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#3 ダンジョンらしくあるために~その2、魔物を作ろう?~

 そっぽを向いて座り込むかえでをよそに、きらきらした瞳でジェイはさっそく“やっぱり材料は水なのかなぁ”などと言いながら門の周りを歩き回っている。


「う~ん。 スライムおいで」


 ジェイは突如なにもない目の前に向けて手をかざす。


“ぽこぽこ”


 何もなかった空中に水滴があつまって、透明なサッカーボールくらいの水玉がそこに生まれた。しかし、“ぱしゃん”と弾けて足元に水あとだけが残った。


「なんでだろう……」


 足元に残った水あとをジェイがしゃがんで見つめている。“剣はうまくいったのになぁ”“もう1回やってみよう”とめげずに立ち上がる。


「スライムおいで」


 何もなかった空中に水滴があつまって、やはり“ぱしゃん”と弾けてしまう。


「う~ん」


「剣のときと全然一緒じゃないじゃない」


 ジェイが上手く行ってないことが気になったのか、不貞腐れていたかえでが“あたしなら分かりますが”といわんばかりに勝気にジェイに話しかける。


「ほら、剣のときは魔力で炎の構造式を描いて、この暁の大渓谷の草原みたいに鉄鉱石をオレンジ色に染めていたじゃない」


「えー。 そんなの難しいしわかんないよぉ」


「文句をいわない! スライムを剣だと思ってやってみる」


「はぁーい」


 かえでに促されるままにジェイは剣を作るようにイメージする。ジェイの作る剣は、彼がゲームとして知るものから作られている。逆を言えば知らないものは、抽象的になりすぎてイメージが定まらず出来上がらないのかもしれない。


「スライムは剣と同じ、スライムは剣と同じ」


 ジェイがそう言い聞かせながらもう一度試す。先ほどとは打って変わって、水の周りに炎の様な赤の幾何学模様がそれを包み込んでいる。水が“どろり”と飴細工のようにオレンジ色に染まり流れ落ち、最後に草の上で緑にわずかに輝くと、そこにはサッカーボールほどの透明なスライムがあらわれる。


「できたぁ。 みて! ぷるぷるしてる」


 透明なスライムを持ち上げて、両手に抱えてかえでに見せる。


「ふぅ。 でもスライムなんて……」


 かえでがスライムに手を乗せて念入りに調べている。門で召喚されるスライムと、ジェイの作るスライムが違っているのかも知れない。


「このスライム、魔物じゃないわよ。 ほら、核がないから動いてもない」


「えー。 これがスライムだよぉ。 魔物じゃなくたってスライムじゃん」


「ダンジョンは冒険者にとって魅力的か、毒にならないとダメなのッ!!」


 ジェイがしょんぼりして肩を落とすと、スライムが腕からするりと足元に落ちて水あとを残して消える。生命が吹き込まれた物質が魔物としてのスライムであり、生命を取り込んで成長して増えることを本能に持っている。おそらくは作るためには、魔物としてのスライムを知っていなければならないのだろう。


「!?」


 かえでが少し考えた後、ハッとしたような表情をして、


「ジェイ! あなたにはこれでいいのよ。 これで正解なの」


 とても嬉しそうな声を上げて飛び上がって喜んでいる。


 ジェイは頭の中にはたくさんの“???”が浮き上がっているようで、きょとんとした表情で少し首をかしげながらかえでの言ったことを考えているようだった。


「言ってたじゃない! もっとすごい剣も作れるけど素材が必要だって、

 この能力ってスライムの素材がダンジョンポイントを使わないで手に入るものだわ」


 ジェイの手を取ってかえでが喜ぶと、ジェイも嬉しくなって“あはは”“きゃはは”と楽しそうに水あとの周りをぐるりと追いかけっこが始まった。かえでが幼体で召喚されたことが、まるで最初からそうあるべきであったかのように――


 ほどなくして二人は落ち着くと、さっそく剣づくりが始めている。あと21ポイント残されたダンジョンポイントを使って作るようだ。


「まず、スライム準備するね」


「あ、鉄鉱石は先に頼んでおいて」


「はーい。 剣を作りたいので鉄をください」


『ダンジョンポイント6を使用し、鉄鉱石20㎏を生成します』


「ちょっとジェイ! もっと具体的に出しなさいよ」


 おそらくは他のダンジョンではもっと緻密に使われているはずのダンジョンポイントも、ジェイにかかれば3日もたたぬうちに底をつく状態である。


「どんな剣を作るの?」


 ジェイがスライムを作っている間、かえでが出来上がる剣についてジェイに尋ねている。わくわくする気持ちを隠しきれてないことが、かえでものふさふさの尻尾が揺れていることからも受け取れる。


「火、水、土、風の4つの属性しか剣作ってなかったら……。 こんどは光?」


「ちょっとジェイ、あたし達に向けられたりしないわよね」


 かえでがその属性はまずいとばかりに、ジト目でジェイを見つめている。


「ダメ?」


「あんまり沢山はまずいわね。 普通見ない属性なのは間違いないわ。

 魅力的な場所にするのは大切だけど、狙われるようになってしまうのはダメね」


「氷にしとくね」


 鉄鉱石が勝手にごとりと音を立てて、その積み上げられた幾ばくかがジェイの足元へ移動する。鉄鉱石が浮き上がり炎の様な赤の幾何学模様がそれを包み込む。


「なにこれ。 スライムが魔力構造式に溶けていってる」


 鉄鉱石とは混じり合うことはなく、その炎の様な赤の幾何学模様に混じり合っている。赤の力による開放を意味する猛々しく燃える赤を体現するかのように、幾何学模様が二重に展開され、程なくして赤を補助するオレンジが辺りを夕焼け空のように世界を照らすかのように鉄鉱石を“どろり”と飴細工のように溶かす。


 かえでが口をぽかんと開けて見とれてしまう。


「1本ですごい疲れる」


 片手剣があらわれたその瞬間から大地に緑息吹を呼んだ生命の増殖を意味する緑の光が刀身から放たれ、呼応するように刃先が氷のような冷気を纏って青白く染まる。


「できたぁ~!! 作ったら~送る~!

 かえで!? おーい」


 ほうけているかえでに“聞いてる?”といわんばかりに、目の前で手をぶんぶん振ってアピールしている。冒険者の世界で更なるやらかしを起こしてしまわないように願うばかりだ。それは、世界を照らす門がここに生まれたように、その剣は暁の地溝のダンジョンマスターの手によって作られた特別なものである。

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[良い点] 楽しくみさせてもらってます [一言] ダンジョン系が好きなのでこれからも応援してます。
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