#1 どうやって生きていくのさ~ダンジョンポイントは稼げません~
誰もが自分の意志で選び切り開く未来を望んでいる。この物語の少年もまた、自分の世界が自分だけのものであると信じている。だからこそ、それらを見守っている神なる存在がいることを考えはしない。
白いカーテンが風で揺れている。小さな机と椅子は木材と金属のパイプの簡素なものだ。どこにでもある小学校4年生の教室で、黒板にチョークで書く音と、無邪気な声で騒ぐ子どもたちの声が広がる。
「ここをこうすればいいんじゃね!?」
それは、どこにでもある小学校の休み時間の風景―――
一人の少年が”ふふん”とばかりに得意げに画面を掲げ、その周りを幾人かの同じく同級生と思われる子どもたちが囲んでいる。
「すげぇ、すげぇよ。 ジェイ」
ジェイと呼ばれる少年を中心に、彼の同級生であろう少年たちが群がる。その熱量は大人の目から見れば微笑ましくもあるが、少年時代の黒歴史の真っ最中であろうことが少し胸の痛みを掻き立てる。
「ふっ。 俺の手にかかれば――」
キモイ恰好の代名詞である前屈姿勢に、片手で頭を抱える仕草を恥ずかしげも無く披露するジェイに、取り巻きの男子たちの熱量はなぜか最高潮に高まる。
「「ジェイ! ジェイ! ジェイ!」」
鳴り止まないジェイコールが、小学4年生のクラスに鳴り響くのだから同級生の女子たちはたまったものではない。精神的な成長が明らかに劣る男子にうんざりするのだ。
「はぁ。 もうほんとキモイ」
海の日を目前にした夏休み前、今日で一学期も終わり、汗ばんだ美少女の『キモイ』の悪口すら声援に感じるほどに、夏休み前の最後の一日とは自制を覚えることが難しいものなのだ。
「はい。 席に着いて」
そんな、手に汗握る惨憺たる光景をまるで無かったかのように、このクラスの担任であろう先生が扉を開け、開口一番に着席を促す。決して小さくはない胸に、厚い黒縁のメガネ、右にある泣きボクロ、そのテンプレートから抜け出してきたような先生の冷ややかな視線が少年に向けられる。
「有馬自営君も席に着きましょう」
先生のあえてフルネームで呼ぶ塩対応に、ジェイは肩を落としてとぼとぼと席へ向かう。本人も有馬自営がキラキラネームと理解しているらしい。
「はひ」
そんな彼の手には、スマートフォンが強く握られており、画面にはメッセージのポップアップが出ている。
『おめでとうございます! あなたはテストプレイヤーに選ばれました』
既にサービスが開始しているゲームで、テストプレイヤーとはおかしな話だが、それは小学4年生であるジェイには気にもならない些細な問題だろう。
先生の長い黒髪が時折、スカートのように膨らむ白いカーテンからこぼれる風で揺れている。窓の外には誰もいない運動場が大きな楠が枝の隙間から伺える。
そして、ホームルームが終わると、先生の”またね”の声を背に、後ろの棚からランドセルを取り出しクラスメイトみんなが帰り支度を始める。ジェイだけがいつもとかわらずゆっくりと帰り支度を始める。小学校はジェイのような一人っ子で鍵っ子にとって楽しく騒げる唯一の場所なのだ。
「さっき何か通知が来てたな」
引き出しからスマートフォンを覗かせてそれに通知に目を通す。小学4年生の小さな手には、横にしたスマートフォンがとても大きく感じられる。お父さんからのLINEでないのを確認すると、ポップアップしているゲームの通知をタップする。開かれた画面には、このゲームのタイトルになっているダンジョンを連想する門が描かれている。
「テストプレイ?? 面白そうじゃん」
ジェイがスマートフォンの画面で『はい』をタップする。幾ばくの時間も無く、彼は机に伏せるように沈んでいき”ことり”と彼の手からスマートフォンが滑り落ちた。
「あっれぇ……、寝ちゃってたのかぁ」
目をこすりながら少し重たそうに頭をもたげて、暗い教室?で何かを探すように辺りを手で触れる。彼の手が”こつん”と何かにあたった。そこにゲームウインドウのような明るく透明な四角の別の視界がポップアップする。
「え⁉」
暗くなった部屋でスマホを見ることなんか比べ物にならないくらいに、明るく透明な四角形の先には、茨が巻き付いた門があり、門の上に光るように炎で描かれた文字が浮かび上がる。
『門を選んでください』
そんな明らかに現実から離れた光景に、少年は何の疑問も感じていないのか門の中に手を伸ばす。門の中に何が見えているのだろう。
「これと……これ。 そからこれにしようかなぁ」
この世界では力による開放を意味する猛々しく光る赤に、取り出した瞬間から大地に息吹を吹き込む生命の繁栄を意味する緑、そして、赤を補助するオレンジが辺りを夕焼け空のように世界を照らす。気付けば、門をくぐったところにジェイは立っていた。
『門が暁の地溝へ開きました』
「うわぁ――っ。 明るくなった」
突然、目の前に広がるオレンジ色に照らされる緑の絨毯に息を呑む。ジェイの頬を暖かな風が”ふわり”と吹き抜けて草葉が舞った。そんな夢だと疑わない程の情景に、ジェイが飛び跳ねるように緑の絨毯に寝転がっては立ち上がり、また寝転がってこの異世界に迷い込んだような情景を反芻する。
『種族を選んでください』
ふたたび光るように炎で描かれた文字が浮かび上がる。
「こんなのゲームじゃ味わえないッ!!」
浮き上がっている選択肢はあまり多くなく、でもそこには確かに『獣、虫、獣人』と言ったゲームでは馴染みのあるモンスターや魔物によくある種族が映し出されている。流行りのなろう系に習うなら、エルフ族やドワーフ族、人族と続くのが普通なのだと思うのだが………
「じゃぁ。 虫と獣人にする」
ジェイはその問いに不思議がる様子もなく答える。
『虫』
『獣人』
門は炎で描かれた文字で応える。
”……それだけ?”と言わんばかりに、浮かび上がった文字に続きが現れないかジェイがキラキラした瞳で凝視する。特別な特典が普通ならあって然るべきなのだ。
「あれ??」
首をかしげて文字の続きが浮かび上がるのを待っている光景が微笑ましい。
「……なんにも起こらないや」
しばらくしても何も起こらないことで興味を失くしたかのように、どこまでも続きそうな地平の彼方とオレンジ色に染まる草木にゆくあてのない一歩を踏み出している。だってこれは、彼にとって夢のように自由で、現実ではありえないこの情景を時間を忘れて楽しみたいという気持ちを隠さなくてもいいのだから。
「おなかすいたぁ」
遊ぶのに疲れたころ、彼はそう言って門の場所まで帰ってくる。門はまるで鳥居のように、その両方にオレンジ色に染まる空と草木を映している。
『ダンジョンポイントを食べ物に交換します』
ジェイの声に応えるかのように木材と金属のパイプの小さな机と椅子がさっと現れて、机の上には牛乳に味噌汁、ワンプレートになったお皿にりんごと副菜の和え物と鮭の塩焼き、そして、ごはんと言った少し豪華な給食にとても近しい食事が乗っている。
「わ~い。 いただきます」
現れた食事を頬張り、おいしそうに夢中で食べる。ときおりプレートの端に、人参とピーマンを弾いて、ジェイがごちそうさまをして、机も椅子も、食器も食べ残した人参もピーマンも、何も無かったかのように消えて無くなる。
「ダンジョンポイントを使えば夢がなんでも叶うのかな……ママ……」
ジェイはごちそうさまのあと、うとうとと寝落ちするかのようにオレンジ色に染まる草の上に子犬のように丸まって眠っている。このままここをゲームの夢だと思って過ごすことが、彼にとって良いことなのは間違いないだろう。それでもまずは、彼に話し相手が必要なのかも知れない。
「どこ? 起きたのに……」
『ダンジョンポイントを使って魔物を作成することが出来ます』
「あ、え? またゲームの夢の続き?」
『保有しているダンジョンポイントは6,532です。 使用するダンジョンポイントと作成するタイプを指定ください』
「そんなにあるの。 なら半分使って虫と獣人の一番すごいの」
『不足するポイントを補う為に、幼体、進化を疎外する呪われた状態となります』
オレンジ色に染まる草原に、顔や手足が包帯で巻かれ、額から伸びた角、背後にはふさふさの尻尾が見え隠れしている。肩まで伸びた赤い髪は、彼とも彼女ともわからないけれど、ジェイと背丈も変わらない子どもの姿をしている。
「あなたがあたしを呼んだのね。 名前をいただけるかしら」
口調からすると彼女なのだろう。それにしても、子どもは知らないことが多いからこその頼み方をよく知っている。大人なら間違いなく、こんな選択はないだろう。
「じゃぁ。 かえで」
「かえで?」
「うん。 ママと同じ名前、世界で一番かわいいでしょ」
ジェイが名前を付けた後、かえでの見えない包帯の下の表情が緩んだ気がした。
「ええ。 あなたの名前も教えてくれるかしら」
「僕は……、ジェイ。 ジェイでいいよ。 みんなジェイって呼ぶし」
そのときジェイの目の前に、光るように炎で描かれた文字が浮かび上がる。
『すべてのダンジョンマスターが最初の守護者を任命したことが確認されました。
マスターと守護者を、神々の間へ転送いたします』
「あれなんて書いてあるかわかる?」
突如として現れた炎で描かれたメッセージは、小学4年生に読むことが酷なほど漢字で溢れていた。
「ええ。 私たちを神様の前に招待してくれるそうよ」
「そっか、それは楽しみだね」
「行きましょう」
先ほどまで門の先には同じようにオレンジ色に染まる草木が見えていたのに、門の先には荘厳な大理石で敷き詰められた回廊に変わっていた。ジェイはダンジョンマスターと呼ばれ、それは彼一人ではなく大勢いることが伺い知れる。
かえでがジェイの手を引っ張って門の中に消えていく。
ジェイとかえでが回廊を共に歩く、小学校の階段の1階から3階までを往復したくらい上るとひらけた場所に出て、同じようにゲームでよく見る魔物を連れた人たちの姿が見える。
“よく集まった。 此度は最初の守護者の任命まで、ずいぶんかかったものだ。
その分、期待もしておる。 皆には等しく可能性がある。
時折、こちらへ招集するゆえ、存分に仲良くするとよい”
「かえで、あたまに声が聞こえるよ」
「ええ。 話しているのはダンジョンの創造神だから」
声は建物の天井から音もなく、ジェイとかえで、そこに集うすべての者の頭へと響いた。
テーブルと椅子が、円卓のようにせり上がる。椅子は全部で二十七席、しかしながらここには明らかにそれよりも多くの者たちで溢れている。そして、明らかに着座することが不可能な様相の者が若干名―――
「主様の椅子でございます」
かえでが赤、オレンジ、緑の装飾をあつらえた椅子を引きジェイに着座を促す。それぞれの守護者には主の椅子が解るのだろう。自然と二十七名が卓に着き、その瞬間にテーブルに溢れんばかりの食べ物が現れる。
「ありがと。 こんなに美味しそうだもん。
夢でも食べなくちゃもったいないね」
ジェイはかえでに”ぺこり”と頭を下げるといただきますをする。
「うぉぉぉ!! 美味い! 美味すぎるぞぉ」
ジェイの隣では、ぼさぼさ頭の青年がモーニング衣装に身を包み、中華料理をかたっぱしから口に運んでいる。それを見てジェイも安心したのか、自分の目の前にあるハンバーグやオムレツ、ハンバーガーにポテトと言った小学4年生が好きそうなメニューの数々に手を伸ばす。二十七名がぐるりと円卓を囲み、それぞれの守護者がマスターの後ろに立つ様子は圧巻な光景である。
「しかし、なんだねぇ。 君の連れている包帯で隠された守護者はなんだろうね」
ぼさぼさ頭の青年が布巾で口を拭い、目元を隠す銀面を“くいっ”と持ち上げ、首をわずかに傾ける。そこには先ほど感じられなかった品性、そして、明らかに何か確証を持ったような知性を覗かせている。かえでは何事もなかったかのように動じない。
「かえでのこと?」
ジェイがきょとんとした表情でその問いに答える。ぼさぼさ頭の青年の後ろには巨大な鎌をたずさえ、その鎌に見合う巨躯と外皮はまるでフルプレートアーマーを禍々しくしたような質感をしている。二本の角のデーモンロードが主の威光を示している。外皮の下から時折、“がさがさ”と不気味な音がする。
「みんな自分の選択がこれで良かったのか不安なのさ。 初期ポイントは限られていたからね」
青年の問いにジェイは得意げに胸を張って答える。
「こういうゲーム得意なんだ」
「「・・・」」
「あああもう解ったよ。 エイブラム。 俺のことは、エイムと呼んでくれ。
情報はギブアンドテイクが基本でいいよな?
じゃぁ。 まずは俺から、氷雪の荒野に門を開いている。
守護者はデーモン族から創生した」
ジェイの子どもらしい反応に、大人な情報戦は不要と見るや否や青年が素に戻り、よほど身構えていたのが大人として恥ずかしかったのか顔を伏せ、今度はジェイに応えろと言わんばかりに右手を振った。
「みんなにはジェイと呼ばれているから、ジェイでお願いします。
門は、暁の地溝です。
種族はわからなくて、でもポイントを半分は使っていて……
たぶん、一番強いと思います!」
「半分ね。 うんうん。 ん、半分?
って、おまえダンジョンポイントもう半分も使ったのかよ!?」
あり得ないと言わんばかりに、伏せていた顔を急に持ち上げて食い気味に青年が会話に突っ込みを入れる。
「どこまで門とやり取りした? 門の出現場所に応じた答えをくれるだろ」
「習ってない字が多くて」
ジェイが舌を出して、青年に“にやり”として見せる。
「そうか。 なら字が読めない少年への最低限のサービスだ。
ダンジョンポイントは、基本的には貯まらないと覚えておくといい。
ここにいる多くは、最初のポイントの多くをダンジョンの拡張とポイントの入手方法の模索に費やしているはずさ」
字が読めないことも、子どもということは欠点にはならない。子どもには常識に捕らわれない発想力があり、ジェイにとってここはゲームから続いている世界なのだからなおさらだ。青年にある大人な知性や見識と比べてもそれらは決して見劣りしない。
「これから1年後には、ダンジョンは世界と繋がって狙われるらしい。
それに備えるための情報交換の場なんだよ。 ここは。
いずれ情報だけじゃなくここでの交易もあるだろうさ。
今日の分の情報量は、次に会う時のツケってことでよろしく頼むぜ! ジェイ」
青年はそれだけ告げると、席を立ち、ほかのダンジョンマスターの方へ向かう。最初にがつがつと食べていたのも、交流の時間を確保する目的があったのかも知れない。
「ジェイはいかないの?」
かえでが主様ではなく、ジェイと呼び、このあと情報交換をするか問いかける。
「う~ん。 ここが1年なんて長い夢になるのかってびっくりしちゃったよ。
でも、ここならなんでもできる気がするよ。 学校では僕が一番だったんだから!」
「ええ。 あなたの夢をわたしは叶えるためにいるわ」
ジェイとかえでの会話がわずかに噛み合ってないようにも思える。しかし、子どもの会話が主観的に進むことはよくあることなのだ。
「かえで、さっそく僕らは帰らない?」
「そうね。 ここの視線は居心地が悪いわ」
ジェイはすっと立ち上がると、かえでの手を引いて上ってきた階段を降りる。
「エイムさんの話すごく面白かった。
今度は冒険者じゃなくてダンジョンマスターの役なんて、どきどき」
ジェイとかえでが門をくぐり抜けると、どこまでも続きそうな地平の彼方とオレンジ色に染まる草木が迎え入れる。
「冒険者だった時、一番嫌だったことからかえでに話すね」
ジェイは楽しそうにかえでとゲームの話でわいわい話している。話は子どもらしくつかみどころがなく、“すごい”“かっこいい”などの形容詞が多く、話の本質がどこにあるのか想像だけが膨らんでいく。
「――だから最初は弱い敵でも良いんだ」
「え?」
「もう、かえでさっき説明したじゃん。
そうだなぁ。 ここを暁の大渓谷と名付けよう。
そして、暁の大渓谷ではレベルが30以上だと30まで制限がかかるようにしよう」
『地形特性“制限区画”には、ダンジョンポイント1,000を消費します』
「あ、忘れてた。 装備やアイテムも同じようにして欲しいな。
そうしたら、冒険の荷物が増えるから結構面倒なんだよね」
『ダンジョンポイント1,300を消費し、地形特性“制限区画”レベル・装備・アイテムを設定しますか?』
「はい! 読めない字はあるけど、1,300使えばいいってことだよね」
「ジェイはエイムの話をもっと思い出すべき。
ダンジョンポイントをこんなに使っていたら、ごはんも食べられなくなる。
どうやってダンジョンポイントを稼ぐかが大切」
「かえで、ママみたい」
ジェイが楽しそうに笑っている。
「まだたくさんダンジョンポイントあるよね??」
『現在のダンジョンポイントは1,966です』
「ほら、大丈夫じゃん」
「あーもうッ!! 全然ッ大丈夫じゃないッ
ほら、ジェイは読めないかもしれなくても門に話しかけて!
こういうことは、ちゃんと確かめるものなの」
表情は包帯で伺い知れないが、マスターであるジェイを心配しての言葉である。そしてすぐに素が出てしまっているかえでもまた年相応なのだろう。
「へーい」
声はふてくされているが、ジェイの表情はどことなく嬉しそうだった。
「……あの、ダンジョンポイントはどうやって増やしますか?」
かえでに促されるままにジェイが門へ問いかける。むしろ本来であれば、誰もが最初に問いかけていたのかもしれない。目の前には茨が巻き付いた門があり、その上に光るように炎で描かれた文字が浮かび上がる。
『ダンジョンポイントはダンジョンマスターの資質を試すものとなります。 水をダンジョンポイントに例えるのなら、ダンジョンポイントである水を使い、何かを生み出したとしても、たとえそれが氷に変わったとしても溶ければ最初の水になります』
「かえでー、ぜんぜん分からないよぉ」
小学4年生のジェイにも大半が読めるものではあったようだが、その内容はつかみどころがないような長い文章だった。
「ポイントからポイントを新たに生み出すことは出来ないってエイムの言っていることは合っているわ。 この例で唯一違うことは、氷を水に戻す方法は無いってことよ」
「む~、なんでそんなことわかるの。 かえでがぜんぶ正しいの?」
「じゃぁ、どうやってダンジョンポイント稼ぐつもりなの?
それに、魔物もあたしだけ。
それともなにッ!? あたしを氷みたいに水に戻せると思ってるわけ??」
かえでには緊迫した空気があり、ジェイはどこか”ふわり”としている。それではかえでの感情を逆なでしてしまうのは無理もない。ジェイもすっかり静かに黙り込んでしまっている。
「ちょっと、あたし頭冷やしてくる」
かえではそう言うと、どこかに歩いて行ってしまう。ジェイは座り込むと夕日のような空を、そして、目の前に広がるオレンジ色に照らされる緑の絨毯をぼんやりと眺める。時折、“ああでもない”“こうでもない”と独り言のように呟いている。
「うん!」
しばらくして、ジェイがすっと立ち上がると門の前にやってきた。
「僕に装備を作る能力と、装備を冒険者のいる世界へ送る能力をください」
『ダンジョンポイント1,500を使用し、装備錬成の能力を付与します。
また、ダンジョンポイント400を使用し、錬成された装備を外なる世界へ送る能力を付与します』
「やっぱり、ダンジョンは冒険したくなる場所だよね」
“剣がやっぱりいいよね”などと呟きながら、なにやら門の周りをくるりくるりとジェイが回る。
「剣を作りたいので鉄をください」
『ダンジョンポイント6を使用し、鉄鉱石20㎏を生成します』
「どんな剣にしよっかなぁ。 まずはよくあるやつだよね!
でも、僕が作ったってサインみたいなのが欲しいよね」
楽しそうにジェイは鉄鉱石を前に、“ああでもない”“こうでもない”とまた独り言のように呟いている。
「こんな剣になりますように」
鉄鉱石が勝手にごとりと音を立てて、その積み上げられた幾ばくかがジェイの足元へ移動する。鉄鉱石が浮き上がり、炎のような赤の幾何学模様がそれを包み込む。鉄鉱石が“どろり”と飴細工のように溶けてオレンジ色に染まる。最後に剣の先端が緑にわずかに輝くと、そこには120cmほどのごく一般的な片手剣があらわれる。その柄より少し上には太陽が地平に沈むような刻印がなされており、持ち手も、手を守るガードもすべてがアイアン製で仕上がっている。
「出来たぁ! はじめてにしては上出来だよね。
じゃぁ、このまま冒険者いる世界へ届けて」
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