#2 生きていく術見つけました~その2、剣を送ろう~
「これでどのくらいダンジョンポイント増えるのかな?」
「さぁ。 どうして増えたのかも検討がつかないわ。
あたしもダンジョンで生まれた魔物、外の世界なんて知らない」
「たくさん貯まったら美味しいものたべよう」
ジェイがかえでと楽しそうに話している。かえでが元気になっていることがジェイも嬉しいのだろう。外なる世界に送った剣がどうなったかを彼らが知る術はない。もしかすると、いつかその剣をたずさえて冒険者がジェイのダンジョンにも来るかもしれない。
「ところで、ジェイはなんでも作れるの?」
「う~ん。 わかんないけどなんでもは無理なんじゃないかなぁ。
剣のことなんて僕なにも知らないよ」
「さっきの剣は魔剣でいいのよね?」
かえでが核心を突く。それによってその剣のことの重大性が変わってくるのだ。
「まけん??」
ジェイがはじめて聞く言葉のように、まるでそれに心当たりがないかのように話す。
「刀身からわずかに緑に輝きを放っていたじゃない」
「あ、あれは普通の剣に風の属性付与をしただけなんだよ。
試しに他の剣もそれぞれに、火、水、土って属性を付けていったよ」
この世界では力による開放を意味する猛々しく光る赤に、取り出した瞬間から大地に緑息吹を呼んだ生命の増殖を意味する緑、そして、赤を補助するオレンジが辺りを夕焼け空のように世界を照らすここに門が生まれたように、その剣は暁の地溝のダンジョンマスターの手によって作られた特別なものである。
「そうかなぁ」
かえでが少し府に落ちなそうに思いながらも無理やり自分を納得させる。
「ジェイはもっとすごいものも作れるの?」
「作れるとはおもうんだけど……。
冒険者の作り方しか知らないから、魔物の素材が必要になるし……。
それは、ダンジョンマスターとしてどうなのかなぁとも思うんだけど」
なんとも煮え切らないぼそぼそ声でジェイが答える。確かにダンジョンポイントを使って魔物を生み出して、その魔物を素材にして剣を作るのはダンジョンポイントを必要以上に消費してしまうことが想像できる。
「いつかポイントに余裕があったらためしてみましょう。
まずはその普通の剣に属性を付与したものをあと100本作ってしまいましょう」
「それってダンジョンポイントほとんどなくなるんじゃ」
さすがに100本はきついよと言わんばかりに、先ほどまであんなにダンジョンポイントを使うのに厳しかったかえでの大胆な発言にたじろいでしまう。自分の欲する大きな夢には大胆なのに、目先の測れる小さな頑張りには消極的なことがジェイの強みなのだろう。
「ジェイ。 返事は“はい”よ」
「はひ。 剣100本分の鉄をください」
『ダンジョンポイント54を使用し、鉄鉱石180㎏を生成します』
鉄鉱石が山のように積み上がられて生み出される。生み出された鉄鉱石はジェイの意志に従うかのようにごとりと音を立てて、その積み上げられた幾ばくかがジェイの足元へ移動する。
「すごいわね。 こんな風にできていくのね」
かえでの目の前で鉄鉱石が浮き上がり、炎の様な赤の幾何学模様がそれを包み込んでは “どろり”と飴細工のように溶けてオレンジ色に染まる。
「魔鉄に変異していそうね」
剣が出来る様子をつぶさに観察しながら、剣が鍛え上げられていく様子を注視している。しばらくして空中に、深みがかった赤黒い120cmほどの片手剣があらわれる。
「ジェイ! これ魔剣よ」
「え? なにかえで? あとちょっとだから終わらせちゃうね」
ジェイは仕上げと言わんばかりに、最後に剣に属性を込めると刀身が緑にわずかに輝く、そこに太陽が地平に沈むような刻印を施すのを忘れない。
「あなたが属性を込める前から、魔力で鍛え上げられていたわよ。
あなたが普通の剣って言うから、鍛冶師のような作り方をしているものと思っていたわ」
ジェイの頭の中にはたくさんの“???”が浮き上がっているようで、きょとんとした表情で少し首をかしげながらかえでの言ったことを考えているようだった。
「普通こうやって作るものでしょ??」
あたかもこれが普通だと疑わない様子で答える。ジェイは鍛冶師をおそらくは知らないのだろう。そういう動画はあるかもしれないが、小学生が見るものとしてはペーパークラフトであったり、ゲームの中での出来事だったりする。知らないということがここダンジョンに置いては不利にならないのだから不思議なものである。
「――ダンジョンマスターの知識には勝てないわね」
少しの間の後、かえでは納得したように答える。彼女も幼体であるため、知ることも少ないのだろう。あの神の間にいた多くの魔物には明らかな知性があることが伺えた。つまりは、与えられたダンジョンポイントに応じて、その存在と情報を進化させた状態で生まれてきているはずなのだ。
「まぁね。 学校では僕が一番だったんだから!」
「ダンジョンマスターの学校なんてものがあるのね」
二人の会話はまた噛み合っていないようだがお互いが納得しているのでこれはこれでよいのだろう。そこには納得したように安堵するかえでと、かえでに認められたことで自分の殻を破り始めたジェイの姿があった。
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