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#2 生きていく術見つけました~その1、剣を送ろう~

 どうしてなのかは分からないが常に夕日に照らされる緑の絨毯の上に、ずしりとした質量を連想させる深みがかった赤黒い片手剣が10本置かれている。残され鉄鉱石からジェイによって鍛えられた剣は、刀身がわずかに緑に輝きを放っていることからも普通の剣ではないとわかる。


「かえで遅いなぁ。 ごはんまでに帰って来るのかなぁ」


 日が沈むこともなければ、時を知るすべもなく、かえでの帰りを待っている。10本の剣が丁寧に並べられていることからも、ジェイが自分の剣を見せたいのだと伝わってくる。


「先にごはん食べちゃうか」


『ダンジョンポイントを食べ物に交換します』


 木材と金属のパイプの小さな机と椅子が現れて、机の上には牛乳、かぼちゃと豆腐のお味噌汁に、ワンプレートになったお皿に煮物と焼き魚、そして主食のごはんが器に盛られて現れる。


「もっとダンジョンポイントがあればなぁ。 ダンジョン飯も作りたいな」


 この日と言ってよいのかは分からないが、ジェイにはこれが5度目の食事となる。夜も昼も無いこの場所は、時間の流れを感じることが難しい。ジェイは食事を済ませると、緑の絨毯に寝転がっていつの間にか寝息を立てている。


「ごめんなさいね」


 ジェイが寝たのを確認してから、かえでがジェイの傍に歩み寄り彼の頭を優しくなでる。幾ばくかの時間が過ぎて、ジェイが眠そうに目をこすりながら動き出す。


「あ、かえでおかえり」


「ええ。 ただいまジェイ。

 この暁の大渓谷の端までいってきたわ。

 平原のようだったけど、あなたの言う通り先は険しい渓谷になっていたわ」


「大渓谷ってかっこいいよね」


 話がわずかに噛み合ってないように感じる。ジェイはあまり渓谷が何かはわかって無い様子で、なんとなくかっこいいから大渓谷と命名していたのかもしれない。


「それで、大地の端はとても超えられそうにない切り立った断崖絶壁と、進めそうなところも見ない壁のようなものがあって進めなかったわ。 これがエイムの話していたダンジョン拡張なのか門に聞いてもらえるかしら」


「うん。 聞いてみる!」


 かえでがいつも通りにもどっていることが嬉しかったのか、ジェイは何も聞くこともなく素直にその問いを口にする。


「見えない壁の先を教えて」


『ダンジョンポイントを使って、ダンジョンの区画を広げることができます。

次の区画へのダンジョンの拡張には、ダンジョンポイント1,000を消費します』


「ダンジョンを大きくすればダンジョンポイントが増える?」


 しばしの沈黙が生まれる。かえでもジェイも答えが返ってこないか待ったのだ。


「やってみる価値はあると思うわ

 ダンジョンポイントあるわよね?」


 包帯で表情は伺えないが、かえでは並べられた剣の方へ歩きながら右手で剣を一つ持ち上げ、左手の平で剣の腹を“ぽんぽん”と叩いて見せる。するとジェイがばつが悪そうに――


「はひ。 あと59ポイントございます」


「聞こえなかったんだけど???」


 表情は見えないが絶対に怒っている。心なしか“ぽんぽん”としていた音も“びゅんびゅん”と命の危険を感じる音へと変わっている。


「ふふぅん。 きっとあたしを驚かせたいのね。

 仕返しかしら。 でも、騙されてあげないわ。

 門に残りのダンジョンポイントを聞いていただけますよねッ。

 ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」


 ジェイは顔をあげることなく“ぷるぷる”とわなないている。きっとどうやってこの場をやり過ごそうかと、頭をフル回転させているに違いない。しばらくして、握りしめたこぶしをほどくと、だらりと肩を落としおもむろにゆっくり顔を上げる。


「い、い、いまのっ。 ダンジョンポイントを教えてください」


 顔を上げた先の表情からは焦りが滲みだしており、何度も口ごもりながらなんとかその言葉をひねりだす。


『現在のダンジョンポイントは60です』


「あれ、1増えてる」


「え? どうやって、

 どうやって増やすことができたのジェイ?」


 ダンジョンポイントが60まで減っていることなんて、どこかへ吹っ飛んでしまったかのようにかえでは驚いている。その背後のふさふさの赤色の毛並みの尻尾が左右に揺れている。


「僕が作った剣を冒険者のいるところへ送ったんだよ」


「そっか……、ジェイはジェイの答えみつけたんだね」


 今度はどこかかえでが悲しそうに俯き、首をふって大きくはにかんだようにジェイに笑った気がした。そう彼女は呪われおり、成長することもなく、その素肌は包帯の下でこの暖かい日差しも肌に触れる風も感じられないのだ。


「ねっ。 なんとかなるよね」


 ジェイの明るい声と元気なその姿が、この暁の大渓谷の夕日のようにオレンジ色に染まる緑の草木のように、かえでにとって暖かなものであったことは言うまでもないだろう。


「あっ。 さっそくのこりの10本も冒険者のいるところへ送っちゃおう!」


「そうね。 そうしましょ」


 ふたりの息がはじめて上手くかみ合った瞬間だった。

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