて、裁判官を請い願ったのは、あなたに似つかわしいです。

(王に)言うべき事が有るためでしょう。

今、既に数か月も()ちました。

(王には)未だ言う事ができていないのですか?」


 そのため、蚳鼃は、王に忠告して、(王に)用いられなく成ってしまった。

 このため、蚳鼃は、臣下でいる責務を果たして、(退任して、王の元から)去った。


 斉の人々が言った。

「蚳鼃にした、孟子の理由は善い。

しかし、孟子、自身がしている事は、私達には(善いのか悪いのか)分からない(。意味不明である)」


 公都子が孟子 先生に、斉の人々の言っている話を知らせた。


 孟子 先生は言った。

「私、孟子は、このように聞いています。

『役人として守るべき職務が有る者は、その職務を果たす事ができ得なければ、(役人を辞めて、)去るべきである。

(役人として上司などに)善悪を言う義務が有る者は、その善悪を言う義務を果たす事ができ得なければ、(役人を辞めて、)去るべきである』と。

私、孟子には、役人として守るべき職務が無いのです。

私、孟子には、(役人として上司などに)善悪を言う義務が無いのです。

そのため、私、孟子の進退は、綽綽然と余裕が有る有様(ありさま)なのです(。だから、残念ながら、蚳鼃とは違うのです)」





 孟子、(なる)、卿、於、斉。

 出、弔、於、滕。

 王、使(させる)、「蓋」、大夫、王驩、(なる)輔行(副使)

 王驩、朝暮、(あう)

 反、斉、滕之路、未、(かつて)()(これ)、言、行事、也。


 公孫丑、曰。

「斉、卿之位、不、(なす)、小、矣。

斉、滕之路、不、(なす)、近、矣。

反、(これ)、而、未、(かつて)(ともに)、言、行事、(どうして)、也?」


 曰。

(それ)、既、(あり)、治、(これ)

予、(どうして)、言、哉?」



 孟子 先生は斉という国で高官と成った。

 孟子 先生は滕という国の葬儀に出る事に成った。

 斉の王は、蓋という所の役人である王驩という人をその副使に成らせた。

 王驩は朝と夕暮れに孟子 先生と会った。

 孟子 先生は、斉と滕の間の道を折り返す間、その王驩と行事について、未だかつて話した事が無いままであった。


 公孫丑が言った。

「斉の高官の地位を『小さい』とは見なせません。

斉と滕の間も『近い』とは見なせません。

斉と滕の間の道を折り返す間、王驩と共に行事について、未だかつて話した事が無いままであったのは、どうしてですか?」


 孟子 先生は言った。

「既に、その行事を取り仕切る者(である王驩)がいたのである。

私、孟子が、どうして、(くち)(はさ)む必要が有るであろうか?」





 孟子、(より)、斉、葬、於、魯。

 (かえる)、於、斉、止、於、嬴。


 充虞、請、曰。

「前日、不、知、虞( = 充虞)之不肖、使(させる)、虞( = 充虞)、敦、匠、事。

厳。

虞( = 充虞)、不、敢、請。

今、願、(ひそかに)、有、請、也。

木、(のよう)、以、美、然?」


 曰。

「古者、棺、槨、(ない)、度。

中古、棺、七寸。

槨、(かなう、つり合う)(これ)

(より)、天子、達、於、庶人。

非、(ただ)(なす)、観、美、也。

然、後、尽、於、人心。

不、得、不、可、以、(なす)(まんぞく)

(ない)、財、不、可、以、(なす)(まんぞく)

得、(これ)、為、有、財、古之人、皆、用、(これ)

(われ)何為(どうして)、独、不、然?

(かつ)(ころ)、化、者、(ない)使(させる)、土、親、膚、於、人心、独、無、(こころよい)、乎?

(われ)、聞、(これ)

『君子、不、以、天下、倹、(その)親』」



 孟子 先生は、斉から帰って、魯で(母の)葬儀をした。

 孟子 先生は、斉へ帰る途中で、嬴という所に滞在した。


 充虞が孟子 先生に請い願って、言った。

「先日(の葬儀で)は、(孟子 先生は、)不肖、私、充虞にも関わらず、私、充虞を、棺を造る仕事に重用してくださいました。

棺を造る仕事は、侵し難い厳粛な物です。

そのため、私、充虞は、あえて請い願って質問しませんでした。

今、請い願わくば、(私、充虞には、)(ひそ)かに、疑問に思っている事が有ります。

棺の木は、あのように美しい物で、善いのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「古代には、棺や、『槨』、『棺の外囲い』に、限度が無かったのです。

中古の時代に、棺の厚さは七寸に成りました。

『槨』、『棺の外囲い』は、その棺にかなう、つり合う物に成りました。

天子から庶民に至るまで、そう成りました。

ただ外観を美しくするだけではないのです。

そうした後で、人としての心を尽くすのです。

そう、でき得なければ、満足できないからです。

高価な木材でなければ、満足できないからです。

高価な木材を得られたら、高価な木材が有るために、古代の人は皆、その高価な木材を使用したのです。

私、孟子も、どうして、独りだけ、そうしないでいられようか? いいえ!

かつ、(死体が)土と化す頃まで、土を死体の皮膚に近づけさせないだけでも、人としての心において、快いのです!

私、孟子は、このように聞いています。

『王者は、天下の人々を理由にして、その親の葬儀を倹約したりしない』と」





 沈同、以、(その)私、問、曰。

「燕、可、伐、()?」


 孟子、曰。

「可。

子噲、不、得、(あたえる)、人、燕。

子之、不、得、受、燕、於、子噲。

有、仕、於、(ここ)

而、子、悦、(これ)、不、告、於、王、而、私、(あたえる)(これ)、吾子之禄爵、(かの)士、也、(また)、無、王命、而、私、受、(これ)、於、子、(すなわち)、可、乎?

何、以、異、於、(これ)?」


 斉、人、伐、燕。


 (ある)、問、曰。

「勧、斉、伐、燕。

有、(これ)?」


 曰。

「未、也。

沈同、問。

『燕、可、伐、()?』。

(われ)、応、(これ)、曰。

『可』。

(かれ)、然、而、伐、(これ)、也。

(かれ)(もし)、曰、『(だれが)、可、以、伐、(これ)?』、(すなわち)(まさに)、応、(これ)、曰、『(なる)、天吏、(すなわち)、可、以、伐、(これ)』。

今、有、殺人者、(ある)、問、(これ)、曰、『人、可、殺、()?』、(すなわち)(まさに)、応、(これ)、曰、『可』。

(かれ)(もし)、曰、『(だれが)、可、以、殺、(これ)?』、(すなわち)(まさに)、応、(これ)、曰、『(なる)士師(裁判官)(すなわち)、可、以、殺、(これ)』。

今、以、燕、伐、燕。

何為(どうして)、勧、(これ)、哉?」



 沈同が私的に孟子 先生に質問して言った。

「燕という国(の暴君)を討伐しても善いでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「善いです。

子噲は、燕という国を他人に与える事が、でき得ない人物であったのです。

子之も、子噲から燕という国を受け取る事が、でき得ない人物であったのです。

(例えば、)ここに(王に)仕えている人がいたとします。

その王に仕えている人が自己満足で、王に報告せずに、私的に自分の領地などや爵位、地位を誰かに与える事や、与えられた人もまた、王の任命無しに、その王に仕えている人から、私的に領地や地位などを受け取るのは、善いでしょうか? いいえ! 善くない!

この例え話と、何が異なるでしょうか? いいえ! 同様である!」


 斉の人々は燕という国を討伐した。


 ある人が孟子 先生に質問して言った。

「(孟子 先生は、)斉に燕という国の(暴君の)討伐を勧めた(、と聞きました)。

これは実際に有った事でしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「勧めた事は未だ有りません。

沈同が私、孟子に質問しました。

『燕という国を討伐しても善いでしょうか?』と。

私、孟子は、この質問に応えて言いました。

『善いです』と。

彼、沈同は、そう質問してから、その燕という国を討伐しました。

彼、沈同が、もし、『誰が、その燕という国を討伐しても善いのでしょうか?』と言っていたら、(私、孟子は、)まさに、その質問に応えて、『天吏、天の神から任命された統治者であれば、その燕という国を討伐しても善いです』と言ったであろう。

今、殺人者がいて、ある人が、その殺人者について質問して、『(殺人者である)人を殺しても善いでしょうか?』と言ったら、(私、孟子は、)まさに、その質問に応えて、『善いです』と言ったであろう。

その、ある人が、もし、『誰が、(殺人者である、)その人を殺しても善いでしょうか?』と言ったら、(私、孟子は、)まさに、その質問に応えて、『裁判官であれば、(殺人者である、)その人を殺しても善いです』と言ったであろう。

今、燕という国(の暴君)が、燕という国(の暴君)を討伐したような物なのです。(斉の国の君主は暴君です。)

どうして、そんな事を勧めるでしょうか? いいえ!」





 燕、人、(そむく)


 王、曰。

(われ)、甚、(はじる)、於、孟子」


 陳賈、曰。

「王、(なかれ)(うれう)、焉。

王、(みずから)、以、(なす)()、周公、(どちらが)、仁、(かつ)、智?」


 王、曰。

(ああっ)(これ)、何、言、也?」


 曰。

「周公、使、管叔、監、殷。

管叔、以、殷、(そむく)

知、而、使(させる)(これ)(これ)、不仁、也。

不、知、而、使(させる)(これ)(これ)、不智、也。

仁智、周公、未、(これ)、尽、也。

而、(まして)、於、王、乎?

賈( = 陳賈)、請、(あう)、而、解、(これ)


 (あう)、孟子、問、曰。

「周公、(どのような)、人、也?」


 曰。

「古、聖人、也」


 曰。

使(させる)、管叔、監、殷。

管叔、以、殷、(そむく)、也。

有、(これ)?」


 曰。

「然」


 曰。

「周公、知、(その)(しようとする)(そむく)、而、使(させる)(これ)()?」


 曰。

「不知、也」


「然、(すなわち)、聖人、(かつ)、有、(あやまち)()?」


 曰。

「周公、弟、也。

管叔、兄、也。

周公之過、不、(また)(とうぜんである)、乎?

(かつ)、古之君子、(あやまちをおかす)(すなわち)、改、(これ)

今之君子、(あやまちをおかす)(すなわち)(したがう)(これ)

古之君子、(その)(あやまち)、也、如、日、月之食。

民、皆、(みる)(これ)

(およぶ)(その)、更、也、民、皆、仰、(これ)

今之君子、(どうして)(いたずらにむだに)(したがう)(これ)

(また)(したがう)(なす)(これ)、辞」



 燕という国の人々が反乱を起こした。


 斉の宣王が言った。

「私、宣王は、孟子 先生に対して、とても恥ずかしい」


 陳賈が宣王に言った。

「宣王よ、心配するなかれ。

宣王よ、宣王、自身と、周公の、どちらが、思いやり深い者、かつ、智者であるとしますか?」


 宣王が言った。

「ああっ、何を言っているのか?」


 陳賈が宣王に言った。

「周公は、管叔に殷を監督させました。

管叔は、殷によって反乱を起こしました。

知っていて、反乱させたら、思いやりが無いです。

知らないで、反乱させたら、智慧が無いです。

周公ですら、思いやりと智慧を未だ尽くす事ができませんでした。

まして、宣王は、なおさらではないですか?

陳賈が孟子に要請して会って『弁解』、『言い訳』しましょう」


 陳賈が孟子 先生に会って質問して言った。

「周公は、どのような人でしたか?」


 孟子 先生は言った。

「古代の聖人です」


 陳賈が言った。

「(周公は、)管叔に殷を監督させました。

管叔は、殷によって反乱を起こしました。

これは実際に有った事でしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「そうです」


 陳賈が言った。

「周公は、管叔が反乱を起こそうとしていたのを知って、反乱を起こさせたのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「(周公は、)知りませんでした」


 (陳賈が言った。)

「そうであるならば、聖人でありながら、かつ、(あやま)ちが有る物なのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「周公は弟です。

管叔は、その兄です。

周公が(あやま)ちを犯したのもまた、当然ではないでしょうか?

かつ、古代の王者は、(あやま)ちを犯したら、その(あやま)ちを改めました。

今の君主は、(あやま)ちを犯したら、その(あやま)ちに従ってしまいます。

古代の王者の(あやま)ちは、日食や月食のようでした。

国民は皆、それを見る事ができました。

その(あやま)ちを改めるに及ぶと、国民は、皆、その悔い改めを仰ぎ見ました。

今の君主は、どうして、いたずらに無駄に、自分の(あやま)ちに従ってしまうのか?

また、自分の(あやま)ちに従って、言い訳をしてしまいます」





 孟子、致、(なる)、臣、而、帰。


 王、(いく)(あう)、孟子、曰。

「前日、願、(あう)、而、不、可、得。

得、侍、同、朝、甚、喜。

今、(また)、棄、寡人、而、帰。

不、識?

可、以、継、(これ)、而、得、(あう)、乎?」


 (こたえる)、曰。

「不、敢、請、(のみ)

(もとより)、所、願、也」


 他日、王、謂、時子、曰。

(われ)、欲、中国、而、授、孟子、室。

養、弟子、以、万鐘(大量)

使(させる)、諸大夫、国人、皆、有、所、矜式(慎んで手本にする)

子、(どうか)(ため)、我、言、(これ)?」


 時子、(よって)、陳子、而、以、告、孟子。


 陳子、以、時子之言、告、孟子。


 孟子、曰。

「然。

(かの)時子、(どうして)、知、(その)不可、也?

(もし)使(させる)、予、欲、富、辞、十万、而、受、万?

(これ)(なす)、欲、富、乎?

季孫、曰。

『異、哉、子叔疑。

使(させる)、己、(なす)、政。

不、用、(すなわち)(また)、已、矣。

(また)使(させる)(その)子弟、(なる)、卿。

人、(また)(だれが)、不、欲、富貴?

而、独、於、富貴之中、有、私、龍断(利益の独占である壟断)、焉』。

古、()(なる)、市、也、以、(その)、所、有、(かえる)(その)、所、(ない)(もの)

有司者、治、(これ)(のみ)

有、賤丈夫、焉。

必、求、龍断(利益の独占である壟断)、而、登、(これ)、以、左右、望、而、罔、市、利。

人、皆、以、(なす)、賤。

故、(したがって)、而、征、(これ)

征、商、(より)(この)賤丈夫、始、矣」



 孟子は、臣下としての務めを果たし(て臣下を辞め)て、帰った。


 宣王は、孟子 先生の所へ行って会って言った。

「先日は、孟子 先生に会おうと願いながら、でき得ませんでした。

(しかし、その後、)そばにいて同じ朝廷にいる事ができ得て、とても喜びました。

(けれども、孟子 先生は、)今、また、私、宣王を捨てて帰ってしまわれました。

どうでしょうか?

これに引き続き、会う事ができ得ませんか?」


 孟子 先生は答えて言った。

「(私、孟子が、)あえて請い願うまでも無いばかりです。

(私、孟子が、)(もと)から願っていた所の事です」


 後日、宣王が時子に言った。

「私、宣王は、国の中央に、孟子 先生へ家を授けたいと(ほっ)します。

(私、宣王は、)大量の金銭で、孟子 先生の弟子達を養いたいです。

(私、宣王は、孟子 先生を、)諸々の役人と国民の皆に慎んで手本にさせたいです。

あなた、時子よ、どうか、私、宣王の(ため)に、この言葉を孟子 先生に伝えてください!」


 時子が、陳子によって、孟子 先生に告げた。


 陳子が、時子の伝言を、孟子 先生に告げた。


 孟子 先生は言った。

「そうですか。

あの時子は、どうして、それが不可能である事が分からないのでしょうか?

もし、私、孟子に富を欲望させる事ができたら、十万の金銭の職を辞めていても、大量の金銭を受け取るのでしょうが!

私、孟子は、富を欲望しない!

季孫氏の、ある人は言いました。

『子叔疑は、あやしい。

君主が自分にさせたら、政治を行う物であるし、

君主が用いなくなったら、辞める物である。

しかし、また、子叔疑は、自分の子や弟などを高官に成らせた。

人は誰でも富や高貴な地位を欲してしまう!

そうして、子叔疑は、富や高貴な地位を独占していながら、私的に壟断、利益を独占している』と。

古代の市場では、所有している物を、所有していない物と交換する場であった。

市場を司る役人は、それを統治するだけであった。

しかし、ある(、心が)卑賤な男がいた。

その(、心が)卑賤な男は、必ず切り立った高い場所を探し求めて、高い場所に登って、左右に眺めて、市場の利益を一網打尽にしてしまった。

人々は皆、その(、心が)卑賤な男を『(心が)卑賤である』と見なした。

したがって、このため、その(、心が)卑賤な男から税を取り立てた。

商人から税を取り立てるのは、その(、心が)卑賤な男から始まった事なのです」





 孟子、去、斉、宿、於、昼。


 有、欲、(ため)、王、留、行、(もの)


 坐、而、言。


 不、応。

 隠、几、而、臥。


 客、不、(よろこぶ)、曰。

「弟子、斎宿、而、後、敢、言。

夫子、臥、而、不、聴。

請、(ない)(また)、敢、(あう)、矣」


 曰。

「坐。

(われ)、明、語、子。

昔者(むかし)、魯、繆公、(いない)、人、乎、子思之側、(すなわち)、不、能、安、子思。

泄柳、申詳、(いない)、人、乎、繆公之側、(すなわち)、不、能、安、(その)身。

子、(ため)、長者、慮、而、不、(およぶ)、子思。

子、絶、長者、乎?

長者、絶、子、乎?」



 孟子 先生は斉を去って、昼という場所に泊まった。


 斉の王の(ため)に、孟子 先生が去って行くのを引き留める者がいた。


 その者は、座り込んで、孟子 先生に話しかけた。


 しかし、孟子 先生は応えなかった。

 孟子 先生は、仕切りで身を隠して、寝ているふりをした。


 その者が不機嫌に成って言った。

「私は、一晩、心身を清めた後で、あえて、話しかけています。

しかし、あなた、孟子は、寝ているふりをして、聞き入れてくれません。

請い願わくば、また、あえて、(あなた、孟子と)会おうとは思いません」


 孟子 先生は言った。

「座ったままでいなさい。

私、孟子は、明らかに、あなたに話しましょう。

昔、魯という国の繆公は、子思のそばに、臣下の人がいなければ、子思について安心できませんでした。

泄柳と申詳は、繆公のそばに、賢人がいなければ、繆公の身について安心できませんでした。

あなたは、私、孟子の為に考慮してくれてはいるが、子思への待遇には及んでいません。

あなたが、私、孟子を絶交したのか?

私、孟子が、あなたを絶交したのか?」





 孟子、去、斉。


 尹士、語、人、曰。

「不、識、王之不可、以、(なる)、湯、武、(すなわち)(これ)、不、明、也。

識、(その)不可、然、(かつ)、至、(すなわち)(これ)(もとめる)、沢、也。

千里、而、(あう)、王。

不遇、故、去。

三、宿、而、後、出、『昼』、(これ)、何、濡滞、也?

士、(すなわち)(ここ)、不、(よろこぶ)


 高子、以、告。


 曰。

(かの)尹士、(どうして)、知、(われ)、哉?

千里、而、(あう)、王、(これ)(わが)、所、欲、也。

不遇、故、去、(どうして)(われ)、所、欲、哉?

(われ)不得已(やむをえず)、也。

(われ)、三、宿、而、出、『昼』、於、予、心、(なお)、以、(なす)、速。

王、庶幾(請い願わくば)、改、(これ)

王、(もし)、改、(これ)(すなわち)、必、(かえす)(われ)

(それ)、出、昼、而、王、不、(われ)、追、也。

(われ)、然、後、浩然、有、帰、志。

(われ)(いえども)、然、(どうして)(すてる)、王、哉?

王、(なお)(たりる)、用、(なす)、善。

王、(もし)、用、(われ)(すなわち)(どうして)(ただ)、斉、民、安?

天下之民、(こぞって)、安。

王、庶幾(請い願わくば)、改、(これ)

(われ)、日、望、(これ)

(われ)(どうして)(のよう)(この)、小丈夫、然、哉?

諫、於、(その)君、而、不、受、(すなわち)、怒、『悻悻』然、(みせる)、於、(その)面、去、(すなわち)、窮、日之力、而、後、宿、哉」


 尹士、聞、(これ)、曰。

「士( = 尹士)、誠、小人、也」



 孟子 先生は斉という国を去った。


 尹士が、ある人に話した。

「斉の王が、殷の湯王や周王朝の武王のように成る事ができない、と知らなかったのであれば、孟子は、聡明ではない。

それを知っていて、孟子が、斉に到来したのであれば、孟子は、贅沢を求めていたのである。

孟子は、千里を超えて、斉の王に会った。

しかし、不遇であったので、去った。

三日間も泊まった後で、昼という場所を出たが、どうして去るのを遅らせていたのか?

私、尹士は、孟子の、そういう所が気に入らない」


 高子が孟子 先生に尹士の言葉を告げ知らせた。


 孟子 先生は言った。

「その尹士が、どうして私、孟子(の心)を知る事ができるであろうか? いいえ!

千里を超えて、斉の王に会ったのは、私、孟子が、そうしたいと(ほっ)したからである。

不遇であったので去ったのが、どうして、私、孟子の(ほっ)した事であろうか? いいえ!

私、孟子は、やむを得ず、そうしたのである。

私、孟子は、三日間も泊まって、昼という場所を出たが、私、孟子は、心で、『これでもなお速い』と見なしていました。

斉の王よ、請い願わくば、その態度を改めてください(、と私、孟子は願っていました)。

斉の王が、もし、その態度を改めてくれたら、必ず、私、孟子に引き返させるであろう。

しかし、昼という場所を出ても、斉の王は、私、孟子を追いかけてくれませんでした。

私、孟子は、そうした後で、『浩然と』、『水が広大に満ちあふれるように』、魯へ帰る気に成ったのです。

私、孟子は、そうとはいえ、どうして斉の王を見捨てる事ができようか? いいえ!

斉の王は、なお、善行を()すのに足りる素質が有ります。

斉の王が、もし、私、孟子を重用してくれたら、どうして、斉の国民だけに安らぎをもたらすでしょうか? いいえ!

天下の人々の全てに、安らぎをもたらすつもりです。

斉の王よ、請い願わくば、その態度を改めてください。

私、孟子は、日々、そのように願い望んでいます。

私、孟子が、どうして、次のように、矮小な男のようにいられるでしょうか? いいえ!

矮小な男は、上司である君主に忠告して受け入れてもらえないと、怒って、怒った様子を自分の顔面で見せて、上司である君主の所から去ってしまって、太陽の光の力が尽きた後で、泊まるようにします」


 尹士が、この孟子 先生の言葉を聞くと、言った。

「私、尹士は、まことに、矮小な人であった」





 孟子、去、斉。


 充虞、路、問、曰。

「夫子、(のよう)、有、不予(不快)、色、然。

前日、虞、聞、(これ)、夫子。

曰。

『君子、不、怨、天。

不、(うらむ)、人』」


 曰。

(かれ)、一時。

(これ)、一時、也。

五百年、必、有、王者、興。

(その)間、必、有、名、世、(もの)

(より)、周、而来、七百有余歳、矣。

以、(その)数、(すなわち)、過、矣。

以、(その)時、考、(これ)(すなわち)、可、矣。

(それ)、天、未、欲、平治、天下、也。

(もし)、欲、平治、天下、(あたり)、今之世、(おいて)(われ)(それ)、誰、也?

(われ)何為(どうして)不予(不快)、哉?」



 孟子 先生は斉という国を去った。


 充虞が途中で孟子 先生に質問して言った。

「孟子 先生は、不快な様子が有るように見えます。

先日、充虞は、次のように、孟子 先生から聞きました。

孟子 先生は言いました。

『王者は、(心の中で、不運でも)天の神を怨まない。

(心の中で、悪事を犯されても)他人を怨まない』と」


 孟子 先生は言った。

「その時は、一時的に、そう思って、そう言いました。

今の、この時は、一時的に、次のように、思っています。

五百年間の周期で、必ず、王者が立ち上がる事が有るのです。

その五百年間の間には、(約二百年後には、)必ず、名声をこの世に(とどろ)かせる者もいるのです。

周王朝、以来、七百年余りです。

その年数、七百年余りは、五百年間の周期と、その約二百年後を過ぎています。

その時期、七百年余りによって、次のように考えたら良いのです。

天の神は、未だ、天下を平和に統治したいと(ほっ)していないのです。

もし、天の神が天下を平和に統治したいと(ほっ)したら、今の世、今の時代にあたって、私、孟子を置いて、他に誰が適任であろうか? いいえ!

私、孟子が、どうして、不快でいようか? いいえ!」





 孟子、去、斉、居、休。


 公孫丑、問、曰。

「仕、而、不、受、禄、古之道、乎?」


 曰。

「非、也。

於、崇、(われ)、得、(あう)、王。

退、而、有、去、志。

不、欲、変。

故、不、受、也。

継、而、有、(軍隊)、命。

不、可、以、請。

久、於、斉、非、(わが)志、也」



 孟子 先生は斉という国を去って、休という所に居た。


 公孫丑が孟子 先生に質問して言った。

「国に仕えても、給料を受け取らないのは、古くからの道理なのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「いいえ。

崇という所で、私、孟子は、斉の王に会う事ができ得ました。

斉の王の所から退出して、『斉という国を去る事に成るかもしれない』という思いが有りました。

私、孟子は、変化を(ほっ)しませんでした。

そのため、金銭を受け取らなかったのです。

それに続いて、(斉の王から)軍隊への命令が有りました。(戦争が有りました。)

そのため、斉という国を去る許可を斉の王に請い願う事ができませんでした。

斉という国に長期間、滞在したのは、私、孟子の意思ではなかったのです」

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