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六ツ輪の轍  作者: いるっちぇ
序章
4/11

第四話 傷跡

帝国歴 5466年(革命歴 195年) 5月28日午前7時21分 

ティエンタン共和国 テガリス居留地 第二地区東方 海龍通沿い 祠前



 パンパンッ… パンッ



 「!!」


 自身の背後右側、自宅の方向から、乾いた破裂音がする。


 「……ん。なんだろう?」


 ウルは音の方向を振り返る。


 猫の方に一瞬だけ視線を戻したが、ウルは再び家の方角を振り返るとスッと立ち上がって走り始めた。


 ……お母さんがやったのかな? 何か壊しちゃったのかな。それとも花火かな。

 というか、お母さん、あんな風にぼくに怒ってたりするけど自分も結構ドジするしな…。


 ウルが通りに顔を出すと、角の向こう側で膝をついて倒れている人影が見える。



 「………あっ!」「 おかあさん!」


 通りの端の方、自分の家の側で転んでいるのはまさしく自身の母親だ。

 家から出ようとして、何かにつまづいたのだろうか。



 「だ、大丈夫??」


 ウルの声に気付いたのか、母親はバッと顔を上げた。



 「…ッ!!! きっ!!来ちゃッッ…!!!」


 バッと母親の掌が動いた。

 手で母親がこちらを制止している。



 恐ろしい形相。



 …あれ、お母さんの服。お腹がすごく汚れてて…。




 パンッ!!



 「……?」


 再び先の破裂音と共に、母の首の左側から何かが飛ぶ。

 母親は地面にパタリと倒れ込んだ。




 「…………え。 ………え?」


 駆け寄るのを止めて、立ち止まる。

 はたと倒れた母親を、眺める。




 ……………………血。



 突っ伏した背中は真っ赤な血で染まっている。

 首元でも、鮮やかな赤がジワジワと襟首の辺りを染めている。黄色い地面にも、紅色が点々と散らされている。



 「…………っ!  おっ、おかあさんっ!!??」


 ウルはフッと正気に返ったように母親に駆け寄る。


 「ねえっ!! ねえっっ!? ねえってば!!!」


 母親の背中を揺する。

 左の掌が生暖かく濡れる感覚がする。明らかに真紅の色がジワジワと母の服の上で広がっていっている。


 「……………なッ…なんで…。なんでッ…!!!」


 その時、目に前にドタドタと数人が走ってくる気配を感じる。

 ウルが顔を上げた。


 「…………え。」



 獣人ではない。顔や手の露出部の体毛がほとんどない。普段見る事のない顔がそこにはあった。


 …に……んげん……。


 どうして、にんげんが…?


 人間の方も、ウルの顔を見て一瞬たじろぐ素振りを見せた。

 先頭の背広の男が、拳銃の銃口を少し上げる。空に向けられた銃口の先から立つ白い煙が、青く輝く空を背景にして異様に際立って見えた。



 一瞬の沈黙での睨み合いの後、ウルには聞きなれない言葉で、後ろの男が前の背広の男に怒鳴りかけた。


 「 ( おいっ!! いいからさっさとこれを隠せって!! ) 」 


 声をかけられた男はハッとしたような表情をし、うなずいた。


 「 ( 引きずるぞ!! ) 」


 人間の男が母親に手をかけようとする。



 「…!!」「……や、やめ…ッ」


 母親の服の背中に掴みかかる大きな手に、ウルは飛びついて爪を立てる。


 「 ( …ウッ!? こいつ…! ) 」


 「やめてッ…!! なに…するんだよ!! 連れて行かないでぇッ!!!」


 引きつった顔でウルが叫ぶ。

 筋肉質な、それでいて毛の少ない太い腕。何とか肌に爪を立てて食い止めようとする。


 男は左手で振りほどこうとする。


 「 ( …このガキッ!! ) 」

 「 ( 何してんだ馬鹿ッ!! コイツが吠えたら、町の連中に気付かれるぞ!! ) 」

 「 ( いいから!クソがッ…放せ狂犬がっ!! こいつっ、引っかきやがってッ!! ) 」


 男の手が自身の額を圧しつけてくる。

 何とか引き離されないようにウルは食らいついた。



 「…んなっっ!! 何してんだあっ!!こらあッ!!!」


 聞き覚えのある声が背後から響く。

 向かいの三軒向こうの乾物屋の店主だ。


 「 ( …っく!!ち…ちくしょうっ!!! ) 」


 人間らが顔を上げて明らかに動揺した素振りを見せる。


 「 ( 見つかったッ!!! ) 」 

 「 ( ガキを引き離せ!!!早くっ!!! ) 」

 「 ( くそっっ!!! ) 」


 大人が来てくれた…。これでなんとか…。

 なんとかここで頑張れば…。


 「連れて行くなあぁッ!!」


 「 (おいっ!!獣人が鉄砲を持ち出してるぞ!!!)」

 「(ま…まずいっ!!!)」


 人間の視線の先では、店主が猟銃を持ち出してきている。


 「(く…くそっ!!!)」


 ふと男の左手が離れた。…諦めたのか?


 ウルが片目を開けて見上げる。

 男は左手を隣に突き出すと、横の男が差し出した黒い塊をひったくるように受け取った。


 ……ピストルだ。


 ウルが手を腕から離すか早いか、人間はウルの腹部に下から突き上げるように突きつけた。



 パンッ パァンッ…



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