#3 ダンジョンらしくあるために~その1、魔物を作ろう~
要望で作り終えた追加の100本の剣を前に、ジェイは前のめりになって草原に突っ伏している。“流石にもう眠らせて”と何度も倒れ込むジェイを叩き起こし、無事に?作り上げさせられたその圧巻の光景にかえでもご満悦の表情を浮かべているに違いない。
「冒険者のいるところに送るところまで」
声はとても優しく、ジェイの袖を可愛げに“ちょん”と握っているが、ジェイの表情を見るにすごい圧があるのだろう。
「はひ。 ここにある100本を冒険者いる世界へ」
剣は消える様に次第にその存在が希薄になって、ジェイの目の前からきれいさっぱりなくなりオレンジ色に染まる草原だけがそこにはあった。
「じゃぁ。 早速ダンジョンポイントを確認しましょう」
「送ってすぐに増えるのかなぁ……」
『現在のダンジョンポイントは6です』
「ちょっと全然増えてないじゃない」
「えーでも、さっきはほんとに1増えたもん」
ただ、かえでの言葉にはまったくとげは無く、彼女自身もこのまま待てばポイントは増えていくのだろうという確固たる信頼が感じられる柔らかさがあった。
「とりあえず何か食べる?」
「ダンジョン飯が食べたいッ!」
かえでの問いにジェイがなにやら言い出しにくそうにしながらも自身の希望をはっきりと口にする。
「ダンジョンポイント6で食べられるやつよ。
ドラゴンの肉とか言わないわよね。 あははっ」
ダンジョン飯が食べたいって言う様子が可愛かったのだろう。少しもじもじするように話すまでのしぐさも、小学4年生の素直なところも、そしてなによりジェイのきらきらした瞳がなんとも言えなかった。
「じゃぁ。 かえでのおすすめがいいな」
「そうねぇ。 オークやコカトリスからどうかしら。
どっちらも噛んだ時に“じゅわっ”っとなるわ」
「オークとコカトリスの肉料理をください」
『ダンジョンポイントを食べ物に交換します』
そこには2組の小さな机と椅子が向き合うように現れて、机の上にはコカトリスの肉たっぷりのほろほろシチューが器に盛られて、ワンプレートの真ん中にオーク肉の香草焼き、そして、お肉の下にガーリックライスがたっぷりと盛られている。あたり一面に何とも言えない幸せな匂いが立ち昇る。
「いっしょに食べよう」
今度はジェイがかえでの手を引っ張って同じ食卓に着く。
そこには、“おいしいよね”“うん”と言った幸せな言葉で溢れていた。食べ終わると“ふわぁ”とあくびが止まらない様子のふたりは、そのまま暖かな草原に丸まってすやすやと寝息をたてる。
それからしばらくしてジェイが先に目を覚まし、隣にかえでがいることに安心したのかまた眠りに着く。
「ちょっと、そろそろ起きなさいよ」
かえでがジェイをゆすり起こす。
「ダンジョンポイントが増えているはずよ」
かえで胸を張り自身たっぷりに言う。最初にダンジョンポイントの増加を確認したときも、ジェイが眠りから覚めた後だった。かえでにはジェイが眠りに一度落ちることでポイントが増えるのだという確信めいたものがあるらしい。
「いまダンジョンポイントいくつ?」
『現在のダンジョンポイントは71です』
「おおお」
「これ、ものすごぉーく順調よ。 ジェイ」
二人は顔を見合わせながら、でもなぜかかえでが一番嬉しそうに、まるで願いが叶ったように、まだ眠そうに上半身だけ起こして目をこするジェイをゆらしながら喜んでいる。
「さっそくダンジョンらしく魔物の召喚なんてどうかしら」
確かにかえでの言う通りではあるのだが、このままダンジョンマスターとしてダンジョンポイントを考えて使うことの繰り返しはジェイは面白味を感じてないのだろう。
「えー。 そんなの面白くないよ。 それならスライム作りたいな」
「それこそ無理だわ。 暁の大渓谷で門から召喚できるのは虫か獣人に属する魔物だけよ」
「それに、スライムなんて何の役にも立たないんだから」
魔物には意志を持つ魔物と、意志を持たない魔物がいて、スライムの多くは後者になるのだ。ダンジョンは冒険者にとって、魅力的な場所であることで食虫植物のように、ダンジョンに無い生命を取り込んで成長していく。
「でも、おもしろいよ」
「冒険者にとって魅力的か、毒にならないとダメなの」
「う~ん。 スライムがいいよ」
「門から召喚出来ないわ」
「スライムを作るなら? 剣みたいに」
「そんなこと出来るのかしら」
普通はゴブリンなど知性のある魔物が生態系を築いて、自分たちで増えていくのが一般的なダンジョンの防衛機能として有名である。もしくは多胎動物と近しい性質を持つコボルトなどがダンジョンの第一防衛機能として好まれる傾向にある。
問題があるとすれば冒険者の毒として機能しすぎる点にあるのだろう。
「ここではなんでも叶うよ。 スライムを作りたいです」
『ダンジョンポイント50を使用し、スライム作成の能力を付与します。
再取得不可の能力です。 作成するタイプを選択してください』
「ふふぅん。 じゃあ、ふつうに水で“ごふっ”」
「ちょっと! まちなさい」
かえでの鋭い突っ込みがジェイを襲い、ジェイは前のめりによろけながら後頭部を両手で押さえながら涙目になっている。
「叩くのは悪い!」
「そうでもしないともうなんの役にもたたない魔物が誕生していたわよ」
「なんで! いいじゃん。 ふつうに水のスライムぅ」
「そんなのなんの役にも立たないッ!!」
「じゃぁ。 超水スライムでお願いします」
「超を付けてもそれはただの水ッ」
『超純水』
「もう、選択されちゃってるし、ジェイのばかッ!! 知らないッ」
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