#2 人知れず平民の駆け出しの冒険者を騎士へ導いてました
ここはダンジョンの外なる世界、北部にある帝都その冒険者ギルドの応接室にあたる。ひとりの冒険者が椅子にかけていて、その正面に往年冒険者として活躍したであろう叩きあげの男が座っている。おそらくは、ギルドマスターなのだろう。
「だから、門の中じゃなくて外で拾った。 そう言ってるだろ。
冒険者ギルドはいつから、略奪や盗品でない物に関してまで口出しするようになった?」
冒険者は厚手の布を重ねた一般的な駆け出しの身なりをしており、テーブルには刀身がわずかに緑に輝きを放ち、ずしりとした質量を連想させる深みがかった赤黒い片手剣が置かれている。
「しっかりと君の名前で管理登録されている。 そこは安心して欲しい」
その言葉に安心したのか冒険者は少し柔らかくなり、さきほどと打って変わったように行儀よく腰かける。冒険者は門の中で生業を得ているため、門の出入に置いて貴重品を申請する。物が物だけに彼も門の外で拾うと言う普通あまりないないことに、冒険者ギルドから取り上げられないか心配だったのだ。
「だろう! そもそも盗品とかダンジョンの中には絶対持ち込めねぇし、
俺みたいな駆け出しだって、持っているとやべぇことくらい解るぜ」
実際に、その通りなのだ。国家の財産としてダンジョンが位置付けられている為、その管理も徹底された厳しいものである。それゆえ拾得された管理物は、家族保障や拾得者への報酬として冒険者ギルドが買い取ることになっているほど行き届いている。それは成人の儀のように神儀盤を使うため、登録の偽造も改ざんも誰であろうと等しく不可能である。
門の中に入らない貴族や王族のコレクションとして、略奪品や盗品があるのではないかと言う噂はあるものの名の通った貴族であれば、冒険者ギルドの開催する拾得品オークションで買い上げ神儀盤により然るべき登録があるため噂の域を出ることはない。
「魔導天球儀を持ってきてくれ」
ギルドマスターの声に応えるように、待機していた髪をポニーテールに束ねた男性職員がすぐさま入室する。机の上に置かれた魔導天球儀には、いくつもの球体が連結して構成されており、それぞれの球体がその存在値、ランク、性能値、系統値、そして適正レベルを測るためにある。
「ちょっと待て! おい、おい、おい。 これって……まさか」
厚手の布を重ねた一般的な駆け出しの身なりの冒険者が“がたり”と椅子を揺らし、取り乱したように立ち上がると、まるで宝くじの一等でも当たったかのようにわなわなと震える。
「で、伝、伝説級かも知れない? ってこと――なのか??」
魔導天球儀は駆け出しの冒険者が直接お目にかかれる代物ではない。性能が知りたければ、鑑定士や職人に見てもらうだけで事足りる。冒険者にとっては命を預けるに足る装備であると解れば良いのだ。
「門の外でこのように太陽が地平に沈むような刻印を施された魔剣が見つかる報告が上がっている。 そのときの状況や場所を調べているから協力してくれ」
ギルドマスターと冒険者の事情聴取は淡々と進んでいくが、冒険者の話には特段おかしなところもなく、本当にたまたまダンジョンからの帰路で拾ったとしか言いようがなかった。
「魔導天球儀を使った測定結果がでました」
話がひと段落したところを見計らっていたのだろう。髪をポニーテールに束ねた男性職員が正面の机の上の剣から離れ、魔導天球を両手に慎重に抱えながら報告する。
「存在値(87/160)、ランク(2)、性能値(20)、土属性系統値(3)、適正レベル(14)です」
「武器としての存在値87、魔法剣としての存在値160、土属性系統値3、適正レベルがそれでいて14か……」
ギルドマスターの驚愕の声とは裏腹に、冒険者は今まで聞いたことがない言葉の数々に頭に沢山の“???”が浮かんでいることが手に取るように分かるほどぽかんとしている。
「少しだけ説明しておくか、なぜ通常は魔導天球儀を使わないのか」
ギルドマスターの言葉以外に音が無いかのように、物音ひとつ立たない静けさがそこにはあった。
「普通は性能値と適正レベルしか巷で並ぶ武具には無いからだ」
冒険者は初めて聞く情報に戸惑いながらも、続きの言葉を待ち望むかのように静かにただ息をのむ。
「それが剣で言えば攻撃力、装備レベルと冒険者の間で呼ばれているものの正式な名称だ。
攻撃力は知っての通り、その剣の威力を表し、装備レベルはそのレベルに達してなければ性能の十分の一しか引き出せない、使うにあたっての目安となるレベル」
冒険者は言葉を発することもできず、その瞳はギルドマスターから離すこともできず、一言一句聞き逃さないように食い入るように聞いている。
「ランクは名工が作ったときに現れ、属性が付与され魔法剣になったとき系統値が付くが、最もやばいのが存在値で祝福を受けている場合のみに現れる」
「なんで俺にそんなこと教えてくれるんですか?」
「祝福じゃぴんとこなかったか? この剣は神話級だ。
正式な騎士として士官出来るがどうするね?」
厚手の布を重ねた一般的な駆け出しの身なりの冒険者は、こうして騎士に取り立てられる未来を歩むこととなる。平民から騎士になったその男の腰には、太陽が地平に沈むような刻印がされた剣をたずさえていたと言う。
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