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孟子  作者: Eliphas1810
13/14

尽心 上

 尽心 上


 孟子、曰。

「尽、(その)心、(もの)、知、(その)性、也。

知、(その)性、(すなわち)、知、天、矣。

存、(その)心、養、(その)性、所以(ゆえん)(つかえる)、天、也。

殀寿(早死にと長生き)、不二、修、身、以、(まつ)(これ)所以(ゆえん)、立、命、也」



 孟子 先生は言った。

「正しい心を尽くす者は、正しさ、善の性質を知る。

正しさ、善の性質を知れば、天の神を知る。

正しい心が在って、正しさ、善の性質を修養する事が、天の神に仕える事なのである。

早死にでも長生きでも、唯一無二に一心に、自身を修養して、天の神による運命を待つ事が、(正しい真の)命(、生き方)を確立する事に成るのである」





 孟子、曰。

(ない)、非、命、也。

(したがう)、受、(その)正。

是故(このため)、知、命、(もの)、不、立、乎、巌墻(危険な高い壁)之下。

尽、(その)道、而、死、()(ただしい)、命、也。

桎梏、死、()、非、(ただしい)、命、也」



 孟子 先生は言った。

「全ては、天の神による運命による物である。

ただし、そのうちの正しいものだけに従い受け入れるのである。

このため、天の神による運命を知る者は、(倒れそうな)危険な高い壁の(もと)に立たないのである。

正しい道理、真理を尽くして死ぬのが、正しい命、生き方なのである。

罪を犯して拘束されたままや、肉欲に拘束されたまま死ぬのは、正しくない命、生き方なのである」





 孟子、曰。

「『求、(すなわち)、得、(これ)

(すてる)(すなわち)、失、(これ)』。

(これ)、求、有、益、於、得、也。

求、在、(われに)(もの)、也。

求、(これ)、有、道。

得、(これ)、有、命、(これ)、求、無益、於、得、也。

求、在、(そとに)(もの)、也」



 孟子 先生は言った。

「『(思いやりなどは、)求めれば、得られる。

(思いやりなどは、)捨てれば、失ってしまう』と言われています。

これは、(思いやりなどは、)求めて、得れば、(真の)利益が有るからなのである。

(思いやりなどは、)自分の心の中に在る物を求めるだけなのです。

(思いやりなどを、)求めるには、道、方法が有るのである。

あるものを得るには、運命が必要であるものは、求めて得ても無益なのである。

自分の外に在るものを求めているからである」





 孟子、曰。

「万物、皆、備、於、我、矣。

反、身、而、誠、(たのしみ)(ない)、大、(これよりも)

強恕(努力して思いやる)、而、行、求、仁、(ない)、近、(これよりも)



 孟子 先生は言った。

「万物は皆、自分に備わっているのである。

自身を反省しても(自分が)誠実であるのは、最も大いに楽しいのである。

努力して思いやろうとして、行動して、思いやりを求めるのは、最も思いやりに近いのである」





 孟子、曰。

「行、(これ)、而、不、(あきらかにする)、焉。

習、矣、而、不、(あきらかにする)、焉。

終身、(よる)(これ)、而、不、知、(その)道、(もの)(多数)、也」



 孟子 先生は言った。

「行動していても、それ(、道理、真理)を明らかにしていない。

習っていても、それ(、道理、真理)を明らかにしていない。

一生、それ(、道理、真理)によって生きていても、その道理、真理を知らない者が多数なのである」





 孟子、曰。

「人、不、可、以、無、恥。

無、恥、(これ)、恥、無、恥、矣」



 孟子 先生は言った。

「人には、(悪を)恥じる心が有るべきである。

(悪を)恥じる心の無さを恥じれば、恥辱を受ける事は無く成るのである」





 孟子、曰。

「恥、()、於、人、大、矣。

(なす)、機変之巧、(もの)(ない)、所、用、恥、焉。

不、恥、不若(しかず)、人、(どうして)(しく)、人、有?」



 孟子 先生は言った。

「(悪を)恥じる心は、人にとって、大いなる重要な心なのである。

臨機応変に巧みにできてしまう者は、(悪を)恥じる心を用いる場面が無く成ってしまうのである。

また、他人に及ばないのを恥じなければ、他人に追いつき追い越す事が無く成ってしまうのである!」





 孟子、曰。

「古之賢王、好、善、而、忘、勢。

古之賢士、(どうして)、独、不、然?

(たのしむ)(その)道、而、忘、人之勢。

故、王、公、不、致、敬、尽、礼、(すなわち)、不、得、(何度でも)(あう)(これ)

(あう)(かつ)(なお)、不、得、(何度でも)、而、(まして)、得、而、臣、(これ)、乎?」



 孟子 先生は言った。

「古代の賢王、聖王は、善を好んで、(自分の)権勢など忘れてしまったのである。

どうして、古代の賢者である『一人前である者』だけが、そうしてもらうべきであろうか? いいえ! 現代の賢者に対しても同様にするべきである!

正しい道理、真理を楽しんで、(俗世の)人における権勢など忘れてしまうべきなのである。

そのため、王でも、公爵でも、敬って礼儀を尽くさなければ、何度でも、賢者に会う事はでき得ないのである。

何度でも、賢者に会う事すらでき得ないのであれば、まして、賢者を臣下には、でき得ないのである!」





 孟子、謂、宋句践、曰。

「子、好、遊、乎?

吾、語、子、遊。

人、知、(これ)(また)、囂囂。

人、不、知、(また)、囂囂」


 曰。

何如(どうすれば)(ここ)、可、以、囂囂、矣?」


 曰。

「尊、徳、楽、義、(すなわち)、可、以、囂囂、矣。

故、士、窮、不、失、義、達、不、離、道。

窮、不、失、義、故、士、得、己、焉。

達、不、離、道、故、民、不、失、望、焉。

古之人、得、志、(恩恵)、加、於、民。

不、得、志、修、身、(あらわれる)、於、世。

窮、(すなわち)、独、善、(その)身。

達、(すなわち)、兼、善、天下」



 孟子 先生は宋句践に言った。

「あなた、宋句践は、遊説を好みますか?

私、孟子は、あなた、宋句践に、遊説について話しましょう。

人々が、自分を知ってくれても、無心で囂囂と遊説するべきなのです。

人々が、(自分を)知ってくれなくても、無心で囂囂と遊説するべきなのです」


 宋句践が言った。

「どうすれば、そのような場合でも、無心で囂囂と遊説できるのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「徳、善行を尊重して、正義を楽しめば、無心で囂囂と遊説できます。

そのため、『一人前である者』は、困窮しても正義の心を失わず、栄達しても道理、真理を離れません。

困窮しても正義の心を失わないので、『一人前である者』は自信を得る事ができます。

栄達しても道理、真理を離れなければ、(自身と)人々は希望を失わずに済みます。

古代人は、志を実行する好機を得れば、恩恵を人々にもたらしました。

(古代人は、)志を実行する好機を得られなければ、自身を修養してから、世に現れました。

困窮すれば、独りでも、自身を善くするのです。

栄達すれば、自身と兼ね合わせて天下の人々も善くするのです」





 孟子、曰。

「待、文王、而、後、興、(もの)、凡民、也。

(のよう)(かの)豪傑之士、(いえども)、無、文王、(なお)、興」



 孟子 先生は言った。

「文王のような聖人を待った後で立ち上がる者達は、普通の人々なのである。

かの古代の優れている勇敢な一人前である者達は、文王のような聖人がいなくてもなお立ち上がったのである」





 孟子、曰。

「附、(これ)、以、韓、魏之家、(もし)(その)(みずから)、視、欿(満足していない)然、(すなわち)(すぎる)、人、遠、矣」



 孟子 先生は言った。

「韓家や、魏家のような名家の富や高貴な地位を付属させても、もし『自身は(気高い高尚な者なので、富や高貴な地位では)満足していない』と見なす事ができるならば、他人を遠く超越している人なのである」





 孟子、曰。

「以、(安らぎをもたらす)、道、使(つかう)、民、(いえども)、労、不、怨。

以、生、道、殺、民、(いえども)、死、不、怨、殺、(もの)



 孟子 先生は言った。

「最終的に人々に安らぎをもたらすための方法として、人々を使役すれば、人々は労苦しても怨まないであろう。

最終的に多数の人々を生かすための方法として、人々を死なせてしまっても、人々は死んでも、自分達を死なせてしまった者を怨まないであろう」





 孟子、曰。

「覇者之民、(喜ぶ)(恐れる)如、也。

王者之民、皞皞(ゆったりとしている)如、也。

殺、(これ)、而、不、怨。

利、(これ)、而、不、庸。

民、日、遷、善、而、不、知、(なす)(これ)(もの)

(それ)、君子、所、(すぎる)(もの)、化、所、存、(もの)、神。

上下、()、天地、同、流。

(どうして)、曰、『小、補、(これ)』、哉?」



 孟子 先生は言った。

「覇者の国民達は、喜んだり恐れたりする。

(真の)王者の国民達は、皞皞と、ゆったりとしている。

王者が、(やむを得ず)国民を死なせてしまっても、国民達は王者を怨まないであろう。

王者が国民達に利益をもたらしても、国民達は知らずに普段どおりである。

王者の国民達は日々(悪から)善へ移り変わっていっても、王者が、そうさせていっている事を知らない。

王者は、通り過ぎた場所にいる者を教化するし、存在している場所にいる者を神聖化する。

上の天の神と同じく、下の地の人々に、善を流行させるのである。

王者は『人々を少し補助しているだけである』とは言えないのである!」





 孟子、曰。

「仁言、不如(しかず)、仁声、()、入、人、深、也。

善政、不如(しかず)、善教、()、得、民、也。

善政、民、畏、(これ)

善教、民、愛、(これ)

善政、得、民、財。

善教、得、民、心」



 孟子 先生は言った。

「思いやり深い言葉は、『思いやり深い』という名声が人々に深く染み入るのには、及ばない。

善い政治は、善についての教えが人々の関心を得るのには、及ばない。

善い政治を、国民達は畏敬する。

善についての教えを、国民達は愛する。

善い政治は、国民達に、財産を得させる。

善についての教えは、国民達に、正しい心を得させる」





 孟子、曰。

「人、()、所、不、学、而、能、(もの)(その)良能、也。

所、不、慮、而、知、(もの)(その)良知、也。

孩提之童(幼子)(いない)、不、知、愛、(その)親、(もの)

(およぶ)(その)、長、也、(いない)、不、知、敬、(その)兄、也。

(したしむ)(おや)、仁、也。

敬、長、義、也。

無他(ほかでもない)、達、(これ)、天下、也」



 孟子 先生は言った。

「人には、学ばなくても、行う事ができる、『良能』という物が有る。

(人には、)思考しなくても、知る事ができる、『良知』という物が有る。

幼子で、自分の親を愛する事を知らない者はいない。

成長して、自分の兄を敬う事を知らない者はいない。

親に親しむのは、思いやりなのである。

年長者を敬うのは、正義なのである。

他でもない、これら思いやりと正義を、天下の人々に行き届かせるべきなのである」





 孟子、曰。

「舜、()、居、深山之中、()、木、石、居、()、鹿、(イノシシ)、遊。

(その)所以(ゆえん)、異、於、深山之野人、(もの)(ちかい)(まれ)

(およぶ)(その)、聞、一善言、(みる)、一善行、(のよう)、決、江( = 長江)、河( = 黄河)、沛然(盛んである)(ない)(これ)、能、(ふせぐ)、也」



 孟子 先生は言った。

「舜が、山の奥深くの中にいた時は、木と石と共にいて、鹿や(イノシシ)と遊んでいた。

舜は、山の奥深くの中にいる粗野な人に近い生活をしていたのである。

しかし、舜の善い一言を聞き、舜の一つの善行を見ると、長江や黄河の向きが決まっている流れの勢いが盛んであるように、それら舜の善い言行を妨害できるものは無いほどなのである」





 孟子、曰。

(ない)(なす)(その)、所、不、(なす)

(ない)、欲、(その)、所、不、欲。

如此(このよう)而已(のみ)、矣」



 孟子 先生は言った。

()すべきではない事は()さない。

(ほっ)するべきではないものは(ほっ)しない。

このようにするだけなのである」





 孟子、曰。

「人、()、有、徳、慧、術知(才能が有る)(もの)(つねに)、存、乎、疢疾(苦難)

独、孤臣、孽子。

其、操、心、也、危。

其、慮、患、也、深。

故、達」



 孟子 先生は言った。

「人々のうち、徳、善行、善と、知恵と、才能が有る者達は、常に、苦難の中にいたのである。

独りで、孤立無援の臣下のような苦難、正妻ではない妻の子のような苦難の中にいたのである。

正しい心を堅固に保持するのが、危うかったのである。

心配を考慮するのが、深かったのである。

しかし、そのために、道理へ到達できたのである」





 孟子、曰。

「有、(つかえる)、君、人、(もの)

(つかえる)(この)君、(すなわち)(なす)容悦(こびへつらう)(もの)、也。

有、安、社稷、臣、(もの)

以、安、社稷、(なす)、悦、(もの)、也。

有、天、民、(もの)

達、可、行、於、天下、而、後、行、(これ)(もの)、也。

有、大、人、(もの)

(ただす)、己、而、物、(ただす)(もの)、也」



 孟子 先生は言った。

「君主に仕えているだけの人という者どもがいる。

自分の君主に仕えても、こびへつらうだけの者どもである。

神の祭壇(と国家)に安らぎをもたらす臣下という者達がいる。

神の祭壇(と国家)に安らぎをもたらす事を喜びとする者達である。

天の神の国民と言える者達がいる。

道理、真理に到達して、天下の人々に対して行動できるよう(な地位)に成った後で、行動する者達である。

大いなる人である者達がいる。

自身を正して、他の人物達も正す者達である」





 孟子、曰。

「君子、有、三楽。

而、王、天下、不、(あずかる)、存、焉。

父母、(ともに)、存、兄弟、(ない)(災いなどの悪い事)、一、楽、也。

仰、不、(はじる)、於、天、俯、不、(はじる)、於、人、二、楽、也。

得、天下、英才、而、教育、(これ)、三、楽、也。

君子、有、三楽。

而、王、天下、不、(あずかる)、存、焉」



 孟子 先生は言った。

「王者には、三つの楽しみが有る。

ただし、天下の人々の王に成る事は、(王者は、)あずかり知らない事なのである。

父母と共にいて、兄弟が無事であるのが、(王者の)第一の楽しみである。

天の神を仰いで恥じるべき事が無いし、()して人を見て恥じるべき事が無いのが、(王者の)第二の楽しみである。

天下の英才を得て、英才教育できるのが、(王者の)第三の楽しみである。

王者には、これら三つの楽しみが有るのである。

ただし、天下の人々の王に成る事は、(王者は、)あずかり知らない事なのである」





 孟子、曰。

「広土、衆民、君子、欲、(これ)、所、楽、不、存、焉。

中、天下、而、立、定、四海之民、君子、楽、(これ)、所、性、不、存、焉。

君子、所、性、(いえども)、大、行、不、加、焉。

(いえども)窮居(貧窮)、不、損、焉。

分、定、故、也。

君子、所、性、仁義礼智、根、於、心。

(その)、生、色、也、睟然(艶が有る)(あらわれる)、於、面、(あふれる)、於、背、施、於、四体、四体、不、言、而、喩」



 孟子 先生は言った。

「広い土地や、多数の人々を、(真の)王者は、欲するが、楽しむ事は無いのである。

天下の中央に立って、天下の人々を安定させる事を、(真の)王者は、楽しむが、(真の)王者の性質ではないのである。

(真の王者が)大いに行動しても、(真の)王者の性質は、増やせないのである。

(真の王者が)貧窮しても、(真の)王者の性質は、減らないのである。

(真の王者の性質である)本分、本来からの務めは、(天の神によって)定められているからである。

(真の)王者の性質とは、正しい心の根本である、思いやりと、正義と、礼儀と、智慧である。

それら、思いやりと、正義と、礼儀と、智慧が、色形に生じて表れると、顔面に艶が表れるし、満ちあふれて背にも艶が表れるし、両手両足の四肢に行き渡って、言わなくても、他人には分かるように成るのである」





 孟子、曰。

「伯夷、(さける)、紂、居、北海之浜。

聞、文王、作興(盛んである)、曰。

(どうして)、帰、乎、来? 吾、聞、西伯( = 文王)、善、養、老、(もの)』。

太公、(さける)、紂、居、東海之浜。

聞、文王、作興(盛んである)、曰。

(どうして)、帰、乎、来? 吾、聞、西伯( = 文王)、善、養、老、(もの)』。

天下、有、善、養、老、(すなわち)、仁人、以、(なす)、己、帰、矣。

五畝之宅、樹、墻下、以、桑、匹婦、蚕、(これ)(すなわち)、老者、(たりる)、以、(きる)()、矣。

五母鶏、二母()(ない)、失、(その)時、老者、(たりる)、以、(ない)、失、肉、矣。

百畝之田、匹夫、耕、(これ)、八口之家、(たりる)、以、(ない)、饑、矣。

所謂(いわゆる)、『西伯( = 文王)、善、養、老』、(とは)、制、(その)田里、教、(これ)、樹、畜、導、(その)妻子、使(させる)、養、(その)老。

五十、非、()、不、暖。

七十、非、肉、不、飽。

不、暖、不、飽、謂、(これ)、凍餒。

『文王之民、(いない)、凍餒之老者』、(これ)之謂、也」



 孟子 先生は言った。

「伯夷は、紂王を避けて、北海のほとりに居た。

(伯夷は、)『文王の勢いが盛んである』と聞いて、言った。

『文王の所へ行って帰属しよう! 私、伯夷は、文王は老人を善く養っている者である、と聞きました』と。

太公望は、紂王を避けて、東海のほとりに居た。

(太公望は、)『文王の勢いが盛んである』と聞いて、言った。

『文王の所へ行って帰属しよう! 私、太公望は、文王は老人を善く養っている者である、と聞きました』と。

天下で、老人を善く養っている者がいれば、思いやり深い知者が帰属してくれるのである。

五畝の家の、塀の壁の(もと)には、(クワ)を植えて、一人の女性が(桑の木の葉を食べて絹糸を出す)(カイコ)を養蚕すれば、家族の老人が絹の衣服を着るのに足りるのである。

五羽の母鶏、二頭の母豚を飼って、適切な時機に繁殖させれば、家族の老人が肉を食べるのに足りるのである。

百畝の田畑を、一人の男が耕せば、八人家族が飢えずに生活するのに足りるのである。

いわゆる『文王は老人を善く養っている』とは、(文王が、)このように田畑の制度を実行し、このように農業や畜産を教え、女性達や幼子達を導いて家族の老人を養わせた事を言っているのである。

五十歳の老人は、絹の衣服ではないと、体が暖かく成らないのである。

七十歳の老人は、肉を食べないと、(健康に)十分ではないのである。

(家族の老人が)暖かい絹の衣服を着れず、(健康に)十分な肉を食べれない事を、『(こご)え飢えて生活に苦しんでいる』と言うのである。

『文王の国民には、(こご)え飢えて生活に苦しんでいる老人がいない』とは、このような事を言っているのである」





 孟子、曰。

「易、(その)田疇(田畑)、薄、(その)税斂(税の取り立て)、民、可、使(させる)、富、也。

食、(これ)、以、時、用、(これ)、以、礼、財、不、可、勝、用、也。

民、非、水火、不、生活。

昏暮(黄昏)、叩、人之門戸、求、水火、無、弗、(あたえる)(もの)(いたって)(たりる)、矣。

聖人、治、天下、使(させる)、有、菽粟(豆と穀物)(のよう)、水火。

菽粟(豆と穀物)(のよう)、水火、而、民、(どうして)、有、不仁者、乎?」



 孟子 先生は言った。

「田畑を統治して、税の取り立ては軽くすれば、国民を富ませる事ができます。

その時の旬の物を食べて、礼儀に合った物を使用していれば、財産は、使用量よりも勝るのである。

人々は、水と火(の燃料)が無ければ、生活できません。

黄昏(たそがれ)に、他人の家の戸を(たた)いて、水や火(の燃料)を(分けてくれるように)求めて、与えてくれる者がいるならば、いたって満ち足りているからである。

聖人は、天下の人々を統治して、水や火(の燃料)と同じように、(天下の人々に、)豆と穀物を所有させます。

水や火(の燃料)と同じように、(天下の人々に、)豆と穀物が満ち足りていれば、人々は思いやり深い知者ばかりに成る!」





 孟子、曰。

「孔子、登、東山、而、小、魯。

登、太山( = 泰山)、而、小、天下。

故、観、於、海、(もの)、難、(なす)()

遊、於、聖人之門、(もの)、難、(なす)、言。

観、()、有、術。

必、観、(その)()

日、月、有、明。

容光(隙間から光が射す)、必、照、焉。

流水、()(なる)、物、也、不、(みたす)(部分)、不、行。

君子、()、志、於、道、也、不、成、()、不、達」



 孟子 先生は言った。

「孔子 先生は、魯という国の東山に登って、魯という国を小さいとしました。

(孔子 先生は、)泰山に登って、天下を小さいとしました。

そのため、海を観た者は、河を大きいと見なし難く成るのである。

聖人の門下へ遊学した者は、矮小な言説を『大いなる言説である』と見なし難く成るのである。

河の大小を観察する(すべ)、方法が有ります。

必ず、河の波を観察するのです。

太陽や、月には光明が有ります。

光が、隙間からでも、必ず射して、照らしてくれます。

流れていく水は、一部分、一部分を満たしていって流れて行く物なのです。

王者が、道理、真理を志したら、一段、一段を完成させていって、道理、真理へ到達する物なのです」





 孟子、曰。

「鶏、鳴、而、起、孳孳(努力して)(なす)、善、(もの)、舜之徒、也。

鶏、鳴、而、起、孳孳(努力して)(なす)、利、(もの)、跖之徒、也。

欲、知、舜、()、跖之分、無、他、利、()、善之間、也」



 孟子 先生は言った。

「(朝、)鶏が鳴いて起きたら、努力して善行を()す者達は、舜の道理、真理の学徒なのである。

(朝、)鶏が鳴いて起きたら、努力して利益を得る行動を()す者達は、跖の仲間なのである。

舜と、跖の違いを知りたいと(ほっ)するのであれば、他でも無い、利益と、善の違いなのである」





 孟子、曰。

「楊子、取、(ため)、我。

抜、一毛、而、利、天下、不、(なす)、也。

墨子、兼愛。

(摩耗する)、頂、於、踵、利、天下、(なす)(これ)

子莫、執、中。

執、中、(なす)、近、(これ)、執、中、無、(かり)(なお)、執、一、也。

所、(ぞうおする)、執、一、(もの)(ため)(その)(そこなう)、道、也。

挙、一、而、(すてる)、百、也」



 孟子 先生は言った。

「楊子は、自分の(ため)だけに利益を選び取って独占してしまうのである。

(楊子は、)自分の一つの毛を抜くことで天下の人々に利益をもたらす事ができても、しないのである。

墨子は、無差別に平等に愛してしまうのである。

(墨子は、)自分の頭頂部から(かかと)の先まで摩耗してしまっても他人である天下の人々に利益をもたらす事ができるのであれば、してしまうのである。

子莫は、楊子と墨子の中間を執り行うのである。

(子莫は、楊子と墨子の)中間を執り行うので、正しさに近いと見なす事もできるが、(楊子と墨子の)中間を執り行なおうとして仮にできなければ、(楊子と墨子の、どちらか)一方だけに偏って執り行ってしまうのである。

(楊子と墨子の、どちらか)一方だけに偏って執り行うのを憎悪する理由は、それが道理、真理を損なってしまう事に成るためである。

一つだけを挙げて、残りの百、残りの全てを捨ててしまうからである」





 孟子、曰。

「飢、(もの)(うまい)、食。

渴、(もの)(うまい)、飲。

(これ)、未、得、飲食之正、也。

飢渴、害、(これ)、也。

(どうして)(ただ)、口、腹、有、飢渴之害?

人、心、(また)、皆、有、害。

人、能、(ない)、以、飢渴之害、(なす)、心、害、(すなわち)、不、(およぶ)、人、不、(なす)、憂、矣」



 孟子 先生は言った。

「飢えている者にとっては、食べ物は美味いのである。

渇いている者にとっては、飲み物は美味いのである。

しかし、これは、未だ飲食物を正しく『会得』、『理解』していないのである。

飢え渇きが、人を損なってしまっているのである。

飢え渇きの害が有るのは、(くち)や腹だけではない。

人の心にも、飢え渇きの害が有るのである。

人が、自分の心を、飢え渇きの害に遭わないようにできれば、(富が)他人に及ばなくても、心配しなく成る」





 孟子、曰。

「柳下恵、不、以、三公、(かえる)(その)(堅さ)



 孟子 先生は言った。

「柳下恵は、三公という高貴な地位によって、自分の心の堅固さを変えなかった」





 孟子、曰。

「有、(なす)(もの)、辟、(のよう)、掘、井。

掘、井、九軔、而、不、(およぶ)、泉、(なお)(なす)、『棄、井』、也」



 孟子 先生は言った。

()すべき事が有る者は、例えば、井戸を掘っている者のようなのである。

井戸を九軔という深さまで掘っても、源泉に及ばないうちに止めてしまったら、『井戸を掘るのを放棄してしまった者である』と見なされてしまうのである」





 孟子、曰。

「堯、舜、性、(これ)、也。

湯( = 湯王)、武( = 武王)、身、(これ)、也。

五覇、(かりる)(これ)、也。

久、(かりる)、而、不、帰、(どうして)、知、(その)、非、有、也?」



 孟子 先生は言った。

「堯と、舜は、正義などを、自分の性質にした。

殷の湯王と、周王朝の武王は、正義などを身につけた。

五人の覇者は、正義などを借りていただけなのである。

(五人の覇者が、)正義などを長期間、借りたまま、返さなかったせいで、(後世の人々は、五人の覇者が)『正義などの所有者ではない』と知らないままなのである!」





 公孫丑、曰。

「伊尹、曰。

『予、不、(なれる)、于、不順』。

放、太甲、于、桐、民、大、悦。

太甲、賢。

(また)(かえす)(これ)、民、大、悦。

賢者、()(なる)、人、臣、也、(その)君、不、賢、(すなわち)(もとより)、可、放、()?」


 孟子、曰。

「有、伊尹之志、(すなわち)、可。

無、伊尹之志、(すなわち)、篡、也」



 公孫丑が言った。

「伊尹は言いました。

『私、伊尹は、(太甲を、)道理、真理への不従順に慣れさせたくない』と。

(伊尹は、)太甲を桐という所へ追放したので、国民達は大いに喜びました。

太甲は、(改心して)賢者に成りました。

(伊尹は、)太甲を復帰させたので、国民達は大いに喜びました。

賢者は、他人の臣下でありながら、自分の上司である君主が賢者でなければ、(もと)より、君主を追放しても善いのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「伊尹のような志が有れば、善い。

伊尹のような志が無ければ、簒奪に成ってしまいます」





 公孫丑、曰。

「『詩』、曰。

『不、素餐(給料泥棒)、兮』。

君子、()、不、耕、而、食、何、也?」


 孟子、曰。

「君子、居、(この)国、也、(その)君、用、之、(すなわち)、安富、尊栄。

(その)子弟、従、(これ)(すなわち)、孝弟、忠信。

『不、素餐(給料泥棒)、兮』、(だれが)、大、(よりも)(これ)?」



 公孫丑が言った。

「『詩経』で言われています。

『給料泥棒をしないように』と。

(真の)王者が、農耕作業をしないで、養われてしまっているのは、なぜ、でしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「(真の)王者が、ある国に居て、その国の君主が、その王者を用いれば、(その真の王者は、)その国に安らぎと富をもたらすし、その国を尊重される地位にして栄えさせます。

その国の若者が、その(真の)王者に従えば、目上の人を敬うように成りますし、誠実に成ります。

『給料泥棒をしない』者のうち、(真の)王者は、最も大いなる者なのである!」





 王子、墊、問、曰。

「士、何、(こと)?」


 孟子、曰。

(たかくする)、志」


 曰。

「何、謂、『(たかくする)、志』?」


 曰。

「仁義、而已(のみ)、矣。

殺、一無罪、非、仁、也。

非、(その)、有、而、取、(これ)、非、義、也。

居、(どこに)、在?

仁、(これ)、也

路、(どこに)、在?

義、(これ)、也。

居、仁、(よる)、義、大人之事、備、矣」



 王子である墊が孟子 先生に質問して言った。

「『一人前である者』は、何を大事にしますか?」


 孟子 先生は言った。

「志を高くする事を大事にします」


 墊が言った。

「どのようにする事を『志を高くする』と言っているのですか?」


 孟子 先生は言った。

「思いやりと正義を志す事だけなのです。

無罪の人を一人でも殺してしまうのは、思いやりでは、ありません。

自分が所有していないものを取ってしまうのは、正義では、ありません。

どこに居場所が有るのか?

それ(、居場所)は、思いやりなのである。

どこに道が有るのか?

それ(、道)は、正義なのである。

思いやりに留まって、正義によって行動すれば、大いなる人が一大事にしている事が備わっているのである」





 孟子、曰。

「仲子、不義、与、(これ)、斉、国、而、(ない)、受。

人、皆、信、(これ)

(これ)(すてる)、箪食、豆羹、()、義、也。

人、(ない)、大、(よりも)、亡、親戚、君臣、上下。

以、(その)、小、(もの)、信、(その)、大、(もの)(どうして)、可、哉?」



 孟子 先生は言った。

「仲子は、正しくなければ、斉という国を与えようとしても、受け取らないのである。

人々は皆、仲子の正しさを信じ込んでしまっている。

これは、竹の容器一つ分の食事や、容器一つ分のスープを捨てるような(小さな)正義なのである。

人にとって、血縁関係や、君主と臣下の関係や、上下関係を滅ぼしてしまうのは、最大の悪なのである。

小さな正義を行う者を信じ込んでしまうようでは、最も大いなる正義を行う者を信じる事ができるであろうか?」





 桃応、問、曰。

「舜、(なる)、天子、皋陶、(なる)、士、瞽瞍、殺、人、(すなわち)、如之何?」


 孟子、曰。

「執、之、而已(のみ)、矣」


「然、(すなわち)、舜、不、禁、()?」


 曰。

(それ)、舜、(どうして)、得、而、禁、(これ)

(それ)、有、所、受、(これ)、也」


「然、(すなわち)、舜、如之何?」


 曰。

「舜、視、棄、天下、(ちょうど〜のよう)、棄、敝蹝(破れた靴)、也。

(ひそかに)、負、而、逃、遵、海浜、而、処、終身、欣然(喜んで)、楽、而、忘、天下」



 桃応が孟子 先生に質問して言った。

「(仮に、)舜が天子であって、皋陶が役人であって、(舜の父である)瞽瞍が人を殺してしまったら、(舜は、)どうするのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「正義を執行するだけである」


 (桃応が言った。)

「それでは、舜は(瞽瞍の処刑を)禁止しないのですか?」


 孟子 先生は言った。

「舜は、瞽瞍の処刑を禁止でき得ない!

法は、(堯という、)受け継いできた元が有るのである」


 (桃応が言った。)

「それでは、(舜は、)どうするのでしょうか? (何もしないのでしょうか?)」


 孟子 先生は言った。

「舜は、天下の統治権を捨てる事を、破れた靴を捨てる程度に見なします。

(舜は、)ひそかに瞽瞍を背負って逃げて、海のほとりに一生いて、(親に仕えるのを)喜び楽しんで、天下の統治権など忘れてしまうであろう」





 孟子、(より)、范、(いく)、斉、望見、斉王之子、喟然(嘆息して)、嘆、曰。

「居、移、気、養、移、体。

大、哉、居、乎。

(それ)、非、(ことごとく)、人之子、()?」


 孟子、曰。

「王子、宮室、車馬、衣服、多、()、人、同。

而、王子、(のよう)、彼、(もの)(その)居、使(させる)(これ)、然、也。

(まして)、居、天下之広居、(もの)、乎?

魯、君、(いく)、宋、呼、於、垤沢之門。

守、(もの)、曰。

(これ)、非、(わが)君、也。

(どうして)(その)声、()、似、(わが)君、也?』。

(これ)無他(ほかでもない)、居、相、似、也」



 孟子 先生は、范という所から斉という国へ行き、斉の王の王子達を眺めて、嘆息して感嘆して言った。

「居る環境は気持ちに反映するし、栄養は体に反映する。

大いなるかな、(斉の王の王子達の)居る環境は。

ことごとく、人の子ではないようではないか?」


 孟子 先生は言った。

「王子は、家、馬車、衣服の多くは、他人と同じである。

しかし、王子達が、あれらのような者達である理由は、居る環境が、そうさせているのである。

まして、天下の広大な居場所(に例えられる思いやり)に居る王者は、人の子ではないようなのである!

魯の君主が、宋という国へ行って、門番を呼んだ。

門番は言った。

『この(かた)は、私達の君主ではない。

しかし、どうして、この(かた)の声は、私達の君主に似ているのであろうか?』と。

これは、他でも無い、居る環境が似ていたからなのである」





 孟子、曰。

(やしなう)、而、(ない)、愛、豕交(豚扱い)(これ)、也。

愛、而、不、敬、獣畜(獣扱い)(これ)、也。

恭敬、(もの)(礼物)()、未、(しようとしている)(もの)、也。

恭敬、而、無、実、君子、不、可、虚、拘」



 孟子 先生は言った。

「養っていても、愛さないのは、その人を豚扱いしているのである。

愛していても、敬わないのは、その人を(愛玩動物、ペットのように)動物扱いしているのである。

贈り物をしようとする前に、恭しく敬っているべきなのである。

恭しく敬っている実体が無い者に、(真の)王者は、虚しく拘束されているべきではない」





 孟子、曰。

「形色、天性、也。

(ただ)、聖人、然、後、可、以、(ふむ)、形」



 孟子 先生は言った。

「色形は、天の神による運命による性質なのである。

聖人だけが、しかるべき後に、色形を踏む事ができるのである」





 斉、宣王、欲、短、喪。


 公孫丑、曰。

(なす)、期之喪、(なお)(すぐれている)(よりも)(やめる)、乎?」


 孟子、曰。

(これ)(ちょうど〜のよう)、或、(ねじまげる)(その)兄之()、子、謂、(これ)、『(しばらく)、徐徐』、云、(しかり)

(また)、教、(これ)、孝弟、而已(のみ)、矣」


 王子、有、(その)母、死、(もの)


 其(教育係)(ため)(これ)、請、数月之喪。


 公孫丑、曰。

若此(このよう)()何如(どうなのでしょうか)、也?」


 曰。

(これ)、欲、終、(これ)、而、不、可、得、也。

(いえども)、加、一日、(すぐれている)(よりも)(やめる)

謂、(かの)(ない)(これ)、禁、而、(ない)(なす)(もの)、也」



 斉という国の宣王は、三年間の喪を短縮したいと(ほっ)してしまった。


 公孫丑が言った。

「一年間の喪をするのは、やめてしまうよりも優れていますよね?」


 孟子 先生は言った。

「それでは、ちょうど、ある人が自分の兄の腕をねじ曲げているのに、『しばらくの間だけ徐々にしてください』と言うような物なのである。

目上の人を敬う事を教えるだけなのである」


 宣王の王子達のうち、自分の母が死んでしまった者がいた。


 その王子の教育係が、その王子の(ため)に、数か月間の喪を請い願った。


 公孫丑が言った。

「このような場合は、どうなのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「これは、三年間の喪を終わらせたいと(ほっ)しても、でき得ないのである。

一日間でも喪に服すのは、やめてしまうよりも優れているのである。

あの、この数か月間の喪を禁止しないで、三年間の喪をしない者(である宣王)について言っているのである」





 孟子、曰。

「君子、()所以(ゆえん)、教、(もの)、五。

有、(のよう)、時雨、化、(これ)(もの)

有、成、徳、(もの)

有、達、(才能)(もの)

有、答、問、(もの)

有、私淑艾、(もの)

(この)五者、君子、()所以(ゆえん)、教、也」



 孟子 先生は言った。

「(真の)王者が教える者には、五種類の場合が有ります。

適切な時機に降る雨が教化するような者がいた場合。

徳、善行、善を完成させようとする者がいた場合。

有能さに到達しようとする者がいた場合。

疑問への答えを必要としている者がいた場合。

(真の王者を)ひそかに手本としている者がいた場合。

これらの五種類の者達が、(真の)王者が教える場合の者達なのである」





 公孫丑、曰。

「道、(すなわち)、高、矣、美、矣。

宜、(のよう)、登、天、然。

似、不、可、(およぶ)、也。

何、不、使(させる)、彼、(なる)、可、幾及(おいつく)、而、日、孳孳(努力する)、也?」


 孟子、曰。

「大匠、不、(ため)、拙工、改、廃、縄墨。

羿、不、(ため)、拙射、変、(その)彀率。

君子、引、而、不、発、躍如、也。

中道、而、立。

能、者、従、(これ)



 公孫丑が言った。

「(真理への)道は、高いし、美しいです。

天へ登るような物なのです。

及ぶべきではないのに似ています。

なぜ、追いつく事ができるように成るようにさせるために日々努力させるのでしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「大工は、稚拙な大工のために、墨縄を改悪したり、やめたりしません。

羿は、稚拙な射手のために、弓を引く割合を改悪したりしません。

(真の)王者は、弓を引いたが、未だ発射せず、矢が今にも発射されそうに跳躍しそうに、活発にさせます。

(真の)王者は、『中道』、『中庸』、『節制』を確立しています。

可能な者は、それに従う事ができます」





 孟子、曰。

「天下、有道、以、道、(したがう)、身。

天下、無道、以、身、(したがう)、道。

未、聞、以、道、(したがう)、乎、人、(もの)、也」



 孟子 先生は言った。

「天下が有道であれば、道理、真理を自身(の地位)に従って実行します。

天下が無道であれば、道理、真理に自身を従わせます。

道理、真理を他人に従わせた者について、未だ聞いた事が有りません」





 公都子、曰。

「滕更、()、在、門、也、(のよう)、在、所、礼。

而、不、答、何、也?」


 孟子、曰。

(はさむ)、貴、而、問、(はさむ)、賢、而、問、(はさむ)、長、而、問、(はさむ)、有、勲労、而、問、(はさむ)、故、而、問、皆、所、不、答、也。

滕更、有、二、焉」



 公都子が言った。

「滕更が(孟子 先生の)門下に弟子として、いますが、礼遇するべきように思います。

しかし、孟子 先生が(滕更からの質問に)答えないのは、なぜ、でしょうか?」


 孟子 先生は言った。

「高貴な地位である事を挟んで質問してきたり、賢明である事を挟んで質問してきたり、年長者である事を挟んで質問してきたり、君主への功績が有る事を挟んで質問してきたら、これらの質問には皆、答えません。

滕更からの質問には、これらのうち二つが有ったのです」





 孟子、曰。

「於、不、可、(やめる)、而、(やめる)(もの)、無、所、不、(やめる)

於、所、厚、(もの)、薄、無、所、不、薄、也。

(その)、進、鋭、(もの)(その)、退、速」



 孟子 先生は言った。

「やめるべきではないのにやめてしまう者どもは、全てをやめてしまうように成ってしまうのである。

手厚くするべきものの手を抜く者どもは、全てに手を抜いてしまうように成ってしまうのである。

鋭く突き進む者は、後退してしまうのも速いのである」





 孟子、曰。

「君子、()、於、物、也、愛、(これ)、而、(ない)、仁。

於、民、也、仁、(これ)、而、(ない)(したしむ)

(したしむ)(おや)、而、仁、民。

仁、民、而、愛、物」



 孟子 先生は言った。

「(真の)王者は、(土地といった)物に愛着する事は有っても、思いやらない。

(真の王者は、)人々を思いやる事が有っても、親しくしない。

(真の王者は、)親に親愛の情を(いだ)くので、他人である人々を思いやるように成るのである。

(真の王者は、)人々を思いやるので、(土地といった)物に愛着するのである」





 孟子、曰。

「知者、(ない)、不、知、也。

(まさに)、務、(これ)(なす)、急。

仁者、(ない)、不、愛、也。

急、(したしむ)、賢、(これ)(なす)、務。

堯、舜、()、知、而、不、遍、物、急、先、務、也。

堯、舜、()、仁、不、遍、愛、人、急、(したしむ)、賢、也。

不、能、三年之喪、而、『(三か月間の喪)』、『小功(五か月間の喪)』、(これ)、察、放飯流歠(下品な食べ方)、而、問、『(なかれ)、歯決』、(これ)(これ)、謂、『不、知、務』」



 孟子 先生は言った。

「知者は、知らないものが無い。

(しかし、知者は、)賢者に親しむのを急務とする(ので、その代わり、知らないものが出て来る)。

思いやり深い知者は、愛さないものが無い。

(しかし、思いやり深い知者は、)賢者に親しむのを急務とする(ので、その代わり、愛さないものが出て来る)。

堯や、舜が、物についての知恵が普遍的ではないのは、(賢者に親しむという)急務を優先したからである。

堯や、舜が、人を愛する思いやりが普遍的ではないのは、賢者に親しむという急務を優先したからである。

三年間の喪もできないくせに三か月間の喪や五か月間の喪について考察したり、下品な食べ方をしながら『無礼にも干し肉を歯で噛み切るなかれ』と問い詰めるのを『賢者に親しむ急務を知らない』と言うのである」

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