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#3 人知れず魔法に新たな1ページを加えていました

 遺跡への入り方と神儀盤の使い方、学内通行許可証を渡されて、魔物は出ないとは言え気分はさながら一端の冒険者なのだろう。少女と男の子の姉弟は、魔法学校地下にある遺跡で試験課題である魔法関連の書物や杖を探し始める。


「あっちの小部屋にも入ってみよう」


「いいけど、あたしは水の中に入るのは嫌よ」


 遺跡の中には水脈が枝分かれして通っており、それに合わせて通路が両端に設けられている。自然界にあるような洞穴が中には広がっているのに、その中では人工物の無機質なダンジョン特有の天井や壁、はたまた小部屋がある様相は人の考えではなぜそのような作りになっているだろうと不可解に感じられる。その目的が汲み取れない様式なのだ。


「ダンジョンの中ってこんな風になっているのね。

 無駄にお金がかかってそう。 ちょっと聞いてる!?」


 それを無視して弟の男の子は、流れる水の中を“ばしゃばしゃ”と水底をすくい上げながら探している。水の底には瓦礫や石、ときおり金属の破片などが落ちていて、不用意に踏み抜けばたとえブーツ越しでも危険であることが伺える。


「そんな調子じゃ、ちっとも進まないじゃない」


「きっと、分かりやすく残ってたりなんてしないよ。

 それに僕たちこういう仕事、下働きで慣れてるじゃん」


 弟の言葉に姉の少女は“あり得ない”といったジト目で呆れたように見つめる。


「せっかくダンジョンを冒険している雰囲気が台無しッ!」


「お姉ちゃんちょっとこれ見て」


 弟は水底から拾い上げた石を見せる。その石は黒く黒曜石のように光っているが、魔力を帯びており魔物の核となる魔石であることが分かる。人で言えば心臓にあたるそれは、ここに魔物がいたのだと百有余年経過した今でも教えてくれていた。


「それに水の中、金属の欠片もたくさん落ちてる」


「ここまで劣化してたら流石に使い道はないわね」


 そのあとも“これはどうかな”“こっちは?”などと二人は会話を続けながら奥へ奥へと進んでいく。魔物がいないと言う安心感から、ここがとても広く網目状に広がっていることを気にもかけていない。


「すごい。 こっち大広間の中も水路ですごい」


 そこには少女が言葉を失うのも頷ける大きな広間の中を、幾重にも段々に重なった水路が下に流れ落ちる様は言葉に表せないものがあった。


「「……」」


 ふたりは大きく息を飲む。


「ここが遺跡でよかったわね」


「ほんとうに」


 目の前にある水の流れが秀逸に深い底へと流れ落ち、その冷たい水がぞっとするほど仄暗い。水路に魔物の核があったことからも、その見えない水の中が余計に怖さを掻き立てていた。二人は大広間を抜けて階段を降り、しばらく進むとまた水脈にあたる。


「結構奥まで来たけどなんにもないのね」


 水底を漁れば何か出ては来そうなのだが、こうやって普通に見えるところにはやはりと言うべきか何もなかった。


「こっちはこれで行き止まりみたいね」


 二人が通路から小さい小部屋に入った先には、遺跡の入口で見たような大きな鉄のような重厚な門があり、門には火と水、そして風と土を表すエレメント、そして見たことが無いエレメントが加えて2つ刻まれていた。


「これなんだろうね」


「さぁ。 まったく開きそうにもないし、別の道を探しましょう」


「こっちの水の中を行ってみる? 魔物いないんだし」


「あのねぇ。 そんなどうなってるかもわからないところ行くわけないでしょ。

 水がどこに流れてるのかもわからないし、こんなに狭いのよ」


「いいじゃん。 本物の冒険者だったら行くと思うな」


「はぁ。 しょうがないわねぇ」


 好奇心が旺盛な子供だからだろう大人であれば、この先に待ち受けるリスクがちらついて中へ進んだとしても途中で引き返したことだろう。二人は水が流れる狭い水路をときに腹ばいになって奥へと進んでいく。


「これって魔晶石かなぁ」


「そうね。 加工してもらえれば立派な杖になりそうね」


「これでも合格かなぁ」


 憧れのダンジョンの中で見たこともない景色に、本物の冒険者になったような高揚感と魔物がいない安心感が重なれば歯止めがかからない。


「もっと奥へいってみましょう」


 ほどなくして二人は開けた場所に行き当たり、そこは浅く水が流れており、中心に上の階まで吹き抜けの穴がぽかんとひとつ開いている。足元には歴史の重みを感じられる甲冑や、剣などの武器が朽ちた状態で転がっている。


「やっぱり、水の中だと状態が悪いわね。

 魔晶石みたいな素材を持ち帰ったがいいのかしら」


 少女が問いかけても返事がない。そして、吹き抜けの穴の水がしたたり落ちる真下に弟の姿を見つける。真上を見上げて何かを見つめている。


「ちょっと、なんであんたは全然聞いてないのよ」


「お姉ちゃんあれ――、

 魔法書ってもしかしてこういうものを言うのかな」


 真下から見上げることで二人が見上げた穴の先の天井と、穴の淵に刻まれた文様がぴたりと一致するのだ。


「ちょっと何かにメモしないと」


 そう言って弟の男の子は近くに落ちていた甲冑の欠片に、石で削って見たものをそのまま書き写し始めた。魔法の魔力構造式は円の中でことわりとなる。レベルが上がることでことわりは、魔法の名と効力を魔法の適切を持つ者に指し示す。人の世で言う魔法書とはそれら一連をしたためた書物だが、ダンジョンではこのように刻まれた魔法の魔力構造式の断片であることがほとんどであることを知らない。


 少女は身を低く屈めて水面ぎりぎり高さで“がさごそ”と何か落ちてないかと水底を漁る。天井や壁にはダンジョン特有の灯りが等間隔に灯っている。


「お姉ちゃんとして、あたしも何か見つけないと」

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