#4 魔物の進化はどうするの~その5、卵に戻そう~
「あれ!? 卵の色、濃い黒もあればすごく薄いやつもあるね」
ジェイが言うように12個ある卵の内、1つが中で4枚の羽と黒く大きな複眼を持つ禍々しいハエが蠢いて、7つが光すら吸い込むような真っ黒、1つがごく一般的な黒色をして残り3つが灰色をしている。
「あたしが途中で声をかけたせいで……、ジェイごめんなさい」
「かえでが声をかけなくても両手鎌が完成して、闇属性付与は途中で止まってたもん。
全然悪くないし、かえでが謝ることなんてなんにもないよ」
ジェイが胸を張って答えると、かえでも安心したように喜ぶ。
「確かにこっち4つは、同じ黒でも濃さが違うわね」
かえでも色の違う4つを指さして、途中で話がそれてしまった会話を続ける。
「こっちからもハエが生まれるのかな?」
「鑑定したら何が生まれるか分かるかもしれないわ」
かえでがジェイに取得した鑑定スキルを使うように促す。
「えー。 あれちょっぴりしか分からないじゃん」
「なら、門に聞いてみなさいよ? ジェイ。 全く門に聞かないんだから。
神々の間でエイムさんも門から情報収集しているか毎回ジェイに聞いてたわよ」
「読めない字あるし、勉強みたいでやだよぉ」
「はぁ……」
かえでが大きなため息を着くと少し困ったような仕草をする。情報が少ない手探りな状況を、ジェイは楽しんでいる節にかえではうんざりしている。
「なら神々の間に持っていきなさいよ。 お店? やるんでしょ」
半ば諦めたようにかえでが“好にやれば”と言わんばかりに丸投げ案を提示すると、ジェイは楽しそうに“うんうん”と頷いている。
「だね! 次の集まりからお店を出すことに決定!」
「はいはい。 残り9本もさっさと仕上げちゃいなさいよね」
ジェイは舌を“ぺろ”っと出してばつが悪そうに笑う。
しばらくしてジェイはもくもくとエイムさん依頼の両手鎌を作るのだが、ジェイ特製の両手鎌が仕上がる間に、卵にまた魔力が流れ込むようなことは無かった。その間にも羽虫の幼体が新たに卵を3つ産んでいたが、そちらも同様に変化すること無いままに両手鎌が出来上がる。
「ねぇねぇ。 かえで。 どんなものを持っていくといいかな」
「そうね……、やっぱり武器や防具は魔物を選ぶと思うわ。
小さな魔物もいれば、大きな魔物もいるし、なにより人型とも限らないわ」
「えー。 それ言ったらダメなやつ」
かえでがジェイをからかうようにわき腹をつつきながら、楽しそうに“けらけら”と声を上げて笑っている。
“リーン”
そんなとき、魔力の膜を破る甲高い音が響き渡る。卵の中で蠢いていたハエが孵ったのだ。それと同時に、茨が巻き付いた門の上に光るように炎で描かれた文字が浮かび上がる。
『魔王種の誕生が確認されました。
すべてのマスターと守護者を、神々の間へ転送いたします』
先ほどまで同じようにオレンジ色に染まる草木が見えていた門の先が、荘厳な大理石で敷き詰められた回廊に変わっている。
「えー。 お店の準備できてないのにーなんか繋がってるー」
「魔王種の誕生⁉」
ジェイとかえでが驚きの言葉をそれぞれ口にする。
「しょうがないかぁ。 今回はこの卵4つとさっき生まれた卵の3つだけでいいや」
ジェイが両手に抱きかかえるように7個の魔物の卵を持ち上げる。
「召喚されてまだ半月もないのに、魔王種を誕生させたマスターがいるなんて……」
二人とも物思いにふけるように自分の世界に入りながら回廊を共に歩く、小学校の階段の1階から3階までを往復したくらい上るとひらけた場所に出る。まだ、マスターと守護者がまばらにしかいない。
「えーと、部屋の隅に座って卵を並べて待とう」
ジェイは大理石の支柱を背に、7個の卵を並べて座り込む。かえではぶつぶつと呟きながら、ジェイの後ろに佇んでいる。
「あ、かえで、両手鎌!」
「え? あ、ごめんなさい。 考え事して、あたしも忘れていたわ」
「ま、いっか。 昨日の今日だし、エイムさんにはまだ出来てないってことにしちゃおう」
しばらく待つこと数十分、いつしか円卓にはほとんどのダンジョンマスターの姿があった。
「このくらい遅刻でもなんでもなかったのかぁ」
前回遅刻したかと思っていたジェイが、他のダンジョンマスターが少し遅れて集まるのを見て安心する。
「あら、あなた。 面白いものを持ってきているのね」
紅いドレス姿に白い手袋、頭にはティアラと言った物語から飛び出してきたような皇女様のような少女が話しかけてきた。
「でも、3つは生きてないわよ」
少女が魔力の膜で覆われた4つではなく、殻に入った3つの卵を指して言う。
「そうなの? かえで?」
「言いがかりはやめてもらえるかしら」
かえでがふたりの間に割って入る。少女の後ろから巨大な深紅の龍がその頭だけを下げて少女を守るように静かにことを見守る。
「はいはい。 ちょっと待った待った」
そこに慌てたようにモーニングコーデをしたエイムさんが仲裁に駆け込む。
「ジェイ。 龍皇女。 ここは俺の顔に免じて俺に話を聞かせてくれ」
「うん! 僕はいいよ」
「・・・」
かえでがジェイの後ろに下がると、巨大な深紅の龍も少女の前からから頭をもたげて警戒を解いた。ジェイは卵を並べてエイムに、ことの顛末を説明している。“ふむふむ”とエイムが頷きながら、目元を隠す銀面を“くいっ”と右手で持ち上げ何やら卵を注視する。
「う~ん。 確かに生きてないね」
「どうしてわかるの?」
「俺の目は死を欺けない亡者の目なのさ。 スキルだよジェイ」
「生きてない卵なんて産まれるわけないわ」
かえでがそれでも納得がいかないかのようにエイムさんに食って掛かる。
「そうか。 ジェイは門にあまり聞かないんだったか。
そうだなぁ……これはお代を頂くぜ、そっちの黒い卵1つでどうだい」
「うーん」
「まぁいいさ。 お代分の情報と思ったら頼むぜ」
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