梁恵王 下
梁恵王 下
荘暴、見、孟子、曰。
「暴( = 荘暴)、見、於、王( = 宣王)。
王、語、暴、以、好、楽。
暴( = 荘暴)、未、有、以、対、也」
曰。
好、楽、何如?」
孟子、曰。
「王、之、好、楽、甚、則、斉、国、其、庶幾、乎」
他日、見、於、王、曰。
「王、嘗、語、荘子( = 荘暴)、以、好、楽。
有、諸?」
王、変、乎、色、曰。
「寡人、非、能、好、先王之楽、也。
直、好、世俗之楽、耳」
曰。
「王、之、好、楽、甚、則、斉、其、庶幾、乎。
今之楽、猶、古之楽、也」
曰。
「可、得、聞、与?」
曰。
「独、楽、楽、与、人、楽、楽、孰、楽?」
曰。
「不、若、与、人」
曰。
「与、少、楽、楽、与、衆、楽、楽、孰、楽?」
曰。
「不、若、与、衆」
「臣、請、為、王、言、楽。
今、王、鼓楽、於、此、百姓、聞、王、鐘鼓之声、管龠之音、挙、疾、首、蹙、頞、而、相、告、曰。
『吾王、之、好、鼓楽。
夫、何、使、我、至、於、此極、也?
父、子、不、相、見。
兄弟、妻子、離散』。
今、王、田猟、於、此、百姓、聞、王、車馬之音、見、羽旄之美、挙、疾、首、蹙、頞、而、相、告、曰。
『吾王、之、好、田猟。
夫、何、使、我、至、於、此極、也?
父、子、不、相、見。
兄弟、妻子、離散』。
此、無、他。
不、与、民、同、楽、也。
今、王、鼓楽、於、此、百姓、聞、王、鐘鼓之声、管龠之音、挙、『欣欣』然、有、喜色、而、相、告、曰。
『吾王、庶幾、無、疾病、与。
何、以、能、鼓楽、也?』。
今、王、田猟、於、此、百姓、聞、王、車馬之音、見、羽旄之美、挙、『欣欣』然、有、喜色、而、相、告、曰。
『吾王、庶幾、無、疾病、与。
何、以、能、田猟、也?』。
此、無、他。
与、民、同、楽、也。
今、王、与、百姓、同、楽、則、王、矣」
荘暴が孟子 先生に会って言った。
「私、荘暴は宣王に会ったのですが、
宣王は荘暴に『私、宣王は音楽が好きである』と語りました。
荘暴は、それに対して未だ答えていません。
言ってみると、
『音楽が好きである』のは、どうか? と思うのですが?」
孟子 先生は言った。
「宣王が音楽がとても好きであるならば、斉という国は、善政の国に、とても近いのである」
孟子 先生は、後日、宣王に会って言った。
「宣王は、かつて荘暴に『私、宣王は音楽が好きである』と語ったとか。
そういう事が有りましたか?」
宣王が顔色を変えて言った。
「私、宣王は、古代の聖王による音楽が好きである訳ではないのです。
ただ、世俗的な音楽が好きであるだけなのです」
孟子 先生は言った。
「宣王が音楽がとても好きであるならば、斉という国は、善政の国に、とても近いのです。
今の音楽は、今もなお、古代の聖王による音楽に、とても近いのです」
宣王が言った。
「どうしてか、聞く事ができ得ますか?」
孟子 先生は言った。
「独りで音楽を楽しむのと、他の人と共に音楽を楽しむのの、どちらが楽しいですか?」
宣王が言った。
「他の人と共にする楽しさには及びません」
孟子 先生は言った。
「少数の人々と共に音楽を楽しむのと、多数の人々と共に音楽を楽しむのの、どちらが楽しいですか?」
宣王が言った。
「多数の人々と共にする楽しさには及びません」
(孟子 先生は言った。)
「私、孟子に、請い願わくば、宣王の為に、楽しみについて話させてください。
今、宣王が、ここで太鼓などによる音楽を楽しんでも、全ての人々は、宣王による鐘や太鼓の音声や管楽器や『龠』という竹笛の音声を聞いて、皆こぞって頭を痛めて鼻筋にしわを寄せてしかめて、お互いに言い合うでしょう。
『私達の王、宣王は太鼓などによる音楽が好きである。
それなのに、どうして、私達をこの悲惨の極みに至らせてしまっているのか?
父と子は、(離散してしまって、)お互いに会う事もできない。
兄弟、妻子も離散してしまっている』と。
今、宣王が、ここで狩猟をしても、全ての人々は、宣王による車や馬の音声を聞いて、雉の羽と旄牛の尾による軍旗の美しさを見て、皆こぞって、頭を痛めて鼻筋にしわを寄せてしかめて、お互いに言い合うでしょう。
『私達の王、宣王は狩猟が好きである。
それなのに、どうして、私達をこの悲惨の極みに至らせてしまっているのか?
父と子は、(離散してしまって、)お互いに会う事もできない。
兄弟、妻子も離散してしまっている』と。
これは他でもありません。
国民と共に楽しみを同じくしていないからなのです。
今、王が、ここで太鼓などによる音楽を楽しんだら、全ての人々は、王による鐘や太鼓の音声や管楽器や『龠』という竹笛の音声を聞いて、皆こぞって、『欣欣』然として喜んで、喜色を浮かべて、お互いに言い合ったとします。
『私達の王は無病に、とても近いのではないか。
そうでなければ、どうして、太鼓などによる音楽をできようか? いいえ! 王は健康である!』と。
今、王が、ここで狩猟をしたら、全ての人々は、王による車や馬の音声を聞いて、雉の羽と旄牛の尾による軍旗の美しさを見て、皆こぞって、『欣欣』然として喜んで、喜色を浮かべて、お互いに言い合ったとします。
『私達の王は無病に、とても近いのではないか。
そうでなければ、どうして、狩猟をできようか? いいえ! 王は健康である!』と。
これは他でもありません。
国民と共に楽しみを同じくしていたら、そうなるのです。
今、宣王が、全ての人々と共に楽しみを同じくすれば、(善政を行う)真の王と成れるのです」
斉、宣王、問、曰。
「『文王之囿、方、七十里』。
有、諸?」
孟子、対、曰。
「於、伝、有、之」
曰。
「若、是、其、大、乎?」
曰。
「民、猶、以、為、小、也」
曰。
「寡人之囿、方、四十里。
民、猶、以、為、大。
何、也?」
曰。
「文王之囿、方、七十里。
芻蕘、者、往、焉。
雉兎、者、往、焉。
与、民、同、之。
民、以、為、小、不、亦、宜、乎。
臣、始、至、於、境、問、国之大禁。
然、後、敢、入。
臣、聞。
『郊関之内、有、囿、方、四十里。
殺、其麋鹿、者、如、殺人之罪』。
則、是、方、四十里、為、阱、於、国中。
民、以、為、大、不、亦、宜、乎」
斉の宣王が、孟子 先生に質問して言った。
「『文王の公園は七十里、四方であった』と聞いた事が有ります。
これは実際に有った事なのでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「伝え聞く所によると、それは実際に有った事です」
宣王が言った。
「(文王の公園は、)そのように大きかったのですか?」
孟子 先生は言った。
「国民達は、それ(、七十里、四方)ですらなお、(文王の公園は)小さいと見なしていました」
宣王が言った。
「私、宣王の公園は四十里、四方です。
しかし、国民どもは、それ(、四十里、四方)ですらなお、(宣王の公園は)大きいと見なしています。
どうしてでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「文王の公園は、七十里、四方でした。
木こりの者も入っていく事ができました。
猟師をしている者も入っていく事ができました。
(文王は、)国民達と、それ(、公園)を共同で所有していたのです。
国民達が、(七十里、四方でも文王の公園は)小さいと見なしたのは、当然なのです。
私、孟子は、初めて、(どこかの国の)国境に到着すると、その国で大いに禁じられている事を質問します。
そうした後で、あえて入るのです。
私、孟子は、(この国、斉の国境で)聞きました。
『城外の関所の内側に、(宣王の)公園が、四十里、四方、有ります。
その(宣王の公園の)大小の鹿を殺した者どもは、殺人の罪と同じように処刑されます』と。
これでは、国の中の、四十里、四方(の宣王の公園)は、落とし穴に成ってしまっているような物です。
国民達が、(四十里、四方でも宣王の公園は)大きいと見なすのは、当然です」
斉、宣王、問、曰。
「交、隣国、有、道、乎?」
孟子、対、曰。
「有。
惟、仁者、為、能、以、大、事、小。
是故、湯、事、『葛』。
文王、事、『昆夷』。
惟、智者、為、能、以、小、事、大。
故、大王( = 古公亶父)、事、『獯粥』。
勾践、事、『呉』。
以、大、事、小、者、楽、天、者、也。
以、小、事、大、者、畏、天、者、也。
楽、天、者、保、天下。
畏、天、者、保、其国。
『詩』、云。
『畏、天之威。
于、時、保、之』」
王、曰。
「大、哉、言、矣。
寡人、有、疾。
寡人、好、勇」
対、曰。
「王、請、無、好、小勇。
夫、撫、剣、疾視、曰。
『彼、悪、敢、当、我、哉?』。
此、匹夫之勇。
敵、一人、者、也。
王、請、大、之。
『詩』、云。
『王、赫、斯、怒。
爰、整、其旅。
以、遏、徂、莒。
以、篤、周、祜。
以、対、於、天下』。
此、文王之勇、也。
文王、一、怒、而、安、天下之民。
『書』、曰。
『天、降、下民。
作、之、君。
作、之、師。
惟、曰。其、助、上帝。
寵、之、四方。
有罪、無罪、惟、我、在。
天下、曷、敢、有、越、厥志?』。
一人、衡行、於、天下、武王、恥、之。
此、武王之勇、也。
而、武王、亦、一、怒、而、安、天下之民。
今、王、亦、一、怒、而、安、天下之民、民、惟、恐、王、之、不、好、勇、也」
斉の宣王は、孟子 先生に質問して言った。
「隣国と交際する方法が(何か)有りますか?」
孟子 先生は答えて言った。
「有ります。
ただ『仁者』、『思いやり深い知者』だけが、(自国が)大国でも、小国に仕える事ができます。
このため、殷の湯王は、葛に仕えました。
文王は、昆夷に仕えました。
また、ただ知者だけが、(自国が)小国でも、大国に仕える事ができます。
そのため、周王朝の古公亶父は、獯粥に仕えました。
勾践は呉に仕えました。
(自国が)大国でも、小国に仕える者は、天の神を楽しむ者なのです。
(自国が)小国でも、大国に仕える者は、天の神を畏敬する者なのです。
天の神を楽しむ者は、天下を保持できます。
天の神を畏敬する者は、自国を保持できます。
『詩経』で言われています。
『天の神の権威を畏敬する。
そうする時に、その自国を保持できる』と」
宣王が言った。
「大いなる言葉ですね。
ただ、私、宣王には、病癖が有るのです。
私、宣王は武勇を好んでしまうのです」
孟子 先生は答えて言った。
「宣王よ、請い願わくば、矮小な武勇を好むなかれ。
剣を撫でつつ、にらみながら、言ったとします。
『あいつが、どうして、私に、あえて相当できるであろうか?』と。
これは、所詮、一人の男の武勇なのです。
所詮、一人としか敵対できない者なのです。
宣王よ、請い願わくば、このような武勇を大いなる物に変えてください。
『詩経』で言われています。
『(文)王は、赤く成って、ここに、怒った。
ここで、その軍隊を整備した。
その軍隊によって、莒への進軍を阻止した。
その軍隊によって、周の幸福を手厚く守った。
その軍隊によって、天下の人々に応えた』と。
これが、文王の武勇なのです。
文王は、一度でも、(悪に対して)怒ると、天下の人々に安らぎをもたらしました。
『書経』で言われています。
『天の神が、下位の国民達を降臨させたのである。
(天の神が、)この下位の国民達の王を作っているのである。
(天の神が、)この下位の国民達の教師を作っているのである。
(天の神が、)これらの王や教師を作っているのは、王や教師は、上帝、天の神(の神意)を補助しなさい、と言う事なのである。
(天の神は、)四方で(遍く)、これらの王や教師に恩寵を与えている。
有罪も、無罪も、ただ私(、武王)に在るのである。
(私、武王は、)天下で、どうして、あえて、その(神の)志(、神意)を違えて超える事が有るだろうか? いいえ! 神意に従う!』と。
武王は、天下で、一人でも悪事を行うのを(見逃して許してしまう事を)恥じました。
これが、武王の武勇なのです。
そして、武王もまた、一度でも、怒ると、天下の人々に安らぎをもたらしました。
今、宣王もまた、一度でも、怒ったら、天下の人々に安らぎをもたらせば、人々は、ただ、宣王が武勇を好まないのを、恐れる事でしょう」
斉、宣王、見、孟子、於、雪宮。
王、曰。
「賢者、亦、有、此楽、乎?」
孟子、対、曰。
「有。
人、不、得、則、非、其上、矣。
不、得、而、非、其上、者、非、也。
為、民、上、而、不、与、民、同、楽、者、亦、非、也。
楽、民之楽、者、民、亦、楽、其楽。
憂、民之憂、者、民、亦、憂、其憂。
楽、以、天下。
憂、以、天下。
然、而、不、王、者、未、之、有、也。
昔者、斉、景公、問、於、晏子、曰。
『吾、欲、観、於、転附、朝儛。
遵、海、而、南。
放、於、琅邪。
吾、何、修、而、可、以、比、於、先王、観、也?』
晏子、対、曰。
『善、哉、問、也。
天子、適、諸侯、曰、巡狩。
巡狩、者、巡、所、守、也。
諸侯、朝、於、天子、曰、述職。
述職、者、述、所、職、也。
無、非、事、者。
春、省、耕、而、補、不足。
秋、省、斂、而、助、不、給。
夏、諺、曰。吾王、不、游、吾、何、以、休? 吾王、不、予、吾、何、以、助?
一、遊、一、予、為、諸侯、度』。
今、也、不、然。
師、行、而、糧食。
饑、者、弗、食。
労、者、弗、息。
睊睊、胥、讒、民、乃、作、慝。
方、命、虐、民、飲食、若、流。
『流連荒亡』、為、諸侯、憂。
従、流、下、而、忘、反。
謂、之、『流』。
従、流、上、而、忘、反。
謂、之、『連』。
従、獣、無、厭。
謂、之、『荒』。
楽、酒、無、厭。
謂、之、『亡』。
先王、無、『流連』之楽、『荒亡』之行。
惟、君、所、行、也。
景公、説、大、戒、於、国。
出、舎、於、郊。
於、是、始、興発、補、不足。
召、大師、曰。
『為、我、作、君臣、相、説、之、楽』。
蓋、徴招、角招、是、也。
其詩、曰。
『畜、君、何、尤?』。
『畜、君』、者、『好、君』、也」
斉の宣王が、雪宮という立派な建物で、孟子 先生に会った。
宣王が言った。
「賢者にもまた、この(立派な建物の)ような楽しみが有りますか?」
孟子 先生は答えて言った。
「有ります。
ただし、国民達は、(共に、その楽しみを)得る事ができなければ、上位者の悪口を言ってしまうでしょう。
(共に、その楽しみを)得る事ができないからといって、上位者の悪口を言ってしまう者は、正しくは、ありませんが。
しかし、国民達の上位者と成っても、国民達と楽しみを共同で所有しない者もまた、正しくありません。
国民達が楽しむのを楽しむ者に対して、国民達もまた、その者が楽しむのを楽しむのです。
国民達が心配するのを心配する者に対して、国民達もまた、その者が心配するのを心配するのです。
(真の王は、)天下の人々によって楽しむのです。
(真の王は、)天下の人々によって心配するのです。
そのようにしていて、(真の)王に成れなかった者は、未だいないのです。
昔、斉の景公が、晏子に質問して言いました。
『私、景公は、転附や朝儛という場所の辺りの見回りをしたいと欲します。
海岸線に沿って従って、南下したいです。
琅邪という所まで南下したいです。
私、景公は、どのように見回れば、古代の聖王の見回りに相当する事ができるであろうか?』と。
晏子が答えて言いました。
『善いですね、その質問は。
天子が、諸侯を見回りに行くのを、巡狩と呼びました。
巡狩とは、諸侯が守っている所を見て回る事なのです。
諸侯が、天子の朝廷に出仕するのを、述職と呼びました。
述職とは、諸侯が職務としている所の事を(天子に)述べる事なのです。
仕事ではないのに(遊ぶために)見回る者などいなかったのです。
(天子は、)春(から夏まで)は、農耕の状況に気を配って顧みて、不足しているものを(国民達に)補助してあげたのです。
(天子は、)秋(から冬まで)は、税収の状況に気を配って顧みて、不足しているものを(国民達に)補助してあげたのです。
夏王朝のことわざで言われています。私達の王が見回ってくれなければ、私達は、何によって休息できるであろうか? いいえ! 私達の王が見回ってくれなければ、私達は、何によって補助してもらえるであろうか? いいえ! と。
(天子による)見回りの一つ一つが、諸侯に対しての規則と成っていたのです。
しかし、今は、そうではありません。
人々の教師であるべき(権力)者どもは、(遊ぶために、どこかへ)行って、食糧を食べてしまいます。
そのせいで、飢えている者達は、食べる事ができなく成ってしまいます。
また、そのせいで、(権力者どもに遊ぶために)労役させられる者達は、休息する事ができなく成ってしまいます。
(権力者どもを)睊睊と怨んでにらんで、(権力者どもの)悪口を言い合って、国民達は、悪事を行うように成ってしまいます。
(権力者どもは、)神からの使命を放り捨てて、国民達を虐待して、湯水を浪費して流すように飲食しています。
(権力者どもの)流連荒亡、遊びふける事は、部下の諸侯の苦しみと成ります。
川の流れに従って川下りして(遊びふけって)、正気に戻るのを忘れてしまう。
これを流と呼びます。
川の流れに従って川を遡上して(遊びふけって)、正気に戻るのを忘れてしまう。
これを連と呼びます。
獣に従って(狩猟して遊びふけって)、飽きない。
これを荒と呼びます。
酒を楽しんで(酒にふけって)、飽きない。
これを亡と呼びます。
古代の聖王は、遊びふける事をしませんでした。
ただ、君主、景公よ、あなたの行動次第(、あなたの意思次第)なのです』と。
景公は、喜んで、大いに国(の中心部の役人達)を戒めました。
(そうしてから、景公は、)国の中心部を出て、郊外に滞在しました。
(景公は、)この郊外から、(見回りを)盛んにし始めて、(国民達に)不足しているものを補助してあげました。
(景公は、)大師という音楽家を呼び寄せて言いました。
『私、景公の為に、君主と臣下が相互に喜び合うような音楽を作りなさい』と。
私、孟子が考えるに、『徴招』と『角招』という音楽が、それなのです。
その(『徴招』と『角招』という音楽の)歌詞で言われています。
『君主を好むのをどうして非難するのか?』と。
原文の『畜、君』とは、『好、君』という意味なのです」
斉、宣王、問、曰。
「人、皆、謂、我。
『毀、明堂』。
毀、諸?
已、乎?」
孟子、対、曰。
「夫、明堂、者、王者之堂、也。
王、欲、行、王政、則、勿、毀、之、矣」
王、曰。
「王政、可、得、聞、与?」
対、曰。
「昔者、文王、之、治、『岐』、也、耕、者、九、一。
仕、者、世、禄。
関、市、譏、而、不、征。
沢梁、無、禁。
罪、人、不、孥。
老、而、無、妻、曰、『鰥』。
老、而、無、夫、曰、寡。
老、而、無、子、曰、独。
幼、而、無、父、曰、孤。
此四者、天下之窮民、而、無、告、者。
文王、発、政、施、仁、必、先、斯四者。
『詩』、云。
『哿、矣、富、人。
哀、此煢独』」
王、曰。
「善、哉、言、乎」
曰。
「王、如、善、之、則、何為、不、行?」
王、曰。
「寡人、有、疾。
寡人、好、貨」
対、曰。
「昔者、公劉、好、貨。
『詩』、云。
『乃、積。
乃、倉。
乃、裹、餱、糧、於、橐、於、囊。
思、戢、用、光。
弓矢、斯、張。
干戈、戚揚。
爰、方、啓行( → 行啓)』。
故、居、者、有、積、倉。
行、者、有、橐、囊、也。
然、後、可、以、『爰、方、啓行( → 行啓)』。
王、如、好、貨、与、百姓、同、之、於、王、何、有?」
王、曰。
「寡人、有、疾。
寡人、好、色」
対、曰。
「昔者、大王( = 古公亶父)、好、色、愛、厥妃。
『詩』、云。
『古公亶父、来、朝、走、馬。
率、西水、滸、至、於、岐、下。
爰、及、姜女、聿、来、胥、宇』。
当、是時、也、内、無、怨女、外、無、曠夫。
王、如、好、色、与、百姓、同、之、於、王、何、有?」
斉の宣王が孟子 先生に質問して言った。
「人々は皆、私、宣王に言います。
『明堂を壊すべきです』と。
これ(、『明堂』)を壊すべきですか?
それとも、(壊すのを)やめるべきですか?」
孟子 先生は答えて言った。
「『明堂』という物は、王者の堂です。
宣王が、(真の)王の政治を行いたいと欲するならば、これ(、『明堂』)を壊すなかれ」
宣王が言った。
「『王の政治』について聞く事ができ得ますか?」
孟子 先生は答えて言った。
「昔、文王が『岐』を統治していた時、農耕従事者の税は(収穫物の)九分の一でした。
(文王は、)仕えている者(、臣下)に、給料を世襲させました。
(文王は、)関所や市場では、(不審者を役人に)とがめる事はさせても、税を取り立てる事はしませんでした。
(文王は、)沢で魚を取る仕掛けを禁止しませんでした。
(文王は、)人の罪を罰する時に、妻子にまで及ぼさなかった。
老いて、妻がいない人を『男やもめ』と言います。
老いて、夫がいない人を『女やもめ』と言います。
老いて、子がいない人を『独身』と言います。
幼くして、父がいない人を『孤児(のような人)』と言います。
これらの四者は、天下の困窮している人々で、困窮を(上位者に)訴えてくれる他者などいません。
文王は、政策を立ち上げて『思いやり』を施す時に、必ず、これらの四者を優先しました。
『詩経』で言われています。
『よいのです、富裕な人々は。
これらの身寄りが無い孤独な人々をあわれんで思いやる』と」
宣王が言った。
「善いですね、その言葉は」
孟子 先生は言った。
「宣王よ、もし、その言葉を善いとするならば、どうして行わないのですか?」
宣王が言った。
「私、宣王には病癖が有るのです。
私、宣王は財産を好んでしまいます」
孟子 先生は答えて言った。
「昔の公劉も財産を好んでいましたが。
『詩経』で言われています。
『(公劉は、財産を)積み上げさせた。
(公劉は、財産を)倉いっぱいにさせた。
(公劉は、十分に、)乾飯などの食糧(と財産)を袋に包ませた。
(公劉は、)人心をおさめる事による(将来の)栄光を思っていたのである。
弓矢をここで張り。
盾や矛といった武器、斧と鉞といった武器(を整備した)。
(公劉達は、)ここで、まさに、出発した』と。
そのため、居残った者達にも倉いっぱいに積み上げられた財産が有りました。
(公劉と)同行した者達にも袋いっぱいの食糧と財産が有りました。
そうした後で、そうする事によって、『(公劉達は、)ここで、まさに、出発』できたのです。
宣王よ、もし、財産を、全ての人々と共同で所有するのを好めば、宣王に(真の王として不足している物は)何か有るでしょうか? いいえ!」
宣王が言った。
「私、宣王には病癖が有るのです。
私、宣王は『色』、『性的なもの』を好んでしまうのです」
孟子 先生は答えて言った。
「昔の古公亶父も、『色』、『性的なもの』を好んでいて、自分の妃を愛しました。
『詩経』で言われています。
『古公亶父が、朝に、馬を走らせて、来た。
西水という川のほとりに沿って従って、岐山の下に至った。
ここに及んで、(妃である)姜女と、ここに来て、家を建てて共に暮らした』と。
(妃と愛し合う古公亶父による影響で、)この当時、国の内外に、女やもめで自身を怨み悲しむ女性はいなく成ったし、男やもめもいなく成った。
宣王よ、もし、『色』、『性的なもの』を全ての人々と共同で好めば、宣王に(真の王として不足している物は)何か有るでしょうか? いいえ!」
孟子、謂、斉、宣王、曰。
「王之臣、有、托、其妻子、於、其友、而、之、『楚』、遊、者、比、其、反、也、則、凍、餒、其妻子、則、如之何?」
王、曰。
「棄、之」
曰。
「士師、不能、治、士、則、如之何?」
王、曰。
「已、之」
曰。
「四境之内、不、治、則、如之何?」
王、顧、左右、而、言、他。
孟子 先生は、斉の宣王に言った。
「宣王の臣下で、自分の妻子を友に託して楚に行って学んでいた者がいて、その者が帰った時に、その妻子が凍え飢えていたら、その友をどうしますか?」
宣王が言った。
「その友を退けます」
孟子 先生は言った。
「『士師』、『裁判官』が、『士』、『役人』を(正しく)統治不能であったならば、その裁判官をどうしますか?」
宣王が言った。
「その裁判官を辞めさせます」
孟子 先生は言った。
「四方の国境内を(正しく思いやり深く)統治できない王、その王をどうすれば良いと思いますか?」
宣王は、左右に振り返ると、他の話題を話し(て話題をそらし)た。
孟子、見、斉、宣王、曰。
「所謂、故国、者、非、謂、有、喬木、之、謂、也。
有、世臣、之、謂、也。
王、無、親臣、矣。
昔者、所、進、今日、不、知、其亡、也」
王、曰。
「吾、何、以、識、其不才、而、舎、之?」
曰。
「国、君、進、賢、如、不得已。
将、使、卑、逾、尊。
疏、逾、戚。
可、不、慎、与?!
左右、皆、曰。『賢』。未、可、也。
諸大夫、皆、曰。『賢』。未、可、也。
国、人、皆、曰。『賢』。然、後、察、之。見、『賢』、焉。然、後、用、之。
左右、皆、曰。『不可』。勿、聴。
諸大夫、皆、曰。『不可』。勿、聴。
国、人、皆、曰。『不可』。然、後、察、之。見、『不可』、焉。然、後、去、之。
左右、皆、曰。『可、殺』。勿、聴。
諸大夫、皆、曰。『可、殺』。勿、聴。
国、人、皆、曰。『可、殺』。然、後、察、之。見、『可、殺』、焉。然、後、殺、之。
故、曰。
『国、人、殺、之、也』。
如、此、然、後、可、以、為、民、父母」
孟子 先生は、斉の宣王に会って言った。
「いわゆる、古い国とは、高い木が有る国を言っている訳ではないのです。
(古い国とは、)代々仕えている臣下がいる国を言っているのです。
しかし、宣王には、側近の臣下ですらいません。
昔、昇進させた臣下が、今日、いなくなるかも分からない有様です」
宣王が言った。
「私、宣王は、何によって、臣下の非才を識別して、その非才の臣下を取捨選択したら良いのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「国の君主は、賢者を、やむを得ないかのように、昇進させるのです。
(賢者である場合は、)まさに、卑賤な血筋の者を、尊い血筋の者よりも超越させて、昇進させます。
(賢者である場合は、)身内ではない者を、身内の者よりも超越させて、昇進させます。
そのため、慎重に昇進させるべきです!
左右に仕えている側近が皆、言ったとします。『賢者である』と。それでも、まだ昇進させるべきではありません。
諸々の役人が皆、言ったとします。『賢者である』と。それでも、まだ昇進させるべきではありません。
国中の人々が皆、言ったとします。『賢者である』と。そう言われた後、その者を観察してみます。『賢者である』と見えたとします。そう見えた後、その者を採用するのです。
左右に仕えている側近が皆、言ったとします。『用いているべきではない』と。それでも、聴き入れるなかれ。
諸々の役人が皆、言ったとします。『用いているべきではない』と。それでも、聴き入れるなかれ。
国中の人々が皆、言ったとします。『用いているべきではない』と。そう言われた後、その者を観察してみます。『用いているべきではない』と見えたとします。そう見えた後、その者を去らせるのです。
左右に仕えている側近が皆、言ったとします。『殺すべきである』と。それでも、聴き入れるなかれ。
諸々の役人が皆、言ったとします。『殺すべきである』と。それでも、聴き入れるなかれ。
国中の人々が皆、言ったとします。『殺すべきである』と。そう言われた後、その者を観察してみます。『殺すべきである』と見えたとします。そう見えた後、その者を殺すのです。
このため、言われています。
『(王、独りではなく)国中の人々が、その者を殺したのである』と。
このようにして、そうした後で、国民の父母と成る事ができるのです」
斉、宣王、問、曰。
「湯、放、桀。
武王、伐、紂。
有、諸?」
孟子、対、曰。
「於、伝、有、之」
曰。
「臣、弑、其君。
可、乎?」
曰。
「賊、仁、者。
謂、之、『賊』。
賊、義、者。
謂、之、『残』。
『残賊』之人。
謂、之、『一夫』。
聞。
『誅、一夫、紂、矣』。
未、聞。
『弑、君、也』」
斉の宣王が孟子 先生に質問して言った。
「殷の湯王は、夏王朝の桀という暴君を追放しました。
周王朝の武王は、殷の紂王という暴君を討伐しました。
これは実際に有った事ですよね?」
孟子 先生は答えて言った。
「伝え聞く所によると、それは実際に有った事です」
宣王が言った。
「臣下が、その上司である君主を殺す。
善い事でしょうか?」
孟子 先生は言った。
「『仁』、『思いやり』を損なう者。
そのような(思いやりを損なう)者を『賊』と言います。
正義を損なう者。
そのような(正義を損なう)者を『残』、『(正義の)破壊者』と言います。
『残』、『(正義の)破壊者』や『賊』、『思いやりを損なう者』である人。
そのような(正義の破壊者である思いやりを損なう者である)人を『ただの一人の男』と言います。
次のように聞いています。
『ただの一人の男に過ぎない紂王に天誅を下した』と。
次のようには未だ聞いた事が有りません。
『上司である(真の)君主を殺してしまった』と」
孟子、謂、斉、宣王、曰。
「為、巨室、則、必、使、工師、求、大木。
工師、得、大木、則、王、喜、以、為、能、勝、其任、也。
匠人、斲、而、小、之、則、王、怒、以、為、不、勝、其任、矣。
夫、人、幼、而、学、之。
壮、而、欲、行、之。
王、曰。
『姑、舎、女、所、学、而、従、我』。
則、何如?
今、有、璞玉、於、此、雖、万鎰、必、使、玉人、彫琢、之。(鎰は金貨の重さの単位。一鎰は九百グラム。)
至、於、治、国家、則、曰。
『姑、舎、女、所、学、而、従、我』。
則、何、以、異、於、教、玉人、彫琢、玉、哉?」
孟子 先生は斉の宣王に言った。
「巨大な建物を造るのであれば、必ず、大工に大木を探し求めさせます。
大工が大木を得たら、王は、喜び、『その任務にたえる事が可能である』と見なします。
しかし、大工が、その大木を切って小さくしてしまったら、王は、怒り、『その任務にたえる事ができない』と見なします。
さて、ある人が、幼くして、真理を学び始めたとします。
(その人が、)壮年に成って、真理を実行したいと欲したとします。
しかし、宣王が言ったとします。
『しばらく、あなたが学んだ真理は横に置いて、私、宣王に従いなさい』と。
どうでしょうか?
今、未加工の宝玉が、ここに有って、『万鎰』、『九トンの重さの金貨の価値』といえども、必ず、宝玉を加工する職人に、その宝玉を加工、研磨させます。
しかし、国家の統治においては、宣王は言います。
『しばらく、あなたが学んだ真理は横に置いて、私、宣王に従いなさい』と。
これは、(宣王が、)宝石を加工する職人に、宝玉の加工、研磨を教える事と、何が異なるでしょうか? いいえ! 同様である!」
斉、人、伐、『燕』、勝、之。
宣王、問、曰。
「或、謂、寡人。
『勿、取』。
或、謂、寡人。
『取、之』。
以、万乗之国、伐、万乗之国、五旬、而、挙、之。
人力、不、至、於、此。
不、取、必、有、天、殃。
取、之、何如?」
孟子、対、曰。
「取、之、而、燕、民、悦、則、取、之。
古之人、有、行、之、者。
武王、是、也。
取、之、而、燕、民、不、悦、則、勿、取。
古之人、有、行、之、者。
文王、是、也。
以、万乗之国、伐、万乗之国、箪食壺漿、以、迎、王師、豈、有、他、哉、避、水火、也。
如、水、益、深、如、火、益、熱、亦、運、而已、矣」
斉の人々は、燕という国を討伐して、この燕という国に勝った。
(斉の)宣王が孟子 先生に質問して言った。
「ある人は、私、宣王に言いました。
『(燕という国を)取り込むなかれ』と。
別の、ある人は、私、宣王に言いました。
『それ(、燕という国)を取り込みましょう』と。
一万台の戦車がある大国(である斉)が、一万台の戦車がある大国(である燕)を討伐して、五十日間で、これ(、燕という大国)から勝利をあげる事ができました。
人の力だけでは、そのような結果には至らないでしょう。(神の力の介入が有ったと思います。)
(燕という国を)取り込まなければ、必ず、天の神からの災いが有るでしょう。
これ(、燕という国)を取り込むのは、どうでしょうか? 善いでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「この燕という国を取り込んで、燕の国民が喜ぶのであれば、この燕という国を取り込みなさい。
古代人にも、そのような事を行った者がいます。
それは、周王朝の武王です。
この燕という国を取り込んで、燕の国民が喜ばないのであれば、この燕という国を取り込むなかれ。
古代人にも、そのような事を行った者がいます。
それは、周王朝の文王です。
一万台の戦車がある大国(である斉)が、一万台の戦車がある大国(である燕)を討伐して、(燕の国民達が)竹製の器の食べ物と壺の飲み物で、斉の宣王の軍勢を歓迎しましたが、他でもありません、(燕という国で行われていた悪政による)水に溺れるような火に焼かれるような苦しみを免れる事ができた(と思った)からなのです。
水がますます深くなるかのように(燕という国よりも悪い政治を)すれば、、火がますます熱くなるかのように(燕という国よりも悪い政治を)すれば、また(再び燕という国の統治権は斉以外の国へ)移動してしまうだけでしょう」
斉、人、伐、『燕』、取、之。
諸侯、将、謀、救、燕。
宣王、曰。
「諸侯、多、謀、伐、寡人、者。
何、以、待、之?」
孟子、対、曰。
「臣、聞。
『七十里、為、政、於、天下、者』。
湯、是、也。
未、聞、以、千里、畏、人、者、也。
『書』、曰。
『湯、一、征、自、葛、始』。
天下、信、之。
東面、而、征、西夷、怨、南面、而、征、北狄、怨、曰。
『奚為、後、我?』。
民、望、之、若、大、旱、之、望、雲霓、也。
帰、市、者、不、止。
耕、者、不、変。
誅、其君、而、弔、其民、若、時雨、降、民、大、悦。
『書』、曰。
『徯、我后。
后、来、其、蘇』。
今、燕、虐、其民。
王、往、而、征、之。
民、以、為、将、拯、己、於、水火之中、也。
箪食壺漿、以、迎、王師。
若、殺、其父兄、係累、其子弟、毀、其宗廟、遷、其重器、如之何、其、可、也?
天下、固、畏、斉之強、也。
今、又、倍、地、而、不、行、仁、政。
是、動、天下之兵、也。
王、速、出、令、反、其旄倪、止、其重器、謀、於、燕、衆、置、君、而、後、去、之、則、猶、可、及、止、也」
斉の人々が燕という国を討伐して、この燕という国を取り込んでしまった。
諸侯達は共謀して斉から燕という国を救おうとした。
(斉の)宣王が言った。
「諸侯どもの多くが、私、宣王を討伐しようと共謀しています。
どのように、これらの諸侯どもを待ち伏せするべきでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「私、孟子は、このように聞いております。
『七十里、四方の小国でも、天下を統治して政治を行っていた者がいた』と。
それは、殷の湯王です。
千里、四方の大国なのに他の人々の国々を恐れる者など未だ聞いた事がありません。
『書経』で言われています。
『殷の湯王は、初めに、葛という国から征服を始めた』と。
天下の人々は、この殷の湯王を信頼していました。
そのため、(殷の湯王が、)東を向いて征服していたら、西夷の人々は怨めしく思い、南を向いて征服していたら、北狄の人々は怨めしく思い、このように言いました。
『どうして、(殷の湯王 様は、)私達の国の征服を後回しにするのですか?』と。
天下の人々は、大旱魃の時に雨雲から降り虹をかける雨を待ち望むかのように、この殷の湯王による征服を待ち望みました。
(殷の湯王が征服しに来ても、殷の湯王を信頼していたので、)市場に行こうとしていた者達は、市場に行くのを止めませんでした。
(殷の湯王が征服しに来ても、殷の湯王を信頼していたので、)農耕していた者達は、いつもと変わらず農耕し続けました。
(殷の湯王は、)暴君に天誅を下して、その暴君の国の国民達を弔問したので、適時に雨が降ったかのように、暴君の国の国民達は大いに喜びました。
『書経』で言われています。
『私達の(真の)君主(である殷の湯王)を待ち望んでいます。
私達の(真の)君主(である殷の湯王)が来てくれれば、私達は蘇る事ができます』と。
今、燕という国の暴君は、その燕という国の国民達を虐待していました。
宣王は、燕という国に行って、燕という国の暴君を征伐しました。
燕という国の国民達は、『(宣王は、)まさに、(燕という国で行われていた悪政による)水に溺れるような火に焼かれるような苦しみの中から自分達を助けてくれた』と見なしました。
そのため、(燕の国民達は、)竹製の器の食べ物と壺の飲み物で、斉の宣王の軍勢を歓迎しました。
しかし、(宣王たちは、)その燕の国民達の、父兄を殺し、子弟を拘束し、宗廟を破壊し、貴重な宝を持ち去る等のような事をしましたが、このような事をして、どうして善いでしょうか? いいえ! 悪い!
天下の諸侯達は、本から、斉という国の強さを恐れていたのです。
今、また、(宣王は、燕という国を取り込んで)領地を倍にしましたが、思いやり深い政治を行っていません。
それのせいで、天下の諸侯達は(斉の宣王を討伐するために)兵士達を動かしているのです。
宣王よ、速やかに、命令を出して、燕という国の老人と幼子を(燕という国に)帰還させ、(燕という国の)貴重な宝の略奪を止め、燕という国の人々とはかって(新しい正しい)君主を(燕という国に)置いて、そうした後で、燕という国から去れば、なお、まだ、諸侯達の共謀を止めるに及ぶ事が可能でしょう」
鄒、与、魯、鬨。
穆公、問、曰。
「吾有司、死者、三十三人。
而、民、莫、之、死、也。
誅、之、則、不、可、勝、誅。
不、誅、則、疾視、其長上之死、而、不、救。
如之何、則、可、也?」
孟子、対、曰。
「凶年、饑歳、君之民、老、弱、転、乎、溝壑。
壮、者、散、而、之、四方、者、幾千人、矣。
而、君之倉廩、実。
府庫、充。
有司、莫、以、告。
是、上、慢、而、残、下、也。
曾子、曰。
『戒、之。
戒、之。
出、乎、爾、者、反、乎、爾、者、也』。
夫、民、今、而、後、得、反、之、也。
君。
無、尤、焉。
君、行、仁、政、斯、民、親、其上、死、其長、矣」
鄒という国と魯という国が戦争した。
(鄒の)穆公が孟子 先生に質問して言った。
「私、穆公の国の役人の死者は三十三人にのぼります。
しかし、庶民どもは死にませんでした。
これらの庶民どもに天誅を下したくても、全員に天誅を下すのは不可能です。
しかし、(庶民どもに)天誅を下さなければ、(庶民どもは、)上司である役人達が死にそうでも、にらみつけて、救わなく成ってしまうでしょう。
これは、どうすれば良いでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「凶作の年に、君主、穆公の国民のうち、老人や弱者は道端で死んで(死体が)転がっていました。
壮年の者も離散して四方の外国へ行ってしまう者達が幾千人もいました。
しかし、君主、穆公の倉と米倉は(食糧で)満ちていました。
(穆公の)宝物庫も(財宝で)満ちていました。
役人のうち、(庶民の困窮を穆公に)訴えた人はいませんでした。
これは、上位者達の怠慢で、下位者達を損なっていたのです。
曾子は言いました。
『次の事を戒めなさい。
次の事を戒めなさい。
あなたから出した物(、言動)は、あなたへ返って来る物(、言動)なのである』と。
そのため、今、庶民達は、その役人どもの悪い言動を(役人どもへ)仕返しする事ができ得ただけなのです。
君主、穆公よ。
庶民達を非難するなかれ。
君主、穆公が、そこで、思いやり深い政治を行っていれば、庶民達も、上位者である役人達に親切に成って、上位者である役人達のために死力を尽くしてくれていたでしょう」
滕、文公、問、曰。
「滕、小国、也。
間、於、斉、楚。
事、斉、乎?
事、楚、乎?」
孟子、対、曰。
「是謀、非、吾、所、能、及、也。
無已、則、有、一、焉。
鑿、斯池、也、築、斯城、也、与、民、守、之、効、死、而、民、弗、去、則、是、可、為、也」
滕の文公が孟子 先生に質問して言った。
「滕は小国です。
(滕は、)斉と楚という大国の間にあります。
斉に仕えるべきでしょうか?
楚に仕えるべきでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「そのような、はかり事は、私、孟子の及ぶ事ができる所ではありません。
やむを得なければ、一つ、提案が有ります。
この池を更に深く掘り、この城を更に堅固に築き直し、国民達と共に、この城を守り、死力を尽くして国民が去らないようにすれば、そのようにする(、滕という国を守る)事が可能でしょう」
滕、文公、問、曰。
「斉、人、将、築、『薛』。
吾、甚、恐。
如之何、則、可?」
孟子、対、曰。
「昔者、大王( = 古公亶父)、居、『邠』。
狄、人、侵、之。去、之、岐山之下、居、焉。
非、択、而、取、之。
不得已、也。
苟、為、善、後世、子孫、必、有、王者、矣。
君子、創業、垂統、為、可、継、也。
若、夫成功、則、天、也。
君。
如彼何、哉?
強、為、善、而已、矣」
滕の文公が孟子 先生に質問して言った。
「斉の人々が薛という所に城塞を築こうとしています。
私、文公は、とても恐れています。
これをどうすれば良いでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「昔、古公亶父は邠という所にいました。
狄という北の外国人達が、その邠に侵入した時、(古公亶父は、)その邠を去って、岐山の下に行きました。
その岐山の下を選び取った訳ではないのです。
やむを得ずなのです。
まことに、善行を為せば、後世の子孫に、必ず、王者がいる物なのです。
王者は、善行を始めて、善行による恩恵を後世の子孫に残して、善行を継ぐ事ができるようにします。
その善行の成功のような事は、天の神次第なのです。
君主、文公よ。
あの斉の人々をどうにかできるでしょうか? いいえ! 他人は、どうにもできない!
(人は、)努めて、善行を為すしかできないのです」
滕、文公、問、曰。
「滕、小国、也。
竭、力、以、事、大国、則、不、得、免、焉。
如之何、則、可?」
孟子、対、曰。
「昔者、大王( = 古公亶父)、居、『邠』。
狄、人、侵、之。
事、之、以、皮幣、不、得、免、焉。
事、之、以、犬、馬、不、得、免、焉。
事、之、以、珠玉、不、得、免、焉。
乃、属、其耆老、而、告、之、曰。
『狄、人、之、所、欲、者、吾土地、也。
吾、聞、之、也。君子、不、以、其、所以、養、人、者、害、人。
二三子。何、患、乎、無、君?
我、将、去、之』。
去、『邠』、逾、梁山、邑、於、岐山之下、居、焉。
邠、人、曰。
『仁、人、也。
不、可、失、也』。
従、之、者、如、帰、市。
或、曰。
『世、守、也。
非、身、之、所、能、為、也。
効、死、勿、去』。
君。請、択、於、斯二者」
滕の文公が孟子 先生に質問して言った。
「滕は小国です。
力を尽くして大国に仕えても、滅亡を免れる事ができ得ません。
これをどうしたら良いでしょうか?」
孟子 先生は答えて言った。
「昔、古公亶父は邠という所に居ました。
狄という北の外国人達が、その邠を侵略しました。
その狄に、皮や絹を献上して、仕えようとしましたが、侵略を免れる事ができ得ませんでした。
その狄に、犬や馬を献上して、仕えようとしましたが、侵略を免れる事ができ得ませんでした。
その狄に、真珠や宝玉を献上して、仕えようとしましたが、侵略を免れる事ができ得ませんでした。
(古公亶父は、)その邠の長老を集めて言いました。
『狄という北の外国人達が欲している所の物は、私達の土地、邠です。
私、古公亶父は、このように聞いています。王者は、人々を養う事ができる根源である物(である土地)のために、人々に損害を与えない、と。
あなた達よ。どうして君主である私、古公亶父がいなく成る事を心配するのか?
私、古公亶父は、この邠を去ろうと思います』と。
(古公亶父は、)邠を去って、梁山を越えて、岐山の下に集落を作って、居る事にした。
邠の人達は言いました。
『(古公亶父は、)思いやり深い知的な人である。
(私達の君主として)失うべきではない』と。
(邠の人達は、)市場へ行くかのように、その古公亶父に従って付いて行きました。
一方、ある人は言っています。
『(自分の土地は先祖が)代々守ってきている物なのである。
自身だけでは、(自分の土地の放棄の決定を)できない物なのである。
死力を尽くして、(自分の土地を)去るなかれ』と。
君主、文公よ。請い願わくば、この二者から、選択してください」
魯、平公、将、出。
嬖人、臧倉、者、請、曰。
「他日、君、出、則、必、命、有司、所、之。
今、乗輿、已、駕、矣。
有司、未、知、所、之。
敢、請」
公、曰。
「将、見、孟子」
曰。
「何、哉、君、所、為、軽、身、以、先、於、匹夫、者?
以、為、賢、乎?
礼義、由、賢者、出。
而、孟子之後喪、逾、前喪。
君。
無、見、焉」
公、曰。
「諾」
楽正子、入、見、曰。
「君。
奚為、不、見、孟軻( = 孟子)、也?」
曰。
「或、告、寡人、曰。
『孟子之後喪、逾、前喪』。
是、以、不、往、見、也」
曰。
「何、哉、君、所謂、『逾』、者?
前、以、士?
後、以、大夫?
前、以、三鼎?
而、後、以、五鼎、与?」
曰。
「否。
謂、棺槨衣衾之美、也」
曰。
「非、所謂、『逾』、也。
貧富、不、同、也」
楽正子、見、孟子、曰。
「克( = 楽正子)、告、於、君。
君、為、来、見、也。
嬖人、有、臧倉、者、沮、君。
君、是、以、不、果、来、也」
曰。
「行、或、使、之。
止、或、尼、之。
行、止、非、人、所、能、也。
吾、之、不、遇、魯侯( = 平公)、天、也。
臧氏之子( = 臧倉)、焉、能、使、予、不、遇、哉?」
魯の平公が外出しようとした。
平公のお気に入りの人である臧倉という者が請うて言った。
「他の日に、君主、平公が外出する時は、必ず、役人に行き先の場所を命令します。
今、乗り物は既に馬に繋いであります。
しかし、役人は行き先の場所を未だ知りません。
あえて、請い願わくば、行き先を教えてください」
平公が言った。
「孟子 先生に会おうと思います」
臧倉が言った。
「(孟子という、)ただの庶民の一人の男を重んじて優先して、君主である平公 様が自身を軽んじるような事をするとは、何と言う事でしょうか?
孟子を賢者と見なしているのですか?
礼儀は、賢者から出現してきています。
しかし、孟子は、(無礼にも、)後の葬式を、前の葬式を超えた立派さで行いました。(無礼だから孟子は賢者ではありません。)
君主、平公 様。
孟子に会うなかれ」
平公が言った。
「わかりました」
楽正子が平公の所に入って行って言った。
「君主、平公 様。
どうして孟子 先生に会わなかったのですか?」
平公が言った。
「ある者が私、平公に言いました。
『孟子は、(無礼にも、)後の葬式を、前の葬式を超えた立派さで行った』と。
このため、孟子に会いに行きませんでした」
楽正子が言った。
「君主、平公 様、いわゆる、『(無礼にも、)超えた立派さで行った』とは、何を言っているのでしょうか?
(孟子 先生は、)前の葬式が、下級の役人としての立派さであった事を言っているのでしょうか?
(孟子 先生は、)後の葬式が、上級の役人としての立派さであった事を言っているのでしょうか?
(孟子 先生は、)前の葬式では、三つの鼎で捧げ物を捧げた事を言っているのでしょうか?
それなのに、(孟子 先生は、)後の葬式では、五つの鼎で捧げ物を捧げた事を言っているのでしょうか?」
平公が言った。
「いいえ。
棺や『槨』、『棺の外囲い』や死者に着せた衣服や死者に掛けた布団の華美さを言っているのです」
楽正子が言った。
「いわゆる、『(無礼にも、)超えた立派さで行った』訳ではないのです。
孟子 先生の貧富が同じではなかったからなのです」
楽正子が孟子 先生に会って言った。
「私、楽正子は、君主、平公に(孟子 先生に会うように)言いました。
君主、平公は孟子 先生に会いに来ようとしました。
平公のお気に入りの人である臧倉という者が、君主、平公を妨害しました。
君主、平公は、このため、孟子 先生に会いに来る約束を果たしませんでした」
孟子 先生は言った。
「行くのにも、行かせる者(、神霊)がいるのです。
やめるのにも、やめさせる者(、神霊)がいるのです。
行くのも、やめるのも、人に可能な所の物ではないのです。
私、孟子と、平公が会えないのは、天の神次第なのです。
臧倉が、どうして、私、孟子を、(平公と)会えないようにさせる事が可能でしょうか? いいえ!」