告子 下
告子 下
「任」、人、有、問、屋廬子、曰。
「礼、与、食、孰、重?」
曰。
「礼、重」
「色、与、礼、孰、重?」
曰。
「礼、重」
曰。
「以、礼、食、則、饑、而、死、不、以、礼、食、則、得、食、必、以、礼、乎?
親迎、則、不、得、妻、不、親迎、則、得、妻、必、親迎、乎?」
屋廬子、不能、対。
明日、之、鄒、以、告、孟子。
孟子、曰。
「於、答、是、也、何、有?
不、揣、其本、而、斉、其末、方寸之木、可、使、高、於、岑楼。
金、重、於、羽、者、豈、謂、一、鉤、金、与、一、輿、羽、之、謂、哉?
取、食、之、重、者、与、礼、之、軽、者、而、比、之、奚、翅、食、重?
取、色、之、重、者、与、礼、之、軽、者、而、比、之、奚、翅、色、重?
往、応、之、曰。
『紾、兄、之、臂、而、奪、之、食、則、得、食、不、紾、則、不、得、食、則、将、紾、之、乎?
踰、東、家、墻、而、搂、其処子、則、得、妻、不、搂、則、不、得、妻、則、将、搂、之、乎?』」
任という国の人がいて、屋廬子に質問して言った。
「礼儀と、食欲では、どちらが重要ですか?」
屋廬子が言った。
「礼儀の方が重要です」
任の人が言った。
「色欲と、礼儀では、どちらが重要ですか?」
屋廬子が言った。
「礼儀の方が重要です」
任の人が言った。
「礼儀によって食べようとすれば飢えて死んでしまいますが、無礼によって食べようとすれば食べ物を得られる場合でも、必ず礼儀によって行うべきでしょうか?
新郎が新婦を迎えに行く礼儀を行えば妻を得られず、新郎が新婦を迎えに行く礼儀を行わなければ妻を得られる場合でも、必ず新郎が新婦を迎えに行く礼儀を行うべきでしょうか?」
屋廬子は、答える事ができなかった。
翌日、鄒という所へ行って、孟子 先生に、この質問を告げ知らせた。
孟子 先生は言った。
「その質問に答える事について、何も問題は無い!
根本から測らずに、(一方の根本を他方の)末端にそろえてしまえば、わずかな長さの木を、高い建物よりも高くできてしまいます。
『黄金は羽よりも重い』と言いますが、『帯留め一つ分の黄金と、車一台分の羽』の事を言ってはいません!
食べ物が重大である場合を取り上げて、礼儀を軽視しても善い場合と比べても、全ての場合で食欲が重要には成らない!
色欲の対象が重大である場合を取り上げて、礼儀を軽視しても善い場合と比べても、全ての場合で色欲が重要には成らない!
その、任の人の所に行って、このように言ってみなさい。
『兄の腕をねじ曲げてしまって兄から食べ物を奪ってしまえば食べ物を得られるが、ねじ曲げなければ食べ物を得られない場合は、兄の腕をねじ曲げてしまおうとするのか?
東の家の壁を越えて、その東の家の処女をさらってしまえば妻を得られるが、さらわなければ妻を得られない場合は、さらおうとするのか?』と」
曹交、問、曰。
「『人、皆、可、以、為、堯、舜』。
有、諸?」
孟子、曰。
「然」
「交( = 曹交)、聞、文王、十尺、湯、九尺。
今、交( = 曹交)、九尺四寸、以、長。
食、粟、而已。
如何、則、可?」
曰。
「奚、有、於、是?
亦、為、之、而已、矣。
有、人、於、此。
力、不能、勝、一匹、雛、則、為、無力、人、矣。
今、曰、『挙、百鈞』、則、為、有、力、人、矣。
然、則、挙、『烏獲』之任、是、亦、為、『烏獲』、而已、矣。
夫、人、豈、以、不、勝、為、患、哉?
弗、為、耳。
徐行、後、長者、謂、之、『弟』。
疾、行、先、長者、謂、之、『不弟』。
夫、徐行、者、豈、人、所、不能、哉?
所、不、為、也。
堯、舜之道、孝弟、而已、矣。
子、服、堯之服、誦、堯之言、行、堯之行、是、堯、而已、矣。
子、服、桀之服、誦、桀之言、行、桀之行、是、桀、而已、矣」
曰。
「交( = 曹交)、得、見、於、鄒、君、可、以、仮、館。
願、留、而、受、業、於、門」
曰。
「夫、道、若、大路、然。
豈、難、知、哉?
人、病、不、求、耳。
子、帰、而、求、之、有、余、師」
曹交が孟子 先生に質問して言った。
「『人は皆、堯や、舜のように成る事ができる』と言われています。
これは実際に有り得る事でしょうか?」
孟子 先生は言った。
「そうです」
(曹交が言った。)
「『文王の背の高さは十尺、約三メートルであった。殷の湯王の背の高さは九尺、約二.七メートルであった』と私、曹交は聞いた事が有ります。
今、私、曹交の背の高さは九尺四寸と高いです。
しかし、穀物などを食べる事しかできません。
どうすれば良いのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「そこ、背の高さが問題ではないのです!
私達もまた、その堯、舜のような善行をするだけなのです。
ここに、ある人がいたとします。
その人が、鳥の雛一羽分の重さにも勝てないのであれば、『無力な人である』と見なされてしまいます。
その人が、今、『百鈞もの重いものを持ち上げられる』と言えば、『力が有る人である』と見なしてもらえます。
そうであるならば、力持ちで有名な人である烏獲ならば持ち上げられるような重いものを持ち上げれば、烏獲のような人に成っているだけなのである。
人は、自分には不可能な事について心配しなくても善いのです!
問題は、自分にも可能である善行をしない事だけなのです。
ゆっくりと歩いて年長者に遅れて歩く事を『目上の人を敬っている』と言います。
速く歩いて年長者よりも先行してしまう事を『目上の人を敬っていない』と言います。
『ゆっくりと歩く』事は、人には可能である事です!
問題は、自分にも可能である善行をしない事なのです。
『堯と、舜の道理、真理とは、目上の人を敬う事だけなのである』と言えます。
あなたが、堯のような質素な服装をして、堯のような善い言葉を話して、堯のような善行を行えば、堯のような人に成っているばかりなのである。
あなたが、暴君である桀のような豪華な服装をして、暴君である桀のような悪い言葉を話して、暴君である桀のような悪行を行えば、暴君である桀のような人に成っているばかりなのである」
曹交が言った。
「私、曹交は、鄒の君主に会う事ができ得たら、家を借りる事ができるはずです。
願わくば、孟子 先生の所に留まって、孟子 先生の門弟、弟子として、孟子 先生の善行の教えを受けたいです」
孟子 先生は言った。
「人の道である正義、善は、大きな道のように、明確なのです。
善について知るのは簡単なのです!
人は、善を求めすらしない事を気に病むだけで善いのです。
あなた、曹交が帰郷しても、この善を求めれば、私、孟子以外にも師はいるのです」
公孫丑、問、曰。
「高子、曰。
『小弁、小人之詩、也』」
孟子、曰。
「何、以、言、之?」
曰。
「怨」
曰。
「固、哉、高叟( = 高子)、之、為、詩、也。
有、人、於、此。
『越』、人、関、弓、而、射、之、則、己、談笑、而、道、之。
無、他、疏、之、也。
其兄、関、弓、而、射、之、則、己、垂、涕泣、而、道、之。
無、他、戚、之、也。
小弁之怨、親、親、也。
親、親、仁、也。
固、矣、夫、高叟( = 高子)、之、為、詩、也」
曰。
「『凱風』、何、以、不、怨?」
曰。
「『凱風』、親之過、小、者、也。
『小弁』、親之過、大、者、也。
親之過、大、而、不、怨、是、愈、疏、也。
親之過、小、而、怨、是、不、可、磯、也。
愈、疏、不孝、也。
不、可、磯、亦、不孝、也。
孔子、曰。
『舜、其、至、孝、矣。
五十、而、慕』」
公孫丑が孟子 先生に質問して言った。
「高子は言っています。
『詩経の小弁は、矮小な人による詩である』と」
孟子 先生は言った。
「なぜ、そのように言ってしまっているのでしょうか?」
公孫丑が言った。
「『詩経』の『小弁』が親を怨んでいるからです」
孟子 先生は言った。
「頑固な分かっていない人ですね、高子 先生とやらは。詩の論じ方からすると。
ここに人がいたとします。
越という外国の人が弓を引いて、その人を射ようとしたら、その人は談笑しながら、その越という外国の人に話しかけるであろう。
他でも無い、その越という外国の人と親しくないからです。
その人の兄が弓を引いて、その人を射ようとしたら、その人は涙を流しながら、その兄に話しかけるであろう。
他でも無い、その兄の凶行が悲しいからです。
『詩経』の『小弁』が親を怨んでいるのは、親と親しいからなのです。
親と親しいのは、思いやりからなのです。
頑固な分かっていない人ですね、高子 先生とやらは。詩の論じ方からすると」
公孫丑が言った。
「『詩経』の『凱風』は、なぜ、親を怨んでいないのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「『詩経』の『凱風』の親の過ちは小さいからです。
『詩経』の『小弁』の親の過ちは大きいのです。
親の過ちが大きくても怨まないのは、ますます疎遠に成ってしまっているからなのです。
親の過ちが小さくても怨むのは、慕う事ができないからなのです。
親と、ますます疎遠に成ってしまうのは、親不孝に成ってしまうのです。
慕う事ができていないのもまた、親不孝に成ってしまうのです。
孔子 先生は言いました。
『舜は、親孝行の至りなのである。
舜は、五十歳に成っても、親を慕っていた』と」
宋牼、将、之、楚。
孟子、遇、於、「石丘」、曰。
「先生、将、何、之?」
曰。
「吾、聞、『秦、楚、構、兵』。
我、将、見、楚王、説、而、罷、之。
楚王、不、悦、我、将、見、秦王、説、而、罷、之。
二王、我、将、有、所、遇、焉」
曰。
「軻( = 孟子)、也、請、無、問、其詳、願、聞、其指。
説、之、将、何如?」
曰。
「我、将、言、其不利、也」
曰。
「先生之志、則、大、矣。
先生之号、則、不、可。
先生、以、利、説、秦、楚之王、秦、楚之王、悦、於、利、以、罷、三軍之師、是、三軍之士、楽、罷、而、悦、於、利、也。
為、人、臣、者、懐、利、以、事、其君、為、人、子、者、懐、利、以、事、其父、為、人、弟、者、懐、利、以、事、其兄、是、君臣、父子、兄弟、終、去、仁義、懐、利、以、相、接。
然、而、不、亡、者、未、之、有、也。
先生、以、仁義、説、秦、楚之王、秦、楚之王、悦、於、仁義、以、罷、三軍之師、是、三軍之士、楽、罷、而、悦、於、仁義、也。
為、人、臣、者、懐、仁義、以、事、其君、為、人、子、者、懐、仁義、以、事、其父、為、人、弟、者、懐、仁義、以、事、其兄、是、君臣、父子、兄弟、去、利、懐、仁義、以、相、接、也。
然、而、不、王者、未、之、有、也。
何、必、曰、利?」
宋牼が楚へ行こうとしていた。
孟子 先生は、石丘という所で、宋牼と出会って、宋牼に言った。
「宋牼 先生、どこへ行こうとしているのでしょうか?」
宋牼が言った。
「私、宋牼は、『秦と、楚が、軍隊を身構えさせて、にらみ合っている』と聞きました。
私、宋牼は、楚の王に会って、説得して、その戦争をやめさせようとしています。
楚の王が喜んで賛同してくれなかったら、私、宋牼は、秦の王に会って、説得して、その戦争をやめさせようと思っています。
二人の王のうち、どちらかとは、私、宋牼と意見が合いそうである、と思っています」
孟子 先生は言った。
「私、孟子は、請い願わくば、その詳細については質問しないので、願わくば、その指針を聞きたいです。
どのように説得しようとしているのでしょうか?」
宋牼が言った。
「私、宋牼は、その戦争の不利益について言おうと思っています」
孟子 先生は言った。
「宋牼 先生の志は、大いなる物です。
しかし、宋牼 先生の説得方針は、善くないです。
宋牼 先生が、利益によって、秦や、楚の王を説得して、秦や、楚の王が利益を喜んで大軍を率いるのをやめたら、大軍の兵士達も、戦争停止を喜んで、利益を喜んでしまいます。
臣下である者が利益を心に抱いて自分の君主に仕えてしまったら、子である者が利益を心に抱いて自分の父に仕えてしまったら、弟である者が利益を心に抱いて自分の兄に仕えてしまったら、君主も臣下も、父も子も、兄も弟も、思いやりや正義を捨て去ってしまって、利益を心に抱いて相互に接してしまう事に成ってしまいます。
そう成ってしまっても、滅びなかった者達は、未だいないのです。
宋牼 先生が、思いやりや正義によって、秦や、楚の王を説得して、秦や、楚の王が思いやりや正義を喜んで大軍を率いるのをやめたら、大軍の兵士達も、戦争停止を喜んで、思いやりや正義を喜びます。
臣下である者が思いやりや正義を心に抱いて自分の君主に仕えたら、子である者が思いやりや正義を心に抱いて自分の父に仕えたら、弟である者が思いやりや正義を心に抱いて自分の兄に仕えたら、君主も臣下も、父も子も、兄も弟も、利益を捨て去って、思いやりや正義を心に抱いて相互に接する事になります。
そう成っても、王者に成れなかった人達は、未だいないのです。
どうして、必ずしも、利益について話す必要が有るでしょうか? いいえ!」
孟子、居、鄒、「季任」、為、「任」、処守、以、幣、交。
受、之、而、不、報。
処、於、平陸、儲子、為、「相」、以、幣、交。
受、之、而、不、報。
他日、由、鄒、之、「任」、見、季子( = 季任)。
由、平陸、之、斉、不、見、儲子。
屋廬子、喜、曰。
「連( = 屋廬子)、得、間、矣」
問、曰。
「夫子、之、任、見、季子( = 季任)、之、斉、不、見、儲子、為、其、為、『相』、与?」
曰。
「非、也。
『書』、曰。
『享、多、儀。
儀、不、及、物、曰、不享。
惟、不、役、志、于、享』。
為、其、不、成、享、也」
屋廬子、悦。
或、問、之。
屋廬子、曰。
「季子( = 季任)、不、得、之、鄒、儲子、得、之、平陸」
孟子 先生が鄒という所に居た時、季任が、任という国の留守番に成って、孟子 先生に贈り物をして交際を求めた。
孟子 先生は、その贈り物を受けたが、(その時は、)報いる事ができなかった。
孟子 先生が平陸という所に居た時、儲子が、君主の補佐に成って、孟子 先生に贈り物をして交際を求めた。
孟子 先生は、その贈り物を受けたが、報いなかった。
孟子 先生は、後日、鄒から任という国へ行った時に、季任に会いに行った。
しかし、孟子 先生は、平陸から斉という国へ行ったが、儲子に会いに行かなかった。
屋廬子が喜んで言った。
「私、屋廬子は、孟子 先生の隙を得た」
屋廬子が孟子 先生に質問して言った。
「孟子 先生は、任という国へ行った時に、季任に会いに行きましたが、斉という国へ行った時に、儲子に会いに行かなかったのは、儲子が君主の補佐に成っているためでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「そうでは、ありません。
『書経』で言われています。
『贈り物をする時には、礼儀も多くする物なのである。
礼儀が、贈り物の価値に及んでいないのを、贈り物をしていないような物である、と言うのである。
これは、志、思いが、贈り物の価値に及んでいないからなのである』と。
儲子は、(無礼で、)贈り物をした事に成っていないためなのである」
屋廬子は、(理解して)喜んだ。
ある人が、この屋廬子に質問した。
屋廬子が言った。
「季任は、贈り物をしに、鄒にいた孟子 先生に直接、会いに行けなかったが、儲子は、贈り物をしに、平陸にいた孟子 先生に直接、会いに行けたからである」
(儲子は、贈り物をしに孟子 先生に直接、会いに行けたが、無礼にもせず、贈り物だけを送りつけてきたからである。)
淳于髠、曰。
「先、名実、者、為、人、也。
後、名実、者、自、為、也。
夫子、在、三卿之中、名実、未、加、於、上下、而、去、之。
仁者、固、如此、乎?」
孟子、曰。
「居、下位、不、以、賢、事、不肖、者、伯夷、也。
五、就、湯( = 湯王)、五、就、桀、者、伊尹、也。
不、悪、汚君、不、辞、小官、者、柳下恵、也。
三子者、不同、道、其趨、一、也」
「一、者、何、也?」
曰。
「仁、也。
君子、亦、仁、而已、矣。
何、必、同?」
曰。
「魯、繆公之時、公儀子、為政、子柳、子思、為、臣。
魯、之、削、也、滋、甚。
若是、乎、賢者之無益、於、国、也?」
曰。
「虞、不、用、百里奚、而、亡。
秦、繆公、用、之、而、覇。
不、用、賢、則、亡。
削、何、可、得、与?」
曰。
「昔者、王豹、処、於、淇、而、『河西』、善、謳。
綿駒、処、於、高唐、而、斉、右、善、歌。
華周、杞梁之妻、善、哭、其夫、而、変、国、俗。
有、諸、内、必、形、諸、外。
為、其事、而、無、其功、者、髠( = 淳于髠)、未、嘗、覩、之、也。
是故、無、賢者、也。
有、則、髠( = 淳于髠)、必、識、之」
曰。
「孔子、為、魯、司寇、不、用。
従、而、祭、燔肉、不、至、不、税、冕、而、行。
不、知、者、以、為、為、肉、也。
其、知、者、以、為、為、無礼、也。
乃、孔子、則、欲、以、微罪、行。
不、欲、為、苟、去。
君子、之、所、為、衆人、固、不、識、也」
淳于髠が孟子 先生に言った。
「名声と実績を優先する者は、他人のために行動しているのである。
名声と実績を後回しにする者は、自分のために行動しているのである。
あなた、孟子は、三人の高官の中にいながら、名声や実績を未だ上位者や下位者達に加える事ができていないのにもかかわらず、この国を去ろうとしています。
思いやり深い知者とやらは、本より、こんな者なのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「下位者に居て、自分が賢者でも、愚者である君主に仕えなかった者は、伯夷である。
五回、殷の湯王にも仕えたし、五回、暴君である桀にも仕えた者は、伊尹である。
汚れた君主を嫌わず、矮小な官位を辞退しなかった者は、柳下恵である。
これらの三者は、方法は違いましたが、目的は同一でした」
淳于髠が言った。
「同一の目的とは、何でしょうか?」
孟子 先生は言った。
「思いやりです。
王者に有るのは、思いやりだけなのです。
どうして、必ずしも、思いやりによる方法が同一でしょうか? いいえ! 多様である!」
淳于髠が言った。
「魯という国の繆公の時代、公儀子が政治を行い、子柳と、子思が臣下に成っていました。
しかし、魯の領土は、ますます激しく、他国に削り取られてしまいました。
このように、賢者とやらは、国にとって無益なのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「虞という国は、百里奚を用いなかったので、滅んでしまいました。
秦という国の繆公は、百里奚を用いたので、覇者に成れました。
賢者を用いなければ、滅んでしまいます。
(賢者を用いなければ、)領土を他国に削り取られるだけでは、終わり得ないであろう!」
淳于髠が言った。
「昔、王豹が淇に居たので、河西という地域の人々は歌が巧みに成りました。
綿駒が高唐に居たので、『斉という国の南を向いている時の右』、『斉という国の西』の人々は歌が巧みに成りました。
華周の妻と、杞梁の妻は、その夫の死をよく嘆いたので、国の俗習を変革しました。
ある物が内心に有れば、その物は外に表れる物なのです。
自分の仕事をしても、その功績が表れない者を、私、淳于髠は未だかつて見た事がありません。
このため、(今、この国に、)賢者はいないのです。(だから、あなた、孟子は賢者ではありません。)
賢者がいれば、私、淳于髠は必ず認識できるはずです」
孟子 先生は言った。
「孔子 先生は、魯という国で、司寇という高官に成れたが、君主に用いられなかった。
君主に用いられなかったため、祭儀で、祭儀後に参加者へ下賜された肉が届かなかった時に、冠を取り外さずに、そのまま魯という国を去った。
孔子 先生について良く知らない者どもは、『肉のせいで、魯という国を去った』と見なしてしまった。
孔子 先生について良く知っている者達は、『君主が無礼なせいで、魯という国を去った』とした。
すなわち、孔子 先生は、軽微な過失を口実にして、魯という国を去りたいと欲したのである。(孔子 先生は、魯が父母の国なので、自身の評判を犠牲にして魯の名誉を守りたかった。)
(孔子 先生は、)『孔子 先生は、まことに、以前から、魯という国を去りたかった』と見なされたいと欲しなかったのである。
王者の行動の理由を、大衆どもは、本より、認識する事すらできないのである」
孟子、曰。
「五覇、者、三王之罪人、也。
今之諸侯、五覇之罪人、也。
今之大夫、今之諸侯之罪人、也。
天子、適、諸侯、曰、『巡狩』。
諸侯、朝、於、天子、曰、『述職』。
春、省、耕、而、補、不足。
秋、省、斂、而、助、不、給。
入、其疆、土地、辟、田野、治、養、老、尊、賢、俊傑、在、位、則、有、慶。
慶、以、地。
入、其疆、土地、荒蕪、遺、老、失、賢、掊克、在、位、則、有、譲。
一、不、朝、則、貶、其爵。
再、不、朝、則、削、其地。
三、不、朝、則、六師、移、之。
是故、天子、討、而、不、伐。
諸侯、伐、而、不、討。
五覇、者、搂、諸侯、以、伐、諸侯、者、也。
故、曰、『五覇、者、三王之罪人、也』。
五覇、桓公、為、盛。
葵丘之会、諸侯、束、牲、載、書、而、不、歃、血。
初命、曰。
『誅、不孝。
無、易、樹子。
無、以、妾、為、妻』。
再命、曰。
『尊、賢、育、才、以、彰、有徳』。
三命、曰。
『敬、老、慈、幼、無、忘、賓旅』。
四命、曰。
『士、無、世、官。
官、事、無、摂。
取、士、必、得。
無、専、殺、大夫』。
五命、曰。
『無、曲、防。
無、遏、糴。
無、有、封、而、不、告』。
曰。
『凡、我同盟之人、既、盟之後、言、帰、于、好』。
今之諸侯、皆、犯、此五禁。
故、曰、『今之諸侯、五覇之罪人、也』。
長、君之悪、其罪、小。
逢、君之悪、其罪、大。
今之大夫、皆、逢、君之悪。
故、曰、『今之大夫、今之諸侯之罪人、也』」
孟子 先生は言った。
「五人の覇者は、三人の聖王にとっては罪人なのである。
今の諸侯は、五人の覇者にとっては罪人なのである。
今の役人は、今の諸侯にとっては罪人なのである。
天子が、諸侯を見回りに行くのを、『巡狩』と呼びました。
諸侯が、天子の朝廷に出仕するのを、『述職』と呼びました。
(天子は、)春(から夏まで)は、農耕の状況に気を配って顧みて、不足しているものを(国民達に)補助してあげたのです。
(天子は、)秋(から冬まで)は、税収の状況に気を配って顧みて、不足しているものを(国民達に)補助してあげたのです。
(天子が、)ある国境から入って、土地が良く開拓されていて、田畑が良く統治されていて、老人が良く養われていて、賢者が尊重されていて、抜群に優れている人が上位に在れば、(天子からの)賜物が有った。
土地を賜物として、もらえたのである。
(天子が、)ある国境から入って、土地が荒れて雑草がはびこっていて、老人が捨てられていて、賢者が失踪していて、重税で搾取する者どもが上位に在れば、(天子からの)叱責が有った。
また、一回、諸侯が、天子の朝廷に出仕しなければ、その諸侯の爵位を下げた。
二回、諸侯が、天子の朝廷に出仕しなければ、その諸侯の領土を削った。
三回、諸侯が、天子の朝廷に出仕しなければ、天子の軍隊が、その諸侯を追放した。
このため、天子は、法を執行したのであって、戦争をしたのではないのである。
諸侯は、戦争はできても、法を執行する立場ではないのである。
五人の覇者は、(僭越にも法の執行者を騙って、)ある諸侯を率いて、別の諸侯と戦争をした者どもである。
そのため、『五人の覇者は、三人の聖王にとっては罪人なのである』と言っているのである。
五人の覇者は、桓公を盛りとする。
葵丘という所での会合で、諸侯達は、犠牲の家畜を束ねて、それら犠牲の家畜の上に同盟の盟約書を載せたが、犠牲の家畜の血はすすらなかった。
諸侯の同盟の盟約書の最初の命令で、言われています。
『親不孝者には天誅を下しなさい。
世継ぎを変更するなかれ。
正妻ではない妻を正妻にするなかれ』と。
第二の命令で、言われています。
『賢者を尊重し、英才教育し、徳、善行が有る人を表彰しなさい』と。
第三の命令で、言われています。
『老人を敬い、幼子を慈しみ、賓客と旅人への礼儀を忘れるなかれ』と。
第四の命令で、言われています。
『役人は官位を世襲するなかれ。
官位や職務を兼任させるなかれ。
役人を採用する場合は必ず、善良な人を獲得しなさい。
上級の役人を勝手に殺すなかれ』と。
第五の命令で、言われています。
『河の土手を曲げるなかれ(。意図的に敵国に洪水を起こすなかれ)。
米を買い占めるなかれ(。意図的に敵国への兵糧攻めをしたり食料価格を高騰させたりするなかれ)。
土地を与えて封じたら、他国にも通告しなさい』と。
そして、言いました。
『一般的に、私達、同盟者達は、同盟後、友好的な関係を築くべきである』と。
今の諸侯は皆、これらの禁止事項を犯してしまっている。
そのため、『今の諸侯は、五人の覇者にとっては罪人である』と言っているのである。
君主の悪事を助長する形に成ってしまっても、役人の罪は小さいのである。
君主の悪事に便乗する役人の罪は大きいのである。
今の役人は皆、君主の悪事に便乗してしまっている。
そのため、『今の役人は、今の諸侯にとっては罪人である』と言っているのである」
魯、欲、使、慎子、為、将軍。
孟子、曰。
「不、教、民、而、用、之、謂、之、『殃、民』。
殃、民、者、不、容、於、堯、舜之世。
一、戦、勝、斉、遂、有、南陽、然、且、不、可」
慎子、勃然、不、悦、曰。
「此、則、滑釐( = 慎子)、所、不、識、也」
曰。
「吾、明、告、子。
天子之地、方、千里。
不、千里、不足、以、待、諸侯。
諸侯之地、方、百里。
不、百里、不足、以、守、宗廟之典籍。
周公、之、封、於、魯、為、方、百里、也。
地、非、不足。
而、倹、於、百里。
太公、之、封、於、斉、也、亦、為、方、百里、也。
地、非、不足、也。
而、倹、於、百里。
今、魯、方、百里、者、五。
子、以、為、『有、王者、作、則、魯、在、所、損、乎? 在、所、益、乎?』
徒、取、諸、彼、以、与、此、然、且、仁者、不、為。
況、於、殺人、以、求、之、乎?
君子、之、事、君、也、務、引、其君、以、当、道、志、於、仁、而已」
魯という国が慎子を将軍に成らせたいと欲した。
孟子 先生は言った。
「国民を教育しないで利用するのを、『国民に災いをもたらす』と言う。
『国民に災いをもたらす』者どもは、堯と、舜の治世では、許容されなかった。
一回、斉という国と戦って勝って、南陽という所を所有しても、善くない」
慎子は、勃然と怒って、不機嫌に成って言った。
「それは、私、慎子の知った事ではない」
孟子 先生は言った。
「私、孟子は、明確に、あなた、慎子に告げ知らせる。
天子の土地は、千里四方である。
千里四方でなければ、諸侯を接待するのに不足するからである。
諸侯の土地は、百里四方である。
百里四方でなければ、先祖の霊廟の書物を守るのに不足するからである。
周公が魯という国を与えられて封じられた時は、百里四方であった。
土地が不足していた訳ではないのである。
百里四方に控えたのである。
太公望が斉という国を与えられて封じられた時もまた、百里四方であった。
土地が不足していた訳ではないのである。
百里四方に控えたのである。
今、魯には、百里四方の者達が五人いる。
あなた、慎子は、どう思うのか? 王者が立ち上がる事が有ったら、魯は土地を減らされるであろうか? 増やされるであろうか?
ただ土地を奪い取って他人に与えるだけでも、思いやり深い知者はしない。
思いやり深い知者は、まして、殺人によって土地を奪い取ったりしない!
王者が、君主に仕える時は、努めて、その君主を導いて、その君主に道理、真理に取り組ませて、思いやりを志させるばかりなのである」
孟子、曰。
「今、之、事、君、者、曰。
『我、能、為、君、辟、土地、充、府庫』。
今、之、所謂、良臣、古、之、所謂、民、賊、也。
君、不、郷、道、不、志、於、仁、而、求、富、之。
是、富、桀、也。
『我、能、為、君、約、与国、戦、必、克』。
今、之、所謂、良臣、古、之、所謂、民、賊、也。
君、不、郷、道、不、志、於、仁、而、求、為、之、強戦。
是、輔、桀、也。
由、今之道、無、変、今之俗、雖、与、之、天下、不能、一朝、居、也」
孟子 先生は言った。
「今の君主に仕える者どもは言います。
『私は、君主の為に、土地を開拓して、金銭の倉を満たします』と。
今の、いわゆる、良い臣下は、古代の、いわゆる、国民にとっての賊である。
君主が、道理、真理に向かわず、思いやりを志さないのに、その君主を富ませる事を求めるからである。
これでは、暴君である桀を富ませるような物なのである。
(今の君主に仕える者どもは言います。)
『私は、君主の為に、味方の国をまとめて、戦えば必ず勝ちます』と。
今の、いわゆる、良い臣下は、古代の、いわゆる、国民にとっての賊である。
君主が、道理、真理に向かわず、思いやりを志さないのに、その君主の為に強引に戦争しようと求めるからである。
これでは、暴君である桀を助けるような物なのである。
今の方法によって、今の俗習を改めないで、この桀のような暴君に天下を与えても、一日も真の王の位に居る事ができないのである」
白圭、曰。
「吾、欲、二十、而、取、一。
何如?」
孟子、曰。
「子之道、貉、道、也。
万室之国、一人、陶、則、可、乎?」
曰。
「不可。
器、不足、用、也」
曰。
「夫、貉、五穀、不、生、惟、黍、生、之。
無、城郭、宮室、宗廟、祭祀之礼、無、諸侯、幣帛、饔飧、無、百官、有司。
故、二十、取、一、而、足、也。
今、居、中国、去、人倫、無、君子、如之何、其、可、也?
陶、以、寡、且、不、可、以、為、国。
況、無、君子、乎?
欲、軽、之、於、堯、舜之道、者、大貉、小貉、也。
欲、重、之、於、堯、舜之道、者、大桀、小桀、也」
白圭が孟子 先生に言った。
「私、白圭は収穫の二十分の一を税としたいと欲します。
どうでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「あなた、白圭の方法は、北の未開な外国の方法なのです。
一万の家庭の国のうち、陶工が一人しかいないのは、可能でしょうか?」
白圭が言った。
「不可能です。
器を使用しようとしても不足してしまいます」
孟子 先生は言った。
「北の未開な外国では、五穀を生産できず、黍だけが生産できます。
(北の未開な外国では、)城も壁も、宮殿も、先祖の霊廟も、祭儀の礼儀も無いし、諸侯から神への捧げ物も、諸侯の宴も無いし、多数の役人もいません。
そのため、収穫の二十分の一を税として取っても不足しません。
今、国の中央の都市に居ながら、人の倫理、道理を捨て去ってしまって、王者もいなくて、それで、どうして、善いでしょうか? いいえ!
陶工が少なくても、国を統治できません。
まして王者がいなかったら、国を統治できません!
税率を、堯や、舜の道理よりも、軽くしたいと欲する者は、多かれ少なかれ、北の未開な外国人のような者なのです。
税率を、堯や、舜の道理よりも、重くしたいと欲する者は、多かれ少なかれ、暴君である桀のような者なのです」
白圭、曰。
「丹( = 白圭)之治水、也、愈、於、禹」
孟子、曰。
「子、過、矣。
禹之治水、水之道、也。
是故、禹、以、四海、為、壑。
今、吾子、以、隣国、為、壑。
水、逆行、謂、之、『洚水』。
洚水、者、洪水、也。
仁人、之、所、悪、也。
吾子、過、矣」
白圭が言った。
「私、白圭の治水は、禹よりも優れています」
孟子 先生は言った。
「あなた、白圭は、過ちを犯しています。
禹の治水は、水の道理、真理なのです。
このため、禹は、四海を溝としました。
今、あなた、白圭は、隣国を溝としてしまっています。
河の水が逆行するのを『洪水』と言います。
原文の『洚水』とは、『洪水』なのです。
洪水を、思いやり深い知者は憎悪します。
あなた、白圭は、過ちを犯しています」
孟子、曰。
「君子、不、亮。
悪、乎、執」
孟子 先生は言った。
「王者は、明確に固定しない。
執着を憎悪するからである」
魯、欲、使、楽正子、為政。
孟子、曰。
「吾、聞、之、喜、而、不、寐」
公孫丑、曰。
「楽正子、強、乎?」
曰。
「否」
「有、知慮、乎?」
曰。
「否」
「多、聞、識、乎?」
曰。
「否」
「然、則、奚為、喜、而、不、寐」
曰。
「其為人、也、好、善」
「好、善、足、乎?」
曰。
「好、善、優、於、天下。
而、況、魯、国、乎?
夫、苟、好、善、則、四海之内、皆、将、軽、千里、而、来、告、之、以、善。
夫、苟、不、好、善、則、人、将、曰、『訑訑。予、既、已、知、之、矣』。
訑訑之声音、顔色、距、人、於、千里之外。
士、止、於、千里之外、則、讒諂面諛之人、至、矣。
与、讒諂面諛之人、居、国、欲、治、可、得、乎?」
魯という国は、楽正子に政治をさせたいと欲した。
孟子 先生は言った。
「私、孟子は、これを聞いて喜び過ぎて寝れないほどであった」
公孫丑が言った。
「楽正子は政治に強いのですか?」
孟子 先生は言った。
「いいえ」
(公孫丑が言った。)
「(楽正子には、)知慮が有るのですか?」
孟子 先生は言った。
「いいえ」
(公孫丑が言った。)
「(楽正子は、)多くの知識を見聞きして知っているのですか?」
孟子 先生は言った。
「いいえ」
(公孫丑が言った。)
「そうであるならば、どうして、喜び過ぎて寝れなかったほどだったのですか?」
孟子 先生は言った。
「楽正子の人となりが、善を好んでいるからである」
(公孫丑が言った。)
「善を好んでいるだけで、(政治には)十分なのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「善を好んでいれば、豊かに天下を統治できます。
まして、魯という国を統治するのに十分過ぎるほどなのです。
仮に、善を好んでいれば、天下の人々は皆、千里でも軽快に越えて来て、その善を好んでいる人に善い言葉を告げ知らせようとしてくれます。
仮に、善を好まなければ、人々は『(あの善を好まない人は、)うぬぼれて他人の言葉を聴き入れない。自分は既に、それを分かっている、と言って』と悪口を言うであろう。
うぬぼれて他人の言葉を聞き入れない人の声色や顔色は、人々を、千里、離れた所へと拒んでしまうのです。
『一人前である者』を千里、離れた所で止めてしまえば、嘘の悪口で他人を陥れたり面前でこびへつらったりする人が到来してしまいます。
嘘の悪口で他人を陥れたり面前でこびへつらったりする人と居て、国を善く統治したいと欲しても、でき得るでしょうか? いいえ!」
陳子、曰。
「古之君子、何如、則、仕?」
孟子、曰。
「所、就、三。
所、去、三。
迎、之、致、敬、以、有、礼、言、将、行、其言、也、則、就、之。
礼、貌、未、衰、言、弗、行、也、則、去、之。
其、次、雖、未、行、其言、也、迎、之、致、敬、以、有、礼、則、就、之。
礼、貌、衰、則、去、之。
其下、
朝、不、食、夕、不、食、饑餓、不能、出、門戸。
君、聞、之、曰。
『吾、大、者、不能、行、其道。
又、不能、従、其言、也。
使、饑餓、於、我土地、吾、恥、之』。
周、之、亦、可、受、也。
免、死、而已、矣」
陳子が孟子 先生に言った。
「古代の王者は、どうすれば、君主に仕えたのでしょうか?」
孟子 先生は言った。
「仕える場合が三つ有ります。
それらに対して、去ってしまう場合も三つ有ります。
王者を迎え入れるために、礼儀によって敬い、王者が言えば、その言葉を実行しようとすれば、王者は仕えてくれました。
礼儀の態度が未だ衰えなくても、王者が言っても実行しなければ、王者は去ってしまいます。
その次は、王者の言葉を未だ実行できていなくても、王者を迎え入れるのに、礼儀によって敬えば、王者は仕えてくれます。
礼儀の態度が衰えれば、王者は去ってしまいます。
その下は、王者が、朝食も食べれず、夕食も食べれず、飢餓状態過ぎて、家の出入り口から出られなく成ったとします。
君主が、この王者の話を聞いて、言ったとします。
『私は、大体にして、王者の言葉を実行できません。
また、王者の言葉に従う事もできません。
しかし、私の土地で、王者を飢餓状態にさせるのを、私は恥じます』と。
この王者に対して、行き届かせれば、君主に仕える事を受け入れてくれるはずである。
ただし、王者は、死を免れるためだけに仕えてくれるのである(。より善い君主からの勧誘が有ったりすれば、去ってしまいます)」
孟子、曰。
「舜、発、於、畎畝之中。
傅説、挙、於、版築之間。
膠鬲、挙、於、魚塩之中。
管夷吾( = 管仲)、挙、於、士。
孫叔敖、挙、於、海。
百里奚、挙、於、市。
故、天、将、降、大任、於、是人、也、必、先、苦、其心志、労、其筋骨、餓、其体膚、空乏、其身、行、払乱、其、所、為。
所以、動、心、忍、性、曾、益、其、所、不能。
人、恒、過、然、後、能、改。
困、於、心、衡、於、慮、而、後、作。
徴、於、色、発、於、声、而、後、喩。
入、則、無、法家、払士、出、則、無、敵国、外患、者、国、恒、亡。
然、後、知、生、於、憂患、而、死、於、安楽、也」
孟子 先生は言った。
「舜は、田畑の中から立ち上がった。
傅説は、土木作業員の間から高位に挙げられた。
膠鬲は、魚や塩の商人の中から高位に挙げられた。
管仲は、役人の囚われの身から高位に挙げられた。
孫叔敖は、海辺から高位に挙げられた。
百里奚は、市場から高位に挙げられた。
そのため、天の神が、大いなる任務を任せようとする時、その人の、必ず、まず、意思を苦しめるし、筋骨を労苦させるし、身体髪膚を飢えさせるし、身分を貧乏にさせるし、行動をかき乱すのである。
そのおかげで、心を揮わせる事ができ、忍耐強い性質を獲得し、できなかった事をできるように成るのである。
人は、常に、過ちを犯した後で、その過ちを改める事ができるのである。
心を困惑させて、思慮と思慮を衝突させた後で、立ち上がる事ができるのである。
色形に表して、声に発した後で、理解するのである。
国内に立法者や、国政を助けられる人がいなくて、国外に仮想敵国や外国からの脅威が無ければ、国は常に滅ぶ物なのである。
そう成ってしまった後で、『心配が有ると生存できるが、安楽にふけると死んでしまう』事が分かるのである」
孟子、曰。
「教、亦、多、術、矣。
予、不、屑、之教誨、也、者、是、亦、教誨、之、而已、矣」
孟子 先生は言った。
「教えにもまた、多数の術、方法が有るのである。
私、孟子が『(今、)教えるのは善くないであろう』として教えない者にもまた、実は、私、孟子は教えているばかりであるような物なのである」
(教えないのも、教える方法の一つなのである。)